軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キ:ダンジョンボス?

美味しいご飯を食べて、僕と相棒は再ログイン。

山はすっかり日が暮れて、街灯なんてもちろん無いから綺麗な星空がよく見える。

木が無い岩山は空が広い。

星の洪水を浴びてるみたいに空の方が明るくて地面が黒い。

「……星すごいね」

「だね」

これを相棒と一緒に見られただけでも、このゲーム始めた価値はあるなぁ……リアルでは難しいデートもできる。景色の良いゲームは最高だね。

名残惜しいけど、このまま眺めてたらまた睡眠が必要な時間になっちゃう。

皆で星空を背景に記念のスクショ。

帰ったらフッシーに見せようね。

* * *

──【夜目】スキル習得

夜闇の中で目を凝らしていると、ようやく習得のアナウンス。

パッシブスキルだ。

習得と同時にカメラを切り替えたみたいに暗い部分の明るさが変わる。星の見える量は減ってない、よかった。

「部屋の豆電球つけたくらいの明るさかな?」

「そうだね、形は見える。色までは厳しいけど」

そして気付いた事がひとつ。

このモスキートモルフォの8の字ダンスのデバフ、暗いとやってこなくなる。

「羽の模様で幻覚見せてるって事なのかな?」

「かもね」

蝶を撃ち落としながら相棒も頷く。

ダンスをしない蝶は初手からモスキート音を放とうとするんだけど、そうすると飛び回れないから良い的になっていた。

「もしかして、夜目が効くなら夜の方が難易度低いのかな。音なら最悪耳栓って手もあるし」

「周りの音聞こえなくなるけど、まぁその方が楽な人はいるかもな」

色々考えながら進むのは楽しいね。

そうして進んでいくと、一際広い場所に出た。

……っていうか、ここ頂上?

「わぁ……」

「すごいな」

そこは蝶の住処だった。

って言っても、モスキートモルフォじゃない。

半透明の、虹色に煌めく羽。

そんな幻想的な手のひらくらいの大きさの蝶が、ヒラヒラヒラヒラと大量に飛び回っている。

「……ここのボス、こんなじゃないはずだけどな」

相棒が呟いたのと同時に、一際大きな蝶がフワリとこっちに飛んできた。

『……人の子だ』

声、じゃない。

頭の中に直接声がする。

え、すごいこのゲーム。こんなことも出来るんだね。

『こちらに、馴染む。死霊に、関わる、力』

……あれ? 僕の事ご指名?

『おも しろい』

音の無い羽ばたき。

大きな蝶は、さらに大きくなった。

それに追従するみたいに、周囲の蝶が一斉に舞い上がる。

星空の乱反射。

ガラス細工の、嵐みたい。

『遊ぼう』

『遊ぼう』

『遊ぼう』

ハウリングする、蝶の声。

「……もしかしてボス戦?」

「もしかしなくてもそうかな!」

焦る相棒の声。

ごめんよ緊張感がなくて。

蝶が綺麗すぎて、見とれちゃうんだ。

『満足、できたら、契約、して、あげる』

霊蝶の群長 Lv20

霊蝶 Lv15

杖を構える。

これは、いわゆる『力を示す系』の戦いでいいの?

小さな蝶達がブワリと僕らの周囲を回る。

『聞いて』

『聞いて』

『聞いて』

『悲しい』

『痛い』

『苦しい』

『辛い』

耳から届かない声が、頭に直接木霊する。

勝手に再生される、ナニカが、ダレカが、死ぬ光景。

グロくはないけど、精神異常デバフどころの騒ぎじゃないよ。プレイヤーのメンタルを直接ヤリに来てるなぁ。

「っ!」

相棒が顔をしかめて何度か矢を放つ、蝶に当たって数匹落ちるけど、なんせ数が多い。

本当なら、派手に【火魔法】を撃つ所なんだと思う。ここはそういうダンジョンなんだし。

でも、蝶の言葉は僕に攻撃を躊躇わせた。

話が通じる相手に、『聞いて』と言ってる相手に、ただ攻撃すればいいの?

本当に?

「……ネビュラ、この世界の追悼の花はどんな花?」

「ついとう?」

「死んだ相手に供える花」

死の狼精霊は少し考えて口を開いた。

「……同じ意味かはわからぬが、ある程度の知能を持つ者が死した友に捧げるのならば、それは暁の空と同じ火色の花よ。……そう、奥方の瞳のような」

そう、火の色だね。

杖を突き立てる。

イメージしよう。

この世界の魔法は想像力で使いこなす物だ。

魂籠の中を見る。

それは『保護』と『尊重』と『癒し』

「……【リーフクリエイト】!」

ありったけのMPを注ぎ込んで。

地面に刻印を描くように、火色の花が咲き誇る。

霊の蝶。

死んだダレカ。

痛くて辛くて悲しくて苦しくて。

そんな気持ちを知ってほしいキミたちは、たぶん弔われていない。

泣いていたジャックと同じだ。

ヒトのいなかったこの世界の死は。

誰にも気付かれなかった死は。

誰にも悼んでもらえていない。

そも弔いっていう概念が無かったかもしれない。

だから、花を渡そう。

小さなキミたちの気持ちを聞いたっていう意思表示に。

死を悼んで弔うために。

そして送り出すために。

……MP全部使ったから、予想が外れていたらとんだ悪手なんだけど!

でも、蝶が止まった。

小さな蝶が、息を呑んだみたいに。

そしてヒラヒラと花に向かって降りていく。

明らかな、戦意喪失。

『……これ、は』

霊蝶の群長が呆然と呟く。

……ねぇ、そんなに僕と花ばかり見ていていいの?

一緒にゲームをやる時に、相棒がいつも言う言葉。

『俺は相棒の影になりたい』

火色の花の範囲外。

暗がりは完全に死角。

フワリと風が花弁を吹き上げて、振り向いた時にはもう遅い。

一矢。

放たれた矢は見事に群長の羽の付け根を撃ち抜いて。

トドメを刺すために、黒い狼が躍りかかった。

* * *

『アッハッハッハッハ! 負けた負けた! 負ーけーた!』

キャラキャラと無邪気な笑い声が、ネビュラに組み伏せられた霊蝶の群長から聞こえてくる。

羽の付け根ぶち抜かれてるのに、元気な蝶だなぁ。

「まったく、悪ふざけが過ぎるぞ」

『だって、気になった、から』

ネビュラがなんだか気安い感じで声をかけている。

「……知り合い?」

「そうとも言えるしそうでないとも言える」

『霊蝶は、個にして全、全にして個。死んで、復活しない、魂が、生まれ変わりに、海へ、向かうため、群れになる。群長は、ただの、目印』

ようするに、雑多な霊の集合体なのかな?

「マスターに会う前のオレと同じダ。オレも諦めたら蝶になってタ」

「個が全であるが故に、余の縄張りまで飛んできていたモノと本質は同じよ」

『そう、だから、知ってる。でも、知らない』

なるほどねぇ。

「ところでネビュラもジャックも、ボス戦中やけに大人しくて静かだったのは……」

「エ、邪魔しちゃ悪いかなっテ」

「見定めようとしているのなら、余が先陣を切るのは無粋であろうよ」

あ、相棒がガックリ項垂れた。

一番焦ってたの相棒だもんね。なんかごめんよ。

ひとしきり笑った群長に小さな蝶がひらひら数匹やってくると、スゥッと群長に吸い込まれて消えた。

ネビュラが避けると、浮かび上がる群長。羽が治ってる。

『約束。契約、しよう、人の子』

「契約?」

『そう。でも、霊蝶は海へ飛ぶ、だから、籠には、入らない』

──【霊蝶の群長】との召喚契約を習得

──称号『霊蝶の群長の懐柔者』を取得しました。

突然のシステムメッセージにポカンとする。

……これは、あれかな。フッシーが言ってた【召喚魔法】的な【死霊魔法】。出張費用がかかるぶちかまし。

それ専門の契約が出来たって事でいいのかな。

「……うん、ありがとう」

『よろしく、ね』

なんだか怒涛の展開だったけど、ダンジョンクリアって事でいいのかな?

イマイチ実感は無い。

だって……

「……ところで、アレどうする?」

困惑する相棒の目線の先には、僕が咲かせた刻印を描く花畑。

……そして、その花畑にぐでーっと横たわる、大量の霊蝶。

『あ~〜〜、イイわぁ〜〜〜』

『癒される〜』

『好きに、して、いいんだってぇ〜〜〜』

『保護、されてるぅ〜〜』

『もう、ずっとここで、良くな〜い?』

……良くは無いんじゃないかな?

キミたち……もう話の流れでお察ししちゃったけど、そこのワンワンの本体が守ってる海に行くんじゃないの?

温泉にだらだら浸かってる旅行客みたいになってるよ?

「堕落しておるな……」

「霊をダメにする刻印……」

そんな不名誉なキャッチコピーいらないよ!

* * *

そうしてダンジョン攻略を終えて拠点に帰ってきた僕らを出迎えたのは……

「おお、戻ったか主!」

『『『『『おかえりぃ〜』』』』』

フッシーと、好き勝手に飛び回る霊蝶の群だった。

「なんで!?」

「いや海が近いからじゃ?」

「うむ……まぁここは、最後のひとときにはちょうどよかろうな」

ええー?

籠には入らないって言ってたから、てっきり召喚以外はバイバイなんだと思ってたよ?

僕がそんな事を考えていると、ネビュラがするりと隣にやってきた。

「奥方よ、例の手向けの花のことだがな……死者が復活するこの世界では、暁色の花に、ある言葉を託して死体の傍らに添えるのだ」

ネビュラは重々しく言う。

「すなわち……『はよ帰ってこい』と」

……うちは蝶々の実家じゃないんだけどなぁ!?