作品タイトル不明
ユ:『結晶の猫幻獣』
SNSでよくみる、ガラスのボウルに入った猫をファンタジーゲームで見ることになるとは思わなかった。
しかもそれがまた……
「デカいな……?」
「おっきぃねぇ〜!」
鼠精霊の時と同じ、ヒグマくらいのサイズの猫が、結晶ボウルの中でスヤスヤと丸まっている。
色は黒い。
黒い毛玉がボウルにヒタヒタになっている。
「……で、どうする? 起こす?」
「いやぁ〜、猫ちゃんって起こしても寝直すだけでしょ」
「でも猫ってめっちゃ寝るんじゃなかった?」
「だから、自分から起きてもらう」
そう言うと相棒は……インベントリから、準備の一環で買っていた物を取り出した。
「じゃ~ん、『まっしぐらチューブ』〜!」
「……絶妙にギリギリなネーミングなんだよなぁ」
「大丈夫、セーフセーフ」
チューブの中に、魚を使ったウェットフードが入っているこの商品は、露店で見つけて買ってきた。
リアルで猫が大好きなオヤツを彷彿とさせるそれを相棒は使うつもりらしい。
相棒は結晶のボウルの縁に上がり……チューブを開けた……
「猫幻獣ちゃ〜ん、オヤツですよ〜」
良い匂いがしたのか、巨大な半透明の猫はモゾッと動いて顔を上げる。
……黒猫の長毛か。
フンフンと鼻を鳴らして、相棒の方にヌルリと顔を向けるように姿勢を変えた。
……ああ、確かに額に結晶がついてるな。
銀色に煌めく、カットされた宝石みたいな形の結晶だ。
『カーバンクル』なら赤のイメージがあるが、このゲームは石の色は特に気にしないらしい。
「猫ちゃん、普通の猫サイズの方がたくさん味わえるよ。大きいままだとあっという間になくなっちゃう」
猫はチューブと自分とを見比べて、『なるほど』という感じに縮んだ。
普通の猫サイズになった猫幻獣は、相棒の膝の上に乗り上げて、それはそれは嬉しそうにチューブの中身を舐め始める。
そして『たまらん』という感じに身体を震わせた。
「ニャア〜、これ美味しいのニャア〜」
「でしょー? 僕らの仲間になってくれたら、また時々食べさせて上げるよー?」
「ウ~ン、でも忙しいのはイヤだニャア〜」
「忙しくないよー? 時々結晶作りたい時だけお手伝いしてくれれば、後は3食昼寝三昧!」
「ニャア〜? 戦わなくてイイのニャア?」
「今のところ猫ちゃんに戦闘をお願いする予定は無いかなー? それこそ身体を動かしたい時に手伝ってくれればいいよー」
「ニャア〜、それなら分身を預けるのニャア〜」
ニャア〜ンと猫がひと鳴きすると、そっくりな長毛の黒猫がドヤ顔で相棒にすり寄っていた。
「『結晶の猫幻獣』、オヤツのためにオトモいたしますのニャア〜。名前をつけて欲しいのニャア〜」
「僕の中で黒猫は『クロ』と相場が決まっています」
「わかりやすくて良いのニャア〜、よろしくなのニャア御主人」
「わーい、よろしくねクロちゃん」
ゆるい。
圧倒的ゆるさの空間と化した結晶空間。
それを眺める俺達は、それぞれがなんともいえない表情を浮かべていた。
「……オヤツのためにとはなんだ……猫はこれだから」
「ネビュラ先輩の言いたい事がわかったわ……アタシもあれは反りが合いそうにないわね」
「うん……ネビュラもベロニカも真面目枠だからな……」
まぁ、クロは完全に相棒の趣味枠だから、そっとしておいていいんじゃないか……
こうして無事に幻獣を仲間にした俺達は、幻獣本体がチューブを食べ終えてから礼を言ってその場を後にした。
……なお、幻獣本体はバイバイしたら速攻でボウルに戻って寝なおしていた。
猫だなぁ……
* * *
目的を達成した俺達は、一応『大地の鼠精霊』にもお礼を言っておこうかと徒歩でひとつ前の広間に戻ってきた。
……ところにその鼠精霊がすっ飛んで来た。
「アアッ! 猫幻獣様ぁー! ご機嫌麗しゅうございま……ムギュッ!」
そして無言で猫幻獣に踏まれた。
「アアーッ! 肉球ッ! 肉球がプニップニでなんというご褒美! この瞬間のために生きておりますぅー! ……あっ、そうではなくてですね……アー肉球! そう! その肉球様! まさかここを去られるおつもりではございませんよね!? ボクの癒しの肉球がまさかいなくなってしまったりしませんよねぇ!? そのためにお昼寝を妨害する不届き者を防ぐために、プッシュマッシュをせっせと育てたりボクがここで見張りをしたりと涙ぐましい努力を重ねてアアーッ肉球ーッ! ……えっ、違う? ヒトの子に付いていくのは分体? なぁんだよかったぁー。これからも末永くよろしくお願いいたします肉球さまぁ〜!」
……ただの肉球ジャンキーだコイツ。最終的に『猫幻獣様』から『肉球様』呼びになってるし。
てかあの面倒なプッシュマッシュ、お前が配置したのかよ。
「あんまりうるさいと、本体も別の寝床を探しに行くのニャア〜」
「アアーッ! それだけはっ! それだけはなにとぞご勘弁をー!!」
……とりあえず、上下関係は完全に猫幻獣の方が上だって事はわかった。