軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:進化と読書と転職と

ベロニカを連れて、俺達は拠点に戻ってきた。

……戻ってこれた。

危うく今日は帰って来られなくなるところだった。

ベロニカに名前を付けた後、ハロルドさんがものすごくイイ笑顔で「では、ホライゾンクロウについて学んでいただきましょうか」って言い出してめっちゃ分厚い教本をドンと机に乗せたからだ。

え、ここで読むんです? って不安にかられたところで相棒が【転写】からの【製本】を使って教本の写本を作ってくれたから、それを持ち帰る事でOKが出た。

なんで悔しそうに舌打ちしたんですかハロルドさん。

あわよくば斥候クロウ隊に引きずり込もうとしてたとか、怖い事が訓練中の兵士さんから聞こえてきたんだが? 油断も隙もない……

「カァ!」

拠点に着くなり、ベロニカが一声鳴いて肩から飛び立つ。

飛んでいく先は知恵の林檎の木。

林檎の木を寝床にしたいのか?

なんて考えていたら、ベロニカは真っ赤に熟した実をひとつ器用に落として、そのままガツガツと食べ始めた。

「お腹空いてたのかな?」

呆気にとられて見守っていると……かなりの速さでリンゴを平らげたベロニカの体が光の輪に包まれて輝き始める。

「……ベロニカ!?」

光はすぐに収まって、そこには特に姿の変わらないベロニカがいた……が。

「ちょうどいい実があってよかったわ! べ、別にご主人達のためじゃなくて、話が通じないと不便だから進化しただけなんだからね!」

ベロニカ Lv11

ワイズクロウ

……そういえば、うちのリンゴを食べて喋る進化した馬とかスレで見ましたね。

* * *

帰宅した途端に教本が役立たずになった気がするが、カラスの世話の仕方でもあるだろうから一応読んでおく。

「……『ホライゾンクロウはよほどの事がない限り進化しない』……したが?」

「まぁお喋りしたいなんてよほどの事だよね」

相棒も隣でくっつきながら占いの本を読んでいる。

今日はのんびりするって決めたからな。ベロニカの小屋を作り終えてからは読書タイムだ。

なおベロニカは『バカップルの邪魔する気はないわよ!』と言い残して周辺を見に行った。縄張りの確認的なものだろう。元気でなにより。

ホライゾンクロウの教本の約半分は、斥候クロウの性格についてだった。

長々とお堅い口調で回りくどく色んな状況下の事を書いてあるが……一言で言えば『ホライゾンクロウの雌はツンデレである』だった。

うん、知ってる。

『素直になれない年頃の娘だと思って接しろ、くじけるな』とか『チラッチラッとこっちを見てくるようになってからが本番』とか、激励のページがしばらく続く。

そしてもう半分は、歴代担当官による『うちの子かわいい自慢』だった。

……これ、教本の皮を被った布教本じゃねーか!

なお、肝心の世話の部分に関しては『ホライゾンクロウはとても賢いので、最低限の環境を用意すれば、後は自分で好きなように整えます。食事は好物を見つけましょう』で終わった。おい。

俺がそっと教本を閉じると、相棒が顔を上げる。

「あれ? そこそこ厚みのある本だけど、もう終わったの?」

「俺には相棒がいるからカラスマニアにはならなくていい」

「何の話?」

なお、布教本はこの後拠点の皆に回し読みされてベロニカへの理解を深めるのに役立てられた。

ベロニカに向けられる目線が物凄く生温いものになった気がするが、まぁ問題ないだろう。

* * *

「……おや?」

占いの本を読み終えた相棒が、不思議そうな声を上げる。

「どうした?」

「なんか……条件満たしたので珍しい転職先が出ましたよって通知が出た」

「ん?」

システムウィンドウを操作しているらしい相棒が、文章を読むように目を走らせる。

そして嬉しそうに笑った。

「『死霊使いの魔女』だって!」

「魔女あるんだ?」

タイミング的に【占術】スキルを習得した直後だろうから、占いは条件のひとつなんだろうけど。あとは何だ?

同盟のアルネブさんもクラフター系の職業だったから、スキル構成は相棒とそんなに変わらないはず。でも魔女にはなっていなかったな。

……スレを検索しても『魔女』の情報は出てこない。

なんとなく気になった俺達は、何故か人の文化に詳しいフッシーに話を聞きに行った。

「おお、主が魔女! まぁ当然と言えば当然の流れよな」

「フッシーは魔女の条件って知ってる?」

フッシーは「ふむ」と少し間を置いて思い出す仕草をする。

「確か……死霊・星・悪魔のいずれかと関わる術に長けている事。そしてそれらに関わるアイテムを作り出せる事。そして……ある程度の人の子に『魔女』と認識される事。あたりか?」

認識?

「魔女は、我が見てきた限り半ば称号に近い名誉職という印象よ。古き物語の善き魔女のように、物事が良い方向へ向かう鍵。そうなれる技術を持ち、実際にそうあった。故に魔女と認められる」

なるほど、魔法があるのが当たり前の世界観だから、魔法が上手いってだけなら『魔法使い』でいいんだもんな。

つまり。

「……魔術師団長に『鎮魂の魔女』って称号をつけられたから、魔女職が生えたって事か」

「うむ、そうであろうな!」

そしてゲームシステム的には【占術】スキルの習得で条件が満たされたと。

「良い方向へ導くのならば【占術】は確かに必要となろうな」

「なるほど……」

「えっとね、『属性魔法・採取・木工・裁縫・刻印・料理・調合・魔道具製作・占術・解析スキル取得経験値1.5倍、死霊魔法取得経験値2.5倍』ってなってるから、その辺が条件だったんじゃない?」

「もうなってる」

ためらいが無い。

まぁ喜んでたしあるわけないか。

……って、ちょっと待て?

「【解析】って何?」

「わかんない。なんか魔女になったら覚えた」

知らんスキルを知らん内に覚えてる。

動揺していると、ネビュラとフッシーが口を開いた。

「【解析】は魔法の流れを見るスキルぞ。魔力の機微に聡い者が覚えるモノよ」

「人の子もほれ、机だの本だのに齧りつくようなタイプが習得しておるな」

学者とか研究者系が覚えるスキルってことか?

「試してみよう……【解析】!」

スキルを使った相棒が、キョロキョロと周囲を見渡している。

「おおー! カラフルなサーモグラフィーだ!」

「……どういうこと?」

「たぶん、魔力が色になって見えてるのかな? 何に使えるのかはさっぱりわかんないけど」

……その内、魔法を見破る必要が出て来たりするんだろうな。

色々確認してわかったのは、どうやら『魔女』は、クエストに関わる事が多くなりそうな職業だって事だった。

まぁ、本人が嬉しそうだからいいか。