軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:新しいオバケの新入りは

素材用の畑を収穫して【調合】したり、矢を作ったり、他にも色々。

気付けば結構な時間が経っていたから、俺は作業を終わりにして上に上がった。

「でーきたー!」

上がった途端に聞こえてきた、相棒の歓喜の雄叫び。

【居場所検知】を使うまでもない。向かう先は相棒の作業場。

ノックをして声をかけると、相棒が突進する勢いでドアから出てきた。

「見て見てー! 出来たー!」

抱き上げて見せてきたのは、それなりの大きさの球体関節人形だった。

身長はあるけど子供っぽくないというか、スラッとした体型だから軽そうに見える。

髪は見慣れた森の葉っぱの色なのに、ずいぶん光沢が綺麗でツヤツヤしている。目は濃い緑色。

着せられている服は、紺色上下のスカートに、うっすら青みがかった白のエプロンと頭の三角巾。どれも蜘蛛の巣模様が派手すぎないように刺繍されている。

「メイド服?」

「エプロンドレスです」

「何が違うの?」

「……それは僕にもわからない」

「じゃあ俺にわかるわけない」

人形はずいぶん小物を色々持っていた。

左腕には針刺しがバンドで止められていて、腰には革ベルトが巻かれてポーチと鋏が入った鞘が吊られている。

エプロンのポケットにも布の端切れと小さな木の定規が入っていた。

「うん、縫物してそう」

「でしょ? この子に【住居登録】をすれば、裁縫が好きな子が来るんじゃないかなっていう作戦です」

「なるほど、【刻印】は?」

「内側に入れた」

上手く希望の死霊が来るかはやってみないとわからない。

なら早速やってみるしかないな。

相棒は人形を椅子に座らせた。

「じゃあいくよー……【住居登録】!」

屋内だっていうのに、ヒュウウッと風が渦を巻く。

人形に住み着くのなんて、まぁ魂以外にはいないよな。

……ワンチャン寄生虫とかの可能性もあるけど、そこまで捻くれた運営じゃないだろ。

人形がピクリと瞬きをした。

そしてグググッと体が震えた……と思ったその時。

「わぁっ!?」

「おおっ!?」

背中から半透明の大きな虫の腕が4本、ズルリと生えた。

「なるほど、足りないからはみ出しちゃったのかぁ」

「……何したの?」

「髪の毛に蜘蛛の糸使った」

そうか……それで蜘蛛の霊が来たのか。

って、俺はともかくキーナは蜘蛛苦手なはずでは?

「相棒、蜘蛛だけど平気なの?」

「足が4本なら大丈夫」

何が違うんだ……?

まぁ俺は蜘蛛は可愛いと思うから、相棒が良いならいいんだが。

風が消えて、変化が終わったらしい人形が、キョロキョロと周囲を見てから相棒に目を止めた。

「……マスター、ですか?」

「そだよー」

背中の腕の凶悪さに反して随分と儚い声だ。

「そちらは?」

「僕の最愛の旦那様」

「旦那様ですね」

そして相棒はどうして俺を旦那様って呼ばせようとするんだろうか。

「まずは名前だね、何にしようかな……」

「まだ決めてなかったんだ?」

「人形作るの楽しくてすっぽ抜けてた」

うーん……と、しばらく唸っていた相棒は、人形の頭を撫でながら微笑んだ。

「別に蜘蛛系の逸話から引っ張らなくてもいいよね。君の名前はローズマリーにしよう」

「ローズマリー」

「愛称はマリー」

「マリー……ありがとうございます、マスター」

「かーわーいーいー!」

はにかんで微笑んだマリーをデレッデレの相棒が抱きしめる。

抱きしめられているマリーも嬉しそうに笑っている。

相棒はそのままマリーを抱きかかえて外に飛び出して他の面々にローズマリーを紹介した。

「おお、今回はずいぶん愛いのが来たな!」

「ほほう、中身は蜘蛛か?」

「体はワシらの木材から出来ておるのか……ハッ、つまり孫のようなものでは?」

年長組は……というかコダマ爺さんは謎の爺バカを炸裂させていた。

そして年少組のジャックとデューは。

「ジャック兄さんだヨー、よろしくネー」

「自分はデュー、兄上の弟分でアル。つまりはお主の兄貴分になるわけダナ」

こっちはこっちで謎の兄アピール。

背中の蜘蛛の腕が苦手な面子はいないようで何よりだ。

マリーはジャックとデューが自分と同じように体を得た存在だとわかると、恐る恐るこう言った。

「……ジャック兄様? デュー兄様?」

「グハッ!!」

「ヌゥウッ!!」

呼ばれた二人は胸を押さえて崩れ落ちた。

「エ? 妹可愛すぎナイ? もしかして天使?」

「蜘蛛ちゃんだねぇ」

「守らねバ……このか弱き存在を守らねばならヌ! 姫に仕えし騎士とはこういう気持ちであったカ!」

「蜘蛛ちゃんだねぇ」

相棒の冷静な訂正に笑う。

愉快な兄弟は転がしておいて、相棒はマリーの前にしゃがみこんだ。

「ねぇ、マリーは何かやりたい事はある?」

元が道具だった兄弟と違って、ローズマリーは蜘蛛として生きていた霊だ。何か未練があるのかもしれないと思ったのだろう。

マリーは少し悲しそうに顔をうつむかせて、語り始める。

「私……生前はクリスタルスパイダーというモンスターでした」

ああ、素材の。

やっぱり体の一部を使うとその系統の霊が入るんだな。

「クリスタルスパイダーは基本的に洞窟に巣を作り暮らす蜘蛛です。私も陽の光から遠い岩山の中で水晶を噛み砕いて混ぜながら巣を作り、コウモリなどを捕まえて生きていました」

結構デカい物食べてる。

「そんなある日……私は見てしまったのです……」

ゴクリ……誰かが喉を鳴らした音が聞こえた。

シリアスの予感でも察したか?

「何かで崩れた岩山の裂け目、そこから差し込む陽光……キラキラと輝く……私達の巣が! 見たこともないほど素晴らしい細工物のように岩壁を飾るその様を!!」

流れ変わったな?

マリーの儚い声が、儚いなりに力強さを増した。

「心が! 魂が震える美しさでした! あんなに美しい物がこの世にあるだなんて! 私、感動したのです! ですが同時に思いました……崩れかけたその巣でさえそれほどに美しいのなら、丹精込めて美しさを追求した巣ならば! それはどれほど美しくなるのだろうかと!」

握り拳を掲げてマリーが熱弁を振るう。

背中の蜘蛛の腕がワキワキと蠢いた。

「その日から、来る日も来る日も私は巣作りに精を出しました! どのように糸をかけ、どのように交差させるのが最も見栄えが良いか! 陽の光を最も美しく反射するのはどの編み方なのか! 私は寝食を忘れて作業に没頭し……そして餓死したのです……」

くぅ……っ! と悔しそうに歯噛みするマリー。

途中までしみじみとしていた年長組は頭を抱えてしまったし、兄弟は宇宙を背負っている。

「芸術家タイプかぁ〜」

「餓死するほどって相当だけど?」

マリーは何事もなかったかのように元の淑やかな雰囲気に戻った。

「なので……私、出来ればマスターの下でお裁縫がしたいです。自分の考える素敵な物を、たくさん作りたいのです」

「なるほど、よくわかったよ」

相棒はうんと頷き……満面の笑みでマリーの肩に両手をかけた。

「叶えて上げる代わりに、ひとつだけ約束して?」

「なんでしょう?」

「『食事と睡眠は必ず取ること』」

「………………」

「目をそらさない。はい、約束」

「……一徹くらいはセーフですか?」

「アウトです」

「三食ほど抜くのは?」

「アウトです」

これはダメだ。

放っておいたら自室で死に戻るやつ。

「……皆、マリーの生存確認よろしくな。オバケだけど」

「うむ」

「……あいわかった」

「孫は中々お転婆じゃのぉ」

「兄上、妹は我々の手で守りましょうゾ」

「ソーダネ……」

なんとかマリーに約束させた相棒は、それはそれは達成感に満ちた顔をしていたのだった。