軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

友だち、仲間という便利ワード

我が妹シャルロッテちゃんが方々でさす兄しまくったところ、引きこもり中の俺(のコピー)のところに、まるで未来型万能ロボットに泣きつくメガネ男子のような迷える者たちが次々訪れた。

心底、相手にしたくない。引きこもりに対面相談なんてイジメですか?

しかしコピーの精神的負担が増せば、またストライキに突入してしまうだろう。我がコピーながら面倒なやつだよ。まあ俺だしね。仕方ないね。

で、本体たる俺が出張る羽目になったのだが、正直なところ何か策があるわけでもなかった。

「助けてティアえもーん!」

とりあえず某メガネ男子ばりにティア教授に泣きついてみた。何やら人体(?)実験っぽいことをしていたのは見なかったことにして。

「いいともいいとも。存分にワタシに頼ってくれたまえ」

ごねたり突き放したりするかと思いきや、意外にも好意的な反応。

「ハルト君に恩を売れる機会なんてあまりないからね。大船に乗ったつもりで――」

「やっぱいいです」

「なんでさ!?」

がびーんとしてるとこ悪いけど、この人に借りを作ったら後々もっと面倒なことになりそう。俺は知ってるんだ。

さて、唯一の策を失ってさまよう俺だったが、会議室で妙案がひらめく。見つけたのだ、お友だちを。

友だちとは、助け合うもの。

何やらせっせとテーブルでペンを走らせるイリスフィリアに頼んでみた。俺の代わりにみんなの相手をしてよ、と。

「もうボクは手一杯だよ。これ以上、キミの代わりは無理がある」

すげなく断られる俺。

「いいじゃないか! 友だちだろ!」

諦めきれずに伝家の宝刀を抜く俺。こいつはお友だちを大切にしたいガール。友だちアピールで言うことを聞かせてやるぜ。

「友人の頼みは聞きたくはあるけど、今やっている作業だってキミの代わりにしていることだぞ」

そういや、いくつかはイリスに押し付けたとコピーが自慢げに話していたな。

あんまちゃんと聞いてなかった。人の自慢話ってイラつくしね。いくら俺とそっくりなコピーでも、いや同じ容姿だからこそムカつき度合いは増すものさ。俺はそうなのよね。

ともかくイリスへのお友だちカードはすでに切っていた、と。

困ったな。もうカードがないぞ。他に友だちいないもんな、俺。

困り果てているところに、さらなるお困り事案がやってくる。

「おいハルト、いつまで待たせるんだよ」

ラガーマン風のマッチョが険しい顔つきで言う。これが人に教えを乞おうって態度かよ。

「ライアス、お前はカ・マテでも踊ってろ。気合入るらしいぞ?」

「は? 何言ってんだ?」

それはこっちのセリフだよ。俺に魔法を教わろうなんて、そもそも前提から間違っている。だって俺の魔法、ちょっと他の人たちと違うので。

「ああ、ハルト君、戻ってきたのですね。ではさっそく、私と魔法理論のお話を――」

今度はお姉ちゃんかよ。

「お話と言われましても……」

話すことなど何もない。だいたい、王女で生徒会長なんだからもっと学校の仕事をだね……ん?

俺はじぃっとマリアンヌお姉ちゃんを見る。

「な、何か……? そんなに見つめられますと……」

モジモジしているこの人は、この国のお姫様であり、この学校の生徒会長さんでもある。

今度は大柄な男を見た。

「な、なんだよ……? そんなに見つめられると……」

なぜか頬を赤らめるこいつは、この国の王子様であり、一年生では主席入学だったはず。

この学院において、もっとも権力に近しく、実力もある二人……。

「ホントにどうしたんだよ? 後がつかえてるんだから、僕たちの相手を早くだな――」

「それだ!」

ずびしっと指差すと、ライアスはびくっとなった。ごついくせにビビりだな。

「俺は忙しい。とてつもなく忙しい。だから来る人来る人の相手をいちいちしていられない」

嘘は言ってないよ? 見たいアニメはいっぱいあるしね。

「そこでどうだろう? 二人が俺の窓口になってくれないだろうか? 相談内容を吟味し、他の先生やなんかで対応可能なものはそういった人をアサインしてお断りしてほしい」

おそらくたいていの相談事は、他でも対応できるものばかりだろう。そもそも俺では無理な案件がほとんどに違いないのだ。

しかし交渉事がまるっきりダメダメな俺では、断ろうとしても押し切られる危険がある。むしろ押し切られる未来しか見えない。

そこでマリアンヌお姉ちゃんとライアス君の出番である。

彼らに強く言い寄れる者は、この学院にはほぼいないだろう。なにせ相手は王子に王女である。実力者としても一目置かれるのだから、遠慮とかいろいろあるはず。

この二人が俺の壁になって防いでくれれば、俺は安心して引きこもれるって寸法よ。

何か言いたげな二人に隙を与えないようまくしたてる。

「もちろん二人の要望にはなるべく応えよう。俺は忙しいが、そこはほら、仲間だし!」

「仲間、か……。そう言われちゃあ断れねえな」

「私たちがハルト君を占有するようで心苦しくはありますけど……仲間ですものね!」

知り合い以上友だち未満でいい感じに曖昧模糊なる関係性――『仲間』。便利な言葉だ。

言質は取った。

ついでに俺は語りながら、悪だくみ回路が刺激されてさらなる妙案が浮かんだ。

悪いが、君たち二人の相手も俺はしたくないのだ。

「ライアス、魔法の遠隔操作なら得意なやつを知っている。フレイやリザに訊くといい」

他の学生や先生には二人が魔族とバレたら大変だからあてがえないけど、お姉ちゃんやライアスはもう知ってるはずだし無問題。

「マリアンヌ王女も二人と話をすればいいですよ。連中は魔法にめちゃくちゃ詳しいですからね」

どちらも不満そうな微妙な顔をしたものの、『忙しい』を連呼して窮状を訴えたのが届いたのか、どうにか承諾してくれた。

うん、なんてパーフェクトな結果だろう。

これで煩わしい相談はすべてシャットアウトできるね。やったね。

王子様と王女様にしつこく念を押し、俺は意気揚々と引きこもりハウスに戻った。

ところが――。

「ねえママ、この〝カンジ〟はなんて読むの? 意味は?」

勉強熱心なお子様につかまる俺。

にしてもこの子、もう平仮名とカタカナを覚えた模様。シャルもそうだったけど、異世界の子どもは賢いなあ。

かれこれ一時間、質問攻めされて俺のライフが尽きかける。

子守りはフレイやリザに頼んでいたのだけど、日本語学習には対応できない。

いい加減に解放してくれ、とお子様に土下座も辞さない心境に陥ったまさにそのときだ。

「兄上さま、ただいま戻りました!」

救世主、現る!

「いいところに帰ってきてくれた。シャル、お前にお願いがあるんだ」

「兄上さまが! わたくしに! お願いを!?」

なんか目がキラッキラに輝いたぞ?

まあ、珍しくはあるよな。ふだんは『頼れるお兄ちゃん』を演じている俺だ。それが機能しているかは別にして、シャルにお願い事なんて滅多にしないからな。

メルちゃんに日本語を教えてあげてほしいと頼むと。

「わかりました。このシャルロッテ、『布教』に全力を尽くしましょう」

趣旨違ってない? まあいっか。

こうして数々の難題を一気に解決した俺は、安穏とした引きこもり生活に戻るのだった――。