軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

また告白されたんだが

「毎度思うのだけど、ハルトって詰めが甘いわよね」

「奴にとって問題たり得ないがゆえだろうよ」

「あら珍しい。わたし以外を擁護するなんて」

「事実を述べたまでだ。もっとも今回はオレも辟易している。こんなものを放置するなど、正気の沙汰とは思えない」

月が雲に隠れて闇に染まる中、黒くドロドロした巨人が暴れ回って離宮も王宮も見る影もなく破壊し尽くされている。

ユリヤとウラニス、二人がいるのは、瓦礫にまみれた離宮の一画だった。

天井が落ちた部屋の一部を掘り起こすと、奇妙な〝 孔(あな) 〟が見つかった。

「まだ完全には開いていないけど、 あちら(・・・) 次第ではすぐに開くわね」

「逆にこちらからの干渉はやり尽くしたらしい。もっともハルト・ゼンフィスなら無理にでもこじ開けてしまえるがな」

「断定するんだ」

「逆にあの男の異常性を考慮しないで話を進められるものか」

「まあ、そうね。どう考えてもこれって彼が原因だもの。バカみたいな魔力で大魔法儀式を始めておいて、最後もバカみたいな魔力で無理やり中止させて――」

「 時空に歪みができても(・・・・・・・・・・) 致し方ない(・・・・・) 、か」

ユリヤはにこにこ顔だが、ウラニスは心底うんざりしていた。

〝孔〟が発生したのはギーゼロッテの部屋だった。彼女に憑依した魔神ルシファイラが密かに進めていた大魔法儀式の起点になった場所である。

シヴァ――ハルトがそこを儀式中枢に定め、それ以降もあれこれやらかした結果、最終的にこの〝孔〟が生まれたらしい。

「ふさぐにもこれまたハルト・ゼンフィスにしか無理だろうな」

「あら? どうしてふさぐ必要があるの?」

「どこにつながっているかわからないんだぞ」

「だから面白いんじゃない」

ユリヤはウラニスを見ることなく目を輝かせている。

「ただ言うタイミングは考えないとね。下手をしたらテレジアに邪魔されちゃうわ――って、そうだった、忘れてしまうところだったわ」

くるりと踵を返し、すたすたと歩き出す。

「ウラニスはそれの解析を続けていてね。とくに成果は求めないわ」

命令されたなら、無駄と知りつつもやるだけだ。

自分(ユリヤ) がこれからやろうとすることはわかっている。本来なら止めるべき行いのはずだが、事態はすでに、むしろ積極的に促す状況にまで陥っていた。

(さて、ハルト・ゼンフィスはどう動くか)

こればかりは予想がつかない。できれば穏便に、と願うしかなかった――。

夜中にけたたましい警報が鳴り響いたらぐうたらな俺でも警戒するというもの。

相手がシャルと同年代の女の子で、しかもシャルのお友だちであっても、だ。

とはいえ、こっそり侵入してきたわけではなく、むしろノックして堂々と俺の部屋までやってきたから奇妙ではあった。

「なんか用か?」

寝ぼけていた頭が冴えてくると、この状況っていろいろ誤解を招くのでは? との危惧を抱くに至る。シャルに見つかったらヤバくね?

「忘れ物を届けに来たの。 帝国皇帝(ヴァジム) の意識が戻らなくて困っているのでしょう? はい、これに 精神(こころ) が入っているわ。移してみて。やり方はハルトの方が知っているわよね」

早口で言いつつ渡してきたのは、啓蒙用の機能縮小版魔法のステッキだ。

なんか唐突だが、皇帝が寝たままでシャルがしょんぼりしてたから困ってたのは事実。ありがたく受け取ってまた寝るか、とユリヤにお礼を言おうとして。

「実はわたし、〝魔神〟なの」

ん? 俺の聞き間違いか? 今この子、自分が魔神さんだとか告白したような……。

「以前は〝三主神〟のひと柱って畏怖されてもいたわ。ヴィーイや〝神殺し〟と同じよ」

どうやら聞き間違いではないらしい。しかもヴィーイやテレジア学院長と並ぶ大物だとか。

俺、まだ寝てんのかな?

「いきなりで現実を受け入れるのが面倒って顔をしているわね」

「お前ってティア教授と同類だよな」

「それって褒めているの? まあいいわ。さらに言えば『わたしの正体には関心がないくせにシャルへの影響を考えたら知らなかったことにしたい』って顔だわ」

そのものズバリですね。鋭いな。

「てか、なんで唐突にそんな話をしたんだよ?」

しかもこんな真夜中に。

「だってあなた、〝神〟やその眷属を見分けられるようになったのでしょう?」

なるほど納得。

それを察知したから先に告白したってわけか。

「わたしに人やこの世界への害意がないのは理解してもらえると思っているわ。シャルとはいつまでも友だちでいたいしね」

それはまあ、なんとなくわかる。魔神だとか言ってもテレジア学院長みたく人の側に寄り添うのもいるみたいだし。

「でもお前、どっちかってーとヴィーイ寄りだろ?」

ユリヤは目をぱちくりさせる。

「驚いた。ハルトって他者に無関心だから観察力も低いと思っていたわ。でも、そうね。わたしがシャルと親しいから注意を払った結果かしら」

やっぱこいつティア教授の系譜だな。生まれた順で言えばこっちが先だろうが。

「安心して。わたしは〝神〟にも人にも等しく関心がないのだけど、シャルだけは別。あの子と遊ぶのは楽しいもの。ああ、そうね。あなたとも、そうだわ、ハルト」

半眼薄笑いとか、なんでヤンデレ風に言うの?

「むぅ、真面目に話しているのに、そっちは不真面目に考えてるのね」

「違うが?」

「いいわよ、もう。とにかく!」

ユリヤはずびしっと俺を指差して。

「あなたとわたし、目的は違っても手段は同じでしょう? あなたはシャルを喜ばせたい。わたしはシャルと楽しみたい。そのために何をするか、協力できることはあると思うの」

屈託のない笑顔はマジで無害そうなんだけどなあ。しかも話には一理あるのがなんとも。

「俺はお前を信用しないし、いざとなったら切り捨てるぞ?」

「無理ね」

ユリヤはニコニコ顔で言う。

「あ、後者はって意味でね。前者は当然、理解しているわ。でもわたしとシャルの関係がここまで作られてしまったら、ハルトは何もできない」

それはムカつくほどに的確ではあるのだが、

「それでもあえてしつこく言うわ。『わたしはシャルと楽しみたい』って」

たしかにこいつとは手段的な意味で協力すべきな気がしてしまうのだ。

「なんかあったら『別れも告げずに帝国に帰った』ってシナリオ作るからな」

半ば呆れつつそう言うと。

「やっぱりハルトは『いいお兄ちゃん』なのね」

なぜだか妹のお友だちは、心底嬉しそうに返すのだった――。