軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

概念バトルは屁理屈勝負

ヴィーイの――皇帝ヴァジムの体躯が膨張する。

見た目的には明らかに大丈夫ではなさそうだが、当のヴィーイは恍惚とした表情で異常な状況を受け入れていた。

「なんとなく大丈夫じゃなさそうですので失礼しますごめんなさい!」

ピンクは再びステッキを取り出し、魔法弾を撃ち放った。

ヴィーイは避けようともせず、膨張を続けていく。

当然、魔法弾は全弾命中したのだが。

「まったく効いている気がしません!」

「落ち着いて、シャルロッテ様。削れるよりも膨らむ方が早いからそう見えるだけ。攻撃は効いてるよ」

「でもそれって焼け石に水状態というのでは?」

「……そうだね」

「どうしましょう?」

「う、うーん……?」

木の上で困り顔のネコ。

ピンクも攻撃を続けながら腕を組んで考える。

そうこうするうちにもヴィーイの膨張は続いていき。

「おや? 止まりましたね」

「うん、でもこれ……」

体高は五十メートルを超える。王城にも匹敵する大きさだ。

元の帝国皇帝の姿は見る影もなく、ただ黒いドロドロしたモノがかろうじて人型を保っているに過ぎない。

全体的にのっぺりと、頭には赤い光点が妖しく揺らめき、口と思しき大きな穴があんぐり開いている。両腕は地面に着くほど長くなり、下半身は脚が溶け合ってひとつになっていた。

「くはははっ! なんという魔力! しかもまだまだ溢れて止まらない!」

ヴィーイの自信に満ちた声が響く。

「残念でしたね、矮小なる魔法少女たち。たった今、このヴィーイこそが儀式の勝者と認定されました。より正確な表現を使うなら、 勝者として在るべき(・・・・・・・・・) 場所に到達した(・・・・・・・) のです」

「? まるで初めからあなたが儀式の勝者だったかのような物言いですね」

「ええ、そのとおりです。だからこそ自分は再び儀式に参加できたのです。 勝者が儀式に参加して(・・・・・・・・・・) いないはずがない(・・・・・・・・) 、とね。そして実際、我が願いはこのようなかたちで叶っています」

「失礼ですけど見た感じはグロ……いえ、キモ……いやいやえーっと、恐ろしげで禍々しいような。そんなお姿をお望みだったのですか?」

「ふん、見た目などになんの意味があるというのです? この本質が測れないなど、これだから矮小なる存在は……」

黒くドロドロした体を引きずり、ヴィーイは片腕を持ち上げる。大きくしならせ、ピンクへと振り下ろした。

「ほわわぁっ!?」

のったりした動きが急に加速して驚きはしたものの、どうにか掻いくぐった。

爆音が轟く。

事実、ただ地面を叩いただけなのに大爆発が巻き起こった。

「マズいよ、シャルロッテ様。アレは破壊に特化した魔法具だ。全身に術式を刻んで、身体をそう作り変えている」

触れただけで爆発を起こす巨大な化け物。

ずり、と巨躯を引きずっただけで地面が割れ、小さな爆発も生まれた。

「いけません!」

ピンクは両手を前に突き出した。片方の人差し指をドロドロ巨人に向け、もう一方を「どこにくっつければ!?」

あれだけ大きなものをくっつけたところで、巨人はそれすら引きずって動き回るだろう。

王都を、破壊し尽くすまで。

「ひとまず地面に!」

指差してはみたものの、

「お、重ぉ……」

歯を食いしばって巨人に向けた指を地面に降ろそうとするも、まったくもって動かない。

一方で黒いドロドロ巨人の歩みは止まらない。

「効いて、ないのですか……?」

「いえいえ、きちんと効いていますよ。先ほどよりも進みが遅くなりましたから」

言葉とは裏腹に、くすくすと笑う声が聞こえてくる。

「単純に魔力量の差によるものですよ。魔法少女の特殊能力がいかに規格外だとしても――」

「なるほど効いてはいても膨大な魔力でゴリ押して動いているのですね」

「く、こちらの説明を……」

真っ黒でドロドロしているので表情は読めないが、なにやら悔しがっている様子だ。

「ともかく! お前ごときに我が歩みは止められません。いえ、どうにも目障りですし、この場で消し去ってやりましょうか」

ゆらりと長い両手を持ち上げる。

振り回すにしても距離があるので当たりはしない。伸びるのかな? と警戒していると。

ババンッ!

「破裂しました!?」

ビュビュビュビュンッ!

「そして肉片が飛んできてます!」

両腕の先が爆発し、黒いドロドロした塊が襲いかかる。

避けきれない。

特殊能力を発動中なので防御魔法陣を展開するにも遅れが出る。いや、すでにリザが氷塊で応戦しているがすべて破壊して突き進んでいるのだ、威力はあちらが圧倒していた。

(アレを防ぐだけの魔法を、わたくしは持ち合わせていません)

ぞわりと背に悪寒が走った。

死に直面した恐怖。それに触れたのは、いつ以来だろうか。

母に抱かれ、敵兵に追われていた幼いあの日。

そう、あのときと同じだ。

「なので、わたくしは怖くありません」

パッ! 光が弾けた。

続けざまいくつもの閃光が視界を覆う。

音はない。大きな音で驚かせないような配慮だろうさすがです。

魔法陣すら生み出すことなく、隙間なく放たれた黒き死の使いは、ひとつも余さずそのすべてが、消え去った。

そして――。

黒い巨人に対峙する、漆黒なる正義の執行者。

「兄上さま、ありがとうございます」

その背に小さく声をかけると、こくりと シヴァ(あに) はうなずいた――。