軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんな機能はつけてないが?

頭の奥で声がする。

人を超越せし〝神〟を自称しておきながら、慇懃に接する白い少年。彼の声に間違いないのだが、そこにもうひとつの声音が重なっているように、帝国皇帝ヴァジム・ズメイは思えた。

上空では魔法少女同士が戦っている。

純粋な力では〝赤〟が有利に思えたが、戦い慣れているのか巧みな戦術で〝金〟が押していた。

いや、熟練度では〝赤〟も相当なものだ。

単純に〝金〟の年季が人や魔族のそれより圧倒して長いというだけの話。

聴衆が押し合い圧し合いするのを捌き、自身も時おり観察しつつ、頭の中で響く声を聞く。

辟易した。

これがかつて〝神〟と称された者の 嘆き(ねがい) なのか、と落胆もした。

(〝神〟を名乗りながらその根底にあるのは人の業か。 世界を手に入れたい(・・・・・・・・・) などと、実に人らしく浅ましい)

ヴァジムは妙な親近感を覚えながらも、自分以外がそれを成すのをこの肉体で実行されるのは我慢ならなかった。

徐々に蝕まれる精神をどうにか手繰り寄せ、対策を練る。

このままでは数分ののちに〝自分〟は消えるだろう。

『乗っ取られる』のではない、『上書きされる』のが正しく、恐ろしい事実だ。

どうにかしたいが、どうにもできない。

なにせ相手は〝神〟らしいのだ。人ごときがどうして太刀打ちできようか。

(いや、それでも……、〝人〟の限界を超えた人ならば、あるいは……)

だが残念なことに、自分は〝人〟を越える技量がない。

帝国内では上位に位置するも、たとえば最強と謳われた閃光姫の足元にも及ばない。

(すくなくとも閃光姫を超える逸材でなければ……)

不意に、かつて聞いた話を思い出す。

閃光姫を超える逸材が、王国に存在するという話だ。閃光姫は自身を脅かすその逸材を、秘密裏に亡き者にしようと画策していたとか。

眉唾な話だ。

風の噂程度にも劣る。

だが――。

(あの、少女……。魔法少女となって、基本能力が、上がっていたのもあろうが……)

ひと目で『格』が違う、いや『桁』が違うと戦慄した。

それどころか見た目通りの幼さであるならば、聡明な考えや明晰な切り返しは『天才』のひと言では片づけられない。

ふらふらと、ヴァジムは中央公園から離れていく。

裏路地に入り、乾いた壁に背を預けるもずるずると腰を落とした。

時間がない。

このままでは〝自分〟が消失する。

彼が座る地面から、黒い霧がにじみ出た。

すこしずつ、しかし確実に、彼の肉体から蝕んでいく。

もはや頭が回らなくなり、ただ本能に従って、彼はポケットに手を入れた。

固いモノに指先が触れる。

だが握る力が 失(な) くなっていた。

(…………、ない)

思考も塗りつぶされ、かすかな自我が残る男はしかし、

――問題、ない。

うっすらと笑みを浮かべていた。

黒い霧が男の全身を覆い尽くす、その直前、

カッと。

男の額から光が飛び出した。続けざまポケットからも何かが飛び出す。

光はソレに吸い寄せられ、収まっていく。

黒い霧が逃がすまいとソレを追うも、ソレはすばやく回避して昇っていった。遥か空の彼方へと――。

黒い霧は諦めたのか狙いを男に戻す。男の身体を完全に取りこんで、地面の中に沈んだ。

そうして、帝国皇帝ヴァジム・ズメイの姿は消失した――。

キラン、と。

空に輝く何かをシャルロッテは見つけた。

一条の儚い光が王都の城壁に落ちていく。

兄の指示で場所を移動している最中だったシャルロッテは、空中で止まって目を凝らした。

「流れ星……?」

どうにも気になって、近くにいた魔法少女ゴールドことユリヤに声をかけると、彼女もいっしょについてくると言う。

二人、並んで飛んで気になるモノを探しに行くと。

「これって魔法のステッキかしら? 小さいけど」

城壁の上に転がっていたのですぐに見つかった。

「はい。啓蒙用に兄上さまにお願いして作ってもらったものです。どうしてこんなところに落ちて来たのでしょうか?」

そもそも勝手に飛び回る機能はなかったような?

シャルロッテは小型ステッキを持ち上げると、ひっくり返して柄の底部分を覗きこんだ。

「このシリアルナンバーは……たしか雪だるまさんにお渡ししたものですね」

「雪だるま……って、ホワイトのサポーターよね? どうしてまた?」

「前に一度、二人でお話しする機会がありまして。どこのどなたかは知りませんけど、せっかく知り合ったのだからとお渡ししたのです」

いくらなんでも敵国の皇帝と仲良くなるのはお勧めしない、と心の中でユリヤは思うも指摘はしないでおく。

「それ、わたしが預かっていいかしら? あとでヴァジムに返しておくわ」

「お知り合いでしたか、助かります。落し物は持ち主に返しませんと」

シャルロッテは小型ステッキを大事そうに手渡す。

(おそらくあの男が残したわずかな生命線……まったく、今なにが起こっているのかしら)

心の声とは裏腹に、ユリヤは薄く笑っている。

すでに儀式は大詰めだ。

残る魔法少女は自分とシャルロッテの二人だけ。自分が勝つにしろ負けるにしろ、存分に楽しめると確信していても、 正しい終幕(・・・・・) には物足りなさを感じるだろう。

だからこそ――。

―― 別の結末(イレギュラー) があるのなら、より質の高い享楽であってほしいものだわ。