作品タイトル不明
これで全員出そろいましたか?
――それは魔法少女と呼ぶにはあまりに成熟していた。
なんて煽り文句が俺の脳内で再生されてしまうほど、育ちきった魔法少女パープルはいつの間にかいなくなっていた。
監視用結界を破壊してたし、俺が気づいたことに気づかれてしまったか。
なかなかやるじゃん。
ともあれ超遠距離攻撃が止まってくれたのは助かった。
けどいつこっちに参戦してくるかわからんし、警戒は密にしておこう。
ただピンチを脱したわけではなかった。
メルちゃんは聖武具の麻痺効果が切れて再び姿を消す。
「ふっ、はっ、せいっ!」
その攻撃を、イリスはメガネ効果で対応してはいる。
だがメルちゃんの動きに変化があった。
「くっ、あちらは確実に『見られている』のを想定して動いている。そのうえで音や気配は感じられないのを利用して、細かなフェイントをかけているんだ」
とイリスが戦いながら俺に解説してくれたが、その通りのようだ。
メルちゃんが大鎌の切っ先をわずかに下げたのを、攻撃のシグナルと考えて防御姿勢を取ると、大鎌をくるりと回して柄の逆側でイリスの横腹を襲う。
今さらながらに思うのだが、このお子さま、戦い慣れしてない? シャルちゃんみたくアニメとかで覚えたのかな?
一方のイリスはイリスで、これにも対応してきた。動き回って殴りまくって退いていく。相手を近づけさせない戦法でなんとかしのいでいた。
で、もう一人、卑怯にもイリスとメルちゃんの一騎打ちに割って入る〝緑〟の人。
「くっそ、ちょこまか動きやがって」
ぷぷぷぷっ、二人の動きについていけてないや。
実際にはスピード自体は特殊能力で跳ね上がっているのだろうけど、メルちゃん対策で不規則な動きをしているイリスに翻弄されまくっている。
「せいっ、やあっ!」
さらにイリスは吹っ切れたのか、鳥の糞が落ちてきても無視し、噴水の故障で大量の水がものすごい勢いで向かってきてもふんばり、完全に不運を克服していた。
てかアンラッキーネタが尽きてきてない? これはいけるぞ!
イリスが鬼気迫る集中力を発揮してくれたおかげでついに。
「ぐっ、時間切れか……」
がくんと、グリーンのスピードが落ちた。
「わかってるよ、ひとまず戦線は離脱する」
サポーターからの指示を受けたのだろうか、そうこぼすと、グリーンは大きく飛び退いた。それを――。
「待っていたよ」
イリスが見逃すはずがない。
さらにさらに。
「ようやくわたくしの出番ですね!」
魔法少女ピンクちゃんが颯爽と現れました待ってました!
そう、俺たちはこのときを待っていたのだ。
今回は我慢に我慢を重ね、とにかくイリスが踏ん張りまくってグリーンの特殊能力の有効時間が切れるのを待つ作戦だった。
きっとイリスの苦境に心痛めていたであろうシャルちゃんは、やる気満々で両手を人差し指を天高く差した。
実測値で三分。これがグリーンの特殊能力が有効な時間だ。
インターバルタイムがどれほどかわからない以上、速攻で片を付けるのみ。
「まずは一人」
イリスが錐揉み回転でグリーンを追う。
さすがのメルちゃんもびっくりしたのかイリスへの攻撃は止まっていた。
シャルが片方の人差し指の照準をグリーンに合わせた。もう一方は広場の地面だ。
「あなたとそちらでぇ、仲良くどうぞ!」
「ぐべっ!」
グリーンは後退する途中で地面に引き寄せられ、這いつくばるようにしてくっつけられる。
イリスはすでに聖武具もどきの台座に『杭』をセットしていた。
ギリギリまで近づいて確実に命中させようと、飛行速度をさらに上げる。
「やべ……」
やられる、との慄きがグリーンの表情に浮かんだ、直後。
「ふわわっ!? 見えません!」
シャルの声に俺はすぐさま反応する。ふぅ、どうやら目の前に布みたいなのが飛んできて視界を塞がれただけらしい。あれ? でもグリーンのラッキー効果ってもう切れてるよな?
「なにッ!?」
今度はイリスの声。目を戻せば見事にスカってるぅ!?
射出された『杭』は地面を穿つ。塵埃が舞い上がった。
イリスは着地して態勢を整える。
視界が晴れてきて、見据える先にいたのは、
「ふぅ、危なかったですね。お怪我はありませんか? グリーンさん」
〝白〟を基調とした、新たな魔法少女だった――って、誰やお前。
新たな魔法少女ホワイトはシャルやユリヤと同年代の、ザ・魔法少女って感じの子だ。中性的なので男かもしれないが、俺的には『魔法少女』呼びできる範疇だな。
ホワイトはお姫様抱っこしていたグリーンを降ろし、イリスに正対した。
グリーンは目をぱちくりさせて小さな背に問う。
「た、助かったぜ。けどお前、なんで僕を……?」
「貴方のファンだから、では理由になりませんか?」
「ファン、だって……?」
「ええ、貴方の活躍はたくさん伺っています。今日は初めて直接 見(まみ) えることができて、いっそう惹かれました。貴方こそ正義の体現者、自分の理想である、と」
「ぉ、ぉぅ……」
頬を赤らめもじもじするグリーン。ちょっと気持ち悪いな。
「さて、二人で協力して悪を討ちましょう、と提案したいところですが――ふっ!」
「ぬおっ!?」
ヒュヒュヒュヒュヒュンッ!
五本の矢が二人を襲う。
ギリギリで飛び退くと、矢は地面に突き刺さってベキィッ! 地面が割れたよ?
「貴女もしつこいですね。まさか大衆の面前にその恥ずかしい姿を晒す度胸があったとは、自分の誤算だったようです」
肩を竦めるホワイトさん、めっちゃ煽るやん。
その前、やや距離を開けたところにしゅたっと降り立つ〝紫〟の魔法痴女もとい露出過多なパープルさん。同じか? まあいっか。
「貴方を仕留めるのは最優先事項です。我が身の恥など……恥、など…………」
ぷるぷる震えるパープルさんなんか哀れ。
「なにアレすご」
「露出多すぎー」
「ひゅーっ! イケてんねー!」
「仮面を! 取って!」
突如現れたセクシー美女に、聴衆はやんやと喝采を送っている。
パープルさん、目元周りはマスクでわからんけど耳まで真っ赤だ。
どこの誰かはこの人もわからないけど、もしかしたら捲きこまれただけの一般美女かもしれない。変な格好させてごめんね。でも俺の嗜好でその衣装が選ばれたわけじゃないからね。ランダム、たぶんそう。
「ともかく! 何を企んでこの儀式に参加したかは知りませんが、この場で処断させていただきます!」
パープルさんは吹っ切れたのか、問答無用で弓を構える。持ち手の上半分が刃物になってないか? 物騒なもん持ってんなあ。
ホワイトは微笑を崩さない。
とりあえずパープルさんに便乗してグリーンをやっちまうか。
と、ホワイトが唐突に声を張り上げた。
「今度はこのお姉さんが遊んでくれるそうですよ、〝黒〟の魔法少女さん!」
「なっ!?」
「ほんと!? うん、いっぱい遊ぼう!」
弾ける笑みとともに姿を現した魔法少女ブラックことメルちゃんが、赤い目をらんらんと輝かせてパープルに襲いかかった――。