軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

儀式よりも優先すべきこと

王都から離れた小高い丘の上。

そびえたつ王城の一画にある尖塔に、一人の魔法少女が遥かを臨んでいた。

驚異的な視力で見やる先は、王都中央広場。

「アレを躱しますか。さすがはイリスフィリアさんですね」

薄く笑みをこぼすその姿は、魔法少女と呼ぶにはいささか育ちがよすぎた。

しかも布面積が極めて小さい。申し訳程度の丈しかない超ミニスカートは前面が開かれ、ビキニが丸見えだ。さらに背中には紫ベースのクジャクみたいな羽根を広げ、軽快なサンバのリズムが聞こえてきそうだった。

むろん彼女――テレジア学院長とてこの破廉恥極まる装いを受け入れたわけではない。

仕方なく、本当に心底仕方なく、無意味と知りながら蝶を模した仮面を被って平常心を保とうと努めていた。

『クマが貴女を捕捉したようです』

念話でサポーターからの報告を受け、横目を使うとすぐそばにかすかな違和感を覚えた。目を凝らしても判別しにくいが、ほぼ透明のウィンドウが浮いている。

ヒュッ。大弓を横に薙ぐ。

パリンと涼やかな音がして、監視用と思しきウィンドウは粉砕された。

歪なカタチをした大弓だ。持ち手の上部分が鋭利な刃になっていて、近接戦闘にも対応している。

「あのクマがシヴァであれハルト君であれ、 魔法少女(わたし) を直接攻撃しても無意味だとは承知しているでしょう。こちらは引き続き〝黒〟と〝緑〟の魔法少女を援護します」

『渋っていたわりにはやる気ですね』

「〝黒〟のサポーターのやり方が気に入らないのは変わりません。だからこそ、〝緑〟の彼を囮に使うような非道を許したくないのです。もっとも、乗り気でない 〝紫〟(わたし) を引きずり出すためにあえて自陣営を窮地に立たせたのかもしれませんけれど」

「それは……さすがに深読みしすぎでしょう」

そうでしょうか、とだけ返し、テレジアは再び照準に入った。

シヴァが用意した異空間から矢を一本、抜き出して弓につがえる。

〝黒〟の魔法少女に当たらないよう狙いを定める。だがテレジアはすぐには矢を放たず、周囲にも意識を裂いていた。

頭脳明晰なイリスフィリアが、無謀にも思える単騎戦闘を選ぶには理由があるはずだ。

可能性がもっとも高いのは、同盟を組んだ誰かの奇襲を成功させるため自ら囮役を買って出たものだろう。

ならば同盟相手はすぐ近くにいるはずだ。

テレジアは魔法少女たちの戦いを見守る人々へ注意を向けた。さらにその外側、遠巻きに眺める者たちにも範囲を広げた。

「――ッ!?」

その中の一人に、驚きから思わず狙いをそちらに移す。

「グーベルク君、残るうちのひと枠と思しき人物を見つけました」

『っ!? 〝白〟か〝金〟の陣営ですか』

「変身前なのでどちらかはわかりません。聴衆から離れた場所に、白いスーツを着た少年がいます。シャルロッテさんやユリヤさんと同年代で、灰色の髪と金色の瞳を持つ少年です」

しばらく探していたのか、すこし間を開けてアレクセイが応じる。

『上品な顔立ちの、私は少女に思えましたが、男の子なのですね』

「ええ、 知っている顔(・・・・・・) ですから」

息を呑む様子が伝わってくる。

(彼が魔法少女に変身していたら気づかなかったでしょう。かつての姿とはいささか違っていますが、この距離からでも感じ取れるあの陰湿な魔力を、忘れるはずありません)

もはや疑いようがない。

『学院長、まさか彼は……』

「ええ、ルシファイラ同様、〝魔神〟と呼ばれる存在です。人に憑依するでもなく、見た目こそ幼くなっていますが間違いありません、かつて〝三主神〟と恐れられた支配層の頂点、そのひと柱です」

『これはまた……大物が出てきたものですね。しかし今回の儀式に参加しているとは限らないのでは?』

「たしかに断言はできません。ただ、かつて三主神が試みて頓挫したこの儀式、彼が姿を現して参加していないなど、そちらもまた不自然ではありますね」

『なるほど。しかし、やはり私は彼がかつての〝神〟だったとの確信が持てません。上空から観察する限り、ふつうの少年に見えますが……』

むろん、今すぐ確認する方法もある。危険を伴うものだが、確信している以上、躊躇いはなかった。

手にした矢を握りしめ、弓を再び構える。

ヒュン。軽く弦を弾くと狙いは違わず、矢は聴衆から離れた白い少年へと――。

バチンッ!

届くことはなかった。

直前に何らかの魔法防御が作用して、矢を粉々に消し去ったのだ。

『貴女も大胆ですね。しかし今の守りはシヴァによる聴衆に対する防御では?』

「ええ、シヴァなら変身前の魔法少女のみならず、広範囲に聴衆を護る結界は構築しているでしょう。けれど自身が狙われたと感じたなら――」

白い少年は魔法防御が発動した直後、表情をこわばらせていた。すぐさま攻撃の出所を探り当てたのか、まっすぐにテレジアへ視線を突き刺してきた。

ただの市井の少年が、遥か遠方の射手を見定めようはずがない。

「これで彼が三主神のひと柱、ヴィーイであるのは確定しましたね」

ヴィーイは苦々しい顔つきになると、大人たちに隠れるように姿を消した。

「後を追います。アレは最優先で排除すべき私の敵ですから」

ルシファイラのような 格下が中途半端に(・・・・・・・・) 復活を進めているのではない。

アレは肉体をもこの世界に再び現した。ならば早急に対処しなければ完全復活を許してしまいかねない。

『魔法少女であれば、まずは宝石を破壊しなければなりませんね』

「そのうえで畳みかけて抹殺します。面倒ですが仕方ありません。もっともこの儀式がなければアレも姿を現さなかったでしょうし……」

テレジアはなんとも複雑な表情をしてから、タンッと軽やかに飛び上がった――。