軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔神の遺物

ウラニスは王都中心部に向かって歩いていた。

七枚集まれば魔神ルシファイラが完全復活する。

そんな触れこみでシャルロッテたちは七枚のカードを集めていた。それらはすべてシヴァの手に渡り、入手は不可能に近い。

しかしカード集めとやらの話をシャルロッテがユリヤに興奮気味に語っていたのを聞いた限りでは、不可解なことがあった。

シャルロッテたちと魔神ルシファイラ、双方がカードを集めているにもかかわらず、奪い合いは一度きり。

新たなカードが出現したときの、最初の所有権を争うときだけだった。

なぜかルシファイラ側はシャルロッテたちからカードを奪い返そうとしなかったのだ。

シヴァを警戒した、という単純な話ではない。

最初の所有権を争うときにシヴァはその場に現れていなかった。カード集めそのものに、シヴァは直接シャルロッテたちを手助けしている様子がなかったのだ。

では、魔神側の意図はどうか?

いくつか可能性は考えられるものの、決定的なものはない。

その中でひとつ、ウラニスには気になる推論があった。

(そもそも奪い返す必要がなかったとしたら)

あり得るようで、荒唐無稽にも思える可能性。

(ルシファイラにも同じカードが同じタイミングで渡ったから……)

確証はない。確信に至る根拠もない。

突拍子もない想像であり、本来ならこんな考えに至るはずもなかった。けれど、

(シヴァとハルト・ゼンフィスが同一人物であるなら、その可能性は大いに高まる)

なぜなら――

(要するにあいつも、楽しませたい誰かがいるという話だ)

妹であるシャルロッテを楽しませる。そのためだけに〝神〟をも超える力を振るう。

常識的に考えてバカバカしい話であるのに、ウラニスは得心がいった。

(ああ、わかるとも。オマエはオレと同じだ。その存在は異質だとしても、存在理由は同じなのだろうよ)

ウラニスは躊躇なく王宮に侵入した。

王妃ギーゼロッテが国家反逆罪で拘束されて以降、ふだんより厳重な警戒網を潜り抜ける。途中、学生を見咎めて制止する者はいない。存在に気づく前にウラニスが意識を刈り取ったからだ。

王宮の奥まったところにある、離宮へたどり着いた。

「? おい、何者――っ!?」

さらなる証拠集めでもしていたのか、王妃の私室には複数人がいた。

最初に気づいた鎧姿の兵士に、瞬きする間に接近して脳を揺さぶる。どさりと倒れた音がしたときには、部屋の中にいた衛兵や宮廷魔導士たち七名全員を気絶させていた。

(殺して死体を処理してしまえば楽なのだが)

それは許可されていない。

すくなくともシャルロッテと友人関係でいる間は、ユリヤは友人に嫌われる行為を避けるつもりだ。

静かになった部屋をぐるりと見回す。

(さて、ここにあってくれるといいんだが……)

なければ教団の施設をしらみ潰しに探し回るしかない、と気が滅入る。

ウラニスは神経を研ぎ澄ませ、微かな魔力の痕跡を探った。

違和感。

視線を向ける。暖炉の上、かつて聖剣が飾られていた壁面に歩み寄り手を添えた。

(呆れるほどに厳重だな。正規の手順で封を解くにはかなりの時間を要するか)

ならば、と。

ウラニスは 空間ごと(・・・・) 封印結界を抉り取った。

穿たれた壁面の奥から、ゆっくりと何かが現れる。

「……本?」

それは真新しい、一冊の書物だった。装丁はシンプルだがしっかりしている。見た目のとおり、つい最近編纂したものらしい。

開くにも魔法的な封がしてあるが、今度は本そのものを傷つけないよう、慎重に術式だけ切り取っていく。

最初のページを開く。即座に理解した。

(ルシファイラめ、大それたことを……)

かつて〝神〟と呼ばれる存在が覇を競った時代。

とてつもない魔力を必要とする特殊な魔法儀式があった。誰もがその完遂を切望しながら、実現に至らず諦めた究極の儀式だ。

ページを捲る。徐々に速度を上げた。

(なるほど、これならば最大の懸案である魔力の問題は解決する。ヤツの特性――〝合成〟がこんなかたちで生かされるとは)

感心しつつ最後まで読み切るも、落胆で締めくくることになった。

これまでは儀式に必要な魔力が膨大すぎて三主神ですら諦めていたものを、ルシファイラは現代に至ってクリアしつつあった。

(だがけっきょくは時間切れか)

最後の最後、儀式に必要なモノを用意するには時間が足らなかった。実現する前にシヴァに倒されてしまったのだ。

(この条件ならオレたちで実現できるかもしれないが……)

今この儀式をやる必要はない。なぜならユリヤが望まないからだ。

それでも――。

(どのみち例のカードは手にしておきたい。ご丁寧に隠し場所が書いてあったのだから、回収はしておくか)

ウラニスはルシファイラが遺した本を傍らに、王妃の私室を後にした――。