軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22.王宮魔術師総監ロンディモンド

「「すみませんでした」」

調子に乗って滑りまくっていたら、兵士と騎士が動員されるという大騒ぎになってしまった。

小動物と同じ習性が人間にもあるのか、追われたせいでついつい衝動的に逃げてしまったのも、騒動が広まる原因になってしまった。

最終的には騎士に捕まって厳重注意を受けるという、不名誉を賜ることになった。

――クノンが王城に来てすぐに起こったこの「廊下大滑り事件」は、長く長く語られ続ける珍事である。

「……さて。気を取り直していきましょうか」

レーシャとクノンは、捕まった騎士に説教されて王城から放り出された。

まあ、少々我を忘れてはしゃいでしまった感はあるが、これで本来の目的に戻れると思えばいいだろう。

「騎士ってすごいですね。あの速度に余裕で追いつくなんて。僕が出せる最高速度だったのに」

「ね! あの人おかしいよね! あの速度をっ……いや、クノン。もういいから行きましょう」

新しい魔術は思いのほか興味深かった。

レーシャは未だ興奮冷めやらぬ内心を隠し、とにかくまずは黒の塔へ、王宮魔術師の職場へと連れていくことにした。

王宮魔術師のほとんどが、魔術に魅せられた者ばかりだ。

今レーシャが感じている興奮を理解し、共有できる者がたくさんいることだろう。

後々、王城で騒ぎを起こしたことより、クノンの到着が遅れたことの方が怒られそうだ。

「――ようこそ、クノン・グリオン君。私が王宮魔術師総監ロンディモンドだ。王宮魔術師の総責任者だよ」

声からして父親より年上、初老辺りだろうか。

「は、初めまして。ロンディモンド総監。クノン・グリオンです」

黒の塔にやってきた。

まずは、まっすぐ総監室まで通された。恐らく執務室のような場所なのだろう。

椅子に座り、向かいにいるのが、ロンディモンド総監。

そしてクノンの隣にはレーシャがいる。

クノンはドキドキしていた。

緊張し、また興奮もしていた。

ロンディモンドの腹に響くような低い声のせいではない。

黒の塔に入ってからずっとだから。

ここで会う人会う人、皆濃度の高い魔力をまとっているからだ。

家庭教師ジェニエしか魔術師を知らなかったクノンにとっては、ここに来たことからして、すでに貴重な体験となっていた。

全然違うのだ。

感じる魔力が、全然違う。

特にこのロンディモンドは別格で違う。

レーシャの魔力もジェニエとは違うと思ったが、まだ想像の範囲内だった。

この人は違う。

想像していたより、もっともっとすごい、もしかしたら文献に残る伝説の魔術師とはこういう人なんじゃないかと思えるほどに、まるで違う。

「あの、本日は僕の我儘で時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」

「気にしないでくれ。君が会いたいんじゃなくて、私たちが君に会いたくなったんだ。許されるものなら私たちが君の家に会いに行きたかったよ」

恐縮である。

低い声のせいか、それとも感じる魔力で圧倒されているせいか、ロンディモンドの威圧感に押さえつけられているかのようだ。

「君は水の紋章があるそうだね。どこにあるんだい?」

「左肩です」

「ふむ――なるほど、やはり二ツ星か」

「二つ……星?」

「魔術学校に行くと習うんだがね。

魔術師の持つ紋章には、五つのランクがある。基本的に七種類の紋章が確認されているが、その七つの中でも五つの格があるんだ」

クノンは眼帯の下で目を見張った。

魔術師なら知っていることなのだろう――だがまだ見習いに等しいクノンには新説である。

「七つじゃないんですか?」

火、水、土、風、光、闇、魔。

クノンが知っている七種類の紋章は、そのまま七種類の属性に分かれる。

クノンは水だ。

水で良かったと思っている。

「それも間違いではないんだがね。系統は七つ、七つの中でそれぞれ五つに格付けされる。そんな感じだ」

つまり、魔術師の紋章は厳密にいうと三十五種あるということだ。

「僕は二ツ星なんですか? 聞く限りでは、下から二番目でしょうか?」

「私が見た限りではね。平均すれば魔術師が最も多いのが二ツ星だよ。まあ、魔術師の格としては普通ということになるのかな。レーシャ君も二ツ星だよ」

「格とは? 星が違うと何か違うんですか?」

「具体的にこれというものはないんだ。ランクは才能とは関係ないから、はっきり違うのは魔力の総量くらいかな。明確に言える差異はそれくらいだろう」

クノンはなるほどと頷いた。

魔力の総力が違うくらいなら、特に問題はなさそうだ。

とんでもなく才能の差が出る、魔術師としての差になる、と言われたら落ち込んでいたかもしれないが。

そうじゃないなら、それでいい。

「ロンディモンド総監は、三ツ星ですか?」

「フフッ。わかるかね?」

「感じる魔力の濃度が全然違います。別物なんじゃないかというくらいに」

「濃度か。面白い表現だ」

「僕やレーシャ様が市販のチーズなら、総監はこだわって作ったブルーチーズみたいに違います」

「臭そうなたとえだね。ブルーチーズは嫌いじゃないが」

「ブルーチーズ総監は三ツ星なんですか?」

「はっはっはっ。今度そう呼んだら怒るよ?」

「あっ、ブルチって略した方が可愛いからこっちにしましょうか、ブルチ総監」

「はっはっはっ。そっちで呼んでも怒るよ? ――私は三つじゃない、四ツ星なんだ」

「はあ、四つ……」

「……あれ? 驚かないね」

ロンディモンドの持つ鉄板の驚く話なのだが、クノンはピンと来ていない。

「――総監、彼は四ツ星がどれくらい珍しいか知りませんから」

レーシャが言うと、ロンディモンドは「ああそうか」と頷く。

「うん、そうだったね。クノン君はまだ魔術学校で習うことを習っていないんだったね。

四ツ星は……まあいずれわかるからいいか」

――四ツ星は、実質現存する魔術師の最高ランクである。確認されているだけで世界で六人だけ。五ツ星の紋章に限っては過去の記録にしか残っていない。

クノンがこれを知るのは、まだまだ先の話である。

「それじゃクノン君、そろそろいいかね?」

「はい?」

「テストだよ。私たちは君に興味津々だ。焦らさないでそろそろ見せてほしい」

そうだった。

ロンディモンドの魔力に圧倒されていたが、クノンは魔術師の師を求めてここに来たのだ。

紋章の新事実や、感じられる魔力だけで少々満足してしまっていたが、本題はこれからだ。

「――総監、彼すごいですよ。すでにすごいです」

「お、ずるいなレーシャ君。先に見たのかい?」

「見たどころか体験しました」

「ますますずるいね。それに体験か。何を体験したか実に興味深い」

ロンディモンドが立ち上がった。

「さあレーシャ君、楽しい時間の始まりだよ。皆にテストを開始することを伝えてきたまえ」