軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21.結局は同じ畑の人

「――クノン・グリオンです。本日は僕のために時間を作っていただいてありがとうございます」

折り目正しく礼をするその姿は、小さな紳士である。

目は見えずとも、ちゃんと貴族教育を受けている令息そのものだ。

「私はレーシャと言います。新人の王宮魔術師です」

「よろしくお願いします、レーシャ様」

お互い簡単な自己紹介を終えると、レーシャはアーソンに視線を向ける。

「グリオン卿、私はクノンを預かりに来ました。このまま黒の塔に連れて行きますが、構いませんね?」

「はい。息子をよろしくお願いします」

アーソンは王城の一室へ、クノンは王宮魔術師の仕事場である黒の塔……王城から隔離された建物へ向こうことになる。

「ではクノン、遅くなるようなら帰りも一緒に……ああ、そういえば、おまえは今日はミリカ殿下とディナーだったな」

「はい。父上が母上を落としたというレストランを予約――」

「うんわかったもういい! 楽しんで来なさい!」

こんなところで夫婦の思い出話なんてされても恥ずかしいばかりだ。

アーソンは「息子を頼みます。では失礼します」と今一度レーシャに礼を取り、足早に王城へと行ってしまった。

「クノン、私たちも行きましょう」

「はい――行ってくるね」

グリオン家の使用人である御者に言い置いて、クノンたちも動き出した。

「クノン。足元は大丈夫?」

歩くのに手伝いがいるかと思えばそうでもなく、クノンは平然とレーシャの横を歩いて付いてくる。

「問題ありません。小石と段差に弱いですが、平面なら平気です。屋内なら尚更です」

アーソンとは違うルートを通るが、クノンたちも一旦王城内へと入った。

黒の塔は、王城から離れたところにある。

だが、さっきの場所からだと城を迂回する形で、大きく遠回りしなければならないらしく、中を抜けた方が早いそうだ。

「そう。なら歩きながらでいいから聞いてくれる?」

「魔術師の神髄を? 早速教えてくれるんですか?」

「あー……私はまだまだ新人だから、神髄なんてとても教えられないわね」

「じゃあ紋章術の重奏魔法陣の新解釈を? あっ、もしや旧解釈を新解釈に応用する方法を!? すごい! さすがレーシャ様だ!」

子供とは思えないほど高度なことを言っている。

この時点で、まだ魔術学校にも行っていない子が、王宮魔術師を師にと乞う理由がよくわかった。

そして、どれだけの意気込みと熱意があるかもだいたい伝わった。

あとは熟達の歴々に気に入られる程度の実力があるかどうかだが――その前にだ。

「ごめんね。魔術師関係の話じゃないのよ」

「……あ、はい」

露骨にがっかりされた。

わかっている。

レーシャもわかっている。

自分だってこんなつまらない話ではなく、魔術の話をとことんしたい。煩わされることなく魔術の研究ばかりしていたい。クノンの持つオリジナリティ溢れる魔術を全て知りたい。

だが、話さなくてはならない。

「ミリカに頼まれたのよ。君のこと」

「ミリカ殿下に?」

露骨に興味を示された。

許嫁同士、仲が良さそうで大変結構である。

「君は全然興味ないと思うけど、それでも憶えておいてね。

ヒューグリアはどの代でも後継者争いが起こるの。今現在も起こっている最中なのよ」

ヒューグリア王国の国王は、代々多く子供を作る。

それは、王族は魔術師として覚醒する確率が高いからだ。

今、国王の子供たちは十七人。

女子率が高いようで、王子は七人、王女は十人いる。

その内、魔術師として覚醒したのは三人。

第二王女と第三王女、第四王子だ。

第二王女レーシャは魔術師として生きることを決め、王位継承権を放棄している。それから王宮魔術師として働いているのだ。

王籍こそ残っているが、後継者争いとは無縁の存在となっている。

問題は、第三王女と第四王子だ。

「君も知っていると思うけど、王太子は第一王子と決まっているの。でも油断はできない。ヒューグリア王国は実力主義の面が強いから、実績と功績によっては王太子……次の国王候補が度々入れ替わることがある。

問題は、実績と功績のことよ。

もう率直に言うけど、次の玉座を狙う王子や王女は、優秀な魔術師を味方にしたいの。実績と功績のためにね。

ミリカは、君がそういうのに巻き込まれるのを心配して――何それ今のそれ何!?」

面倒な説明しながら、ふとクノンを見ると――すーっと移動していた。

今確かに歩いていなかった。

今絶対に歩いていなかった。

歩かずにすーっと移動していた。

「え?」

「何きょとんとしてるの!? 見てたから! ――あっそれ! それよ!」

やはりすーっと移動している。氷上を滑るかのように移動している。

「あ、これ? 氷のそりを付けた『 水球(ア・オリ) 』の上に乗っています。靴の裏にうすーく伸ばして」

理屈を聞いてもよくわからない。

「ちょっと浮かせるのがコツですよ。全体重を掛けると摩擦が生じて、上手く滑らないので」

理屈もわからないのにコツを話されてもわかるわけがない。

「レーシャ様も滑ってみます? 面白いですよ。楽だし」

「やる!――いや待って! 話が先なのよ!」

レーシャも魔術師である。

見たことも聞いたこともない魔術を見せられて、興味を抱かないわけがない。

むしろもう興味津々だ。

さっきの水の猫といい、今すーっと滑っているのといい、すでにクノンはレーシャの興味と関心を強く惹いている。

だが、だからこそ、だからこそだ。

「もう話をまとめるわ! とにかく迂闊にどこかの派閥や陣営に属さないでね! できるだけ私が一緒にいてガードはするけど、もしもの時の言動は気を付けて! 言質を取られると面倒だし、書類へのサインも駄目よ! ね、わかった!? わかったよね!? じゃあ私も滑らせて!」

新しい魔術を体験できるとあって少々雑な早口になったが、レーシャはミリカに頼まれた警告の任を果たした。

結局、レーシャが付きっきりで野心家たちの接触から、クノンを守ればいいのだ。

それより新しい魔術だ。

今はそっちが最優先だ。

昼頃には、王城の廊下を滑る王宮魔術師と子供の姿と、それを追い駆ける兵士と騎士の騒動が、王城中で話題になっていた。

アーソンが頭を抱えたのは言うまでもない。