軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六話 最強の陰陽師、二戦目に臨む

邪視とは、視線を使った呪術だ。

目で見ることで、その相手を呪う。

言ってしまえばちょっと変わった呪詛なのだが、特殊な才能が必要な代わりに効果が強力で、しかも返せない。

並の使い手だと体調を崩させたり運を悪くしたりする程度らしいが、西洋で出会った魔女などは、野ウサギを睨み殺して夕食にしていた。過去には生物を石に変えてしまうような使い手もいたという。

ここまで強力な呪詛はそうない。

ただ防ぐのは素人でも難しくなく、西洋やイスラムなどでは邪視除けの護符や印が広く知られていた。簡単なのでも十分効くそうだ。

と、ここまでが前世の話。

これによく似た異世界の邪眼はというと……案の定、めちゃくちゃ恐れられているようだった。

その効果は、相手の動きを縛ったり病気にしたりと前世とだいたい似たような感じだが、肝心の対策が全然広まっていない。

元々邪視使いが少ないせいもあるんだろうけど……こっちは呪い関係が本当に未発達だな。

おかげで邪眼持ちは異端扱い。

迫害とまではいかないが、やはり厭われているようだった。

まあそこら辺は前世も同じだったけど。

『さて始まりました、二回戦第一試合目! 勝ち上がってきた一人目は――――セイカ・ランプローグ選手!!』

それはそれとして、ぼくの二戦目。

長ったらしい紹介を待たずにさっさとステージに上がる。

昨日の試合を見てすっかり怯えきっていたイーファには、もう棄権した方がいいと泣かれて大変だったが、なんとかなだめてここまで来た。

実際、完全に別ブロックのカイルとは、当たるとしても決勝戦だ。

『対戦相手となるのは――――“人形遣い”ラビネール選手だぁーッ!』

地響きが鳴る。

ステージへと上がってきたのは……人ではない、巨大な石人形だった。

高さは十五、六尺(※約五メートル弱)にも及ぼうか。

身体は緑がかった巨石でできており、全身に所狭しと文字や魔法陣が描かれている。

『おっと、前回とは異なるゴーレムのようです! 一回戦の黒いゴーレムは相手選手の 戦棍(メイス) を全く寄せ付けませんでしたが、果たして魔術師相手にも同じ手が通じるのか!?』

「ほっほっほ……光栄ねぇ。高名なランプローグ伯爵家の三男坊と、こんな場で相見えることができるなんて」

ゴーレムに続いてステージに現れたのは、長い黒髪を垂らした、全体的になよなよした感じの長身の男だった。

宋の 宦官(かんがん) に似た雰囲気だが、同じような文化でもあるのか?

ぼくは普通に返す。

「多少名が知れているとは言え、遠方貴族の三男風情をご存知とは、こちらこそ恐れ入るね」

「あら、もちろん知っているわよ……だってこの大会の出場者のことは、みぃんな調べたもの。あなたのこともね」

男は笑みを深める。

「当主の愛人の息子であること、一時期は魔力なしと思われていたこと、幼なじみの奴隷をもらい受けたことだって知ってるわ……それに、ふふ、入学試験のことも」

「入学試験?」

「あなた実技試験で、火、土、水の三属性を使って合格したそうね。大した才能ではあるけれど……逆に言えば、それ以外の属性は使えない。そうじゃなくて?」

「……」

「うふふふ……見なさい、アタシのゴーレムを!」

男が手を広げ、悠然と立つゴーレムを示す。

「魔術を学ぶ者ならわかるんじゃないかしら? このゴーレムには、実に五属性分の強固な耐性が付与されている! 本来なら複数種を重ねがけするほど効果が弱まる属性耐性だけど、アタシのゴーレムは、一部の属性にのみ極端に脆弱にすることで、その効果を保つことに成功したの」

「……」

「このゴーレムの場合は……風よ。ふふ、あなたの扱えない属性ね」

「つまり、風属性が弱点ってこと?」

「ええ。自分が今、どれだけ絶望的な状況かわかった?」

『それでは二回戦第一試合――――開始です!』

試合開始の笛が響き渡る。

「自分の魔法が通じない相手とどう戦うのかしら? さあっ、降参するなら今のうちよぉっ!!」

男の叫びと共に、緑灰色のゴーレムが歩みを開始する。

巨体が迫り来る圧力の中、ぼくはヒトガタを選びながら呟く。

「えっと……風ね。了解」

《召命―――― 鎌鼬(カマイタチ) 》

突風が吹いた。

空間の歪みからつむじ風と共に現れたイタチの 妖(あやかし) は、すさまじい勢いでゴーレムへと襲いかかり。

神通力で生み出した風の刃で瞬く間に巨体をバラバラにすると、目にも止まらぬ速さで位相へと帰っていった。

闘技場は静まりかえっている。

『……おーっ、とぉ!? ラビネール選手のゴーレムが崩壊です! セイカ選手の強烈な風魔法により、あっという間に倒されてしまったぁ!!』

「降参するなら今のうちだけど」

呆然と立ち尽くすラビネールに告げる。

長髪の男はふっと小さく微笑むと――――審判に向かって軽く手を上げ、それから真顔になって宣言した。

「すみません降参します」

****

「しかし、危なかったな」

闘技場の控え室に戻る途中。

ぼくがそう呟くと、ユキが驚いたように言う。

「え、ええっ!? さっきの試合のどこにそんな要素が!?」

「この大会、 召喚士(サモナー) は出場禁止なんだよ。妖を喚んだのがバレたら最悪失格になるところだった」

鎌鼬はいつも神通力で姿を隠しているし、そもそも人間の目では追えないほど素速いから、まず大丈夫だとは思ったけど。

つむじ風に乗った鎌の爪を持つイタチなんて、見つかったら言い訳のしようがなかったな。

「……そうでございますか」

小言を言ってくるかと思ったが、ユキは呆れたように呟いただけだった。

そういうのは心にくるからやめて欲しい。