軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話 最強の陰陽師、観戦する

トーナメントは、一回戦が一番試合数が多くなる。

次の自分の試合までの三日間、ぼくは他の試合の観戦に時間を費やしていた。

さすがに実力のある出場者が多かったが、その中でも注目したのは、二人。

一人はメイベルだ。

彼女は一試合目、自分の背丈ほどもある両手剣を背負って闘技場に現れた。

そして開始直後、対戦相手だったベテラン騎士の持つ直剣を一合目でへし折り……剣を捨てて甲冑術の要領で掴みかかってきた相手を、片手で投げ飛ばした。

明らかに小柄なメイベルが大剣や大男を微動だにせずぶん回す様子は、力学的に不自然すぎてまるで目の錯覚だった。

間違いなく、何か魔法の効果だろう。

もっと情報が欲しかったから、一瞬で終わってしまったのは残念だった。

もう一人は、レイナスという二十歳くらいの騎士だ。

魔法も使うようで、対戦相手だった冒険者上がりの魔法剣士を土と風の魔法で圧倒。危なげなく勝利を収めていた。

まだ実力を隠していそうだったから目を引かれたが……観客席に手を振っていたり、試合後も酒場で女漁りをしていたりと、どうもただ強いだけの優男という感じがしないでもない。

そして。

これから始まるのが、本日最後の試合。

『さて、いよいよ一回戦の最終試合となります!』

「ねえ、セイカくん」

隣に座るイーファが心配そうに声をかけてくる。

「本当に大丈夫? 頭痛いんだったら休んでた方がいいんじゃ……」

「大丈夫大丈夫。大したことないよ」

ぼくは頭を押さえていた手を振って答える。

原因はわかってる。

そしてこれは必要なことだ。

「あんたがそれくらいでどうにかなるとは思わないけど、無理はしない方がいいわよ?」

「わかってるよ。ありがとう。でも今日はこの試合で最後だから」

アミュにそう返して、ぼくは観客席から闘技場を見下ろす。

これが終われば、出場者は一通りチェックしたことになる。

『まずは一人目――――賢者フォルドの一番弟子、ベレン選手! フォルド氏と言えば数々の実績を持つ水属性の使い手として有名ですが、果たしてベレン選手はどのような魔法を見せてくれるのか!』

ステージに上るのは、ローブを羽織り、杖を手にした、典型的な魔術師風の青年だ。

『対する相手は――――ルグローク商会護衛部隊より、カイル選手!』

ゆっくりとステージに上る選手を見て、ぼくは思わず眉をひそめた。

鎧でもローブでもないぼろぼろの装束を着た、十代半ばか後半ほどの少年。

右手には片手剣を握っている――――抜き身のまま。

腰に鞘を付けているわけでもない。ただ必要だから持ってきた、というような装い。

灰色の髪に、生気の感じられない足取りも相まって、まるで幽鬼のようだった。

『カイル選手につきましては、こちらも詳しい情報が掴めておりません! 剣士とも魔術師ともつかない異彩を放つ風貌ですが、どのような技を使うのか! 注目であります!』

両者がステージ上で対峙する。

対戦相手となる魔術師も、やや気圧されているように見えた。

『それでは一回戦最終試合――――開始です!』

笛とほぼ同時。異装の少年へ、魔術師の青年が杖を向けようとする。

だが――――唐突に、その動きが止まった。

「なんだ……?」

青年は杖を上げかけた体勢のまま動かない。

明らかに何かがおかしい。

異装の少年、カイルは、硬直する青年へとゆっくりと歩みを進める。

ぼくは、上空を飛ばしていた式神のタカを降下させる。

もっと近くで見たい。

『何が起こっているのでしょうか!? ベレン選手、一向に動く気配がありません! カイル選手、緩やかに距離を詰めていきます!』

観客席のざわめきも大きくなっている。

降下させていたタカは、選手の顔が見えるところにまで来ていた。

魔術師の表情には恐怖が滲んでいる。

気になるのは少年の方だ。ぼくはタカを旋回させる。

少年が足を止めた。

対戦相手との距離は、いつの間にか一歩分にまで縮まっている。

おもむろに。

まるで日常の一場面のような、何気ない動きで――――少年の剣が、魔術師の首を刺し貫いた。

青年の口から血泡があふれる。

この期に及んでまで、魔術師の青年にはわずかな抵抗もない。

少年が剣を引き抜くと……青年の身体は動きを思い出したかのようによろめき、そして、ステージ上に仰向けに倒れた。

その周囲に血だまりが広がっていく。

『ベレン選手、戦闘不能――――ッ! 勝者、カイル選手です! なんということでしょう、本大会初の死者が出てしまいました! カイル選手に剣を止める気配がまるでなかったのも気になりますが、それ以上になんなんだこの奇妙な試合展開はぁ――――ッ!』

アミュが顔をしかめ、イーファに至っては目を逸らして口元を押さえている。

この子らがまともでよかった。

会場は騒然としていたが、どこか暗い盛り上がりを見せていた。

こんな展開を期待していたかのように。

人の死は、どうやらこちらの世界でも見世物になるらしい。

そのとき。

タカの視界がカイルの顔を捉えた。

少年の表情は――――無だった。なんの感情も浮かんでいない、虚無の表情。

ルグローク商会の護衛部隊とか言っていたが、嘘だな。

こんな化け物を商会ごときが飼うわけがない。

おそらくはどこかから送り込まれた、裏のある人間。

ふと、ぼくの興味はあるところに引きつけられた。

少年の目だ。

右目が空色。そして、左目が深紅のその瞳。

『おっとぉ! ここで新たな情報が入って参りました! なんとカイル選手――――左目が邪眼であるとのことです!! なんということでしょう! 歴史あるこの大会に、異端の邪眼持ちが参戦してしまいました! 明日から始まる第二回戦に、いったいどんな波乱が巻き起こるのか!!』

こちらの世界にもいたのか。

視線に呪力を乗せ、睨みつけた相手を呪う異形の呪術師。

――――邪視使いが。