軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話 最強の陰陽師、初戦に臨む

それから二日が過ぎ。

武術大会、初戦の日がやってきた。

『さあやって参りました! 歴史ある帝都剣術大会改め、帝都総合武術大会の開幕です! 今年はルールが一新され、なんと魔法の使用が認められました! したがって今回、本戦出場者の約半数が魔術師となっております!』

風魔法で増幅された司会の声が、よく晴れた闘技場中に響き渡る。

開会式こそ格式張った感じだったが、実際には興行の面も強いのか、今は口調がだいぶ砕けていた。

『敗北条件は、戦闘不能、場外、降参の宣言、審判の判定は例年通りですが、今年はそれにもう一つ、 護符(アミュレット) の破損が加わります!』

ぼくは、首から提げた精緻な金属細工を手に取る。

ミスリルで作られたこの 護符(アミュレット) は、魔法のダメージをある程度所有者の身代わりとなって防ぐ代物で、大会運営から与えられていた。

限界が来ると音と光を出しながら自壊し、それをもって敗北とするのだとか。

文字通り災厄を防ぐお守りだ。前世にあったものと大差ない。

これで死人が出るのを防ぐということらしいが……どのくらい意味があるかは疑問だな。

『それでは、記念すべき第一試合の選手を紹介いたします。魔法学の大家、ランプローグ伯爵家の神童――――セイカ・ランプローグ!!』

歓声の中、ぼくは闘技場のステージに上がる。

そう。ぼくの初戦はなんと大会第一試合目となってしまったのだ。運がいいやら悪いやら。

『帝立ロドネア魔法学園の推薦枠からの参戦、さっそく魔術師の登場となりました! 過去には弱冠十一歳にしてエルダーニュートを討伐。学園の入試でも三位の成績を修めております! 剣も杖も使わない異色の選手ですが、いったいどのような戦いを見せてくれるのか!!』

ぼくは観客席を見回す。

闘技場を楕円形に取り囲み、天高く階段状に設置された観客席には、ものすごい数の人があふれていた。

イーファとアミュも来ているはずだけど、さすがにここからじゃ見えないな。

『そして対戦相手となるのは――――ガルズ傭兵団からの参戦です! 神速の狂犬、デニス・リーガン!!』

ぼくの反対側からステージに上ってきたのは、十八、九歳くらいの細身の男だった。

革鎧に、腰帯で剣を吊っている。左腕には丸い盾。どうやら剣士のようだ。

ついでに言うと目つきが悪い。

『こちらは純粋な剣士! それも、ガルズ傭兵団の中では随一の使い手です! 特にその速さは、 暗殺者(アサシン) 職の冒険者にも引けを取らないほど! 素行不良によりリーガン子爵家から追放された過去を持つ元貴族ですが、未だ家名を名乗っているのは実家への嫌がらせなのかぁ!?』

「よお。お坊ちゃま」

デニスとか言う剣士が話しかけてくる。

「オレも運が良いぜ。初戦から貴族のガキをぶちのめせるなんてな。ああ、何も言わなくていい。お前の思っているとおり、ただの逆恨みだからよ」

『魔術師対剣士、この大会を象徴するかのようなカードです! どのような試合展開となるのでしょうか!』

「魔術師相手は簡単でいい。あいつらは前衛がいないと何もできない。ちんたら呪文を唱えている間に、オレなら十回は斬り殺せる」

「……」

「今日はわざわざ刃引きした剣を持ってきてやったんだ。その女顔、ちったぁ男前にして帰してやるよ。死ななければな」

「……体調が」

「あ?」

「体調が、実はあまりよくないんだ。少し頭が痛くてね」

「……なんだぁ? もう負けた時の言い訳か?」

「違うよ」

ぼくは告げる。

「だから、さっさと終わらせるってこと」

デニスが舌打ちと共に、無言で直剣を引き抜く。

『それでは、一回戦第一試合目――――開始です!』

そして、試合開始の笛が響き渡った。

「死ねやぁっ!」

デニスが地を蹴った。

自信があるだけあって、速い。

ぼくとの距離が瞬く間に縮まっていく。

刹那、剣が引き絞られ。

最も出の速い攻撃、刺突が、ぼくの胸へと放たれた。

正確な一撃。

だが剣先が捉えたのは――――ぼくではなく、一枚のヒトガタだった。

「なっ!?」

デニスの背後へと転移したぼくは、その背にヒトガタを貼り付ける。

「さよなら」

《陽の相―――― 発勁(はっけい) の術》

デニスが弾け飛んだ。

まっすぐすっ飛んでいった身体は、耐属性魔法陣の描かれた流れ弾防止の立て板をぶち破って、そこで止まる。

そのままピクリとも動かない。

『け……決着――――ッ!! デニス選手場外! 勝者、セイカ・ランプローグ選手です!! な、何が起こったのでしょうか? デニス選手の突きを目にも止まらぬ動きで躱したかと思えば、次の瞬間には吹き飛ばしていました! なんらかの魔法でしょうが……』

救護班がデニスに駆け寄っている。

あの分なら死ぬことはないだろう。

それにしても……。

やっぱりというか、陰陽術に護符は発動しないようだ。気をつけないと殺しかねないな。《発勁》は対象に運動エネルギーを付加するだけの術だが、護符で弱められる前提で使ったせいで思った以上に威力が出てしまった。

まあ向こうも寸止めする気なんてなかったようだし、別にいいけど。

歓声の中、ぼくはステージを降りて裏手へと戻っていく。

「セイカさま。どの程度勝ち進むおつもりですか?」

「うーん……」

ユキへの返答に迷う。

負けたら試合に干渉できなくなるから、ある程度は勝ち残るつもりだけど……。

「……そのうち決めるかな」

「お 戯(たわむ) れもよろしいですが、こんな場でもあまり目立たない方がいいと、ユキは愚考します。最近、セイカさまは脇が甘くなっているようでございますし」

「わかってるわかってる」

実はこの世界にもかなり多様な魔法があることがわかってきたので、多少陰陽術を見せたくらいでは変にも思われないかな……と考え始めているフシが、正直ある。

だって実際、『妙な魔法を使っている。さてはこいつ、異世界から転生してきたな?』なんて思う奴がいたら、そっちの方がおかしい。

だから、強すぎない分には問題ないと思うんだけど……まあ、ユキの言うことももっともだ。

気をつけるか。

「それと……」

ユキが少しためらいがちに言う。

「いくらセイカさまと言えど、一度に式を使いすぎでは? ユキは心配です」

「いや、これは必要なんだ」

むしろ、大会よりも大事なことだった。