作品タイトル不明
アロンダイト騎士団総隊長『紅蓮』のイフリータ①
「……ぅ」
「エミネムさん!!」
エミネムに解毒剤を飲ませると、悪かった顔色が多少良くなり、浮き上がっていた血管も消えた。
サティが心配そうに顔をのぞき込むと、エミネムは小さくほほ笑む。
「私……どう、なったんですか?」
「引き分けです。最後、エミネムさんの一撃が、あの毒の人を吹き飛ばしたんです!!」
「引き分け……」
「大したもんだ」
ラスは、エミネムを抱き起して頭を撫でる。
「ふぁ!?」
「お疲れさん。救護室で怪我の手当てをして、ゆっくり休め」
「あああ、あの、あのあの、はい!!」
顔を真っ赤にしたエミネム。
何を勘違いしたのか、ラスは熱があると思い込み、慌てて担架を呼ぶ。
エミネムは、熱に浮かされたように赤面しながら運ばれて行った。
ラスは首をかしげていると、サティが言う。
「エミネムさんはもう大丈夫。師匠……次は、あたしの番です!!」
「ああ。見ろ、すでに舞台に上がってる」
舞台に上がっていたのは、イフリータ……そして、ランスロット。
サティと一緒に、ラスもステージに上がった。
ランスロットは、にこやかな笑みを浮かべてサティに言う。
「お久しぶりです。サティ」
「……どうも」
「その後、どうですか? 上手くスキルを扱えるようになりましたか?」
「おかげさまで。師匠のおかげで、すっごく強くなれました!!」
「そうですか。では……戻って来なさい」
「は?」
戻って来なさい。
その意味を理解できないサティは、ぽかんと口を開けて首をひねる。
この言葉に驚いていたのは、イフリータも同じだった。
「お、お父様?」
「もう、誤爆して周りに被害を出すこともなくなったのでしょう? でしたら、あなたはまたヴァルファーレ公爵家に戻る資格があります。さぁ、サティ」
「あ、遠慮します」
「…………」
「あたしの家はギルハドレット領地、師匠の家です!!」
「おい言い方。それじゃお前が俺の娘みたいだろうが」
「あ、そうですね」
サティは、笑っていた。
イフリータはその笑いを見て、歯を食いしばる。
「相変わらず、ヘラヘラと……」
「イフリータ、久しぶり。元気にしてた?」
「黙れ。出来損ないが」
「相変わらず辛辣だね。仲間たちに激励したり、気遣ったりしてたのに……どうして、あたしにだけ当たりが強いの?」
「……何?」
「イフリータ、昔からだよね……あたしのこと、そんなに嫌い?」
「ああ、嫌いだ。フン……お父様、こんな問答は無駄です。サティは私が倒します。こいつが戻る場所なんて、騎士団にはありません!!」
「イフリータ、落ち着きなさい」
「……はい」
ランスロットは、ラスティスを見た。
「ラスティス。あなたの弟子のサティと、私の弟子のイフリータ。果たしてどちらが強いでしょうね」
「そりゃサティだろ」
「ふふ、迷いがありませんね。私の見たところ、サティ以外の騎士では、イフリータに勝つことはできないでしょう。つまり、この戦いが事実上、最終戦となる」
「ま、そうだな。神スキル持ちに勝てる一般騎士なんていないしな」
「では───残り五人の騎士は不戦敗ということにしても?」
「いやいや、なんでそうなる」
「構いません!!」
「お、おい」
「最終戦として盛り上げた方が、殿下も陛下も喜ぶでしょう……ラスティス、よろしいですか?」
「…………まぁ、いいぜ」
「では、私から殿下と陛下に報告を」
そう言い、ランスロットは報告───あっけなく、受理された。
巧みな話術。それも、ランスロットの武器の一つ。
いつの間にか、一対一で、最後の戦いが始まろうとしていた。
ラスは、サティの肩を叩く。
「気ぃ抜いて戦え。お前なら勝てるさ」
「はい!!」
そう言い、ラスは下がった。
ステージの上では、サティとイフリータが正面から睨み合う。
「フン、少しは強くなったのか? まぁ、私には決して勝てないという事実を、その身に叩きこんでやろう」
「できるならね。あたしだって、昔のままじゃないし。イフリータ、そうやって高圧的に人を脅すクセ、直した方がいいよ?」
「……言うようになったな、無能が」
「無能じゃない。人は変われるんだから!!」
距離を取り、互いに剣を抜く。
サティは双剣。イフリータは大剣だ。
ラスは気楽に見守り、ランスロットは穏やかに見守る。
「それでは───初め!!」
闘技大会、最後の試合が始まった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
観客席では、ボーマンダの隣にフルーレが座り、その隣にアナスタシア、ラストワン、ロシエルが座っていた。
その上には、ディスガイア王とアーサー殿下が座り、試合を楽しそうに観戦している。
フルーレは、小声で言った。
「残り五人の騎士を不戦敗にする……何を考えているのかしら」
「…………」
「確かに、イフリータが勝っても残り五人の騎士が控えているわ。団長、あなたが鍛えたと言っても、神スキル持ち相手にするにはかなり厳しい……実質、この戦いが最終戦なのは間違いない。でも、盛り上がるという理由だけで、五人の騎士を不戦敗にするなんて」
五人の騎士は、不戦敗を言い渡された時に困惑していた。
この日のために、戦う努力をしてきたのだろう。それが無になったのだ。
フルーレは言う。
「陛下、それともしかしたら殿下も……ランスロットの傀儡化している可能性を考えた方が、いいかもね」
「…………それについては、問題ない」
「え?」
「…………まあ、見ていろ」
「……?」
どこか重い雰囲気で、ボーマンダは試合を見ていた。
何を考えているのか。
その答えを持つのは───。
「ラスティス・ギルハドレット……」
もしかしたら、あの男なのかもしれない。