作品タイトル不明
アザトースとは
「チッ……役立たずめ」
魔界。
魔王アザトースの住む『魔界都市ヨグソトス』にある魔王城の玉座に、一人の青年が座っていた。
白い髪、青い瞳、白い礼服、白いマント。
玉座の隣には『長刀』が立てかけてあり、その美しい黄金の拵えは輝いてみた。
だが、魔王アザトースは不機嫌だった。
玉座の前に跪づくのは、三人の魔族。
『海蛸』ポセイドン、『天翼』ラクタパクシャ、『地蛇』ミドガルズオルム。
三人は、跪いたまま何も言わない。
アザトースは、確認するように言った。
「カジャクトは敗北。後始末を任せたシンクレティコは殺された。そして、カジャクトは裏切り……実にバカげた話で、面白いな」
アザトースは不機嫌だったが、笑っていた。
七大魔将が二人も消えた。
「ビャッコ、シンクレティコ、カジャクト。そしてルプスレクス……魔族最強の七人が、もう四人も消えた。人間を侮り過ぎたのか……なあ、ラクタパクシャ」
「っ……はい」
「お前がラスティス・ギルハドレットと通じていることは知っている」
「っ!!」
いきなりの指摘に、ラクタパクシャは心臓が飛び出そうなほど驚いた。
「ああ、責めているわけじゃない。こちらの状況を伝える見返りに、ラスティス・ギルハドレットの様子も聞いているのだろう? その情報が余の元に来ないことだけが、不満だが」
「……も、申し訳ございません」
魔王アザトース。
ラクタパクシャは冷たい汗が止まらなかった。
魔王の息子。その存在は知っていたが、魔王に即位してから明らかに別人。
前魔王から受け継いだ『神華陽光』の太刀……あの輝きが、ラクタパクシャには焼かれるような熱を感じずにはいられない。
明らかに、七大魔将以上の力。
「まあいい。余もようやく、父の遺産が身体に馴染んだところだ。さて……お前たちが揃ったところで、見せたいものがある」
アザトースが指を鳴らすと、目の前に『緑色に輝くツノ』が現れた。
鹿の角のような、だが色が緑で輝いている。
「これはシンクレティコが残したツノだ。これに、奴が死ぬ間際、全ての情報が詰まっている……どうやら死を予期したシンクレティコが残したモノだろう」
「───……シンクレティコ」
ミドガルズオルムがそっと顔を伏せる。
ポセイドンは鼻をすすり、ラクタパクシャも黙とうする。
そして、アザトースはツノを掴み、へし折った。
ツノが粒子となり、アザトースたちに降りかかる。
そして、脳内に再生される、リアルな映像。
◇◇◇◇◇◇
「開け──『 万象眼(カトブレパス) 』」
「神眼臨解──来たれ……『 万象神眼(アザトース) 』」
◇◇◇◇◇◇
アザトースたちは見た。
ラスティス・ギルハドレットの神器、臨解。そしてその一撃。
ラクタパクシャは映像が途切れると真っ青になり倒れかけた。
それは、ポセイドンとミドガルズオルムも同じ。
「に、人間が……あれほどまでの力を」
「……はっはっは、ま、魔族以上じゃな」
ミドガルズオルムは戦慄し、ポセイドンは汗だくで震える。
明らかに、ラスティス・ギルハドレットは格上だと認識させられた。
そして、アザトースは。
「───ははは」
笑った。
ラクタパクシャたちが見ると、アザトースは笑っていた。
「ははは、ははははは……はっはっは!! ラスティス・ギルハドレット!! 奴が…… 魔王の片割れ(・・・・・・) であるアザトース(・・・・・・・・) を使役するだと(・・・・・・・) !?」
アザトースは、狂ったように笑う。
アザトース。その名は、ラスティス・ギルハドレットの『神眼』に宿るバケモノと同じ。
アザトースは笑い、傍に立てかけてある『神華陽光』を手に取り抜いた。
「この名を冠する余が欲した力を!! 人間が!! 使うというのか!! おのれ!!」
剣を振った瞬間、黄金の斬撃が飛ぶ。
咄嗟に、ラクタパクシャ、ポセイドン、ミドガルズオルムが障壁を展開するが、三人がかりでも斬撃を相殺するのがやっとだった。
「お、落ち着いてください、魔王様!!」
「はぁ、はぁ、はぁ……ははは、ははははは!! これも運命、宿命なのか。父上……そして、ルプスレクス」
アザトースが止まり、刀を鞘に納め、玉座にどっかり座る。
そして、ラクタパクシャたちに言う。
「……すまなかった」
「「「…………」」」
「ふぅ───さて、今後のことを話そう」
アザトースは呼吸を整え、きっぱりと断言した。
「ラスティス・ギルハドレットは余が殺す。それと……七大魔将を追加で補充するか。ちょうどいいのが四人いる」
アザトースが指を鳴らすと、跪いていたラクタパクシャたちの傍に、四人現れた。
全く気配がなかった。ラクタパクシャは驚きつつ平然と聞く。
「こちらの者たちは……」
「父が、ルプスレクス討伐のために育てた秘蔵の魔族だ。それぞれ『絶狼』、『礫龍』、『凍虎』、『森鹿』だ」
若い、四人の魔族だった。
だが───……ラクタパクシャは感じた。それぞれがカジャクトに匹敵するほどの魔力を持ち、強大な戦闘力を有していると。
「ポセイドン、ミドガルズオルム、ラクタパクシャ。お前たちにも力を授ける……この力を飼いならせば、カジャクト以上の力を得ることができるだろう」
「「「!!」」」
アザトースが右手を強く握りしめると血が出る。
その血が宝石のような結晶となり、ラクタパクシャたちの元へ。
そして、心臓付近にある『核』に吸い込まれた瞬間、激痛が走った。
「ぐ、ぁぁぁぁぁ!!」
「ぬぉぉぉぉぉ!?」
「う、っく……!?」
「耐えろ。馴染ませろ。そうすれば、お前たちは新たな『力』を得る。余も……さらに磨きを掛けねばならないようだ」
アザトースは自分の胸に手を添え、ニヤリと笑う。
「ラスティス・ギルハドレット。貴様の『アザトース』と、余の『アザトース』……どちらが真なる『神』なのか、はっきりさせようではないか」