軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

代償

ぬるま湯に浸かっているいるような感覚。

目を開けると、俺は真っ白な空間にいた。

身体を起こすと……目の前に狼がお座りしている。

「よう、ルプスレクス」

『……ラスティス。きみ、だから使わなかったんだね』

起きるなり、ルプスレクスは言う。

俺は苦笑し、空を見上げた。

空には、巨大な『時計』がゆっくりと時を刻んでいる。

ルプスレクスも、空を見上げた。

『……最初は気付かなかった。この空、いや、この世界そのものが……バケモノの力だなんてね』

「……ははは」

『アザトース。その名前……今の魔王と同じ名前だ。いや、魔王がアザトースの名を借りたと考えるのが普通かな?』

「…………」

すると、上空にある時計の針が動いた。

同時に、俺の胸に走る激しい痛み。俺は胸を押さえ、歯を食いしばる。

『……ラスティス』

「ぐっ……あぁ、ちくしょう、いてぇ」

『……代償だね』

ルプスレクスが悲し気に言う。

すると、俺の正面に時計が浮かび、針が数メモリ動いた。

そして時計が消える。

「これが、代償……俺は『アザトース』を呼び、能力を使うと寿命を削られる。これまで、初顕現で一回、今ので二回使った。どれだけ寿命減ったかな……」

『……だから使わないんだ』

「ああ。カトブレパスは使っても寿命は削られないが……使うとアザトースの声が聞こえるんだ。オレを使え、呼べって声がな……今回は怒りに任せて使っちまった」

『……ラスティス。カジャクトとの戦いで疲弊した状態でシンクレティコと戦ったんだ。ボクの力を一時的に使えなかった……ごめん』

「なんでお前が謝るんだよ。とにかく、失った寿命は戻らない。恐らく俺は……もう長くない」

『…………』

さて、もう話すことはない。

俺は空を見上げて言う。

「アザトース。今回は使ったが……もうお前を使うことはねぇ。俺も死にたくないしな」

返事があるわけじゃない。

だが、俺は聞いたような気がした。

俺を嘲り笑うような、理解のできないアザトースの声を。

◇◇◇◇◇◇

目を覚ますと、俺はベッドの上にいた。

身体を起こし周囲を見渡す……ああ、ここは俺の部屋。

ギルハドレット領地、ハドの村にある俺の家だ。ベッド脇に『冥狼斬月』が立てかけてある。

刀からは声が聞こえる。

『やあ、おはよう』

「……おう。で、どうなった?」

『いきなりだね。まず……きみがシンクレティコを討伐した後、きみは倒れちゃったんだ。スレッドがきみを担いでハドの村まで戻り、そのまま二日経過したよ』

「…………」

『カジャクトも村にいる。戦いに負けた彼女はもう必要ないと判断されたんだろうね。滅龍四天王が殺され、純粋な『竜族』はもうカジャクトだけになった。恐らくだけど……魔界にある『滅龍』地区も、魔王に掌握されただろう。もう、戻ることもできないだろうね』

「……そうか」

『でも安心して。彼女、核の修復が終わったみたい。本気で魔王を殺すために力を貯めている……最高の仲間ができたじゃないか』

「そりゃありがたい。あいてて……ずっと寝てたから身体がバキバキだ」

ベッドから起き、臭かったので服を着替えた。

とりあえず風呂に行きたいが、まずはみんなのところへ行かないと。

一階に降りると、書類を抱えたギルガがいた。

「……起きたのか」

「見ての通りだ。悪いな、心配かけて」

「気にするな。それより、仕事が溜まっている。フローネもホッジも過労で死にそうだ。さっさと仕事を手伝え」

「マジ? あ、サティたちは」

「あの魔族……カジャクトだったか。奴が鍛えている」

「え、なんでそんなことに」

「お前の戦いは聞いた。滅龍四天王が殺され、魔王の指示で始末されかけたこともな。彼女は魔王を殺すと息巻いている」

「……だよなあ。なあ、仕事前に話だけさせてくれ」

「構わん。今、外でサティたちを鍛えている」

俺は屋敷の裏に行くと、サティ、エミネム、フルーレの四人がカジャクトを包囲、訓練で使う木剣ではなく、真剣で戦っていた。

そして、カジャクトが俺に気付くと構えを解く。同時に、サティたちも気付いた。

「師匠!! よかったぁ~……起きたんですね!!」

「ああ、心配かけた」

「ラスティス様……よかった」

「すまんな、エミネム」

「……ふん」

「フルーレ。お前も心配かけた」

俺は近づいてきた弟子たちの頭を撫でる……フルーレだけ躱したが。

そして、カジャクト。

「ラスティス。早速だけど、魔王アザトースを殺すわ。手を貸しなさい」

「すげぇ物騒ですげぇいきなりだな……」

「許さない。あのクソガキ……あたしがブチ殺して、内臓引きずり出して脳ミソぶち巻けて頭蓋骨踏み砕いてやる……ッ!!」

こ、こええ。

カジャクトの顔に青筋が浮かび、眼の色が変わる。

傷は完全に回復したようだ。だが、この怒りはいただけん。

「カジャクト。お前は、俺の仲間になる……ってことでいいんだな?」

「ええ。どうせ、あたしの領地も魔王のクソガキに没収されてるだろうしね。みんな死んだし……もう、帰る意味もない」

「……そうか」

滅龍四天王の死。

戦ったサティたちも顔を伏せる……あのまま死ななかったら、友達になれていただろうな。

俺は話題を変える。

「そういえば、ロシエルとスレッドは?」

「スレッドは『もう用は済んだ』っていなくなったわ。ロシエルは顛末を団長に報告しに行ったわ」

「……あれ、そういえば」

俺はカジャクトを見た。

カジャクトは「?」と首を傾げる。

そして、俺は背中が冷たくなりつつ、フルーレに聞いた。

「な、なあフルーレ……そういえばさ、カジャクトや滅龍四天王と戦った経緯とか、団長に報告すべきだったよな」

「今更ね」

「や、やばい……」

ロシエルは恐らく「ラスティスが『滅龍』カジャクトと滅龍四天王と戦闘になり勝利した」って報告するだろう。やべえ……エミネムとか思いっきり戦わせてるし、七大魔将と戦いましたなんて事後報告したらブチ切れそうな気がする!!

ま、まあいいか……ロシエルやフルーレも巻き込んで怒られるかな。

「よ、よし。とりあえず……風呂入ってメシにするか」

◇◇◇◇◇◇

こうして、七大魔将『滅龍』カジャクトとの戦いが終わった。

カジャクトはハドの村に住むことになった。復讐に燃え、魔王との戦いに備えるべくサティたちを鍛えると宣言、俺が忙しい時は訓練相手になってくれる。

俺は、アザトースの使用で寿命を失った。

このことはサティたちはもちろん、ギルガたちも知らない。

俺が神器と臨解を使ったことを察しつつも、俺が何も言わないから触れないでいる……こういう時の気遣いはかなりありがたい。

戦いが終わり、俺はギルハドレット領地の仕事に忙殺されていた。

カジャクトの居候、そして『緑鹿』シンクレティコの討伐で魔族側から何か動きがあると思ったが……カジャクトとの戦いから一か月が経過しても、何もなかった。

スレッドは戦い以来、一度も会うことはなかった。

きっと『本業』で忙しいんだろう。一度だけ手紙が来たが、内容は『ダチに手をかけた魔王は許せねぇ。戦う時は呼んでくれ』との内容……呼ぶのはいいが、連絡先知らんのでどうにもならないがな。

そして、サティたち。

フルーレはリュングベイル領地に戻った。師であり祖父のエドワド爺さんにもとで、神器と臨界をさらに使いこなすために修行をするそうだ。

エミネムとサティは、引き続きカジャクトと、そして俺との訓練でメキメキ強くなっている。正直……俺もけっこう力入れないと相手できないくらい、強くなった。

そんなある日のことだった。

俺宛に二通の手紙。

一通は王国からの登城命令。もう一つは……ランスロットから。

俺は執務室で手紙を読み、ギルガに言う。

「登城命令か……ギルガ、王都に行くことになった」

「団長からの呼び出しか?」

「ああ。団長と陛下……それと、ランスロットから」

「ランスロット? 珍しいな」

「ああ。正確には、サティ宛だ」

「……サティ?」

ランスロットの手紙───その内容は。

「ランスロットの娘イフリータ……彼女と本気の摸擬戦をしたいとさ」