軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17.お金の成る実

「あれ、知ってるんですね。つい最近、隣国から入ってきたばかりで王都で手に入りにくい菓子なのに。ちなみにチョコレートは発祥のメーダ国での名前で、ここエードルンド国にはショコラという名前で売り出されていますよ」

「あっ。えっと、その」

焦りすぎて頭が働かずに、目ばかりが宙を泳いだ。背中に変な汗がツーと落ちていく感覚が気持ち悪すぎて震えた。

我ながら不審すぎる態度に涙が出る。

「まぁいいや。このトレー、見た目より重いので、本と一緒にここへ置いてもいいかな」

問いかけて来たくせに、私が返答する前に勝手に東屋のテーブルに置いて、そのまま席に着いてしまった。

「あ、あなたね、むぐっ」

さすがに傍若無人がすぎると文句を言おうと開いた口へ、チョコレートもといショコラを詰め込まれた。

「………」

口の中に食べ物が入っている時に喋るなんて、無作法すぎてできない。

睨みつけながらも咀嚼していく。噛む度に、口の中でチョコレートが蕩けて甘い味が広がる。

「んんー! 美味しすぎるぅ」

頬を押さえて感激を口にした。

私の記憶にあるよりずっと滑らかでおいしい。舌の上で、ほどけるようだ。

「こちらもどうぞ」

勧められたのは、見たことのない白いチョコレ……ショコラだった。

「これも、ショコラなのね」

恐る恐る手を伸ばす。口に運ぶ間に、指先で溶けだすほど柔らかい。

「とっても甘いのね! 苦みが無いわ」

少し油っぽくはあるけど、ミルクやバターとは違う油脂の甘さが癖になる。これは沼る。

指で溶けて残った白いチョコレートも勿体なくて、つい舌を伸ばして舐めとる。

「ぷっ。そうしてると、普通の10歳の子供ですね」

ハッとして慌てて手を後ろへ隠した。

やばい。完全に、白いチョコレートのことしか頭になかったわ。顔が赤くなった。

「異国の言葉を読み書きできる癖に。ショコラがついた指を舐めて。こども……ぷくく」

一応は笑いをこらえようとしてくれているのかもしれない。

口元を押さえて、ぼそぼそと何か言っている。

馬鹿な真似をしてしまった。なにか言い訳を、と考えてはみたけどある訳がない。正直に白状することにした。

「……おいしすぎて、つい。無作法でごめんなさい」

「素直だ」

とうとう我慢がならないとばかりに口から手を離すと、腹を抱えてゲラゲラ笑いだした。

「謝ったのに」

おもわず唇を尖らせる。

非があるのは私の方だから仕方がないけど、やっぱりムカつくわー。くっ。

「はぁ、ごめんごめん。作法を忘れるほど気に入ってくれてなによりです。本の方も同じくらい気に入ってくれるといいんだけど。前のモノはイマイチだったみたいだからね」

差し出された本を受け取りながら、やっぱり聞かれていたのかと凹む。

失礼なことを言うつもりはなかったのだ。

「ごめんなさい。そもそも侍女に頼んだのは、あの文字で書かれた本というだけだったのだから、それ以上は気にしなくていいのよ」

ちゃんとメーダ語の本が届いただけでも奇跡に近いのだと理解している。言い訳する私に、彼は何も言わないまま、笑顔で新しく持ってきた本を確認するよう手で指し示した。

「拝見するわ」

その本は、前の辞書のきらびやかな装丁のものとはまるで違っていた。

表紙紙も本文に使っている紙と同じで、そこに無骨な文字でタイトルが書かれているだけの、どちらかというと個人の覚書のようなものだった。

「エードルンド語」

私の呟きに、彼は口を開くことはない。少し肩透かしを食らった気持ちにはなったけれど、せっかく届けてくれたのだし仕方がないと中身を確かめてみることにする。

「! ……これって」

その本は、出版されたものではなかった。どちらかといえば個人の手記に近い。

沢山の訂正に、注釈、そして手描きの図たち。

本気で薬学を修めるためにした努力が、そこに見えるようだ。

「それは、メーダに修行に行った薬師の遺品なんだ。君が辞書を受け取った時の様子を見てメーダ語で書かれていることが重要なんじゃないんだろうなと感じてね。これは原本で、借り物なんだ。君が求めている内容だと確認できたら写本を作って持ってくるよ」

彼の説明に、思わず目を見張る。

「すごい。なんで分かったの?」

それにもやっぱり答えはなくて、代わりににやりと笑うともう一冊、本を差し出した。

「こっちは、『或る美食家の放浪記』まぁ食道楽なオッサンの旅行記だな。少しだけれど乾燥パスタ工場の見学に行った時のことが書かれている。乾燥パスタ以外の記述に関しても興味あるでしょ?」

これも借りてきただけだから必要ならば写本を作ると言われて頷いた。

「ありがとう! どちらの本も、是非お願いするわ。それと」

「残念だけど、ショコラを定期的に届けるのは難しいな。これは、王都で一番人気のお店のものなんだ」

他のお店のショコラはちょっと味が落ちるんだよ、と残念そうに首を振っている。

実は、或る美食家さんと血が繋がっているんじゃないのと思ったけれど、口に出さずに、今は否定だけする。

「私はショコラじゃなくて、その前段階の、“実”が欲しいの」

ぐふふぐふぐふ。笑いが止まらぬ。せっかく新しく役に立ちそうな本が手に入るところだけれど。その前に良いこと思いついちゃった!

「は? なんだその気持ちの悪い笑いは」

すっごい失礼なことを言われた気がするけど、今は気にならないわ。だって彼は文字通りお金の成る木じゃないけどお金になる実を運んできてくれるのだもの!

分かってないわねと、指を一本立てて横に振る。

私(ちな死に戻る前の娼婦な私知識ね)に、すべて任せておけばいいのよ!

「大丈夫。ちゃんと噛ませてあげるわ、未来の大商人さん」