作品タイトル不明
第35話 なんちゃって恋人
「入江、私と付き合おうよ」
なんちゃってデートの帰り道。
俺は芹澤さんに2回目の唐突な告白を受けていた。
でも、昼休みに受けた告白とは……なんだか違う気がする。
俺の見つめる瞳はどこか不安げで、何かを祈るようで。
そんな芹澤さんの表情を見て、息がとまった。
だからだろうか。
「えと、つまり芹澤さんは……俺のことが好きなの?」
そんなバカみたいなことを聞いてしまった。
「……うん。私は、入江のことが好き……だよ? 多分、おそらく、きっと」
速攻、雲行きが怪しくなってきた……
「あの、大丈夫? 芹澤さん、ちゃんと好きっていう気持ちわかってる?」
「え、もしかして私、入江に恋愛について諭されてる?」
はい、諭されてます。
「だって、本当に俺のこと好きなのかめちゃくちゃ微妙な感じなんだもん」
「そんなこと……ないと思うよ?」
「そこは自信を持って欲しい」
「自信なんてないよ……私、人を好きになったことないし。でも、私は入江のことが気になってる。これだけは間違いない」
真剣なまなざし。
そう言い切った芹澤さんには一切の迷いがなかった。
ただ、この気持ちが親愛なのか恋なのかはまだ分からない。
きっと彼女の気持ちに名前がつくにはもう少し時間がかかるのだろう。
「……芹澤さんに気持ちはなんとなく分かった。でも、どうして今、付き合おうなんて言ったの?」
なおさら、今わからない状態で俺に告白してきた意味がわからない。
「……それは」
「急いで恋人を作らないといけなくなった事情があるとか……?」
「……だめ、言ったら絶対、入江に迷惑がかかる」
「好きなだけかけたらいいよ。大丈夫、事情さえ話してくれたら最後まで付き合うから」
目の前に困っている友達がいて、自分に助けを求めてる。なら自分にできることがあるのならそれに応えたい。
「…………実は、パパから見合いを勧められてて」
「お見合い……?」
お見合いって、あのお見合いだよな? 結婚を希望する男女が紹介によって出会い、結婚相手かどうか見極める的なやつだよな?
「え、芹澤さん、学生だよね?」
「そうだけど……私の家は太いから、そういうのはある」
そうなんだ。なんか、ドラマやアニメみたいな話だ……
「相手が結構ぐいぐい言ってきてるらしくて……多分お見合いは形だけで話自体は婚約まで進むんじゃないかな」
「そ、そうなんだ……」
スケールの違いにそんな月並みのことしか言えない。
「私は、まだちゃんと好きっていう気持ちがわかってない。だけど、もしこのままお見合いを受けてしまうと大切な何かを失くしちゃって、一生後悔してしまうような気がする」
芹澤さんが守りたいものは、自分でも言葉にできないような不透明なもの。
だけど、彼女にとってはとても大切なものだ。
……なるほど。芹澤さんの気持ちは充分に伝わった。
こうなったら、芹澤さんのお父さんには彼女の想いをわかってもらうしかないだろう。
なら、俺がやるべきことは二人がきちんと話し合えるようにー
「それじゃ、事情は説明したことだし、私の恋人役お願い」
へ?
「あ、カフェで撮った写真。家族メッセージで送ったから」
え、え、え。
芹澤さんが見せてきたスマホの画面には『彼氏とデート♡』と書かれたメッセージともに店員さんに撮ってもらった二人でハートを作った写真が貼られていた。
あ、もう既読ついてる。早いなぁ。
パパ『入江くんだったかな? 今度家に連れて来なさい。彼とはじっくりと話をしなければならないようだ』
終わった。
「あ、入江。ママも入江に会いたいって。うーん、これは今夜、芹澤家の家族会議あるかも」
「ちょ、ちょっと待って!? ど、どういうこと!? 俺、芹澤さんの彼氏になるの!? しかもご両親にも挨拶しに行くの!? さ、流石にそれは……!!」
「え、だっていくらでも迷惑かけて良いって、事情さえ説明したら最後まで付き合うって言ってくれたよね?」
「そんなこと……」
言ったね。ついさっき。
額に汗が滲んでくる。
「で、でもそんなのでお父さんがお見合いを断るの!?」
「うん。断ったって」
「まじかよ……」
「パパ、私にゲロ甘だから」
「ゲロ甘なのか……それじゃあ、最初から彼氏いるって嘘だけをついたらよかったんじゃ……」
「ダメ、パパは私の嘘は絶対気づく。でも、今回は私が入江のこと気になってるのは本当だから絶対にパパは信じる」
なぜかドヤ顔をする芹澤さん。
「ということで、私のなんちゃって恋人、よろしくね。文学」
クスっと笑うどこか楽しそうな芹澤さん。
……もう後戻りは出来ない。やるしかない……んだな。
「……まさか、このなんちゃってシリーズが続くなんて思ってなかったよ。これからよろしく……美鈴さん」
「その引き攣った笑顔、いいね」
二人で笑い合いながら、グータッチをする。
「とりあえず、この関係は夏休みの終わりまでは続けてもらうね」
……まぁ、すぐ別れたら怪しまれるか。
「あと、最後に一つだけ」
芹澤さんは俺のネクタイに手を伸ばし、少し強めに締め直しながら俺の顔を見て言った。
「浮気したら、絶対にコロすから」
「……はは、あの……比喩表現だよね? 言葉の綾的な」
「……さぁ?」