軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

離婚前提

早いもので舞踏会から二週間が経った。

あの後どうなったかというと、侯爵家のご令嬢の一人は三ヶ月ほど自宅謹慎を命じられ、アルバート様に怪我をさせたもう一人は半年の自宅謹慎を命じられた。

軽い沙汰で済んだのには理由がある。

彼女たちが手に持っていたシャンパンはダツラという、普通は公式な舞踏会で出されることはないお酒だったのだそうだ。

ある薬草から作られるそのお酒は、普通のお酒より感情的、興奮状態になりやすいらしい。お酒を飲み慣れていない人は醜態を晒すことが普通なのだとか……。私が飲んでいたら終わっていた。

何故王城でそんなものが出されていたのかは調査中だけれど、王城の管理不行きであることは間違いない。

またアルバート様の怪我が思ったより軽かったこと、私もアルバート様も厳罰は求めていないこともあり、双方の侯爵家からかなりの金額の謝罪金が払われることでこの騒動は幕を引いた。

あとは王家の方からも、調査が済み次第謝罪やら何やらがあるのだそうだ。

そして……なぜか、関与していないルラヴィ様もなぜか一週間ほど謹慎となった。なぜに。

アッシュフィールド公爵は当然猛抗議したようだけれど、ルラヴィ様が見せた態度も侯爵令嬢たちが私に悪感情を持つ要因の一つだったといわれ、謹慎を受け入れたそうだ。

疑問が残る事件ではあったけれど、最終的に重すぎる罰を受ける人がいなくて良かったとホッとする。元はと言えば私が挑発したのが原因なのでね…。

アルバート様の傷も良くなってきた。お医者さまの見立てでは傷痕も残らないそうで、それが一番何よりだと思う。

というわけで、ようやく色々が終わった私はアルバート様の感受性を取り戻すべく奮闘していた。

マフィンを始めとするお菓子作りはあれからも数回したけれど、どれも私が楽しんだだけで終わっているので、今は食事の次に大事な睡眠とリラックスの方面から責めている。

のだけれど。

「旦那様。これは超適温、熱めのホットタオルです。目に当てればほら……! どうです? どうともない……」

「ならばこれはどうでしょう! ゴドウィン直伝の象も眠りそうなヘッドマッサージで……なっ、真顔……!?」

「ではこの温かいひだまりの場所で、ソファに横たわって厚手のブランケットをかけられるのはいかがでしょう。その状態でこの難しい数学の本を読んでください。…………うわ、普通に読んでる……」

……とまあ、こんな感じで惨敗してる。

私だったらどれもこれも秒で眠りに落ちるというのに、アルバート様ったら間違ってAIか何かに進化を遂げちゃったのかなと不安になってしまうほどだ。

私は自室で一人ソファに座り、次はどうしようかと悩んでいた。

「うーん、綺麗なもの眺め? いや、毎日自分の顔見てても何ともないし……。良い匂い責め? 香水やお香は好き嫌いあるし……カレー粉があるなら部屋でカレー作れたんだけどなあ。一度食育に立ち戻って野菜でも作る……?」

……すごく楽しそう!

考えたら俄然やる気になってきた。庭園の一角を畑にし、自分で鍬を持ち畑を耕すのだ。アルバート様の運動にもなるし、私にとっては農業の勉強にもなる。なんといってもアルバート様が普通の感覚を取り戻したらこの結婚は解消するのだ。どんなことだって勉強して、何かに役立てないと!

そう。感覚を取り戻したら、私は彼と離婚するつもりだった。

だって普通の感性の持ち主だったら、どう考えても楚々と笑う奥ゆかしい美女を妻にしたいと考えるだろう。

王城の舞踏会にはそういう女性たちはたくさんいた。清純派から妖艶派、才媛から芸術家まで多種多様な美女たちが。

今のアルバート様に彼女たちの魅力は分からないかもしれないけれど、感受性を取り戻した暁には「女性とはこんなに素敵な生き物だったのか……!」と開眼するに違いない。

そうなったら、きっとあっという間に好きな女性が見つかるだろう。

その時に私がいたら……まあ全力で祝福して良い笑顔で離婚するけど、もしも略奪愛なんて噂されたら相手の女性が可哀想だもの。

ちょっと寂しいけれど、私の方も白い結婚を主張して未婚同然で家に戻り、一途でちょっと不器用な好青年と大恋愛の末に結婚する予定なので問題無し!

元々この結婚は公爵閣下が結んだ結婚ではあるけれど、元々閣下は『息子にも運命の人と結ばれてほしい』と願っていたのだ。問題ないどころか全方位が万々歳な、この上ないハッピーエンドになると思う。

そのためには、やっぱり早くアルバート様の情緒を取り戻さないと……!

気合を入れ直して家庭菜園計画を練ろうとすると、ドアがコンコンとノックされる。どうぞと促すとパメラが静かに入ってきて、思わぬ来客の名前を告げた。

「お久しぶりです、ルラヴィ様」

「……お久しぶりです、ヴィオラ様。急な訪問で申し訳ありません」

「いいえ、大丈夫ですが」

どうしたのだろうか。ルラヴィ様の瞳にはいつもの敵意はなく、ただただ気まずいような微妙な表情をなさっている。

「あの、本日旦那様は朝から王城に行ってまして……」

「知っていますわ。先ほど王城で会いました」

「そうなんですか?」

では、どうして私に会いにきたのだろう。首を傾げると、ルラヴィ様は少し覚悟を決めたような顔をして「今日はあなたに、謝罪をしに参りました」と言った。

「……私の友人が、あなたに酷いことを申し上げ、手を挙げようとしたこと。本当に申し訳ありません」

そう言って頭を下げるルラヴィ様に、私は仰天してしどろもどろに「え、いやそんな、ルラヴィ様が謝ることでは……」と言った。

「いいえ。友人がしたことは許されませんが、一番悪いのは私ですわ」

「えっと……」

「今日はその謝罪と。それから、重ねて今までの非礼をお詫び致します」