軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ブートキャンプ

宿で一夜を明かし、予定を確認するために早朝から全員で俺の部屋に集まった。今日は森に入れなくなってしまったため、何もすることが無い。

買い物だけでは時間が余るので、各々の希望を確認することにしたのだ。

「ねえ、アタシちょっと心配なことがあるんだけど……」

クレアが申し訳なさそうに手を挙げて言う。

「どうした?」

「みんなアタシより明らかに強いじゃない? 足を引っ張らないかしら」

俺たちは特殊な身体強化で戦っている。クレアはまだ使えないから戦闘面ではかなり不安が残るな。

とは言え身体強化強制ギプスを使うのはまだ早いだろうし……。

「クレアちゃんにもアレ使う?」

「いや、まだ早いだろう」いろんな意味で。

リーズは アレ(身体強化強制ギプス) を使わせたい様子だが、瞑想状態を維持できないと効果が薄いと思う。

というか……それよりも使った後の始末をどうしたらいいかわからない。いっそのこと、発案者のリーズに任せてしまおうか……。

「アレって何よ? まだ何かあるわけ?」

「いや、なんでもない。時期が来たら特殊な訓練が待っていると思ってくれ……」

クレアは顔を青くして固まった。いったいどんな想像をしたんだろうか。きっとその想像よりも 酷(エロ) いことになるぞ……。

ルナの時はあまり問題なかったが、リーズの時は 酷(エロ) いことになった。次の日のリーズは、さぞ恥ずかしかっただろう。

「あの……王城の兵士さんにお願いすればいいんじゃないですか?

コーさんと仲が良い兵士さん、居ましたよね?」

「ギルバートか。久しぶりだなあ。あいつらならちょうどいいかも知れない」

「え? 王城……? もしかして兵士と模擬戦をするつもり?」

「許可が下りるかはわからないが、訓練に参加しようと思う」

「はぁ!? やだ! アタシやだからね!? アタシは普通の女の子だから! 兵士の訓練なんて行かないからね!」

必死で首を振るクレア。兵士の訓練なんて安全なものだろうに。魔物との実戦とは違って命の危険は無いんだ。

「クレアがどう思っているかは知らないが、そんなに危険なものではないぞ。死にはしない」

怪我はするけどね。すぐに治せるから問題ない。

「コーさん……私もそこまでのことは言っていませんよ……?

アドバイスがいただけるのでは、と思っただけです」

ギルバートからのアドバイス? いらんだろ。アイツはろくなことを言わないんだから。今のところ、アイツに注意されたことはほぼ全部現実になっている。縁起が悪いからアイツからのアドバイスはもらいたくない。

「どうせなら訓練を受けた方がいいぞ。1日程度で上達するものではないけど、いい経験になる」

「あたしやってみたーい!」

「どうだ? リーズもそう言っているぞ」

リーズはどう見てもやる気満々で尻尾を振っている。まあ、リーズなら問題ないな。グラッド教官に相手をしてもらってもいいくらいだ。

「無理ぃ! アタシはあんたたちと違って普通の人なのぉ!」

確かにクレアのレベルだと厳しいかもしれない。でも、格上と訓練しないと上達しないからなあ。

「どうしてそんなに嫌がるんだ?」

「あり得ない人たちが、あり得ない訓練をしてるって有名なのよ。 冒険者ギルドでも参加したがる人なんて居ないわ!」

必死の形相で訴えるクレアと「うんうん」と頷くルナ。そして首をひねる俺。

うーん、ギルドの訓練場の光景と大差無いと思うんだけど……。早朝訓練のこと? あれは慣れれば普通のハイキングだしなあ……。

“あり得ない”の理由がわからないぞ。

「そんなのただの噂だ。いい人ばかりだから、優しく相手をしてもらえる」

優しく殴られる。たぶん痛いけどすぐに治るから愛情たっぷりということだ。

俺は殴られたことは無いけどね。おっさんに優しく殴られる趣味は無いから、全部避けた。

「本当に……? 信じるわよ?」

涙目になっているクレアの横に、困った顔のルナがいる。どうしたんだろう。俺なりの親切のつもりだったんだけどなあ。

「クレアさん……頑張ってください……」

ルナが頭を横に振りながら、 他人事(ひとごと) のように言うが……。

「何を言っているんだ? やるなら全員で参加するつもりだぞ?」

「え……?」

ルナが困った顔から絶望した顔に変わった。何故だ……。実戦経験が積めてアドバイスが貰える最高の訓練なのに。

ポーション作成の道具は帰りに買おう。先に王城へ行って、参加の打診だ。

王城の門に着いた。久しぶりの王城だが、以前と何も変わらない普通の王城だ。

壁走りができるのは俺だけだから、今日は素直に屋根を走った。でも馬車移動よりも圧倒的に速い。みんなも屋根の上を走ればいいのに……。いや、みんなが屋根の上を走ったら屋根の上が渋滞するな。

「はぁ…はぁ……ちょっと……あんな…はぁ…ところを…はぁ…走るなんて……聞いてないわよ!」

クレアが息を切らしながら言っている。強化魔法を断ったのはクレアなのだから我慢してほしい。

「楽しかったー!」

苦しそうなクレアの横で、リーズが楽しそうにはしゃいでいる。これは壁走りも教えてあげようかな。

「あの……あんな所を走ったら、下に住んでいる方に怒られませんか?」

俺も最初は気にしたんだけど、誰にも怒られなかったから問題ないと判断した。これからも俺の道路は屋根と壁だ。

「文句を言われたことは無いぞ。大丈夫だ」

ルナは「うーん……」と首をかしげているが、怒られてから考えればいいさ。

「よう! 久しぶりだな! 元気そうじゃないか。ハハハ」

クレアの回復待ちをしていると、王城の門の奥から陽気な声が聞こえてきた。ギルバートだ。いつものクソ重い鎧を着込んで爽やかなスマイルを浮かべている。

「よう。久しぶりだな。散歩か?」

「違うわ! どこの国に鎧を装備して散歩する奴が居るんだよ」

「お前ならやりそうだろう? バカだから」

「誰がバカだよ。どうした? 今日は何の用だ?」

「昼の戦闘訓練あるだろ? あれに参加したいと思うんだが、何かいい手はないか?」

ギルバートとのやり取りも久しぶりだ。いつもの調子のギルバートに少し安心する。

兵士の訓練は兵士のためのものだ。一般人が簡単に参加できるとは思えない。裏口的な方法があれば助かるのだが……。

「なんだ、体験入隊の希望か? いつでも受け付けているぞ。何故か人気が無いがな」

「マジか! そんなことやってたのかよ」

地球では割といろんな国でやっているんだけど、まさかこの国でもやっているとは……。

「あまりにも人気が無いから、当日の受付でも参加できるぞ。やったな!」

とても都合がいい展開なのだが、逆に不安になる。体験入隊がどうしようもないクソつまらないものだった、なんてことは無いよな?

「人気がないってのが心配だ。体験入隊は何をするんだ?」

「敬礼と行進の訓練を少しだけやって、あとは戦闘訓練だ。かなりみっちりとやるぞ。あまりにも人気が無いから、サービス向上のために隊員が全力で訓練してくれる」

「逆効果よ……」

クレアがぼそっと呟くが……。

いや、いいじゃないか。素晴らしい。なぜ人気が出ないんだ……。最高のサービスじゃないか。

冒険者は冒険者ギルドに併設された訓練場を使って自由に訓練できるそうだが、身内だけで訓練するには限界がある。こういうサービスは積極的に利用するべきだと思うんだけどなあ。

「ありがたい。全員登録で頼む」

「わかった。兵舎で確認してくるから、しばらく待っていてくれ」

ギルバートは重い鎧を物ともせず、颯爽と走り去った。

「クレアさん……まだ……まだ望みはあります。

グラッド隊でさえなければ、重傷で済みますから……」

「重傷って何よ!」

「瀕死ではないということだな。どちらにしても死んでいないなら問題ない」

グラッド教官から学んだ兵士の心得は『生きていれば死んでいないから問題ない』だ。この国の兵士は生きることに貪欲な人間なんだと感心したよ。

俺はあの隊でしか訓練していないから、できればグラッド隊がいいんだけどな。他の隊には知り合いの隊員が少ないんだ。

「本当に……大丈夫なのよね?」

「ああ、心配ない。重傷を負ってもすぐに治してもらえる」

「そういう問題じゃないの!」

「おう! 待たせたな! 許可が下りたぞ。昼の戦闘訓練に参加できる。

しかも! なんと担当教官はあのグラッド部隊長だ!」

「ええ……?」「はぁ?」

ルナとクレアが青い顔で同時に声を上げた。そんなに露骨に嫌がらなくてもいいじゃないか。グラッド教官がかわいそうだよ。

「コーが来ていると聞いてな、大喜びだったぞ。今日はグラッド部隊長のが担当の日じゃないのに、わざわざ交代してもらっていたよ」

「コーさんのせいじゃないですかぁ!」

涙目のルナが俺の服を掴みながら必死で訴える。

俺の……? うーん、ついやりすぎちゃうグラッド教官の方が悪いと思うんだけどなあ。

「さっそく行こう。ちょっと早いが、訓練場を空けてもらった。すぐに戦闘訓練ができるぞ! 大サービスだ!」

得意顔のギルバートと絶望顔のルナとクレアが対照的だ。リーズは……どこ行ったの?

「ちょっと待て、リーズが居ないんだが……」

全員があたりを見渡すと、ルナが何かを見つけたようだ。王城を囲う壁の上を指差している。

「あそこです……」

ルナが指差す方向を見ると、王城の壁の上を元気に走り回るリーズが居た。屋根走りが相当気に入ったのか、王城内の建物と壁の上を「はははは」と笑いながらぴょんぴょんと飛び移っている。

「リーーーズ!! いいから帰ってこい! すぐに! 今すぐ!」

首輪が欲しい……。切実な思いだ。まさか王城で走り回るとはね。その発想は無かったわ。

リーズはそのまま壁の上を走り、俺たちの近くで『スタッ』と飛び下りた。

「ただいま」

ただいま。じゃねえよ! と怒りたいんだが、満面の笑みで答えるリーズを何故か責められないんだよなあ。なんか、どうでも良くなる。

「楽しかったか……?」

「うん!」

「すまん、ギルバート。行こう……」

「コー、その娘は何者だよ?」

「うちのパーティメンバーだよ。悪かったな」

「さすが、コーのお仲間だ。何と言うか……コーの仲間にふさわしいと思うよ」

「それ、褒めてるのか?」

「褒め言葉だ、行こう。部隊長が待っている」

ギルバートとグラッド教官の計らいにより、すぐに訓練が受けられるようになったのは有り難い。

せっかくのチャンスだ。十分に訓練を受けさせてもらおう。