軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンジェルさん

ギルドを後にした俺たちは、宿で食事を済ませて俺の部屋に集合している。今日は話し合う議題があるわけではないのだが、時間が余ったのでなんとなく集まった。

「今日はお疲れ様。とりあえずリーズにこれだけ渡しておくよ」

そう言ってリーズに大銀貨2枚を渡す。今回の調査依頼はリーズの仕事だった。俺が受け取っても文句を言われないだろうが、せっかくの初報酬記念だ。渡しておいたほうがいい。

「これなに?」

「リーズの初依頼の報酬だよ。記念だから取っておけ」

「いいの?」

「ああ。初めての報酬だからな。好きなものを買えばいいよ」

「ありがとう!」

嬉しそうに尻尾を振りながら跳ね回るリーズを、ルナとクレアがニヤニヤと眺めている。微笑ましい光景だ。嬉しそうと言えば……。

「そういえばクレア。ギルドの会議室でなにかあったのか?」

「え? 何もないわよ?」

クレアは目を逸らしながら答えるが、クレアは俺たちの指導係を続けられることをなぜか喜んでいた。

俺たちはクレアのために何かをした覚えなどないんだよなあ。

「そうか? 何か嬉しそうにしていただろう」

「……喜んでなんていないわよ! 初めての指導係なんだから最後まで面倒見たいじゃない!」

顔を赤く染めて抗議するクレアだが……。どう見ても喜んでいただろうに。

「言い訳が苦しいよ?」

空気を読まない言動に定評があるリーズさん、核心を突く。

「そっそんなことないわよ! ……ただちょっと……1人の時より稼ぎが多いなって思っただけ……」

クレアは声を小さくしながら答える。

契約では総報酬額の1割がクレアの取り分で、薬草などの採取分は個人のものになる。4人で警戒しながら採取するのだから、1人の時よりも多くて当然だ。

「そうか。それなら納得だ。俺たちも助かっているから、お互い様だな」

「でしょ? アタシ役に立つよね!? 立ってるよね!?」

「ああ。クレアが居ないと何を採取したらいいのかわからない」

「そうでしょう? もっと頼ってくれてもいいのよ?」

クレアは満面の笑みを浮かべながら「フフン」と鼻を鳴らした。絵に描いたようなドヤ顔を見た気がする……。

「なあ、それなら何でソロで活動しているんだ? パーティを組めばいいじゃないか」

「薬草採取をメインにしている冒険者なんて少ないのよ……。みんな魔物討伐のついでに採取するくらいよ。

いたとしても、戦闘に不安がある人だから森の奥までなんて行けないわ」

実際にやってみて思ったのだが、討伐して素材を売ったほうが圧倒的に儲かる。薬草採取は人気の依頼だが、あくまでもついでに受ける程度なのだろう。

1日中採取ばかりやっているパーティは珍しいと思う。比較的安全で稼ぎは安定しているが、あまり儲からない。

「クレアも討伐と採取の両方をやればいいじゃないか。金を稼ぐなら魔物の素材を売ったほうが儲かるだろ?」

「もちろん討伐もやるわよ。でも、アタシは薬師になるつもりだから薬草採取のほうが重要なの」

冒険者は死ぬまで続ける職業ではない。“金が儲かる見習い”くらいの位置付けだ。ほぼ全ての冒険者は、引退後のことを考えて行動する。

そしてほとんどの冒険者は引退後に商売を始めるから、金を稼ぐことを主目的にしているパーティが多い。

クレアのように引退後職人になろうという人は案外少ない。技術職だから冒険者にならず職人の見習いになったほうが早いからな。

「でしたら、何故薬師さんの見習いにならなかったのですか?

クレアさんの家はお金に困っているわけではありませんよね?」

職人志望の若者が冒険者になる理由は、そのほとんどが金の問題だ。家に仕送りが必要だったり、借金があったりする。

でも、マリーさんの店はそれなりに繁盛しているようだった。店が散らかりすぎて客足が遠のいていたのだが、腕は確かだし魔道具ギルドが買い取りしているから売り上げには困らなかったはずだ。

「……アタシのパパは冒険者だったのよ。叔父さんもだけど。パパと同じことをしたかったの。

それに、現場で働く人の気持ちがわかったほうがいいでしょ? ポーションは冒険者が一番よく使うのよ」

髭おっさんの兄弟か。きっと大層な髭オヤジだったんだろうなあ……。つい遠い目をしてしまった。

クレアに向き直って質問をする。

「なるほどな。冒険者にこだわる気持ちはわかる。でもポーション作りの練習はできているのか?」

「……あまりできていないわね。作り方は知っているのよ? でも設備や道具が無いの。高くて買えないわ。

道具を一通り揃えるだけで金貨50枚よ? 材料も合わせたら金貨60枚は必要ね」

素材だけなら高くない。入れ物が高いんだ。ポーションの入れ物は不揃いなガラスの小瓶だが、これが高い。たぶん道具もガラス製と銅製なんだと思う。だとすれば金貨50枚も納得だ。

たぶんクレアの今日の買い取りと前回の報酬を合わせればギリ買える金額だと思うけど、冒険者としては薬師の道具は後回しにせざるを得ない。まだしばらく買えないだろうなあ。

「クレアちゃんもパーティに入ればいいんじゃないかな?

こんさんに買ってもらおうよ」

「はあ?」

おいおいおい、リーズが無茶なことを言い出したぞ。さすがに俺でも金貨60枚は……余裕で払えるな。さっきの報酬だけで解決だわ。

ポーションは質が良ければ1本大銀貨5枚で売っている。買い取りは、安くても大銀貨3枚は下らないだろう。200本作れば回収できるか? いや、材料費もあるから500本くらいだな。

冒険者の片手間で作ったとして、だいたい1年あれば回収できる……。クレアの腕が上がればもっと早いかも知れない。

リーズがここまで考えているとは思えないが、いい案だ。

「ちょっと待ちなさいよ! アタシもそこまでしてもらおうとは思っていないわよ!?

一緒にいれば収入が増えると思っただけ。自分で買うわよ」

「いえ、いい案だと思いますよ? コーさん、お願いできませんか?」

ルナもたぶん収益のこととかは考えていないと思う。なんか、職人を目指す相手に対してものすごく甘い気がするんだよな。リーズの時もそうだった。気に入った相手が職人を目指しているとめちゃくちゃ甘くなる。

「本当にいいってば。自分で買えるわ」

「うーん……クレア、ポーションは1日何本作れるんだ?」

「え? そうね……寝る前の時間を利用したとして、5、6本くらいかしらね」

「じゃあ、クレアが作ったポーションは売れるのか?」

「もちろんよ。どこのギルドに持って行っても売れるわ」

完全に文句なしだな。まだクレア作のポーションを見たわけではないが、売り先が確定していて生産量も思ったより多い。

「なるほどな。俺もいいと思うぞ。道具は共有財産として俺が金を出そう。

収益に関しては俺たちのルールに従ってもらう必要があるが、どうだ?」

しばらく考え込むクレア。

俺たちのルールは収益の全ては俺が受け取り、必要なものは全て俺が金を払うというもの。武器や防具が壊れたりしてもすぐに対処できるから、悪い話ではない。

「ねえ……本当にいいの? 金額は教えたわよね? 桁を間違えていないわよね?」

「金貨60枚だろ? わかっている」

「でも、それを受けとっちゃうとパーティから脱退できないじゃない」

俺たちのルールの最大のデメリットがこれだ。脱退時に揉めるから、原則脱退は無しだ。

「ずっと脱退しなければ大丈夫ですよ? 薬師になったとしても、ずっとパーティに入っていれば問題ありません。

戦闘に加わるだけがパーティではありませんから。街でポーションを作るメンバーが居てもいいと思います」

全くもってその通りだ。何故かこの国ではパーティ =(イコール) 一緒に戦う人みたいなイメージがあるようだが、生産するだけのメンバーが居てもいいじゃないか。むしろ収入が安定するぞ。

その場合、どこかに拠点を構える必要があるから少し面倒なんだけどね。高速移動できる魔道具を作れないかな……。

「本当にそれでいいの? アタシは嬉しいけど、コーは何も得しないじゃない?」

「余剰なポーションを売っていけば金貨60枚なんてすぐに取り返せるさ。損はしないよ」

むしろ俺には得しか無いわけだが。リスクは高いが確実な収入源になる。しかもずっとだ。

クレアにとってもメリットのほうが多いだろう。道具や材料、生活用品に至るまで全て俺が金を出し続けるわけだからな。

「わかった! 頑張って作るわ! これからもよろしくね!」

「フェアじゃないから確認しておくが、売上は俺が受け取るぞ。そのうえで必要なものは材料から生活用品まで全て俺が金を出す。

1人でやるよりも稼ぎが減るが、それでもいいのか?」

やろうとしていることは投資家と起業家みたいなイメージだ。でもこの世界にエンジェル投資家みたいな奇特な人種が居るとは思えないから、説明が難しい。

「そうね……。でもそれって、お金と材料の管理をやってくれるっていうことでしょ?

アタシ、お金の管理が苦手なのよ。やってくれるのなら逆に助かるわ」

そういえば店員に薦められるまま服を買っていたこともあったな……。どうやらクレアは、持っているとつい使ってしまうタイプみたいだ。

俺は責任重大だな。みんなの金を全て預かっている状態だ。俺が変なものに使い込んだら破綻してしまうぞ。気を付けないとな……。

「そうか。じゃあ、これからもよろしく頼むよ。欲しいものがある時はいつでも言ってくれ」

こうしてクレアが正式なメンバーとして加わることが決まった。

これから俺の都合に巻き込んでしまう可能性もあるから、いずれしっかりと話し合おうと思う。

異世界召喚のこととか、エルフのこととか。……もう半分以上知っているね。すでに巻き込んでいたよ。

エルフは、一部の魔道具職人の間では魔道具を作った伝説の存在くらいに思われているが、教会ではあまり良く思われていないらしい。

多くの人はエルフという存在を知らず、教会は存在を否定しようとしているみたいだ。だからエルフについて語るのはあまり良くない。宗教絡みで面倒なことになりそうだ。

「ありがとう。こちらこそよろしくね」

「よろしくお願いします」

「よろしくー」

あらためて挨拶を交わし、今日はもう寝ることにした。

しかし、明日からはしばらく森に入れないんだよなあ。俺が森に入れるのは調査という言い訳ができるからだ。連日森に入り浸って薬草を持って帰るようでは、さすがに怒られる。

さっそくポーション作成の道具でも買いに行くか……。