軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人探し8

追い詰めたと思った伯爵は偽物だった。これ以上この街に留まる理由はない。滞在費は高く、周りは犯罪者だらけ。滞在するだけでかなりのリスクだ。もう用はないのだから、アーヴィンを連れてさっさとエルミンスールに帰る。

エルミンスールの庭に転移すると、熊のダイキチがアーヴィンに飛びついてきた。アーヴィンは慣れた足取りで華麗に躱す。普段はダイキチの世話をアーヴィンに任せているため、ダイキチは俺よりもアーヴィンに懐いているのだろう。このままアーヴィンに世話を任せ、俺は宮殿の中に入る。

「おかえり。無事逮捕できた?」

宮殿に入るやいなや、クレアが話しかけてきた。

「いや、失敗した」

「え……? 逃げられたの?」

「そうじゃないんだ。めっちゃ偽物だった」

見事に騙された。名前、経歴、事業、すべてが嘘だ。

「なにそれ?」

「伯爵の名を騙っただけの詐欺師だったんだよ。無駄足だった」

「泥棒の名を騙る詐欺師ね……」

「まあ、そうだな」

身も蓋もない言い方だが、そういうことだ。おそらく、耳聡い商人なら伯爵が指名手配されたことを知っているはず。そういった優秀な商人をターゲットにした詐欺だ。まったく、あの街は油断も隙もあったもんじゃないな。

「それで、どうするんですか? まだ捜索を続けます?」

クレアに続き、ルナに話しかけてくる。

「いや、かなり赤字を被ったが、ここで捜索を打ち切る」

「では、明日から冒険者のお仕事に戻るんですね」

もともと、潜伏先に見当がついていたから受けた依頼だ。その当てが外れたのだから、これ以上継続する意味はない。深追いしても赤字が膨らむだけだ。

ふぅ、と一息ついたところで、何かが気になる。何か忘れているような……あっ! しまった! 黒い牙に顔を出すのを忘れていた! 偽伯爵の処理を引き継がなければならないのに。

「ごめん、仕事を1つ忘れてた。もう一回行ってくる」

偽伯爵への尋問やドンキーの金の回収を、黒い牙に依頼しなければならない。すっかり忘れていたよ。

急いでミルジアに戻り、黒い牙の拠点へ行った。堂々と中に入り、頭に話しかける。

「よう、ちょっといいか?」

「ああ、レイトンか。どうした?」

俺はこの街ではレイトンという名を使っている。便利な偽名だ。ミルジアで活動するときは今後も使っていこうと思う。

「悪いな。領主への取り次ぎは失敗した」

まずは結果報告から。これはお互いが狙っていたことだ。

「そうか……アンタでも難しい依頼だったか」

「いや、依頼自体は成功したんだ。領主邸に出入りしている人も紹介してもらえた」

「じゃあ、何が失敗だったんだ?」

頭は不思議そうに首を傾げて訊ねる。

「そいつが詐欺師だったんだよ。ドンキーも被害に遭っていた」

「な……」

頭は開いた口が塞がらない様子。驚いた、というより、呆れているのかな。

「そこでな、その詐欺師の後始末を黒い牙に頼みたい。ドンキーからの依頼だ」

「へ……? え……?」

頭は話が理解できないのか、間の抜けた声を出す。

「簡単に言うと、『ドンキーの金をどんな手を使ってでも取り返す』という依頼だ。詐欺師は捕縛済だから、そんなに難しいことじゃないだろう」

「いや、急展開すぎて話についていけない。もう一度詳しく説明してくれ」

というわけで、事の顛末を細かく説明する。都合が悪いことはうまくボカし、「偶然居合わせたアレンシアの行商人が、偽物であることを見抜いた」ということにした。

「すまん、理解した。しかし、アンタならもっとかんたんにできるんじゃないか? どうしてオレたちに依頼を?」

「金の取り立ては専門外だよ。それに、ちょっとした恩返しだよ。世話になったからな」

一度は敵対した仲ではあるものの、世話になったのは事実。こいつらの手引がなければ、偽伯爵に辿り着くためにもっと多くの経費が必要だっただろう。結果赤字だったのだから、経費が少なく済んだのはとっても助かる。

「わかった。それなら張り切ってやらせてもらう」

「俺はこの街から出る。あとは任せたぞ」

「そうか……世話になったな」

軽く挨拶を交わして建物を出ようとしたところで、見知った男たちに呼び止められた。

「おいおい、オレたちには挨拶ナシかよ」

アホの3人組だ。3人揃って苦笑いを浮かべながら、仁王立ちしている。

「ん? 居たのか」

「ああ。頭の計らいで、黒い牙に入れてもらったんだよ」

「へぇ……?」

犯罪者予備軍が犯罪者集団の仲間になったのか……いいことなのかな? 状況が悪化してるようにしか見えないけど。

「これで食いっぱぐれる心配がなくなった。後ろ盾がないってのはなかなか不便なんだよ」

こいつらも一度は黒い牙と敵対してボコられたっていうのに、のんきなもんだな。まあ、他の犯罪者集団にボコられる心配が減ったっていうことなんだろうな。ただの冒険者としてやっていくには、この街はいささかハードすぎるから。

「アンタはどうなんだ? 人探しはもういいのか?」

「ああ、捜索は打ち切りだ。もう諦めてアレンシアに帰るよ。俺はお前らと違って、逃げてきたわけじゃないからな」

俺がそう言うと、3人は何かを察したかのように黙り、深刻そうな顔で言う。

「……深くは聞かない。ただ、気をつけて帰れよ」

何か誤解されたような気がする。俺はこいつらに裏稼業の人間だと思われているのかな……。まあいいや。

「ありがとな。じゃあ、行くよ」

「待て。アレンシアとの国境付近に盗賊が出るという噂を聞いた」

中男が神妙な面持ちで言う。

「ほう。その話、もう少し詳しく」

「聞く話によると、人数は少ないが練度が高いらしい。アンタらなら平気だろうが、念の為、な。国境付近での野営は避けたほうがいい」

3人の話では、普通の人の足でアレンシアに向かった場合、おそらく国境付近で野営するタイミングになるだろうとのこと。盗賊にとっては夜襲を掛けるいいチャンスになる。すでに何人かの商人が襲われいるらしい。

……これ、いい手土産になるんじゃないかな。国境付近であれば、アレンシアの商人も被害に遭っているはず。ということは、アレンシアの兵士が動いても問題ない。ギルバートにこの情報を渡して、道中で捕まえてもらおう。

ギルバートは手ぶらで帰ることを避けたいはずだ。伯爵はハズレだったが、代わりの盗賊を連れて帰れば少しは手柄になるだろ。

「いい情報をありがとう。ありがたく使わせてもらうよ」

国境付近で野営をするというのは、あくまで普通の人であれば、の話。

グラッド隊は移動を開始したら全員が限界を迎えるまで休憩を取らない。遅れた奴がいたとしても、『足が遅い奴が悪い』という考えで容赦なく置いていかれる。そんな連中だから、アレンシア王都までノンストップで移動するかもしれない。

早くこの情報を教えて、国境付近に留まらせないとな。

宿を確認したが、そこにギルバートたちの気配はなかった。一足遅かったか……。一応、街の門も確認してよう。

門まで移動すると、門の横で休んでいるギルバートたちを発見した。ギリギリ間に合ったようだ。

「よかった。まだ帰ってないんだな」

「ちょうど今から帰るところだ。まだ何かあったか?」

ギルバートたちは、いつものようにクソ重そうな鎧を着込んでいる。さすがに兵士の鎧ではないが、それに近いゴツゴツした鉄鎧だ。もう商人を装う必要が無くなったので、着慣れた装備に戻したのだろう。

これから長時間走るというのに……。マゾなのかな? 趣味は人それぞれ、か。

「国境付近に盗賊が出るという噂を聞いた。せっかくだから、捕まえて帰ったらどうだ?」

「それはありがたい情報だが……そんなに都合よく出くわすか?」

焚き火をして煙を上げれば、たぶん襲ってくると思う。ただ、屈強なギルバートたちを見て、逃げられるかもしれないけど。

「仕方がないな。乗りかかった船だ。手伝ってやるよ」

気配察知で調べれば、そんなに難しくないと思う。国境付近は政治的な問題のために兵士や冒険者が近付きたがらず、領内よりも魔物が多い。そんなところを好んで徘徊してる人間なんて、盗賊か密偵くらいのものだ。

「いや、盗賊だぞ? 子ども連れで行くってのか?」

ギルバートはぎょっとした顔で言う。アーヴィンのことを言っているのだろう。たしかに、盗賊狩りに子どもを連れて行くのは良くない。そんなことをする人はボナンザさんくらいだ。しかし。

「大丈夫。あいつは先に帰ったよ」

「え? 先に……? 1人で?」

おっと、ちょっと不自然な発言だったかな。子どもが1人で街の外を移動するなんて、普通に考えたら自殺行為だ。まあ、アーヴィンは見た目は子どもでも元使徒。1人でもなんとかなりそうだけど。

「とにかく大丈夫だ。盗賊を探す時間もあるから、さっさと行くぞ」

すでに昼過ぎ。日が暮れるまでには国境まで行けるだろうが、できるだけ余裕を持って行動したい。こんなオマケの用事に、時間を掛けるわけにはいかないからな。

国境付近に到着する頃には、空が赤く染まっていた。これから盗賊たちのゴールデンタイム。盗賊は食事中や睡眠中の気が緩むときを狙って襲う。焚き火をして待っていれば蚊みたいに寄ってくると思うが、そんな待ちの態勢では時間がかかる。ここは積極的に攻めるべきだな。

「こっちだ」

「なんでわかるんだ?」

「勘」

ということにしているが、気配察知だ。俺はリーズほど敏感ではないものの、見通しが良くて人が少ない環境ならかなり遠くまで察知できる。

ギルバートたちを引き連れて、人の気配があるところに移動した。そこに居たのは、盗賊には似つかわしくない大げさな鎧をまとった連中。その奥には、これまた盗賊には似つかわしくないデブがふんぞり返っていた。

盗賊って、もっと身軽な格好をしているイメージがあったんだけどなあ。実は盗賊じゃないとか? 確認したほうがいいな。

「もう少し近づくぞ」

「ん……? んん!?」

ギルバートに声をかけるが、反応が返ってこない。

「どうした?」

「やったぞ! コー、アイツだ! アイツがベルフォート伯爵だ!!」

ギルバートたちは意気揚々と駆け出した。何の偶然か、本来のターゲットに出くわしてしまったようだ。……いや、盗賊ってベルフォート伯爵のことだったのね。なんだか納得したよ。

「アレンシア兵……? なぜここに!? ここはミルジア領だぞ!!」

俺たちの存在に気付いた伯爵が、取り乱して叫んだ。

正しくは国境付近の中立地帯。アレンシア領ではないが、ミルジアの領でもない。どちらかというとミルジア寄り、という場所だ。お互いに兵を動かすと問題になる地域なので、伯爵は安全だと考えていたのだろう。

「やったな。本物が捕まえられるなら文句無しだろ」

「いやあ、助かった。大臣から文句を言われずに済む」

戦々恐々としている伯爵とは対照的に、ギルバートは上機嫌だ。気が緩んで逃がすなよ。

「気を付けろよ。こいつらは結構強いらしいから」

と言い終えたころには、伯爵の取り巻きは地面に転がっていた。噂は当てにならず、実は大したことは無かったようだ。

「なっ! 貴様ら! 騎士の意地はどうした!」

1人残された伯爵が、倒れた取り巻きに怒鳴る。あれ? 本当に結構強かったの?

「俺たちはグラッド隊だぞ。貴族の私兵程度に遅れを取ると思ったか?」

ギルバートが呆れたように吐き捨てると、伯爵は肩を落として膝をついた。

「グラッド隊……王城の番犬がどうしてこんなところに……ついてないな……」

ギルバートたち、王城の番犬なんて呼ばれているのか。まあ、半分は正しいけど。普段は王城に引きこもっているからなあ。これでも一応、斥候部隊なんだぜ。

伯爵は観念したようで、おとなしくお縄についた。

伯爵様御一行は6人居るが、ギルバートたちは3人。どうやって連れ帰るのか気になって、一部始終を眺めた。すると、ギルバートたちは縛り上げた伯爵たちをひとつなぎにして、コイントスを始めた。

「勝った奴が引っ張る! 負けた奴は警戒だ!」

引き摺って帰るらしい。裁かれる前だというのに、もう罰を与えるのか。なかなか酷い。

「これで一件落着だな。あとはギルバートに任せていいか?」

「おう、王にはオレから伝えておく。ありがとよ」

ギルバートたちに別れを告げて、この場を後にした。

タダ働きの大赤字を覚悟していたのだが、最後の最後で黒字になった。この情報をくれた3人組には感謝だな。あの街は嫌いだが、また行ってもいいかなって気分になる。次に薬草が必要になったら、また訪れてみよう。