軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人探し7

犯罪の街の宿、結論から言うと悪くなかった。調度品は普通だが、壁が厚くて頑丈で、扉も二重になっていてアレンシアの宿よりも堅牢な様子だ。割高感は否めないものの、防犯上の問題が無いのはありがたい。

ちなみに、この宿には食堂が併設されていない。これも防犯上仕方がないらしい。部外者が宿の中に足を踏み入れることを防止するためだそうだ。食事は部屋に直接運び込まれる。そして別料金でクソ高い。

「あぁ……高いなあ」

ついボヤいてしまう。本当に高いから。

「2人で良かったね」

アーヴィンが苦笑いを浮かべて言った。

「本当にな。全員で来ていたら、いくら掛かっていたことか……」

今はアーヴィンと2人で行動しているから、かなり経費削減できている。とは言え、宿代だけで出費が嵩む。兵士を待つまでの間に狩りで稼いだものの、滞在費が高いのはツライなあ。

王からの連絡で、もうすぐ兵士がこの宿に到着すると聞かされている。俺たちはそれまでこの宿で待機。兵士たちもこの宿の部屋を取り、宿の中で話をする予定だ。この宿は防犯がしっかりしているから、下手に外で会うよりも安全だと判断した。

しばらく待っていると、部屋がノックされた。この気配には覚えがある。ギルバートだな。他にも知った顔が2人ついてきている。全員グラッド隊の隊員だ。

「よう、久しぶりだな」

「ああ、久しぶりだな。元気そうじゃねえか」

挨拶を交わしつつ、ギルバートたちを部屋に招き入れる。

「ギルバートもな。あ、俺はこの街ではレイトンと名乗っている。間違えないでくれ」

「ん? そうなのか? レイトンだな、わかった」

部屋の中で今後の打ち合わせを済ませた。簡単に言うと、俺と伯爵が面会している場にギルバートたちが乱入し、その場で伯爵を拘束する、というもの。ギルバートたちは旅商人を装い、食堂にて待機する。俺とギルバートたちは無関係で、たまたま偶然食堂に居合わせるという予定だ。

あいつらは元兵士による行商人グループ、という設定らしい。アレンシアには、『普段は一般人だけど有事の際には兵士に戻る』という役職があるのだそうだ。今回はその身分となってミルジアに潜入している。

行商人が旅先で指名手配犯を見つけたため、兵士に戻って職務を遂行する、というシナリオだ。

予定通り、ギルバートたちは食堂に先回りした。今日の食堂はかなり混雑しているようで、俺の気配察知では中の様子を窺い知ることができない。若干心配ではあるが、まあ大丈夫だろう。

店の前まで行くと、デビッドが待ち構えていた。

「お待ちしておりました」

そう言って上品に頭を下げる。どこかの執事のような仕草だ。

「待たせて悪かったな」

「いえ、とんでもない。中で主人がお待ちです。どうぞこちらへ」

デビッドは、そう言って店の扉を開けた。店内は混雑というか、立っている人が目立つ。待ちの行列だろうか。

「ずいぶんと混んでいるな。割り込んでいるみたいで気持ちが悪い」

「いえ、立っている方は護衛ですよ。本日は高貴なお客様が多いようです」

立っている人は、皆誰かの護衛らしい。そのうち何人かは伯爵の護衛かもしれないな。用心しておこう。

デビッドは俺たちの先頭に立って店内を進み、あるテーブルの前で立ち止まった。そこには、1人の男が座っていた。彼が伯爵なのだろう。

良く言えば、恰幅の良い中年男性だ。忖度なしに言うならデブ。形容しがたいほどのデブ。ただ、顔だけは無駄に整っている。顔の中心だけをトリミングしたら、いい感じのイケメンになりそうだ。

肖像画の面影なんか微塵もない、と聞いていたが、意外と結構似ている気がする。予想以上のイケメンだった。

「はじめまして。レイトンです」

立ったまま頭を下げると、伯爵は口角を上げて答える。

「ああ、君かね。話は聞いているよ」

「お時間をいただき、ありがとうございます」

「立ち話もなんだから、座りたまえよ」

「はい、お言葉に甘えて」

伯爵の向かいに座った。少し豪華な丸テーブルを、俺たちと伯爵が囲む。デビッドは伯爵の近くに立った。デビッドは座らないつもりのようだ。

「まずは食事をしよう。遠慮なく食べてくれたまえ」

伯爵がパンパン、と手を叩くと、店の従業員が料理を運んできた。先に注文してくれていたようだ。伯爵は奢ってくれるつもりなのかな。申し訳ないけど、今日はお支払いができなくなると思うよ。

料理は遠慮なく食べる。味は悪くない。今日もワニ肉……じゃないな。味が違う。やはり鶏肉に近いけど、もっと身がしっかりしていて歯ごたえがある。……何の肉だろう。謎だ。

それはさておき、伯爵はまだ名乗っていないよな。逮捕しやすくするために、できれば自分の口から名乗ってもらいたい。

「あなたが、ベルフォート伯爵様で間違いありませんか?」

「いかにも。吾輩がベルフォート伯爵家当主である。今は身を隠す身。他言は許さんぞ」

伯爵は小声で答える。これでギルバートたちが突入しやすくなった。あいつらには行動に制限が掛かっているから、念入りな下準備が必要なんだよね。

「ええ、もちろんです。アレンシアで受けた屈辱は聞いています。大変だったでしょう」

「……うむ。さんざんな目に遭った。ここで話す内容ではないだろう」

伯爵は不機嫌そうに言った。俺が余計なことを言ってしまったのだろう。しまったなあ。伯爵を警戒させてしまったようだ。

しばらく無言のまま食事が進み、目の前の料理がすべて無くなった。沈黙が重い。従業員によって食器が下げられ、さらに空気が重くなる。現状を打破したい……。

「そうだ、伯爵様。これを見てください」

そう言ってマジックバッグに入っている金貨を掴み、テーブルの上に置いた。枚数は15枚くらいか。指で揃えてきれいに積み直す。

「ふむ。これは何の金かね?」

伯爵はニヤリと笑って訊ねる。わかっているくせに……。

「先日のお話、詳しく聞かせてください」

「ああ、そうだったね。しかし、デビッドからも聞いているのだろう? 質問でもあるのかね?」

下手なことを言うと、また機嫌が悪くなるかもしれない。まずはご機嫌取りが必要か。

機嫌を取るなら金貨が一番効果的。目の前に金貨を積んでいく。手元にあるミルジア金貨すべてだ。1000枚を超えるミルジア金貨。これは見せ金だから、これみよがしに積んでいく。

「ほう……よく集めたな」

伯爵はいやらしく笑いながら呟いた。

「ええ、方々からかき集めてきましたよ」

「で、聞きたいこととは?」

伯爵はそう言って金貨に手を伸ばした。そうはさせない。

「待って下さい、伯爵様。金貨はかなり重量があるので、マジックバッグに入れて渡します」

アーヴィンにマジックバッグを渡し、目で合図をした。すると、アーヴィンは無言で金貨を仕舞い始めた。俺の意図はうまく伝わっていたようだ。

「ほう、重量無効のマジックバッグか」

伯爵の広角がさらに上がる。まさか……マジックバッグも貰えると思ってる? 図々しい奴め。

「今後について、1つ質問があります。この金はいつまで集めるつもりですか?」

「少なくとも1年、場合によっては数年を予定しておる」

伯爵は財宝なんか持っていない。持っていたが、そのほとんどは押収されている。デビッドから聞いていた、『回収した財宝の中から配当を出す』というシステムは成立しないのだ。

それなら、なぜドンキーは配当を受け取っているのか。それは、ここで集めた金の中から配当を出しているからである。まるで自転車操業だな。

最初はこれって儲かるの? って疑問に思ったが、元本を返金せずに逃げれば確実に儲かる。逃げる前提の詐欺だ。

「なるほど。まず、今日はこの金を預けます。稼いだらまた渡すので、よろしくお願いしますね、ベルフォート伯爵!」

アホのふりして名前を叫んだ。これが合図だ。

「なっ! 大声を出すなっ!」

伯爵は慌てて立ち上がった。おいおい、余計に目立つぞ。

予定通り、ギルバートたちが動き出した。待ってましたとばかりに立ち上がり、勢いよくデビッドとベルフォート伯爵を取り押さえた。そして、ギルバートは伯爵の顔を覗き込んで話しかける。

「ベルフォート伯爵だな! 身柄を拘束…………こいつは誰だ?」

「え?」

ギルバートと俺の間が抜けた声が、静まり返った店内に寂しく響く。

「いや、人違いだぞ。ベルフォート伯爵はこんなに男前じゃない」

「マジ?」

ちょっとイケメンすぎるかな? とは思ったけど、まさか別人だったとは……。いや、待てよ。詐欺のレベルがエグいな。伯爵が詐欺っているだけでも驚きだったのに、そもそも伯爵本人ですらないなんて。

「じゃあ、こいつは誰?」

「ベルフォート伯爵の名を騙っているのだから、関係者じゃないのか?」

「違う! 私はベルフォート伯爵などという名ではない!」

偽伯爵が慌てて叫ぶ。おかしいなあ。言ってることが違うじゃないか。

「おいおい、さっき自分で名乗っただろ。影武者だとでも言う気か?」

「知らんものは知らん! 不愉快だ! 帰らせてもらう!」

偽伯爵がギルバートたちの拘束を解こうと、ジタバタと暴れた。そこに、1人の男が転げるように走ってきた。

「ちょちょちょ! 待ってくれ! 僕にも説明してほしいよ!」

ドンキーだ。彼も店に来ていたらしい。ドンキーは顔を真っ青にして偽伯爵の前に立った。

「き……君は……」

「モンキー商会のドンキーです! 伺っていた話と違うようですが! 説明してくださりませんか!」

「いや……失礼する!」

偽伯爵はドンキーから顔を背け、必死でこの場から離れようとした。ダメダメ、逃がす気はないよ。

「待てって。出資者様が説明してくれってよ。答えてやるべきなんじゃないか?」

「うるさいっ! 話すことなど無いッ!」

会話をする気は一切ないようだ。仕方がない、黒幕っぽい人にも出てきてもらおうかな。

「領主に話を持っていけばいいか?」

俺には領主へのつながりなど無い。ただのハッタリだ。

「やめろ! 領主様は関係ない!」

ハッタリはよく効いた。偽伯爵は脂汗を滲ませて叫ぶ。

こいつ、領主のことも騙しているのか? まあ、俺の知ったことではないな。冷静に考えると、アレンシアの人間が関わるべきことじゃない。ミルジアの司法に任せるべきだ。

「なあ、この場合はどうすればいい? この街は犯罪者を捕まえないんだろ?」

「黒い牙にお願いするよ。荒事は得意でしょ?」

ドンキーが答える。犯罪者には犯罪者を、ということか。黒い牙は物事を暴力で解決するプロだから、こういうときは役に立ちそうだ。

「了解。拷問が得意な人間を集めるよう、依頼を通しておくよ」

偽伯爵に視線を送りながら言った。

「クソッ! わかった! テメェには金を返す! それでいいだろ!」

「元本総額な。今まで支払った配当を差し引く、とかはナシだぞ」

「わかっている!」

ひとまず一件落着……かな。偽伯爵とデビッドをロープでしばり、床に転がしておく。

「いやぁ、あんたたちには助けられたよ。大事な金を失わずに済みそうだ。ありがとう」

ドンキーはギルバートに頭を下げた。

「ハッハッハ! 良かったじゃねぇか。この手の詐欺で助かるのは、早期に気付いて返金できた人だけだ。気付くのが遅れたら、金は絶対に返ってこない」

ギルバートが豪快に笑いながら言う。こいつの口ぶりから察するに、アレンシアでもこの手の詐欺があるのだろう。用心しないとな。

助かるのはドンキーだけ。他にも被害者が居るはずだが、元本はかなり減っているはずだから、全員に金を返すのは不可能だ。

「黒い牙には話を通しておく。偽伯爵たちの身柄は任せていいか?」

面倒事は丸投げする。俺は関係ないからね。

「わかったよ。僕は急ぐから、じゃあね」

ドンキーは偽伯爵たちを引っ張り、店を出ていった。残された俺たちは、空いていた椅子に腰を掛けて一息つく。

残念ながらターゲットは人違いだった。大赤字だが捜索は打ち切りだ。この街に居ないとなると、もう俺には見当がつかない。

まあ、可哀想な詐欺被害者を1人救うことができたんだから、良かったんじゃないかな。なんて思っていると、深刻そうな顔をしたギルバートが話しかけてきた。

「コー……俺たちは王にどう説明したらいい?」

「『人違いだった、ごめんね』って言っておいて」

「言えるか!」

ギルバートたちは王からの命令で来てたんだもんなあ。手ぶらでは帰れないか。……手ぶらで帰ってもらうしかないんだけど。

ちょっと気の毒になってきた。こいつらには、今度何か埋め合わせをしてやろう。