軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追加調査2

盗賊は無事捕まえたが、すべての盗品を取り返したわけではなかった。国は残りの盗品をすべて回収したいらしい。そのための追加調査の依頼を受け、冒険者ギルドにやってきた。

ここで調べるのは、盗賊絡みの依頼を受けた冒険者についてだ。現在わかっているのは、マドフと名前の知らない冒険者合わせて5人。あいつらは輸送係として雇われた冒険者ではないから、まだ他にいると見て間違いないだろう。

冒険者の動向であれば、受付のエリシアさんに聞けばいいんじゃないかと思う。閑散としたギルドを進み、エリシアさんに話しかける。

「お疲れ様。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、時間いいかな?」

「いらっしゃいませ。大丈夫ですよ。聞きたいこと、ですか?」

この時間の冒険者ギルドはほとんど客が居ない。混むのは、新しい依頼表が張り出される早朝と、完了の報告に来る夕方だけ。話を聞くなら今だと考えたのだ。

とはいえ、話を聞くにしても説明が難しいな。何から聞けばいいのかわからず、迷ったあげく話を切り出した。

「アルコイの盗賊の件なんだけど……」

「その件でしたら、アルコイでお聞きになったほうが確実だと思いますが……」

言いよどむ俺に、エリシアさんが首を傾げて答えた。聞き方が拙かったな。アルコイのことなんて、王都のギルドで聞いてもわからないのは当然だ。聞き方を変えよう。

「いや、王都に協力者が居たみたいなんだ。冒険者が何人か捕まっている」

「あ、なるほど。その件ですね。どういったご質問ですか?」

捕まった、という情報はすでに知っているらしい。話が早くて助かるな。

「まず、どんな奴だったか聞かせてほしい。交友関係とか、主な活動内容とか、なんでもいい」

「捕まった冒険者さんのことですね。わかりました。でも、どうして……?」

エリシアさんは、不思議そうな表情を浮かべた。困ったな、どこから説明したものか……。

「実は俺も、そいつらの1人から声をかけられてな」

「そうなんですか!?」

エリシアさんは驚いてカウンターから身を乗り出した。

「ああ。依頼を引き受けるフリをして、全員まとめて兵士に突き出した」

「あ……コーさんが捕まえたんですね」

エリシアさんはホッと胸を撫で下ろすと、軽く笑みを浮かべた。安心したところで、本題に移ろうと思う。

「そこで、だ。盗品は全部回収したつもりだったんだけど、かなり足りないらしい。国から残りの盗品を探す依頼を受けたんだ」

「なるほど……。でしたら、できる限りの協力をさせていただきます」

エリシアさんは目に力を宿して強く頷くと、話を続けた。

「捕まったのは、全部で5人でしたね。まず、3人は王都でたまに見かけるパーティでした。ランクはE、建築や運送を得意としていたようです。それと、Dランクのソロの方が2人。申し訳ありませんが、この2人は王都で見かけたことがないのでわかりません」

冒険者ギルドの職員と言えど、すべての冒険者を把握しているわけではない。王都で活動していない無名な冒険者なんて、知らなくて当然だな。

ランクについても納得した。冒険者ギルドでは、ランクによって受けられる依頼が制限されている。EランクやDランク冒険者は報酬が高額な依頼を受けられないので、報酬だけで暮らすのは難しい。多くの冒険者は、交易や魔物の討伐で副収入を得て、それで生活している。

そんな冒険者のもとに高額な報酬が提示されれば、多少怪しくても心が動くのも無理のない話だろう。

「俺は、他にも依頼を受けた冒険者が居ると見ている。思い当たる奴はいないか?」

「……すみません。冒険者ギルドは、ギルドが関係しない依頼を把握することができません」

あの依頼は冒険者ギルドが斡旋したものではないから、冒険者ギルドが把握しているはずがない。それは理解しているから、質問の切り口を変える。

「突然羽振りが良くなったりとか、最近様子がおかしい冒険者は居ないか?」

「すみません、そんな方ばかりですので……」

言われてみればたしかにそうだ。冒険者にはギャンブル的な一発逆転がある。交易で一山当てたとか、高額買い取りの魔物を討伐したとか、理由は様々だが大金を得るきっかけが多い。一攫千金の夢があるから人気の職種なんだ。

冒険者の金儲けにはギルドが関わらないことも多いだろうから、ギルドは冒険者の懐具合なんか把握していないはず。この線から探るのは難しいのかな……。とりあえず、エリシアさんでも知っていそうなことを聞こう。

「じゃあ、そのEランク冒険者の交友関係はどうだ?」

「それが……あまり行儀の良い人ではなかったので、積極的に関わろうという人は居なかったと思います」

冒険者は偉い人と関わることが多いため、マナーが重要視されている。そんな中でマナーの悪い奴が居ると、悪目立ちして孤立する。例のEランク冒険者はそういう奴だったようだ。こいつらが人集めに協力したとは思えないな。

得られた情報は少ないが、今日の調査は一旦終了だ。

「そっか。教えてくれてありがとう。助かったよ」

「いえ、大してお力になれず申し訳ございません」

エリシアさんはそう言って深々と頭を下げた。

今聞けることはすべて聞いた。エリシアさんに再度礼を言って、冒険者ギルドを後にする。

外に出ると、突然スマホに着信があった。相手はルナだ。何かあったのかな。とりあえず通話にしてみる。

「どうした? 何かあったか?」

『突然すみません、お時間よろしいですか?』

「大丈夫。ちょうど今帰るところだよ」

『王都の家にボナンザさんがいらしています。お立ち寄りいただけますか?』

ボナンザさんか……最近よく会うなあ。あの人、暇なのかな。

「了解。すぐに行くよ」

スマホを切って、誰も居ない家の庭に転移した。ボナンザさんの目の前に転移しちゃうと、いろいろ面倒そうだからね。

家に入ると、ルナたち4人が居た。ただいま、と声をかけようとしたところで、ボナンザさんの声が聞こえる。

「おかえり。早かったわね」

声がしたほうに目を向けると、ボナンザさんの他に8人の女性が居た。

「ああ、ただいま……って、この人数はなんだ?」

全員黒装束の若い女性だ。見覚えのある人も何人か混ざっている。というか、先日の暗殺者だな。それと、ずいぶん前に戦った3人も居る。

俺が戦った6人は、みんなかなりの手練だった。初対面の2人もきっと戦える人だ。まるで襲撃の準備をしているみたいだけど……どういうつもりだ?

「前みたいなことがあると困るから、うちの子たちを紹介しようと思って。名前までは覚えなくていいけど、顔はしっかりと覚えてね」

この人たちとは二度も戦うことになった。三度目が訪れないように顔を合わせておこう、というボナンザさんなりの配慮だな。

「わざわざ悪いな」

8人は一斉に自己紹介を始めたが、名前は覚えなくていいと言うから、遠慮なく聞き流した。一度に8人なんて絶対に覚えられない。顔と気配は覚えたからいいだろう。

自己紹介を終えたところで、ボナンザさんが口を開く。

「みんな、うちの調査員よ。何人かは会ったことがあるでしょ?」

調査員? 戦闘員の間違いだろ。俺には暗殺者にしか見えないぞ。対人戦、それも街中での戦闘に特化した戦闘員だ。しかし……。

「どうして女ばかりなんだ?」

「あたしが女だからってのもあるけど、女奴隷って売れないのよ」

「え? 全員奴隷?」

「そうよ。店に置いてても売れないから、アタシが雇って鍛えてるの。みんなそれなりに強いわよ」

ボナンザさんは奴隷商もやっている。よくよく話を聞くと、奴隷は働き手として買われることが多いらしい。特に多いのが農場と工房で、体力のある男のほうが使い勝手がよく、女性は敬遠されるそうだ。女性を鍛えるというのは、ボナンザさん流の社会貢献なのだろう。

しかし、いくらなんでも鍛えすぎじゃないかな。ボナンザさん基準の そ(・) れ(・) な(・) り(・) だもん。この人たち、明日から兵士に混じっても問題ないと思うぞ。まあいいけど。

「顔は覚えた。お互い、今度から気をつけような」

「はい。今後とも、よろしくお願いします」

代表者らしき女性がそう言って頭を下げると、残りの7人はスッと頭を下げて一歩引いた。8人の用事は終わったらしい。

すると、ボナンザさんが俺の前に立って腕を組んだ。

「自己紹介が終わったところで、もう一つ話があるわ。近々おもしろいことがあるんだけど、あんたも一緒に行かない?」

「おもしろいこと……?」

ボナンザさんのおもしろいこと……悪い予感しかしない。今度は何と戦わされるんだ?

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。ただの市場だから。あんたもそういうの、好きでしょ?」

ボナンザさんはため息交じりに言う。俺の警戒が伝わったらしい。

思い返せば、ボナンザさんと初めて会ったのもフリーマケットだったな。ただの市場で戦闘になることはないだろう。今回は安心して参加できそうだ。

「そういうことなら、俺も参加するよ。みんなはどうする?」

「行くっ!」

リーズが諸手を挙げて参加を表明した。すると、クレアがリーズをチラッと見て言う。

「アタシも行くわ。コー1人じゃ大変でしょ?」

市場とあれば、かなり混雑することが予測される。そんな中、俺1人で自由すぎるリーズの相手をするのは少し大変かもしれない。

「頼むよ。ルナとリリィはどうする?」

「ぜひ行きたいのですが……」

ルナは言いよどみ、リリィさんに視線を送った。

「うむ。ハッキリとは言えない。魔導院から依頼があった。例の新しい結界について、出処を調べることになったのだ。参加できるかどうかは調査の進捗次第だな」

盗賊のアジトに張られていた結界のことだ。まだ市場に出回っていない、最新の魔道具だそうだ。存在ですら一部でしか知られていない。作り方なんて開発者しか知らないはずだ。盗賊が手に入れられるようなものではない。

魔導院とは持ちつ持たれつでやっていきたいから、この依頼は受けたほうがいいな。

「そっか……手伝えることはあるか?」

「ありがとうございます。でも、昔の知り合いへの聞き取り調査ですので、私たちにしかできないと思います」

ルナたちが魔導院に居た頃の知り合いに、話を聞きに行くという仕事だ。知り合いが少ない俺の出る幕はないか。

「あ……それは無理だな。了解だ。あとはアーヴィンだが……」

俺がそう言いかけると、ボナンザさんは食い気味で答えた。

「アーヴィンちゃんは連れてきてね」

「わかった。どうせ暇してるだろうから、大丈夫だと思うよ」

ボナンザさんの誘いだ、なんて言うと警戒されそうだから、行き先を告げず連れ出そう。問題ない。

話は終わりだが、ここでふとボナンザさんの趣味について思い出した。趣味で盗賊を追っているボナンザさんなら、盗品輸送の依頼を受けた冒険者について、なにか知っているかもしれない。

「あ、そうだ、俺も一つ聞きたい。盗品の輸送に関わった冒険者を探しているんだけど、なにか知らない?」

「そうね……あんたより先に2組の冒険者が依頼を受けたらしいわよ」

ボナンザさんは思い出すような素振りを見せると、首をひねりながら答えた。あまり歯切れがよくない返事だ。

「どこの誰だ?」

「それが、わかんないのよ。アタシたちが情報を手に入れたときには、すでに引き渡しが終わってたわ」

歯切れの悪い様子はこのせいか。ボナンザさんも取り逃していたらしい。

「珍しいな。逃したのか」

「……そう言わないでよ。アタシたちだって万能じゃないんだから」

「責めてるわけじゃないさ。居たことがわかっただけで十分。ありがとう」

情報伝達手段が乏しいこの世界で、最新の裏情報を常にキャッチし続けるなんて不可能だ。そんな中、ボナンザさんは上手く情報収集している。うしろの8人が頑張っているのかな。

「何かわかったら、あんたにも知らせるわ。同じ趣味を持つ者として、情報は共有しましょう。じゃあね」

「いや、勘違いしないでくれ。俺は別に……」

俺の言葉も聞かず、ボナンザさんたちはすっと立ち去った。誤解は解けずか……。まあ、別に困るようなことじゃないからいいか。

ボナンザさんのおかげで少しは情報が得られたけど、十分とは言えないなあ。冒険者ギルドは空振り、ボナンザさんも詳しくは知らない。八方塞がり? これ以上の調査は難しいかもしれない。

この調査、軽く考えて引き受けたけどかなり厄介だぞ。金貨20枚でも安すぎる。もう調べるあてが無いんだけど、次はどこを調べようか……。