作品タイトル不明
かんたんな仕事5
荷物は受け取ったので、いつ王都に行ってもいい。だが、そのまま向かうと早すぎるにも程がある。最低でも明日の朝までは待ったほうがいい。エルミンスールに帰り、一夜を明かした。
そして朝を迎えた。朝食を食べ終えたとき、転写機に追加の連絡が来ていることに気づいた。その連絡は、深夜のうちに来ていたようだ。転写機に目を落とす……。
「まいったな……」
「どうされました?」
「アルコイの兵士が先走ったみたいだ。森の中の2人をすでに確保したらしい」
俺は 監(・) 視(・) を要請したつもりだったんだけどなあ。どこでどう入れ違いがあったのか、アルコイの兵士が逮捕に乗り出してしまった。
あまり良くない知らせだ。このタイミングで兵士が動くと、王都に居るであろう首謀者が警戒するかもしれない。
「仕方がない。面倒だけど、できるだけ警戒させないような方法で行くぞ」
作戦を説明する。まず、俺1人単独で王都の正規の門を抜けて待ち合わせ場所に向かう。王都の門が連中によって監視されている可能性を考慮してだ。転移魔法で王都に入るのは、余計な警戒をさせてしまうかもしれないから避ける。
他の4人は待ち合わせ場所に先回りして、マドフの様子を探る。連中の仲間はマドフ以外にも居るはずだから、その確認のためだ。
そして、待ち合わせ場所には兵士にも来てもらう。敵が複数居た場合、俺たちだけで連行するのは大変だからな。その場で犯人を引き渡し、連行してもらうつもりだ。
「じゃ、アタシたちは王都に家から待ち合わせ場所に向かうわ。コーは王都の外に転移して、ゆっくり歩いてきてね」
「頼むよ。みんな、スマホは通話状態にしておいてくれ」
転写機を使って王城の兵士に協力を要請すると、一足先に王都の外に転移した。ここから徒歩で王都の中に入る。
しばらく歩くと、王都の正門が見えてきた。久しぶりに通過する。転移したり抜け道を使ったりしているため、普段ならまず用のない門だ。だるそうな門番が2人、門の両脇に控えている。
「1人か?」
「ああ、そうだ」
門番の1人に声をかけられ、身分証を出した。この身分証を出すのも久しぶりだなあ。王都に限らず、街に入るときに必要な手順だ。正式な冒険者の身分証を持っていれば、どんな格好をしていても普通に通れるらしい。
「では、鞄の中身を見せろ」
これも必要な手順だ。マジックバッグの口を開け、盗品がギッシリと詰まったマジックバッグの中身を見せる。
「問題あるか?」
「ずいぶんたくさん入るんだな。羨ましい……。あ、通っていいぞ」
ザルなんだよ、この審査。今日のマジックバッグは盗品で埋め尽くされている。にもかかわらず、いともかんたんに通れてしまう。ろくに確認しないから。この荷物検査、ただのマジックバッグ自慢だからな。
もし止められたとしても、騎士相当の身分証を見せれば絶対に通れる。その確信があってこの門を通ることにしたんだけど……ここの審査はザルすぎる。王に提言したほうがいいかもしれない。
門は無事通過できた。こちらの警戒を悟られないように、できるだけ平静を装って歩く。王都に入ってしばらく行くと、クレアから通信が入った。
『位置についたわ。アタシがマドフの監視担当。リーズに周囲全部を警戒お願いしてるわ』
マドフに指定された待ち合わせ場所は、王都南側の防壁のそば。俺たちが買った西側よりはマシだが、その辺りも地価が安くて人通りが少ない。たぶん、治安は良くないだろう。
王都内は治安が良いという話だったが、悪い場所はある。待ち合わせはそんな場所だ。
「待ち合わせ場所に居るのはマドフだけか?」
『今のところはね。ルナには周辺の建物、リリィには周辺にある魔道具の確認をしてもらってる。増えたら連絡するわ』
連中のアジトにあったのは、最新の結界の魔道具だった。ここも同じように、最新の魔道具で小細工が施してあるかもしれない。
今回の作戦には王城の兵士も参加するのだが、全員の兵士が気配察知を使えるとは限らない。結界だけでも厄介だ。それ以外にも未知の魔道具が使われていると拙い。それを考えると、あらかじめ確認しておくのは必須だろうな。
「了解。もうすぐ王城の兵士も来ると思うから、来たら合流してくれ」
と言っても、行動開始まではかなり時間がある。なんせ俺はゆっくりと歩いているからなあ。
王都をこんなにゆっくり歩くのは、ずいぶんと久しぶりだ……警戒しつつのんびり歩いていると、敵対的な反応が3つ、急接近してきた。みんな強そうな上に、殺意に満ちている。その殺意は、どうも俺に向けられているらしい。
暗殺者かな。マドフに警戒されたか……。いや、 人気(ひとけ) は無くても王都だぞ? 白昼堂々、暗殺者を送り込むなよ。
とりあえず、監視中の4人に敵方の様子を聞いておこう。
「俺のほうに暗殺者が来た。そっちの様子はどうだ?」
『えっ!? 大丈夫なんですか!?』
すかさずルナから返事が来る。その声から察するに、向こうでは問題が起きていないようだ。
「ヤバくなったら応援を頼むが、今はそっちだ。そっちにも暗殺者が行くかもしれない。警戒してくれ」
『了解。でも、こっちにおかしな様子は見られないわよ』
クレアからの報告の途中だが、暗殺者が目の前まで来た。通信は一時打ち切りだ。
3人は女性、みんな真っ黒でピチピチなボディスーツを着込んでいる。全身を革で覆うようなデザインで、いかもに戦闘服っぽい。3人は手にはナイフを持ち、脇目も振らず突進してくる。
こんな街の中でド派手な魔法をぶっ放すことはできない。まずはマチェットで応戦する。1本のナイフを弾くと、次のナイフが襲ってくる。それを躱したと思ったら、背後から振り下ろされたナイフの刃先が俺の肩を掠める。
かなり訓練されているな。それも、対人戦特化だと思う。1対3ではかなり厳しいか……。
こういうときは雷の魔法が最適だろう。いつものスタンガンではなく、自分を含めた広範囲に落雷を落とす魔法だ。自爆技だが、絶縁の魔法で防御しておけば自分は大丈夫。
『パァン』
小さな破裂音が鳴り響き、3人に青白い稲光がまとわり付く。そして、3人は膝をついた。これでしばらく動けないはずだ。
先を急ごう。そう思った矢先、遠くからとんでもない気配が突進してくることに気づいた。まるで魔物のような強烈な気配だ……っていうか、ボナンザさんだな。
「ちょっとアンタ! こんなところで何してるのよ!」
ボナンザさんは3人の前に立ち、激しい剣幕で怒鳴る。
「それはこっちのセリフだ。極秘任務中なんだよ。邪魔しないでくれ」
「極秘って……盗品の運び屋なんか、やってんじゃないわよ」
ボナンザさんは、3人に手当てをしながら面倒そうに吐き捨てる。
「うん? 知ってたのか?」
「情報を掴んだのよ。近々盗品を持った冒険者がここを通るって」
ああ、その情報は嘘じゃないな。盗賊絡みの案件だから、ボナンザさんが関わってくるのも無理はないか。
もし俺がこの依頼を受けなかった場合、ほかの誰かが受けていたと思う。何も知らない冒険者がボナンザさんたちの襲撃を受けていたことになるぞ……。マジで危ない依頼だったんだな。
それはいいとして、今回の作戦は兵士と一緒にやっている。ボナンザさんが首を突っ込むと面倒なことになりそうだ。
「兵士との共同作戦中なんだ。あとは任せてくれ」
「兵士と? 盗品の運び屋を?」
「潜入調査ってやつだな。王都に潜む盗賊を、一網打尽にする予定だ」
俺の言葉に、ボナンザさんは納得したように頷く。
「なるほど……。興味ないフリして、アンタも盗賊狩りをしてたのね」
あれ? 同好の士みたいに思われてない? 俺は別に盗賊狩りを趣味にしてるわけじゃないからな。
「いや、たまたまだよ。作戦中だから、そろそろ行くぞ」
「邪魔をして悪かったわ。詳しい話はまた後日。じゃあね」
ボナンザさんはそう言って、暗殺者の3人を連れて走り去った。3人は走れるくらい回復しているようだ。……あれ? 回復、早くね? 思ったよりも威力無い? 落雷の魔法、もっと練習したほうがいいかもしれない。
それはともかく、一難去ったことをみんなに報告しておく。
「暗殺者はボナンザさんの仲間だったよ。心配させて悪かったな」
『そうだったの……。こっちは変化なしよ。マドフが1人でぼーっとしてるわ』
クレアから返事が来ると、広範囲の警戒を任せているリーズからも通信が入った。
『待って。怪しい人が3人居るよ。マドフを見てるみたい。捕まえてもいい?』
その3人は盗品の引き渡しを監視しているのかな。状況から察するに、マドフの仲間で間違いないだろう。
「任せる……あ! ボナンザさんの仲間じゃないかだけは、先に確認してくれ」
『はーい。もう捕まえたけど、ダメだった?』
リーズからは緊張感が感じられない。よほど楽勝だったんだろう。もしボナンザさんの仲間であれば、かんたんに捕まえられるはずがない。戦闘の余波で、家屋の2つや3つは倒壊するはずだ。大丈夫そうだな。
「問題ない。あとから来る兵士に突き出してくれ」
『りょーかーい』
現場まではあと数分。一度ここで待機する。兵士が到着したら行動開始だ。
10分ほど待ったところで、クレアから通信が来た。
『お待たせ。兵士と合流できたわ。行ける?』
「問題ない。行くぞ」
そう言って再び歩みを進め、待ち合わせ場所にやってきた。ボロい建物に囲まれた、壁際の空き地だ。クレアから連絡があった通り、マドフは1人。仲間が捕まったとも知らず、のんびりと椅子に座っている。
「おや、ずいぶんと早い。徹夜で走ってきたのかな?」
「まあな。言われた通り、倉庫にあった荷物は全部持ってきたぞ」
適当に調子を合わせつつ、話をすすめる。
「全部!! それはありがたい! まずはそれを見せてくれないか」
言われた通り、マドフの目の前に箱を積んでいく。マドフは鞄から数枚の紙を取り出すと、目の前の箱を3つほど開け、紙と中身を交互に見て、「おお……」と感嘆のため息を漏らした。物品目録を確認しているのだろう。
「荷物に間違いは無いか?」
「ああ、間違いない。約束の報酬を支払おう」
よし、確認できた。この言葉は自白と変わらない。
「報酬は必要ないぞ。突入!!」
俺の掛け声に合わせ、6人の兵士とクレアが駆け寄ってくる。そして、あっという間にマドフを取り囲んだ。
「なななな何を!?」
マドフは目を白黒させて叫ぶ。
「これは全部盗賊のアジトで見つかった盗品だろ。逮捕させてもらうぞ」
「え……そんな……え? 知らない! オレは知らないぞ! ハメられただけだ!」
マドフは兵士に羽交い締めにされながら、体をよじらせて叫ぶ。往生際が悪いなあ。
「これだけ証拠が揃って、よく知らないなんて言えるな……」
「俺は本当に関係ないんだ! 捕まるようなことはしてない!!」
捕まるようなことをしてないなら、こんなに証拠は揃わないし、兵士は動かないんだけどなあ。
呆れた目でマドフを見ていると、マドフを羽交い締めにしていた兵士がだるそうに言う。
「はいはい、犯罪者はみんなそう言うんだよ。聞いてやるから、とりあえず詰め所に行こうか」
「嫌だ! 行かない!」
兵士の1人が、マドフを無視して俺に話しかけてきた。
「コー、情報をありがとう。いつでも遊びに来いよ。お前なら歓迎だ」
こいつ、よく見たらグラッド隊の隊員じゃないか。馴れ馴れしい口調でようやく気づいたぞ……。
「ああ、また顔を出すよ。今日はありがとう」
「おう、待ってるぜ。またな!」
名もなき兵士はそう言って、颯爽と去っていった。マドフの喧しい叫び声だけが聞こえていたが、その声もどんどん遠ざかっている。俺の仕事は無事、終わったようだ。
報酬はいくらになるだろうか。関係者もかなり逮捕できたから、たぶん金貨500枚くらいの金額になると思う。交渉次第でもっと増えるだろうな。ただ荷物を運ぶだけだったが、ボロ儲けだぞ。
「みんな、お疲れ。かんたんな仕事だったな」
「かんたん……ですけど、いつもより疲れた気がします」
ルナが気だるそうにつぶやくと、クレアがため息交じりに言う。
「いろいろ気を使いすぎたわ。警戒とか、監視とか。むしろ、森の中を走り回って魔物と戦ったほうが気楽だったんじゃない?」
クレアの言う通り、気疲れが半端なかったような気がする。仕事はかんたんだったけど、それ以外の面で苦労した。楽に儲けられるなんてうまい話、あるわけないよなあ。まあ、苦労しただけあって大金が手に入りそうだけど。