軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

飛脚1

教会の人たちと一緒にやっていた使徒としての仕事は、予定していた半分の仕事を終えたところで追い出された。後悔はしていない。俺たちには向いていないということがわかっただけで大収穫だ。

あとは帰るだけなんだけど、せっかく王都にいるんだから、ついでに1つ用事を済ましておこうかと思う。

「ちょっと冒険者ギルドに寄ってもいいかな?」

「いいけど……何? 依頼でも受けるの?」

「いや、そうじゃない。前に使徒の依頼が入らないって話をしただろ? だから、窓口になってもらうようにお願いしておきたいんだ」

一般人からは使徒としての仕事が入ってこず、国と教会から斡旋された仕事を受けている。教会とは一緒に仕事をしたくないから、実質国から入る仕事だけだ。一般人からも仕事を受けられるようにしておきたい。

「なるほどね。国や教会が間に入らなければ、面倒な仕事は断れそうだもんね」

クレアはそう言うけど、俺はそんなことは考えていない。

「いやいや、俺は国や教会からだろうが嫌な仕事は断るぞ」

今までは「やってもいい」と思ったから受けていただけで、今後もやりたくない仕事は絶対に断る。たとえば政治に関わるような仕事とかね。一般人からの依頼であったとしても、このスタンスを崩すつもりはない。

いつものように屋根の上を走り、冒険者ギルドに到着した。今は日が傾きかけていることもあり、ギルドの中はいつもより賑わっている。

そんな中、カウンター係のエリシアさんの元気な声が聞こえてくる。

「いらっしゃいませっ!」

カウンターの内側から俺たちを見つけ、こちらに笑顔を向けている。

「忙しそうだな」

そう声をかけながらカウンターに歩み寄る。幸いカウンターには誰もいない。待ち時間なく対応してもらえそうだ。

「この時間ですと、ちょうど依頼を終えた方々が立ち寄るんです。今日はまだ暇なほうですよ。それで、今日はどういった御用ですか?」

俺も何度か忙しい時間帯のギルドに来たことがある。本格的に忙しくなると、カウンターに行列ができてカウンター係が数人増える。今はまだそれほどには混んでいないが、間もなく混み始めるだろう。無駄話をするのは迷惑になるな。

「ギルド長に用があるんだけど、ギルド長を呼んでくれないか?」

「あ、はい。ちょっと待ってくださいね」

エリシアさんは、そう言ってカウンターから離れた。

……結構待たされるな。数分待ったが、エリシアさんはまだ戻ってこない。

完全に気を抜いていたところ、背後から突然声をかけられた。

「お久しぶりですっ!」

ビクッとして振り返ると、見覚えのある顔が飛び込んできた。

「ん? リッキー……?」

以前俺たちが指導した、新人冒険者のリッキーとケイトの兄妹。この2人は、俺たちが指導した後グラッド教官に預けた。ここに居るということは、グラッド教官による訓練を終えたのだろう。

「訓練はどうだった? 少しは戦えるようになったか?」

ちょっとした世間話のつもりで聞いたのだが、リッキーは顔を真っ青にして俯いた。

「う……はぃ……」

そして歯切れの悪い返事だ。とても大丈夫そうには見えない。

「どうした?」

「兄さんはついていくのがやっとだったみたいなんです……」

リッキーに代わり、ケイトが答えた。

「 兄(・) さ(・) ん(・) は(・) ? ケイトは違うのか?」

「ケイトは魔法部隊だったんです! だから訓練内容が違ってて……」

リッキーが慌てて口を挟む。「訓練内容が違うんだから、違って当然だ」と言いたいのだろう。

「魔法部隊の訓練は知らないが、グラッド隊の訓練内容はよく知っている。まあ、しんどいよな」

「そうですよ! 朝から山を登らされて、帰ってきたら殴り合いですよ! 毎朝目が覚めるたびに奇跡だと思いましたっ!」

大げさだなあ……いや、あながち間違いでもないか。そう思わせるには充分な訓練だ。

「コーさん、お待たせしました」

話はこれから、というところでエリシアさんが戻ってきた。リッキーたちの話も聞きたいところだが、ギルド長を待たせるのも悪いな。

「ありがとう。じゃあ、リッキー、ケイト。俺は用事があるから、またな」

「はいっ! また話を聞いてください!」

リッキーが威勢のいい返事をすると、ケイトが静かに頭を下げた。訓練の話はもう少し詳しく聞きたかったけど、今日は時間がない。また今度だな。どうせまた会うだろう。

俺たちはエリシアさんに先導されて歩き始める。せっかくだから、エリシアさんからの評価も聞いておこうかな。

「エリシアさんから見て、あの2人はどうだ?」

「リッキーくんとケイトちゃんですね。とても優秀ですよ。この前も、複数体のゴブリンを討伐してきたんです」

……ゴブリンじゃあ比較対象にならないよなあ。ボアとかオーガとかで言ってほしい。でも、評価は悪くないみたいで安心した。

話をしているうちに、いつもの会議室に通された。部屋の中ではギルド長がソファに腰を掛けて難しい顔をしている。

「やあ、久しぶりだね。今日はなんの用だ?」

ギルド長は雑談することも許さない様子で、俺に話すことを急かした。今日のギルド長は珍しく忙しいらしい。手短に済ませよう。

入口付近に立ったまま話を始める。

「俺が使徒みたいなことをしているのは知っているよな?」

「ああ、それは知っている」

「冒険者ギルドに、使徒としての依頼を受けるための窓口になってほしいんだ」

俺がそう言うと、ギルド長は顔を曇らせて少し考え込んだ。

「うん? それは構わんのだが、指名依頼とどう違うんだ?」

ああ、そうか。ギルドには、もともとそういうシステムがあるんだった。俺を指名しての依頼であれば、自動的に俺に斡旋される。

「何も違わないな……。まあ、そういうことだ。俺宛の依頼が来たら、とりあえず俺に回してくれ」

「何を当たり前のことを言っているんだ。そんなことでわざわざ顔を出すな」

ギルド長は面倒そうに苦言を呈した。それはもっともな意見だ。気づかなかった俺が悪い。でも、俺はギルドとの連絡手段を持っていない。頻繁に冒険者ギルドに顔を出すわけではないから、依頼が来たところで俺が受けるのは難しいだろう。

「その連絡はどうやって受ければいいんだ?」

「ああ、そうだったな。転写機を渡しておく。指名依頼が入ったら連絡を入れるから、肌身離さず持ち歩いてくれ」

ギルド長は、マジックバッグから転写機を取り出して俺に手渡した。肌身離さずって……ずっと持ち歩くのは無理だぞ。話半分に聞いておこう。

「わかった。できるかぎり持ち歩くよ」

「で、用はそれだけか?」

ギルド長はさっさと話を切り上げようとしている。マジで忙しいらしい。別に急ぎの用じゃなかったんだから、日を改めたほうが良かったのかな。

「そうだな。忙しいところ、邪魔して悪かった」

そう言って頬を掻くと、ギルド長は「ふぅ」とため息をついた。

「そうだよ。私は忙しい……ん? お前は暇そうだな?」

ギルド長がニヤリと笑う。若干嫌な予感がするが……。

「いや、まあ、うん。暇だな」

そう答えたものの……ギルド長が面倒事を押し付けたそうな顔をしているのが気になる。

しかし、暇であることは間違いないんだよなあ。使徒として活動するつもりだったから、数日間は予定を入れていない。それがキャンセルになったので、今は全員が暇だ。嘘をついてまで断ることはないか。話だけでも聞いてみよう。

「それは良かった! ちょっと用事を頼んでいいか?」

「内容によるが……みんなはどうだ?」

後ろにいたみんなに同意を求める。

「はい」

「いいわよ」

「どうせ暇だったのだ。構わんよ」

まあ、全員の予定がキャンセルになったんだ。暇なのはみんな同じだ。リーズからは返事がこなかったけど、そっぽを向いてあくびをしているのが見えた。話を聞いていなかったと思われる。暇そうだな。

「というわけだ。用事ってのは何だ?」

「リナーレスの冒険者ギルドに、荷物を届けて欲しい」

「リナーレス?」

聞き覚えのない名前。まあ、知っている街のほうが少ないんだけどな。俺の呟きにリリィさんが答えた。

「北西にある、海辺の街だよ」

「また海辺か……」

海辺の街は行ったばかりなんだよなあ。どうせなら山が良かった、なんて考えていると、クレアが補足した。

「前に行ったところとは違うわよ。かなり古くからある、塩作りで有名な街ね」

前に行ったのは漁が盛んな街だったが、リナーレスは漁よりも製塩が盛んらしい。製塩には興味があるぞ。

日本でも一部では昔ながらの製法で塩を作っているらしいけど、その様子を見たことはない。せっかくだから少し見学したい。まさか、塩も魔道具で作っているなんてことはないよね……?

「なるほど。それで、何を届けるんだ?」

「これだよ」

ギルド長はA4サイズくらいの箱をマジックバッグから取り出すと、テーブルの上に据えた。箱は妙に上質な布で包まれ、その上から革紐でガチガチに縛られている。

「やけに厳重な封印がされているようだが……」

「王城から依頼された、国の重要書類だ。一応言っておくが、勝手に開けるなよ?」

この届け物は王城からの依頼だったようだ。冒険者ギルドは郵便みたいな仕事もやるのか。あれ? この手の依頼って、転移魔法が使える俺にとっては最高の仕事なんじゃないか? 元手ゼロ、すぐに終わる簡単なお仕事。今後は積極的に受けたいな。

まあ、この仕事を引き受けるかどうかは報酬次第だ。別に金に困っているわけではない。しかし、無料で仕事を受けるとろくなことにならないから、しっかりと請求するつもりだ。

「報酬はいくらだ?」

「移動費込で金貨2枚でどうだろう」

「は? ちょっと安すぎるんじゃない?」

クレアがすかさず口を挟んだ。ちょっとご機嫌がナナメらしく、鋭い眼光でギルド長を睨んでいる。俺は相場を知らないが、かなり安い金額を提示されたらしい。

よく考えたら、確かに赤字になるかもしれない額だ。パーティの人数にもよるだろうが、移動費や宿泊費だけで金貨2枚くらい出費してもおかしくない。

「うぐっ……これが精一杯の額なのだ……。察してくれ」

ギルド長は冷や汗を垂らしながら口元を歪めた。払えない事情があるのだろう。王城が報酬をケチったとかね。

安い報酬だけど、俺たちにとっては悪い金額じゃないと思う。身体強化を使って走れば移動時間を短縮できて、転移魔法のおかげで宿泊費を抑えることができる。コストはほとんどゼロだから、丸々利益だ。

転移魔法で行ける場所を増やす意味でも、初めての街には行っておきたい。それで金が貰えるなら願ったり叶ったりだろう。

「まあ、いいんじゃないか?」

「そう? コーがいいなら、それでいいんだけど……」

クレアは不承不承に頷いた。

「すまんな。今回の件には『信用できるAクラス以上の冒険者』という指定があったのだ。条件に合う冒険者がなかなか見つからず、難儀していた」

まるで俺たちを狙ったかのような条件だな……。王都の冒険者ギルドは新人が多く、Aクラスの冒険者が見つかりにくい。その上で信用できるとなると、王とも関わりがある俺たちが適任だ。

「今回だけだからね!」

クレアは強い口調で念を押した。まあ、毎回安い金額を提示されても困るもんなあ。

「うむ。この埋め合わせはいずれどこかで」

ギルド長は安堵したような表情を浮かべて深く頷いた。埋め合わせとやらには期待していいのかな……いや、期待しないで待っていよう。

「じゃ、とりあえず行動開始は明日かな」

「すまないが、頼んだ。本当に助かったよ。受領したときは普通の配達だったのだが、後からAクラスという指定が入って困っていたのだ。『たまたまリナーレスに向かうAクラス冒険者』なんて、そう簡単に現れるものではないからな」

王城のワガママのせいかよ……。今度王に会ったときに文句を言おう。

それはいいとして、配達の依頼は移動のついでに受けるものらしい。そう考えると安い報酬にも納得できる。依頼を受ける冒険者としても、『移動費が浮いてラッキー』という感覚なのだろう。

Aクラスという指定がなければ、喜んで引き受ける冒険者がたくさんいると思う。ギルドもそのつもりで依頼を受領したんだな。そして塩漬け寸前だった、と。冒険者ギルドの仕事もなかなか大変そうだ。

荷物を受け取って冒険者ギルドを後にした。今から出発すると中途半端な場所でキャンプする事になりそうなので、出発するのは明日の早朝だ。ただし、仕事はすぐに終わるだろう。メインイベントは塩作りの見学になりそうだな。