軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王城に行こう2

リッキーとケイトの近況は知ることができた。さっさと王に挨拶して帰ろう。面倒だけど。

最後に2人に声を掛けるため、あたりを見回す。集まったグラッド隊のメンツは、以前と変わっていないようだ。見覚えのない兵士は居ない。

集まった兵士を観察をしていると、リッキーとケイトの姿が確認できた。それと同時にリッキーが俺を見つけ、駆け寄ってきた。

「あれっ? コーさんじゃないですか!」

「よう。様子を見に来たぞ。頑張っているか?」

「はい……」

俺の問に、リッキーは力無く答える。

「どうした? 元気が無いみたいだけど」

俺がそう言うと、グラッド教官が眉間にシワを寄せて口を挟む。

「コーよ。彼らはまだ訓練に参加させておらんのだよ。まだ素振りだけだ」

「そうなんですか? 俺の時は初日から模擬戦だったじゃないですか……」

「お前と一緒にするな。彼らはまだ体が出来上がっていない。まだ素振りと基礎訓練だけだ」

2人の訓練は芳しくないと聞いていたけど、まさかまだ訓練に参加させてもらえてないとはね。

そんなことで大丈夫なのか? 訓練期間は1カ月しかないんだけど……。だからといって、身体強化を教えるのは拙いんだよなあ。あいつらは部外者だ。俺の身体強化は、下手に広めてしまうと危ないんだよ。いくらでも悪用できるから。

あの2人が悪用するとは思えないが、そこから情報が漏れて普及してしまう恐れがある。俺の手が届かないところには教えない方が無難だ。

身体強化を教えた唯一の部外者であるアーヴィンは、ミルジアの貴族だが元日本人だ。見た目よりも経験豊富だからリスクを理解しているはず。そう思って教えた。リッキーとケイトはまだ経験が浅くて心配なんだよなあ。

「そうですか……。そんなんで大丈夫なんですか?」

「努力はする。1カ月間みっちりと訓練をすれば、最低限の技術は身に付くはずだ」

まあ、2人の訓練は始まったばかりだ。教官ができるというのだから、その言葉を信用するしか無いな。

「了解です。よろしくお願いしますね」

俺はそう言って、教官に頭を下げた。

とは言うものの、思ったよりも手間を掛けさせているみたいだ。いずれお礼をする必要がある。何が喜ばれるんだろう……。大鷲屋武器店で怪しい剣でも買って、贈ればいいのかな? 考えておこう。

話をしているうちに、隊員たちが続々と集まってきた。もうすぐ訓練が開始されるだろう。早く帰らないと邪魔になるな。

「人も集まってきましたし、そろそろ御暇します」

俺がそう言うと、教官は不敵な笑みを浮かべて口を開く。

「まあ待て。久しぶりに来たんだ。もう少し付き合え」

ええ……? さっき一回やったじゃん。十分でしょ。

「王のところにも顔を出したいですし……」

「まあ、そう言うな。そっちのお嬢ちゃんはやる気みたいだぞ?」

教官に言われて振り返ると、リーズが元気に鉄の棒を振っていた。なぜだ……。

「リーズ、何をやっているんだ?」

「うーん、こんさん見てたら、運動したくなったのー」

余計なことを……。

たぶん、教官が求めているのは集団戦闘の訓練だ。前にも一度やったことがある。その時はクレアも居たが、俺たちの勝利で終わった。ずいぶんとショックを受けていた様子だったから、リベンジしたいと考えているのだろう。

リーズはやる気だ。俺はどっちでもいい。あとはルナだな。ルナが嫌がったら拒否しよう。

「ルナはどう?」

そう言ってルナに視線を送ると、ルナは困ったような表情を浮かべて言う。

「気は進まないですけど、お付き合いしてもいいですよ。なんとなく、こうなる予感はしていましたから……」

ルナはこの事態を想定していたらしい。お付き合いというか、ドツキ合いなんだけどなあ。まあいいか。

ルナは拒否をしなかったので、訓練に付き合う。まあ、俺たちはリッキーとケイトの件で世話になりっぱなしだから、これくらいはいいか。

「分かりました。一回だけですよ」

「よし! じゃあ、以前もやった集団戦闘訓練だ。ルールは覚えているな?」

ルールは単純明快。2つのチームに分かれて殴り合うだけだ。戦闘エリアの外に吹き飛ばしたら離脱、どちらかが全滅するまで続けられる。

エリアの境界は曖昧で、離脱するかどうかは兵士の意思に委ねられる。ただし、治療が必要なほどの怪我をした場合は強制離脱になる。

ちなみに、攻撃魔法の使用は禁止されている。フレンドリーファイアの危険性があるのと、詠唱中を狙われるだけという理由があるからだ。強化魔法や治癒魔法は使ってもいい。ただし、使えるもんならな。普通なら、詠唱中に殴られて終わる。

以上が乱戦訓練のルールだ。改めて考えると、ずいぶん野蛮なルールだよなあ。

「大丈夫です。でも今回、俺たちは3人しかいないですからねえ……」

前回はクレアも居たので、こっちは4人だった。対するグラッド隊は、今日も前回と同じく30人ほど居る。4対30の時点でもかなり不利なのだが、今回はさらに不利だ。

「よし、分かった! それならあの2人を、お前たちのチームに入れよう」

足手まといを増やしてどうするんだよ! 余計に不利になっただろうが!

「やった!」

「お願いします!」

俺が抗議をする暇もなく、リッキーとケイトは諸手を上げて喜んだ。拒否したら泣き出しそうだな……。仕方がない。こっちのチームに入れてやるか。

まあ、この提案は冒険者の訓練にもなるはずだ。冒険者の依頼の中には、護衛の依頼も結構ある。Cランク以上じゃないと受けられない、高難易度の依頼だ。その依頼を受けた場合、こういった事態は十分に考えられる。

「ルナとリーズはどう? それでも大丈夫?」

「いいよー! 頑張る!」

リーズはあっけらかんと言う。どうやらリッキーとケイトが入るデメリットを理解していないらしい。2人のお守りをしながら戦うの、滅茶苦茶大変だと思うよ?

「大変そうですけど、頑張ります……」

ルナは理解したうえで納得したらしい。

こんなケースは初めてになるかな。俺たちは冒険者の依頼をほとんど受けていないので、護衛対象が居る状態での戦いに慣れていない。この場を借りて練習させてもらおう。

「こっちは了解です。では始めましょうか」

俺がそう言うと、教官はニヤリと笑って頷いた。

「総員、戦闘準備! 考えうる最高の装備を持って集合せよ!」

教官の宣言とともに、集まった兵士が武器を手にして準備運動を始めた。腱を伸ばしたり、柔軟体操をしたりしている。本気だな……。まあ、俺たちは30人を相手に一度勝っているからなあ。油断する気は一切ないのだろう。

俺たちも柔軟体操をしながら待機していると、1人の兵士が近付いてきた。

「今日は負けねえぜぇっ! へっへっへ!」

えっと……誰だっけ……? 見覚えはあるんだけどなあ。俺と一緒に訓練を受けていた、若手の隊員だ。可もなく不可もない顔立ちで、強さも標準。なんというか、物凄く印象が薄いお兄さんだ。

ずいぶんと自信があるみたいだけど、秘策でもあるのかな……?

怪訝な目で名もなき隊員を見ていると、ギルバートが陽気に笑いながら近付いてきた。

「ははは。こいつなあ、お前らに負けてから、超頑張ったんだ。舐めて掛かったら怪我するぜ?」

「そうなんだ。それは気を付けないとなあ」

「俺だって、最近かなり強くなったんだぜ? 以前と同じだと思うなよ!」

ギルバートはそう言うと、自分の胸をドンと叩いて口角を上げた。自信満々なところ悪いんだけど、ゴブリン以外の敵は居ないんじゃないかな。

グラッド隊は、もともと斥候部隊だ。王城の警備をしているのは、訓練のために王城に居ることが多いから。付近の魔物を討伐しているのは訓練の一環だ。本来の任務はミルジアの調査と警戒で、怪しい動きが見られたら現地に派遣されることになっていた。

ミルジアは戦争を煽動していた神が居なくなったので、アレンシアに攻め込む理由が無くなった。絶対に安全とは言えないが、ミルジアが攻めてくる可能性は限りなく低い。そのため、グラッド隊は本来の仕事を失ってしまった。

「マジ? 平和になったんだろ? そんなに訓練を頑張る意味があるのか?」

「……平和になったからだよ……。訓練しかやることが無いんだ。ゴブリンだって、無限に湧いてくるわけじゃないからな」

ギルバートはそう言って、少し寂しそうな表情を浮かべた。

「でも、兵士なんて仕事が無いくらいでちょうどいいだろ」

「まあな。でも最近、俺たちの部隊は『給料泥棒』って呼ばれてんだ。さすがに気にするぜ……」

平和も良し悪しだなあ……。教官も嘆いていたし、隊全体の士気も落ちているみたいだ。もう、王城と王都付近の警備に専念したらいいんじゃないかな。その方が、喜ぶ人が多いと思うよ。

しかし、グラッド隊を存続させる意味はある。王や教官は、一部の過激派が「ミルズの敵討ち」と言いながらアレンシアに攻めてくる可能性を考えているはずだ。国同士の戦争にはならないだろうが、危険が無くなったわけではない。

ギルバートたちと雑談をしていると、突然教官の大声が響いた。

「準備はこれくらいでいいだろう! そろそろ始めるぞ!」

ギルバートや名もなき兵士が「イエッサー!」と叫んで教官のもとに走っていった。

ルナとリーズに目配せをして、俺も準備完了を宣言する。

「了解です! いつでもどうぞ!」

俺の声が教官に届くと、教官は真面目な顔で話し始めた。

「あ、ちょっと待て。コーにはルールを追加するぞ。リッキーとケイト、その両方が戦闘不能になった時点で終了とする」

こっちサイド、不利すぎない? 勝利条件が厳しすぎるぞ。ハメられた感が半端ないんだけど……。

でも、ルールとしては正しいな。これが任務だった場合、護衛対象を失った時点で任務失敗だ。俺の負けということでいいだろう。両方というより、どちらか1人が脱落した時点で負けなんじゃないかな。

せっかくの訓練なんだから、より実戦に近いルールにした方がいい。

「いいですよ。リッキーとケイト、どちらかが戦闘不能になった時点でこちらの負けです」

というわけで、ルール改定。さらに不利になったわけだが、訓練は困難なくらいでちょうどいい。

「……それは難しすぎないか?」

教官は申し訳なさそうに言う。そんなの今更だって。リッキーとケイトを背負わせた時点で、超ハードモード確定なんだよ。

それに、護衛対象が1人でも2人でも、あまり変わらないと思う。大変なのは間違いない。いや、かなり変わるか……。ルナとリーズに護衛を任せて、俺1人が前線で戦うことになるのかな?

まあ、敗北条件が両方の離脱だったとしても、2人とも護衛しなければならないんだ。やっぱり変わらないな。

「大丈夫です。どうにかしますよ」

俺が苦笑いで答えると、リッキーが突然叫んだ。

「待ってください! 僕も戦えますよ!」

お荷物扱いされている空気を肌で感じ取ったのだろう。プライドが許さなかったようだ。

「リッキーよ。そういうことは、まともに訓練に参加できるようになってから言うのだ……」

教官は、呆れたような表情を浮かべて言う。

2人はまだ素振りしかやっていないので、まともな戦力になるとは考えられない。攻撃魔法が有効なら多少は戦力になるだろうが、この訓練では役に立たない。

そもそも詠唱魔法の成り立ちを考えると、全く兵士向きじゃないんだ。神である カベル(ルミア) は、魔物に対抗するために魔法を作ったと言っていた。対人戦は考慮されていない。

魔物は一部の例外を除いて言葉が通じないので、人間が魔法の詠唱を始めても気付かれない。だが、人間を相手に詠唱を始めたら、確実にバレて狙い撃ちされる。

もし無事に発動できたとしても、放たれた魔法はそのまま直進するので、仲間に当たるかもしれない。乱戦になる白兵戦では使い勝手が悪すぎるんだ。そのため、アレンシアでは部隊が分けられている。

「そうですけど……でも……」

リッキーが不満げに漏らすと、ケイトが諭すように言う。

「兄さん……。参加させてもらえるだけで十分だよ?」

教官の意図を考えると、今回の訓練はつまりそういうことだろう。戦いの緊張感を体験させるため、2人を参加させる。訓練で技術は身に付いても、乱戦の緊張感を体験するチャンスは少ないはずだ。

「ま、そういうことだ。お前らは無理をするな。怪我をしないことだけを考えるんだ」

チョロチョロと動き回り、俺たちの邪魔をする可能性まで織り込まなければならない。ハードな訓練になりそうだ。