軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王城に行こう1

クレアの薬草採取の特訓は、3日ほど続いた。クレアはまだまだ十分とは言えないという顔をしているが、そろそろリッキーとケイトの様子を見に行きたい。

グラッド教官には手紙を書いただけなので、一度直接あいさつをしておいた方がいいだろう。

「今日はアレンシアの城に行くけど、行きたい人居る?」

いつものアンケートだ。

「お供します」

ルナはいつものように、真っ先に立候補した。

「あたしも行くよー」

リーズもいつもどおりの反応だ。リーズは一箇所に留まるのが苦手なようで、外出の提案をするとたいてい乗っかる。

「私は……行きたいが、まだ魔道具の開発が……」

リリィさんは泣く泣く辞退。製作中の魔道具が、思うように動かないらしい。何を作っているのか知らないが、リリィさんにとっては一大事だ。

「アタシも今回は遠慮するわ。もう少しこの森で練習したいの」

クレアは1人で薬草採取の特訓を続けたいらしい。まあ、この森は魔物が居ないから1人でも危険は少ないし、マップがあるから道に迷う心配もない。それに、いざとなったらスマホで助けを呼べる。

「そっか。分かった。危ないことがあったら、すぐに呼べよ」

「この森で危ないこと? 何かある?」

「油断禁物だ。家から一歩でも外に出たら、用心しろ」

「分かったわ……。そういうことだから、あの2人には言わないでね。ポーションを作っているって言っておいて」

プライドの問題らしい。そういうことにしておこう。嘘ではないしね。

出発の準備を終えたら、最後に熊のダイキチの世話をアーヴィンに依頼する。同行しないと言っても、リリィさんは作業があり、クレアは森に行く。頼めるのはアーヴィンだけだ。

「じゃ、アーヴィン。ちょっと行ってくるから、ダイキチの世話を頼んだよ」

「本当に僕がやるの……?」

「エルフじゃ危険だし、カベルは役に立ちそうにない。お前しか居ないんだよ」

エルフはじゃれてきただけでも大怪我する恐れがあるので、絶対に無理。カベルは端から戦力外だ。となると、頼めるのはアーヴィンしか居ない。

「確かにそうかもしれないけど……」

アーヴィンは、物凄く嫌そうに顔を歪めた。そんなに嫌がったら、ダイキチが可哀相じゃないか。仕方がない。物で釣るか。

「帰りに土産を買ってきてやるから。なにか欲しいものはないか?」

「そんなことを言われたって……」

アーヴィンは、まだ渋い顔をしている。欲しい物が思いつかないようだ。だったら、違う物で釣るだけだ。

「分かった。リボルバーの改善で手を打たないか?」

「いいの!?」

アーヴィンは、飛び上がって喜んだ。効果はてきめんだ。今後アーヴィンを動かしたい時は、この手を使おう。

当初マグナム弾並の威力があると思われたリボルバーだが、実際に使ってみたらもっと弱かった。比較対象が無いのでなんとも言い難いが、どうにか銃として機能している程度の威力だ。

アーヴィンの魔力不足が一番の原因だと思うので、効率を上げてやれば改善されるはず。

「ああ。帰ったら、できる限り強化してやる」

俺がそう言うと、ルナが引き攣った顔で口を挟んだ。

「えっと……コーさんがやるんですか?」

「そうだな。ルナがやりたかった?」

「いえ、その……コーさんはやりすぎるので……」

ルナは申し訳無さそうに言う。俺がいつやりすぎたんだ? いつもできる範囲のことしかやっていないぞ。今回も、初速を上げる程度の改善を施すだけだ。

「いやいや、常識の範囲内で改造するだけだ。強すぎたらアーヴィンが危ないだろ」

「そうですよね。くれぐれも、控えめにお願いします」

ルナは安心したように言うと、笑顔を浮かべた。

「期待して待ってるから! 熊の世話は任せといて! 早く帰ってきてよ!」

アーヴィンは張り切った様子で言う。期待されているなあ……。俺も少しは張り切った方がいいのかな。後で改造プランを考えよう。

これで準備は完了だ。王城の屋根の上、目立たないところに転移した。

まず向かうのは、兵営区域にある訓練場だ。まだ少し早いような気がするが、誰かは居るだろう。

訓練場に顔を出すと、グラッド教官が1人で素振りをしていた。いつもなら教官の登場は最後だった。今日は珍しく一番乗りをしているらしい。

「こんにちは」

「久しぶりじゃないか! 今まで何をしていたんだ!」

俺が声を掛けると、教官は剣を止めて笑顔で大声を出した。

「お久しぶりです。お元気そうですね」

「そうでもないよ……。ミルジアの態度が軟化したせいで、私に対する圧力が一層強まった」

急に教官の顔が曇る。元気そうに見えたが、何かあったらしい。

ミルジアはアレンシアと敵対する理由がなくなったので、国境の警備が薄くなった。今は少しずつ交易が増えていっている。平和になったはずなんだけどなあ。

「どういうことです?」

「今まではミルジアの情勢を盾に現場に残り続けたのだが、遂に司令官を押し付けられたのだ。今後は城から出られん……」

グラッド教官は心底寂しそうな表情を浮かべた。出世したのに悲しむって……。

「それだけ平和になったんですから、いいじゃないですか」

「平和になったのだから、司令官など要らんと思わんか? 魔物にだけ注意を向ければ問題ないだろう? それなら、現場の人間を1人でも増やすべきだ」

教官は、現場に出るための言い訳を必死で考えているらしい。

「俺に言われても困りますって。そんなことは、王に直接言ってください」

「くぅ……それもそうだな」

教官はそう言って、苦々しく口元を歪めた。

それよりも、本題に入ろう。今日は愚痴を聞くために来たわけじゃないんだ。

「ところで、俺が押し付け……依頼した2人なんですけど、様子はどうですか?」

「ああ、そうだったな。突然手紙を持ってきたから、驚いたよ。それも二度も」

「最近、ちょっと王城に顔を出しにくかったんです。手紙で失礼しました」

「ふむ……例の件だな?」

教官は、そう言ってニヤリと笑った。例の放送の件だ。俺は使徒として活動することを押し付けられた。だが、あまりにも面倒なので、全力で無視している。

ここに来たら絶対に突っ込まれると思い、今日まで避け続けていた。いい加減、王にも挨拶しないと拙いよなあ。

「そうですね……。俺としても予定外だったんで、困っているんですよ。手伝ってくれません?」

「私が司令官でなければ、いくらでも手伝うんだがなあ。お前、王に進言してくれないか?」

「そんなことは自分で言ってくださいよ……。それで、例の2人はどうです?」

「頑張っておるぞ。だが、今はそんなことよりも一度手合わせをしよう」

そんなことって、それが俺の用事だったんだけどなあ……。教官は、一度模擬戦をしないと納得できないみたいだ。まあいいか。模擬戦をしながらでも話はできる。

「分かりました。とりあえずやりましょうか」

俺はそう言うと、マジックバッグから模擬戦用の警棒を取り出して構えた。

「よしっ! では行くぞ!」

構えると同時に、教官が向かってくる。

教官が持っているのは、身の丈ほどもある大剣だ。滅茶苦茶重そうなのだが、片手で軽々と振るっている。まるでダンボールでできているではないかと思うほどだ。

警棒で受け流し、教官に声を掛ける。

「さっきの話の続きです。2人の様子はどうです?」

「ぬっ! 戦いに集中せぬか!」

教官は、剣を振りながら怒鳴った。

「いいじゃないですか。それとも、集中しないと戦えませんか?」

「くっ……頑張ってはおるのだが、正直期待外れだよ。コーの紹介だからと期待しておったんだがなあ」

教官は、大剣を横薙ぎに振りながら答えた。雑談をしながらだが、行動は殺意にあふれている。手を抜く気は一切ないのだろう。俺はバックステップで剣を躱し、会話を続ける。

「まだ若いですし、これからですよ。それに、一流兵士になるまで訓練してもらおうとは思っていませんから。Eランク冒険者に相応しい程度でいいんです」

「ふむ……努力するが、あの2人は剣士には向いておらんぞ」

次は上から勢いよく振り抜かれた。体重が乗った、強力な一撃だ。横に飛んで躱し、カウンターで顔面に突きを入れる。

「そうなんですか?」

俺がそう言うと、教官は後ろにのけぞりながら答えた。俺の攻撃は当たっていない。

「特に妹の方。あれは魔法使いにした方がいいだろう。2人とも体格が悪すぎるのだよ。大剣はおろか、片手剣でも体格が負けてしまうぞ」

2人は小柄な俺よりもさらに小柄で、体格に恵まれているとは言えない。リッキーはこれから成長することが期待できるが、ケイトはそうでもないだろう。いっそ魔法専門になった方がいいのかもしれない。

「とは言え、接近戦ができないのは危険ですからねえ。多少は使えるようになってほしいです」

「まあ、そうだなあ。できる限りの特訓はするが、お前も過度な期待を寄せるんじゃないぞ」

「分かっています。それに、あの2人は薬草採取が向いているんです。過度な戦闘力は必要ありませんよ」

「そうかあ。だが、せめてゴブリンの群れの1つくらいは殲滅できるようになってもらわんと、困るぞっ!」

教官は語気を強め、振り下ろした剣を振り上げた。燕返しとかいう技だな。日本刀でやる技だと思うんだけど、クソ重い大剣でもできるんだなあ……。

警棒で大剣を弾き返しながら返事をする。

「それは同感です。ゴブリンなんかに負けていては、森の中で活動することはできませんから」

「く……これでも当たらんのか……。まあ、1カ月もあれば、ゴブリンなんぞに引けをとらんような技術を身につけられる」

教官は、少し会話が疎かになってきたみたいだ。もっと会話に集中してくれよ。

「それについては期待していますよ。できれば、大型のボアくらいは討伐できるようになってもらいたいですね」

そう言いながら、連続で向かってくる突きを警棒で丁寧に弾いた。教官の突きはかなり素早い。まるで軽量の刺突剣でも使っているかのように、華麗な突きを飛ばしてくる。片手持ちの大剣だよな? 器用な戦い方だ。

「なぜ当たらない……。いや、無茶を言うなよ。大型のボアは、数人掛かりで討伐するものだ。2人で討伐するには、まだまだ早い」

いやいや、教官はボアの始末を俺1人に押し付けただろうが。かなり小さいサイズだったが、それなりに苦労したんだぞ……。

「まあ、無理にとは言いませんから。できるだけ鍛えてやってください」

そうこうしている間に、ギャラリーが集まってきた。訓練の開始を待つ隊員たちだ。邪魔になってしまうな。そろそろ終わりにしよう。

俺は大剣を持つ腕の手首に向けて警棒を振った。バキッと耳障りな音が響くと、教官は剣を地面に落とした。

「くぅ……話しながらだというのに、手を抜く気はないのか……?」

その言葉、そっくりそのままお返しするよ。終始全力だったじゃないか。燕返しなんて技、初めて見たぞ。

「一応、本気の勝負だったじゃないですか。今日はこれで終わりです」

そう言って警棒を仕舞うと、ルナが血相を変えて駆け寄ってきた。

「コーさん、模擬戦中は模擬戦に集中してくださいっ!」

怒られた……。模擬戦中に割って入るのは悪いと思ったのだろう。模擬戦が終わるまで、言いたいことを我慢していたようだ。

でも、教官との模擬戦は遊びみたいなものだからなあ。

「同時に話もできて、一石二鳥だと思ったんだけど……」

「話なんて、模擬戦が終わってからすればいいじゃないですか。危ないでしょ?」

「うーん、訓練に使うのは、刃が付いていない武器だしなあ。そんなに危なくないと思うよ?」

「クレアさんには用心をするように言ったのに、自分は無警戒じゃないですかっ! 気を抜きすぎです!」

逆に、ルナは心配しすぎだと思う。多少怪我をしたところで、魔法があるからすぐに治る。現に、ポッキリ逝っていた教官の手首は、もう何事もなかったかのように元通りだ。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。教官だって、もう治っているじゃないか。それより、教官も治癒魔法が使えたんですね」

「ふん。この程度の怪我に治癒魔法は要らん。骨折など、慣れれば筋肉で保持できるのだよ」

治癒魔法ではありませんでした。この人、本当に人間なのかな? ちょっと疑わしくなってきた。そういえば、ボナンザさんとは旧知の仲だと言っていたよな……。教官も人間じゃないんだな、きっと。

「やっぱり危ないじゃないですか……」

ルナは呆れ顔で言うが、危ないのは怪我じゃなくて、グラッド教官本人だと思うよ。なんにせよ、2人の状況は把握できた。次は王に会いに行くかな。面倒だけど、このまま帰ったら、後で何を言われるか分からないからなあ。