軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者、営業中3

出発の準備を整えたら、改めてリッキーとケイトの装備を確認する。安っぽい革鎧を着て、これまた安物っぽいロングソードを腰にぶら下げている。

2人は一般的な冒険者のスタイルを真似ているようだ。装備品の質に関しては、駆け出しだから仕方がない。装備品がすぐに壊れそうなことを除き、問題は特に見当たらない。宿を出て冒険者ギルドに向かう。

冒険者ギルドに入ると、すぐに依頼票を確認した。今日の目的は薬草採取依頼の受諾だ。複数ある依頼票の中で、1つ気になる依頼を見つけた。

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薬草の採取

報酬:銀貨1枚/1本

難易度:E

備考:

シロネの採取。

最低5本、100本まで買い取り可。

程度により買い取り拒否有り。

見分けと的確な採取が必要。

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比較的簡単なよくある採取依頼だ。シロネとは、日本で言う『セリ』によく似ている。セリとは冬の終わりから初春にかけて割と早い時期に見られる山菜で、旬の時期に水場に行けばいくらでも生えている。

しかし、日本のセリと同じだとしたら時期が少し早い。おまけに相場よりも報酬が高いような気もする。

「クレア、どう思う?」

「どうって、彼らに決めさせないとダメよ。そういう規則なんだから」

クレアに意見を求めたのだが、俺たちが先に答えを出すのは良くないらしい。俺の時はどうだったかな……。確かに俺が勝手に決めていたような気がする。リッキーとケイトに聞いてみよう。

「お前らはこの依頼をどう思う?」

「シロネ……今の時期、ありますかね?」

「まだ生えていないと思います……」

2人も同意見のようだ。やはり日本のセリと同じか……。頑張って探せばもう生えているだろうが、すぐに見つかるようなものではない。この依頼は地雷だな。

相場から見るとやや高値なところも怪しいポイントだ。報酬につられて受けたら大変な目に遭う。

「正解。この依頼はパスね。他に受けられそうな依頼はある?」

クレアがニッコリと笑ってリッキーとケイトに問い掛けた。

他にも薬草採取も無くはないが、見るからに地雷。時期が悪いうえに安い。今受けられそうな依頼は、壁修理や屋根修理、配達などの雑用だ。

「……今日は無いみたいです」

ケイトはすぐに結論を出したが、リッキーはまだ何かを考えている。

「修理なら、なんとか……」

考えた結果、壁修理を選んだ。

「ん? やったことあるのか?」

拙いな。俺たちは実務経験が無いから教えることができない。ランクアップ試験の時に知識だけは身に付けたが、教えるには不十分だ。

「ごめんなさい……。無いです」

リッキーは申し訳なさそうに俯いた。するとすかさずクレアが注意をする。

「だったら受けるべきじゃないわよ。修理中に壊したら弁償だし、仕上がりが悪かったら減額されるわ」

ふう。教えなくても済んだぞ。本来なら修理依頼についても指導するべきなのだろうが、俺たちでは経験不足だ。悪いけど、2人にはEランクになってからプロに教わってもらおう。

「まあ、仕方がないな。今日はナシだ。依頼を待つのも仕事のうちだぞ。ちょうどいい依頼が来るまで待とう」

「すみません……」

リッキーとケイトは意気消沈した様子だ。やる気に水をさされてしまったようだ。しかし、せっかくのやる気だ。無駄にするのはもったいないぞ。依頼を待っているうちに、金の稼ぎ方を指南しておこうかな。

冒険者ギルドのシステムは依頼だけでも十分な報酬を得られるようになっているのだが、多くの依頼を受けられない低ランクの冒険者にはなかなか難しい。

それに、高ランクであっても依頼の報酬だけで生活している冒険者は少ない。今日は待ち時間を利用して、稼ぎ方の1つを教える。

「依頼を受ける前に、金を稼ぐ方法を教えておく。誰にでもできる簡単なことだ」

うーん、自分で言っておきながら、物凄く胡散臭いセリフだな。でも、言っていることは事実だ。1カ月分の宿代くらいは1日で稼げる。

「何をするんですか?」

「まあ、早い話、ただの狩りだよ。大物を狙うんじゃなくて、雑魚を大量に狩るんだ」

大物を狩ることができればもっと楽なんだが、それなりに強いからこの2人では危険だ。それに、大物を狙って探すのはかなり骨が折れる。それこそ依頼そっちのけで探すくらいにね。本末転倒だから、2人には地道な雑魚狩りを薦める。

「……ウサギですか?」

ケイトがポツリと呟いた。王都の周りはウサギだらけ。これは誰でも知っている。ただし、俺が言っているのはそうじゃないぞ。

「残念だがハズレだ。ウサギは買い取りが安すぎるから、効率が悪いんだよ。ウサギを専門に狩っている冒険者は居るけど、特殊な方法を持っていないと真似できない」

ウサギは毛皮と肉が売れるのだが、買取額がとても安い。数匹程度じゃ小遣いにもならないくらいだ。そのくせ、現れる時は単体で出てくるので、狩ろうと思ったら探す手間がかかる。とても効率が悪いんだ。

専門家たちがどうやって生計を立てているのか、俺は知らない。でも、余程特殊な技術がないとたぶん無理。おそらくウサギを集めて一網打尽にするノウハウを持っているのだろう。

「じゃあ、どうやって……」

「森に行くんだよ。王都の東にある森だ。ゴブリンがアホみたいに居るから、狩り放題だぞ」

「あの……ゴブリンも安いですよね?」

「数で稼ぐんだ。ウサギと違って一箇所に固まっているから楽なんだよ。1匹見つけるだけで大丈夫」

ゴブリンなら1匹見かけたら4、50匹居ると思っていい。ウサギと同じくゴブリンも雑魚だが、大量狩りをするならゴブリンを狙いたい。

俺の提案に、リッキーとケイトは難しい顔をしたまま固まってしまった。それを見かねたクレアが恐る恐る口を挟む。

「ねぇ、ちょっといい?」

「ん? どうした?」

「あの子たちくらいの冒険者って、ゴブリン1匹倒すだけでも一苦労よ?」

「マジで?」

「マジで」

クレアが真顔で頷いた。

……そういえば、ゴブリンに囲まれて死にかけている連中を見たことがあるな。駆け出しの冒険者は戦闘が苦手らしい。どうしよう……「誰にでもできる」って言っちゃったし。

「分かった。まずは少しだけ訓練しよう」

せめてゴブリンくらいは無双できるようになってほしい。でないと、薬草採取にも支障をきたす。薬草が生えているのは主に森の中だ。森に棲むゴブリンに出会わないわけがない。

「稽古をつけてくださるんですか!?」

ケイトが目を輝かせた。

俺に期待しているようだが、教えられるような技術を持っていない。俺の戦闘スタイルは、マチェットを振り回すことに特化している。普通の冒険者の戦い方じゃない。

そもそも、剣術なんてまともに習っていない。剣術の訓練をしたのは王城で暮らしていた約1カ月だけ。その時に使っていた両手剣ですら、未だに下手なままだ。ましてや2人が持っているような片手剣は、使ったことも無い。

「俺じゃないぞ。俺に稽古をつけてくれた教官にお願いする」

ありがたいことに、王城では訓練の体験をできる制度がある。この訓練は全く人気が無いので、飛び入りでも参加させてもらえる。

「コーさんの師匠……ですか?」

「まあ、ちょっと違うけどそんなところだ」

たぶん対応するのはグラッド教官になる。俺の紹介だと言えば、喜んで稽古をつけてくれるはずだ。

「あの……大丈夫でしょうか?」

今度はルナだ。物凄く不安そうな表情を浮かべて、そわそわしている。

「何が?」

「 あ(・) の(・) 訓練ですよね?」

あ(・) の(・) って何? そんな大層な訓練じゃないと思うんだけどなあ。軽く素振りをして、本気で模擬戦をするだけだ。殴られればそれなりに痛いが、すぐに治療してもらえる。

「たぶんそれだ。大丈夫だろ。死にはしないよ」

「頑張りますっ! 受けさせてください!」

リッキーは目を輝かせて言う。本人のやる気は十分だ。

「ほら、本人もこう言っている。心配ないよ」

「……頑張ってください」

2人の張り切った様子を見て、ルナは諦めたように言った。

そうと決まればさっそく出発する。王都で問題が発生しているような情報は俺の耳に届いていないので、今日も通常の訓練メニューが予定されているはずだ。その訓練の中に2人を放り込む。

2人には紹介状を書いて持たせた。王城の門番に渡せば、速やかにグラッド教官のもとに案内されるだろう。

「コーさんは一緒じゃないんですか?」

「ああ、今日はパスだ。たぶん、俺が行ったら訓練どころじゃなくなる」

カレルの放送以降まだ城に顔を出していないので、今行ったら絶対に何か聞かれるだろう。訓練の時間が潰れてしまう。

それに、グラッド教官に模擬戦を申し込まれると思う。そうなったら教官が倒れるまで終わらない。そして訓練がうやむやになってヌルっと終了する。だから、俺が行っても妨害にしかならないと思う。

「そうですか……」

リッキーは寂しそうに呟いた。

「まあ、兵士はみんないいヤツだ。心配は要らない」

「分かりました……。頑張ります」

リッキーが覚悟を決めたような表情で遠くを見ると、ケイトからも質問が飛んできた。

「ところで、宿はどうしましょうか……。今から王城に行ったら、今日中には帰れません」

しまった。この2人の移動手段は馬車しか無いんだった。

街の中を周回している辻馬車は、歩きと変わらないような速度で動いている。そのため、馬車を利用すると王城まで数時間掛かってしまう。普通は王城付近で一泊するらしいが、それだといろいろ面倒だよなあ。

「俺たちが送迎してやるよ。日帰りできるぞ」

「送迎……?」

「お前らを抱えて走るだけだ。俺たちが走れば、王城まではすぐだよ」

リッキーは俺がおんぶする。ケイトはリリィさんに任せればいいかな。年長者だし、背が高いから安定すると思う。

ルナとクレアとリーズを宿に残し、リリィさんと2人でリッキーとケイトを背負った。準備が完了したら屋根に駆け上がる。あとは王城に向かって直進するだけだ。

周りの景色が高速で流れていく。体感だと、時速80kmくらいだ。本気を出せばこんなものではないが、今は街の中だしリッキーを背負っている。速度を出しすぎないように気を付ける。

「ヒェッ……」

俺の背中から、リッキーの情けない悲鳴が聞こえてきた。

「どうした?」

「こんなところをヒッ! 走るフォッ! って聞いてないです!」

ところどころ悲鳴が混じってよく聞き取れない。辛うじて聞き取れた単語から推測する限り、屋根を走るのが納得できない様子だ。

「俺たちのいつものルートだ。慣れろ」

こう言うしかないんだよな。俺たちの速度だと、道路を走る方が危険なんだ。万が一歩行者と衝突したら大惨事になる。いくら気配察知で歩行者を把握していたとしても、不慮の事故は避けられない。

「そんなことを言われても……ウヒャッ」

リッキーは細かく気持ち悪い悲鳴を上げながら、必死で俺にしがみついている。小脇に抱えた方が良かったのかな……。アーヴィンを抱えて走った時は、こんなに悲鳴を上げなかったんだよなあ。

ふと気になって、ケイトを背負っているリリイさんを見た。いつものように無駄な動きがやたらと多い。用もないのに地上に降りたり、意味もないのに宙返りしたり……ケイトを背負っていることを忘れているみたいだ。ケイトはよく我慢できるな……。

リリィさんの無駄に洗練された無駄にしかならない無駄な動きを眺めているうちに、王城に到着した。リッキーを地面に下ろしてケイトに話し掛ける。

「ケイト、着いたぞ……ケイト?」

「ぅぇっ? あっ! すみません!」

気絶していただけだった。どうりでおとなしかったわけだ。完全に人選を誤った。ケイトに悪いことをしたな……。普通に走るクレアに任せれば良かった。

「じゃあ、夕方また迎えに来るから、教官によろしく言っておいてくれ」

「……はい。行ってきます」

2人は訓練を始める前から足腰が立たない様子だ。特にケイトは、まだ目の焦点が定まっていない。リリィさんにしがみつくだけで体力を使い果たしたらしい。大丈夫かな……。

少し心配は残るが、グラッド教官なら上手くやってくれるだろう。訓練はグラッド隊のみんなに任せて、俺たちは自由行動だ。