作品タイトル不明
閑話 コーが居ない1日
「あれっ? コーさんはどちらに行かれました?」
「あ、ルナ。お疲れ様。1人で王都に行ったわよ。いつものコートを修理しに行くって。金色のコートじゃ目立つから」
お城の中を掃除しているクレアさんにお尋ねしました。私が食事の後片付けをしているうちに、コーさんの気配がお城から消えたんです。
エルミンスールのお城は広いですが、気配を追えなくなるほどではありません。コーさんが転移魔法を使ったのでしょう。
「そうなんですか……」
「すぐに帰るとは言ってたけど、何か用だった?」
「いえ。どこにもいらっしゃらないようでしたから、気になったんです」
コーさんと別行動になることは珍しいことではありません。でも、出掛けるなら一声掛けてくれてもいいのに……。
「気になるんだったら、スマホで連絡すればいいじゃない」
「急用というわけではありませんし、大丈夫ですよ」
緊急時には連絡がつくので、別に心配はしていませんよ。ただ、外出するなら私も行きたかっただけです。
いらっしゃらないのなら、今日は1日自由に過ごしましょうか。
……暇です。やることがありません。掃除はクレアさんが全部やってくれますし、エルフさんたちも掃除を手伝いに来ます。私はもともと掃除が得意な方ではありませんし、余計な手出しはしない方がいいですよね。
アーヴィンさんは外でリボルバーの練習をしているみたいですし、ルミアさんは寝ています。2人の邪魔はできません。
となれば、リリィさんですかね。たぶん魔道具の研究をしているので、私にも参加させていただきましょう。
リリィさんが実験に使っている部屋に来ました。
「リリィさん。何かお手伝いをすることはありませんか?」
リリィさんは、宮廷魔道士の中でも少し異質な方。魔道具作りは工程ごとに専門の係に任せるのですが、リリィさんだけは全ての工程を1人でできます。
魔導院では得意なエンチャントばかりをやっていましたが、趣味となると話は別。1人で何でも作っているようです。趣味で作った魔道具が市販されることもあるくらい、凄い方なのです。
「ああ、ルナくん。今は間に合っているよ。ゆっくり休んでいてくれたまえ」
断られてしまいました。そうですよね……。研究は1人の方が捗りますから。
仕方がありません。リーズさんに相手をしてもらいましょう。でも、リーズさんは元気が良すぎるので、一緒に遊んでいると体力が持たないんですよね……。
リリィさんの部屋の扉に手を掛けると、突然扉が開きました。
「リリィ! できたよー!」
その扉から、リーズさんが元気よく飛び込んできました。
「リーズさん、何をしていらっしゃるんですか?」
「あ、ルナ。リリィの手伝いだよー」
え? 私の手伝いは断るのに、リーズさんにはお願いするんですか? ちょっと納得できません。私だって魔道具作りには自信がありますのに。
「リーズさんがお手伝いをするのなら、私がお手伝いしてもいいですよね?」
「あ、ゴメン! 除け者にするつもりは無かったんだ。ルナくんは食事の準備で忙しいだろう? だから、暇そうなリーズくんに頼んだのだよ」
リリィさんが申し訳なさそうな顔をしています。不満が顔に出ていたんですかね……。気を付けないと。
リリィさんが作っていたのは、魔導院に居た時から研究をしていた魔道具。リリイさんは『昇降機』と呼んでいました。見た目は大きな木の板で、物を乗せて宙に浮くという話です。
これが完成したら、階段が無くても二階に行き来できる、画期的な魔道具になりますね。コーさんも喜んでくれそうです。
でも、一度試作品を見せていただきましたが……。宙に浮いたと思った次の瞬間、空の彼方へと飛んでいきました。もし人が乗っていたら大惨事になるところでしたよ。
今日は大丈夫でしょうか……。
「よし。準備は整ったぞ。さっそく試そう」
「外じゃなくてもいいんですか?」
前回は屋外でしたが、今はリリィさんの研究室の中です。
「どこかへ飛んでいったら、試作品を回収できないだろう。屋内なら失敗しても安心だ」
確かに、上に行き過ぎても天井で止まるので、どこかへ行ってしまう心配はありませんね。
昇降機の起動は、軽く魔力を通すだけ。ランプと同じです。起動時に通した魔力の量に応じて、宙に浮いている時間が伸びるそうです。
さっそく魔力を通しました。実験なので、少しだけ……。
『シュッ! パァン!』
目の前の板が、物凄い勢いで天井にぶつかって、粉々になりました。細かい木屑が部屋の中に飛び散ります。
「……これに乗るんですか?」
「いや……こんなはずでは……」
「普通の人なら死んじゃうねー」
どう見ても失敗ですね。リーズさんの言う通り、普通の人がこれに乗ったら死んでしまいます。何が悪いのでしょうか……。
「魔法陣を見せていただけませんか?」
「ああ、そうだな。ルナくんに設計してもらった方が安心だ。任せるよ」
リリィさんから1枚のメモを受け取り、内容を確認しました。限界まで強化する設定になっていますね……。まるでコーさんが設計に口を出したみたいです。
コーさんは、常々『強くできるなら限界まで強化しよう』と言っています。その結果、ただの掃除機が武器になってしまうほどに……。いつも少しやりすぎなんです。
「これ、コーさんの指示ですか?」
「違うぞ。私の独自設計だ。どうしてそう思った?」
「強すぎです。もっと出力を弱めてください。コーさんの設計みたいですよ?」
「げ……本当かい? それは拙いなぁ……」
リリィさんが本気で反省しているみたいです。珍しいですね……。さすがに言い過ぎたかもしれません。
コーさんだったら『月まで行けるようにしよう』とか言い出しますからね。勢いよく天井に当たるくらいなら、まだ常識の範囲内です。
速度を遅くするように設定し直して、次の試作品を飛ばします。
目の前の板が、天井に向かってゆっくりと上がっていきました。ゆっくり、ゆっくり、天井に近付き、天井にぴったりと張り付いています。
「あの……どこまで上がるんでしょうか」
「ん? 私に聞かれても困るぞ。今回の設計はルナくんだろう」
「それはそうなんですけど……」
『パァン!』
板が突然破裂しました。また木片が降ってきます。どうやら、天井に張り付いたまま、さらに上に行こうとしていたみたいです。
「はははっ! あれに乗ってたら死んでたねー!」
リーズさんは笑顔で言いますが、それは笑いながら言うことではありませんよ。
でも、やっぱり人が乗れるものではないようですね。失敗です。
「もう一度試作しましょうか……」
「うん。上がろうとする力も弱くしないと拙いみたいだね」
3つ目の試作です。今度は全ての出力を下げました。
昇降機を起動すると、ふわふわと浮かんで空中で止まりました。ひとまず成功です。
「上手くいきましたね」
「じゃあ、試しに乗ってみようか」
「はーい! あたし乗るー!」
魔力切れで落ちてくるのを待ち、リーズさんが乗りました。
再度同じように起動しましたが、板はピクリとも動きません。
「リーズくんが重すぎたのか……」
「違うよっ! 重くないよっ!」
リーズさんが必死で反論しています。リーズさんの体重の問題ではないですよね。今度は弱くしすぎたみたいです。
「もう少し出力を上げましょうか……」
「うむ。そうだな」
調整が難しいですね……。3つ目の試作を改造して試しますが、そろそろ成功してほしいです。
「じゃあ、リーズくん。乗ってくれたまえ」
「え……やだ」
先程浮かなかったことを、まだ気にしている様子ですね。リースさんの体重のせいではないというのに。
リーズさんが嫌がったので、今度は私が板の上に乗ってみます。
昇降機を起動すると、物凄い勢いで視界が流れました。強くしすぎました。拙いです。早く降りないと……!
「うわっ! 危なっ!」
叫び声とともに、コーさんが部屋に駆け込んできました。天井にぶつかる瞬間、私の体を抱きかかえて床に降りました。コーさんの胸に抱かれたまま、思わず赤面してしまいます。
「ありがとうございます……」
「何をしているんだよ。怪我をするところだったじゃないか」
コーさんが心配そうに私を見ています。ほてった顔がさらに熱くなったような……。
「新しい魔道具の実験だよ。どうも上手くいかなくてね」
リリィさんが昇降機の説明をすると、コーさんは納得したように頷きました。
「なるほどね。エレベータを作ろうとしていたんだな。でも、どうしてわざわざ屋内でやるんだよ。外なら安全だろ?」
「何度試しても、空高く飛んでいって試作品を回収できなくなるのだ。屋内なら天井で止まると思ったのだが……」
「ああ、それは危険だな。そんな物に乗ろうとするなよ。人と同じ重さの石を乗せるとか、方法はいくらでもあるだろ?」
「あ……そうですね。実験に夢中で気付きませんでした。次回からは気を付けます」
石を載せれば良かったんですね……。それなら怪我をする心配はありませんし、リーズさんも余計に傷つくことがありませんでした。
「今度から、実験の時は俺も立ち会うから。勝手に実験をしないように」
コーさんは真剣な顔でみんなを諭すように宣言しましたが、その後小声で呟きました。抱きかかえられている私には聞こえましたよ。
『こんな面白そうなこと、俺に黙ってやるなよ……』
除け者にされて、寂しかったんですね。私もそうでしたもの。その気持ちはわかります。今日はこれでおしまいですが、次回からはコーさんも一緒に実験をしましょう。
ちなみに、コーさんのコートは修理できなかったそうです。壊れすぎでした。新しいコートは買わなかったそうなので、今後も金色のコートを着て過ごすみたいです。少し派手すぎる気がしますが、よく似合っていると思いますよ。