軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暴走

使徒召喚の術式を試すため、王都から少し離れた草原の真ん中に転移した。王都の中でも雪隠結界を張れば問題無いとも思うのだが、万が一爆発が起きた時に危険だ。

ボナンザさんや他の部外者が居ると話がしにくいので、パーティメンバーとルミアだけを連れてきた。実験を開始する前に、ルミアの意見を聞いておこう。

「この術式について、何か知っていることはあるか?」

「申し訳御座いません。私は使徒召喚に関わったことが無いので、分かりかねます。術式を拝見させていただいても?」

ルミアに催促されたので、術式を渡した。

「何か分かるか?」

「初めて見る魔法が組み込まれています。

我々がこの世界に転移してきた時とは、術式が違いますね……」

これはおそらくミルズが作ったものだ。ルミアでも分からないか……ん? ルミアは今、変なことを言わなかったか?

「今、何て?」

「いえ、初めて見る術式ですので、私では分かりません」

「いや、そっちじゃなくて。転移してきた?」

「あれ……? 有名な話だと思っていましたが……ご存知ありませんでしたか?」

ありませんけども?

「もしかして、神話の話じゃないのか? コー君にも、以前話をしたことがあるだろう」

リリィさんが口を出す。アルコイで聞いた話だな。確か、神が降り立ったとかいう話だったっけ。後世の人間が勝手に作った話だと思っていたんだけど、リアルだったのか。

「ルミア、その話を詳しく教えてくれ」

「わかりました。 何分(なにぶん) 大昔のことですので、詳しくは覚えていませんが……覚えている範囲でお話しします」

ルミアと他の神たちは、この世界ではないどこかの世界で、魔法の研究をしていたらしい。研究チームの一員だったそうだ。

ある時、その世界で大規模な戦争が起こり、人が住めない状態になってしまった。苦肉の策で取った行動が、生き残りを連れての転移だった。

転移先に選ばれたこの世界でも、戦争と天変地異によって人が住める状態ではなかった。それでも元の世界よりはマシと判断し、再生するために尽力した。

「ん? ということは、この世界の住民は、全員が他所から来たのか?」

もしかして、『異世界転移したら異世界人しかいませんでした』という意味が分からない状態なのだろうか。

「いえ、そうではありません。人間はほんの僅かですが残っていましたし、獣人とエルフの方々も結構居らっしゃいました」

今とは真逆だな。今は、ほとんどが人間で獣人が少しだけ。エルフに至っては絶滅寸前だ。見た目がエルフのルミアを見ても、エルフと認識されないくらい忘れ去られている。

「ちょっと待て。ということは、後から来た人間が、現地の人を排除したのか?」

地球でも昔からよくあることだが、少し気分が悪い。

「あ……私は共存を望みましたよ。兄、アレンスは不干渉を貫きました。戦争をしていたのは、ハインツとレイテスです」

アレンシアがエルフと交易をしていたのは、ルミアの意向によるものだったようだ。当のアレンスは、既に消滅している。レイテスというのは、レイテシアという国の神。既に神としての力を失っているらしい。力を失っているだけあって、存在感が薄い。

レイテシアはハン帝国から分裂した国だが、ユーガ帝国の属国のような扱いを受けている。そのため、行く気が全く起きなかった。今後も行くことは無いだろう。得る物も無さそうだ。

「なあ、エルフと人間が戦争になった理由を知っていたりするのか?」

エルフの長老は、戦争はエルフにも責任があると言っていた。別に重要なことではないのだが、気になったので聞いてみた。

「詳しいことは知りません。当時から、私たち兄妹とそれ以外で対立していましたので……」

「そっか。それならいいや。

さっき名前が挙がらなかったけど、ミルズはどうなんだ?」

「昔はレイテスの後ろについていくだけの子でしたので……。そのため、私も油断しました」

ルミアは苦々しく表情を歪めた。まあ、不覚を取った相手だからなあ。ルミアの機嫌が良くないので、話を変えよう。

「そういえば神の数が一人分足りなくないか? アレンスと5人の仲間たちじゃなかったっけ?」

「1人は精神体になることを拒み、人間として寿命を迎えました。その子孫たちがガザル連合王国を形成しています」

どこかで聞いたのだが、ガザル連合王国を形成する国々の王は全員が親戚という話だ。

アレンシアとガザルが仲が良いのに連合王国に含まれなかった理由は、『親戚じゃないから』だそうだ。

結局、この世界に現存しているすべての国は、すべて今の神が関わっている。この世界は国の数が少なすぎる気がしていたのだが、絶滅寸前だったのだから仕方がないな。ルミアたちが来なければ、この世界も滅んでいた可能性がある。

この世界に転移してきたという事は、ルミアも転移魔法が使えるんだよな。ルミアに転移魔法を教えて貰った方が早いな。というか、最初からそうすれば良かったじゃないか

「ルミア、異世界に渡るための転移魔法を教えてくれないか?」

「申し訳ございませんが、それはできません。私が使える魔法は、転移ではなく 漂流(ドリフト) という別の魔法です」

ルミアはすました顔で答えた。初めて聞く魔法だ。

「何が違うんだ?」

「転移は、任意の場所に移動するための魔法です。行き先は自由に選べます。しかし、 漂流(ドリフト) は行き先を選べません。どこに出るかは運任せになります」

ずいぶん使い勝手が悪い魔法だな。

「何のための魔法なんだよ……」

「転移とは違い、行ったことが無い場所に行くことができます。それに、消費魔力も少なくなります」

なるほど。まさしく漂流といった感じだ。他にも、起動時間が短いとか習得が簡単とかメリットは多いみたいだ。どちらかと言うと、逃走用の魔法という印象だな。

ルミアたちがこの世界に来た時に使った魔法なのだろう。別の世界に行ったことがある人間なんて、普通は居ない。転移魔法で行くのは不可能だ。ルミアが使う魔法としては、 漂流(ドリフト) 以外に選択肢は無い。

俺は要らないかな。そんなバクチみたいな魔法は危なっかしくて使えない。転移した先が安全とは限らない……というか、超高確率で危険な場所に出ると思う。運任せというのも気に入らない。俺は自分の運を微塵も信用していないからな。

やっぱり使徒召喚の術式を試すしか無いか。ルミアに術式を返してもらい、準備を進めた。

「安全のため、私たちも結界の中に入ります」

ルナを筆頭に、パーティメンバー全員が名乗りを上げた。

だが、何かの拍子に巻き込まれたら大変だ。周囲にいる人から、勝手に10人の術者を選んでしまう可能性がある。

「それは止めた方がいいな。10人の術者が居ない時の挙動は、試してみないと分からない。

最悪、周囲の人を勝手に巻き込む可能性もあるんだ。結界の外で待機していてくれ」

「それはそうですが……スマホも通じないんですよ?」

雪隠結界は、音と視界と魔力を遮る結界だ。魔法による影響も遮るため、スマホや救難信号も届かなくなる。どの効果が意図されて付与されたのかは、今となっては分からない。使い道に困る魔道具だと思っていたのだが、魔法の実験にはちょうどいい。

「危ないと思ったら石でも投げるよ。結界の中から石が出てきたら、救援を頼む」

魔力を帯びていないただの石なら、この結界を素通りする。それがお互いの合図だ。結界の外で問題が発生した時も、石を投げて知らせる。

少し離れた場所で、雪隠結界を展開した。結界の規模は8畳程度だ。かなり狭いが、俺1人が突っ立って魔法を使うだけなので、この広さがあれば十分だろう。

石を拾ってポケットに入れれば、準備は完了だ。術式を広げて起動する。やり方は簡単。術式に魔力を送って文字を読むだけだ。『神に感謝を』みたいな不愉快な文字を適当に吐き出すと、足元に光る魔法陣が現れた。

全身の魔力をゴッソリ持っていかれ、酷い倦怠感に襲われる。立っているのもやっとだ。気合で踏ん張って、術式の解析を試みる。

俺の周囲に強風が吹き荒れ、術式の紙切れがバサバサと音を立てる。足元の魔法陣は光を放ち続け、その間もずっと魔力を吸われ続けている。

かなりキツイな。気が遠くなる。酷いめまいで吐きそうだ。踏ん張れば踏ん張るほど、体が地面にめり込んでいくような感覚がある。

……召喚された時と同じだな。あの時は分からなかったが、今なら分かる。魔力が抜けていく感覚だ。抜けるだけではない。入ってくる感覚もある。大量の魔力が、出たり入ったりを繰り返している。

どうして使徒に向かうべき魔法が俺に向かってきたんだ? たぶん異常事態だな。これは普通の挙動じゃないと思う。召喚する対象が居ないからだろうか。それとも、10人の術者が居ないからか。

とにかく中止だ……というか、どうやって止めるの?

『…………』

不意に、頭の中に誰かの声が響いた。

「く……だれだ……」

言葉を振り絞る。

『……エ………ダ』

まただ。吐き気と頭痛で何を言っているのかさっぱり聞き取れない。

声が響く度に魔力が出たり入ったり……気持ち悪い。逆流しそうになる胃酸をぐっと堪え、今は意識を保つことに集中する。

結界の中は魔力を帯びた風が吹き荒れている。助けが欲しい状況ではあるが、この中に誰かを入れるのは危険な気がした。今俺ができることは耐えることだけだ。

『…………シ………ベ…………ル』

長文を喋るな! 何を言っているか分からないし、喋る度に苦痛なんだよ。

早く止めないと……。かなり辛い。生命の危機すら感じるぞ。

今は魔力が暴走した状態にある。コントロールを取り戻せば止められるんじゃないかな。

『…………』

黙れよ! いや、コメントが短くなったことを評価するべきかな。

頭に響く謎の声を無視して、コントロールに集中した。俺の体からは風船が萎むように魔力が抜けていっている。まずは抜けた魔力の操作を試みる。

周囲に渦巻く魔力にゆっくりと意識を向けると、次第に自分の意志が通い始めた。魔法で火や風を起こす時と同じ感覚だ。

次に入ってくる魔力に意識を向け、体から抜ける前に体に回す操作をする。これは身体強化と同じ。ようやくコントロールが戻ってきた。

いつの間にか頭に響く声が消え、頭痛と吐き気も収まっている。ここでようやく魔法の仕組みが理解できた。なんとなく、地球の位置が測位できるようになっている。

どういう理屈かは理解できないが、地球のある日、ある場所に、ピンが立てられているような気がする。地図にピンを突き立てるように、目印にされているようだ。おそらく、このピンを目標にすれば転移できる。

使徒召喚の魔法が、半分ほど理解できた。ピン留めをする魔法は別にあるようだ。神託を下す前に、使徒に向いている人間を探してピン留めしているんだろう。使徒にしか聞こえない鈴は、ピンの位置を特定するために使う。

この魔法は、地球とこの世界を繋ぐためだけの魔法で、転移魔法とは少し違う。これはただの落とし穴。一方通行なので、地球に行くためには使えない。

もう十分だ。術式に流れる魔力を断ち切り、魔法を止めた。

地球に帰るためには、この魔法と転移魔法を同時に使う必要がある。使う度に魔力がゴッソリ持っていかれる。たぶん地球に帰ることはできると思うが、強烈なめまいと吐き気で死にそうになるぞ。

一応帰る手段は確保できた。でも確実に死にかけるので、絶対に使いたくない。何か別の方法を模索するべきだな。