軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

燃やす燃やす詐欺

ボナンザさんの準備が整った。そろそろ出発しようという時に、一条さんから質問が飛び出した。

「ねぇ……この方はどなたなの? 紹介されてないんだけど……」

一方的に喋っただけなので、初対面の4人はボナンザさんが何者なのか知らない。たぶん、謎のイカツイおばさんだと思っているだろう。

「元冒険者で、奴隷商兼飲み屋の店主だよ。俺達の友人だ。信用できる人だから、安心していいぞ」

「よろしくね。金は貰ったから、丁重にもてなすわよ。のんびりしてなさい」

やっぱり無理やり金を渡しておいて正解だったな。もし金を渡さなかったら、バイト扱いでこき使われていただろう。

それでも俺は困らないんだけど、この件を理由に後からも頼み事をされそうなんだよな。金を渡していないと、そうなった時に断りにくくなる。痛い出費だが、これは必要経費だ。

「え……奴隷商……」

アーヴィンが困惑したような表情でポツリと呟いた。奴隷に嫌な思い出でもあるのかな。アレンシアでは、奴隷と一般人は大して変わらないけど、ミルジアでは扱いが違うのかもしれない。

奴隷商の優秀そうなスタッフにアーヴィンたちを任せ、教会に向けて出発した。いつもの屋根走りだ。ルミアは初めてのはずなのだが、俺たちのペースにちゃんと食らいついてきている。

転移魔法を使わないのは、ボナンザさんが居るからだ。あんな便利魔法が使えるとバレたら、何をさせられるか分からないからな。

正面から堂々と乗り込むつもりはない。こっそりと目標地点に向かい、重要な場所だけを徹底的に破壊して帰る予定だ。その重要な場所というのは、使徒召喚を訓練している施設だ。おそらく王城の魔導院のような場所があるのだと思う。

マップには、教会の敷地の半分が記録されている。残念ながら、前回呼び出しを受けた時に埋めきることができなかったんだ。

ボナンザさんに協力を求めたのには、もう一つ重要な理由がある。以前から教会の内部に潜入して調査していた。おそらく、内部の構造に詳しいだろう。もしかしたら地図も作っているかもしれない。

「なあ、ボナンザさん。教会の中の見取り図みたいな物は持っていないか?」

「……あんた、あたしを何だと思ってるのよ。教会の内部なんて、神官でも上位の人間しか詳しくないわよ」

「教会を調べていただろ? 作ったんじゃないかと思ってな」

「まぁ、作ったけど」

やっぱり作っているじゃないか。無駄な会話のラリーが発生していたぞ。スッと出してくれよ……。

「見せてくれるか?」

「あたしが作ったなんて、他所で言わないでよ」

ボナンザさんから数枚の紙を受け取った。紙のサイズはA3くらいなのだが、敷地が広すぎて一枚では収まりきらなかったようだ。

この地図は、宿屋の店主の頑張りでできているんだろうなあ。ありがたく使わせてもらおう。

走りながら地図を広げた。使徒召喚の研究施設がありそうな場所を探すが、いまいち分からない。ボナンザさんに聞こう。

「魔法を研究している場所はどこか分かるか?」

「うーん、そんな報告は受け取ってないわね。確実じゃないけど、やるとしたらこの部屋よ。ここだけは用途不明だったから」

そう言って、1つの建物に指をさした。複数の建物が並ぶ教会の敷地の中で、かなり奥にある建物だ。極秘の研究をするなら、ちょうどいいだろう。

「ありがとう。まずはそこに行ってみよう」

ボナンザさんに借りた見取り図を見る限り、重要な施設は建物に囲まれた奥にあるようだ。

教会の周囲は、簡単な柵で覆われているだけだ。塀があるわけではない。大きな建物が周囲を囲んでおり、その建物が塀の代わりになっているらしい。

教会の屋根には急な傾斜がついていて走りにくい。俺は問題無いが、他のメンバーは大変かもしれないな。

民家の屋根を走って教会の近くに到着した。このまま例の建物まで突っ切るつもりだったのだが、屋根の上に他の気配を感じたので、急遽立ち止まって地上に降りた。

「誰か居ますよね……」

ルナがキョロキョロとしながら言う。

「ああ。よく知っている連中だな」

「何? あんたたちも知り合いなの?」

ボナンザさんも気付いていたようだ。教会の周囲を取り囲んでいるのは、グラッド隊の隊員たち。それも、結構な大所帯で監視している。人数は、ざっと数えただけでも20人ほどだ。

「ボナンザさんも知っているのか?」

「あたしがよく知ってるのはグラッドだけね。今の隊員は会ったことがあるだけよ。たまに一緒に訓練するから」

グラッド隊の訓練は、一般市民でも自由に参加できる。ボナンザさんもその常連らしい。あの訓練、なぜか希望者が少ないらしいんだよなあ。無料なんだから、もっと参加すればいいのに。

「へえ。やっぱり、訓練するならあの隊が最適だよな」

「そうね。うちのコたちも参加させてるわよ。冒険者ギルドのヌルい訓練なんて、何の意味も無いわ」

「そんなことはいいから。どうするの? 今教会に入ると目立ちすぎるわよ?」

ボナンザさんと訓練トークが始まりそうになった所で、クレアが会話を遮った。

しかしグラッド隊が居るのは面倒だ。俺の行動を先読みしたのかな……。だったらもう遠慮は要らないか。

「ちょっと行ってくるよ。みんなはここで待っていてくれ」

俺はそう言ってグラッド隊に忍び寄った。

気配を消して背後から近付き、威嚇の魔法で気絶させる。これを数回繰り返すことで、周囲を取り囲む隊員を無力化することができた。

「おまたせ。グラッド隊は黙らせたから、安心して教会に潜入しよう」

みんなのもとに戻ってそう報告すると、ボナンザさんが嫌そうに顔を歪めて言う。

「あたしも一回くらったけど……あんたのそれ、何?」

「うん? 魔法だけど? 油断した相手を一瞬で気絶させる、便利な魔法だ」

ボナンザさんには効かなかったんだよな。もう少しというところで治癒の魔道具を使われて、回避された。威嚇の魔法の弱点だな。即座に治癒魔法を使われたら、簡単に回避できる。

ボナンザさんは怪訝な表情を浮かべながら、先に進んでいった。俺たちも後に続く。だが、その行先は屋根じゃない。堂々と道を進み、教会の敷地へと踏み込んでいく。

正面の建物を前にしたボナンザさんは、大きなハンマーを振りかぶって壁に叩きつけた。『ドゴォ!』と音を立て、壁に大穴が開く。

「ちょっ! ボナンザさん! 何をしているんだよ!」

「何って、入り口を開けただけじゃない。行くわよ」

ヤバイ。この人を連れてきたのは大失敗だった。隠密行動が不可能だ。目立ちたくなかったのに……。

ボナンザさんは目の前の壁を破壊しつつ、ズンズンと進む。その姿を見たルミアは、ひたすらアワアワ言っている。元神のルミアからしたら、この建物は実家みたいな物だからなあ。

俺達が進んでいくに従い、教会の風通しがどんどん良くなっていく。あちこちから審問官がワラワラと湧いてきたので、その都度威嚇の魔法で気絶させた。ボナンザさんの後始末をする形になっているぞ……。

これが普段のボナンザさんの姿なのかな……。マナーと人間性を重視する冒険者ギルドで、よくまともに活動できていたな。昔はルールが緩かったのかなあ。

しかし、この惨状は拙い。証拠隠滅のためにこの建物を消さないといけないじゃないか。帰り際に焼こう。

目的地まであと半分くらいまで辿り着いた所で、後ろから猛スピードで近付く気配を感じた。気配から察するに、グラッド教官だ。あっという間に追いつかれた。

「コー! 待て! 止まれ! 今ならまだ間に合う!」

いや、どう見ても手遅れだろ。教会の壁は10枚以上ぶち抜いたぞ。もう謝って済む段階ではない。

「何に間に合うんだよ。何だ、俺たちを逮捕しに来たのか? それとも処刑か?」

「どちらも違う。王からの連絡を受けていないのか?」

「王? なんか転写機が騒がしかったが、邪魔だから無視したぞ」

「な……そうか。なるほどな。

私が代わりに伝えよう。使徒召喚は無期限で延期された。直ちに王城に出向き、王の指示を仰げ」

延期? 王はそんなそぶりを一切見せなかったじゃないか。

「どういうことだ?」

「詳しくは、直接王に会って聞け」

「ちょっと待ちなさいよ。ずいぶん勝手なことを言うじゃない。何? あんた調子乗ってる?」

「うげ……ボナンザ……」

知り合いだとは聞いたけど、ずいぶん親しげだな。たぶん同年代くらいだとは思うんだけど、そんなに仲が良いのか。

「せめてこの建物を壊すまでは待ってなさいよ。そんなに時間は掛からないから」

ええ……壊す気だったの? ボナンザさんの意図がよくわからないんだけど……。

「壊すな! 問題がややこしくなる! いいから、とりあえずここから出てくれ。頼むから!」

この2人、仲は良さそうなんだけど、どちらかと言うとグラッド教官の方が立場が弱そうだな。

「しょうがないわね……コーはどうする? あたしはこのまま進んでもいいわよ?」

せっかく来たのだから、このまま進みたいとは思う。でも、王の心変わりも気になるところだ。他のみんなにも意見を聞こう。

「どうする?」

「……一度戻りましょうか」

「そうね。戻った方がいいと思うわ」

ルナとクレアが真っ先に反応し、リリィさんとリーズもそれに同調した。ルミアはアワアワ言っているだけだ。だいぶポンコツになっている。

「了解。じゃあ一度ここから出よう」

俺がそう決めると、ボナンザさんが再び先頭に立ち、来た時とは違うルートで進み始めた。わざわざ壁を壊しながら。余程深い恨みがあるのかな。

「ボナンザ……壊す意味はあるのか?」

グラッド教官がそう聞くと、ボナンザさんはあっけらかんとした表情で返した。

「無いわよ。来た道をただ引き返すのって、つまらないじゃない」

ただの趣味でした。壊したいだけだわ。嫌な趣味だな。

王城へと進む間、屋根の上を走りながらボナンザさんとグラッド教官の関係を聞いた。

「幼馴染なのよ。グラッドはあたしの2つ下なの。弟みたいなものよ」

「……そうだな。昔から酷い目に遭わされていた」

グラッド教官が遠い目をしている。ボナンザさんは子どもの頃からこの調子だったのか。グラッド教官の苦労が窺えるな。

「さんざん世話してあげたのに、ずいぶんな言い草じゃない。ゴブリンの群れに囲まれた時、助けてあげたのはあたしでしょ」

「そもそも、ボナンザが居なければ囲まれていないんだよ! あの時だって、街を抜け出そうと言ったのはボナンザじゃないか!」

子どもの頃からアクティブだったんだな。2人は異常に強いと思っていたけど、子どもの頃から過酷な訓練を積み重ねているらしい。

グラッド教官の『死にかけた自慢』を聞いているうちに、王城に到着した。

「俺は王の所に行くから、ボナンザさんたちはここで待っていてくれ」

王の所に行くのは、俺とパーティメンバーだけ。グラッド教官とはここでお別れだ。

ボナンザさんとルミアを同じ場所で待たせるのは少し心配だが、まあ問題無いだろう。さすがのボナンザさんも、王城の前ではおかしなことを控えると思う。

王城の門をくぐり、王城の中に入った。いつものように素通りだったんだけど、いいのかな。俺の身分は剥奪されているはずだぞ。門番はもっと真面目に仕事をした方がいいぞ。

今日は寄り道をせず、真っ直ぐに謁見の間に向かった。休憩室に忍び込むことも考えたが、今日は無しだ。嫌味の意味も込めて堂々と謁見の間に入ろう。