軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

知らない話

魔導院を出て、訓練場に移動した。土が剥き出しになった訓練場の広場には、今の時間は誰も居ない。広くて何も無いので、転移するための中継点としては最適だ。

謁見の間に行けばすぐに話ができるだろうが、そこで話をするのは拙い。部外者が多すぎる。と言うか、教会の関係者が同席している可能性もある。2人で話をするための手段は既に考えている。

次の転移先は、王城の中にある王の休憩室。謁見の間の奥にあり、王が休憩や打ち合わせのために使う部屋だ。王と2人で話ができる可能性があるのはあの部屋だけ。側近も近くに居る可能性があるが、追い払えばいいだろう。

もう謁見が始まっている時間だ。今休憩室に転移すれば、誰も居ないだろう。そう予想して転移する。

薄暗い休憩室の中に出た。予想通り誰も居ない。防音の魔道具は効果を切られているようで、謁見の間の話し声が漏れ聞こえた。

今謁見している人は、どこかの商人らしい。商売についての話が、なんとなく聞こえてくる。邪魔をしても悪いので、今の謁見が終わるまではここで待たせてもらおう。

この部屋には窓が無く、非常灯のような小さな明かりが灯されているだけだ。王がいつも座っているソファにドカッと座り、大きなランプに明かりを灯した。

部屋の中がふわりと照らされ、調度品がよく見える。壁には誰かの肖像画がかけられ、壁際には高そうな花瓶に花が飾られている。

暇なので、部屋を観察することしかできない。これまでの経験上、一度の謁見の所要時間は15分から30分程度だった。そんなに長時間待つことは無いだろう。

足を組んでリラックスしていると、部屋に近付く気配が感じられた。

……ちょっと拙いかな。俺は思いっきり不法侵入している。隠れても無駄な気もするし、隠れてやり過ごした方がいいような気もするし……。どうしよう。

隠れるべきか迷っているうちに、扉が開けられた。見覚えのあるメイドが入ってきて、俺と目が合った。俺が取るべき行動は、これだな。

「やあ、おはよう。お邪魔しているよ」

ここに居ることが当然だという態度を取る。変に取り繕うよりも確実だ。

この人は、今までに何度か会ったことがある。向こうも俺のことを覚えているはずだ。俺の身分のことも知っているだろう。王に突然呼び出されたとしても、不自然ではない。

「え? あ……オハヨウゴザイマス」

メイドは、戸惑いながら挨拶を返した。

「ちょっと待たせてもらっている。お茶とかは要らないから、気を使わないでくれ」

「あ……すみません、すぐにお持ちします」

メイドはそう言って、部屋から出ていった。

催促したみたいになっちゃったな……。何にせよ、成功だ。これで俺がここに居ることは問題にならないだろう。

そのまま待ち続けていると、新たな気配が部屋に近付いてきた。さっきのメイドではない。同じ手が通じるかな……。

俺の心配を他所に、勢いよく扉が開けられた。

「コーよ! 何故来る前に連絡しない!」

王だ。ドカドカと部屋の中に入ってきた。ついさっきまで謁見していたはずなんだけどな。

話を始める前に、防音の魔道具を起動する。部屋に備えられている物だけではなく、自前の防音の魔道具も同時に起動した。かなり拙い話をする可能性もあるので、念には念を入れた。

「とりあえず扉を閉めてください。謁見はもういいんですか?」

王は扉を閉めると、そのまま客側のソファに腰掛けた。

「途中で切り上げた。其方こそ、突然何用だ?」

ああ、商人には悪いことをしたな。たぶん商人にとって王の謁見は、とんでもない一大事になるはずだ。この邪魔のせいで、売上が落ちるようなことが無ければいいんだけど。

「急ぎの用でしたので。それに、できれば2人で話がしたかったんです」

複数の気配がこの部屋に近付いてくる。側近達が入ろうとしているようだ。邪魔だな。ソファから立ち上がり、扉に鍵をかけた。

「むっ! 何故鍵をかける?」

「聞かれたら拙い話なんですよ。たとえ側近であってもです」

「……あの話か?」

どの話だ?

あ(・) の(・) とか言われても、心当たりが多すぎてなあ。直近の話なら使徒召喚と神送りの話なんだけど、昇級試験の話かもしれないし、先日引き渡した詐欺師の話かもしれないし。もしかしたら、単純に教会の話かもしれない。

「『あの』とはどういう意味でしょうか?」

「言わずとも分かっておるであろう。元宮廷魔道士のコーリーだ」

は? 誰?

王は得意げに鼻を鳴らして言うが、マジで心当たりが無いぞ。誰のことを言っているんだろう。

「言っている意味が分かりませんが……」

「……ん? 魔導院を辞めた後、行方不明になったコーリーの行方を聞きに来たのではないのか?」

うわ、知らない話が出てきた。行方不明になってたの? ていうか誰?

たぶん一緒に術式の解析を試みたっていう、ルナとリリィさんの元同僚だよな……。辞めたとしか聞いていないぞ。

もしかして、俺たちが昨日魔導院に立ち寄ったから、深読みしたのかな。

行方不明になっているなんて、ルナやリリィさんも知らない話だぞ。せっかくだから聞いておいた方がいいな。

「詳しく話していただけますか?」

「うむ。魔導院を辞めた後、しばらくは王都で魔道具工房を開いておったのだが、このことは存じておるな?」

存じておりませんが。

面倒なので、話を合わせておこう。軽く頷いて続きを催促する。

「その後、どうなったのでしょうか」

「工房が上手くいかず資金が尽きかけた時、教会に声を掛けられて神官になったようだ。

そこで、使徒召喚の術の指導をしておる。何度か接触を試みたが、余の呼び出しに応じることは無かった」

うわあ……なんだかすげえ嫌な話を聞いたぞ。使徒召喚の真実を知り、なおも術式の指導をするって、どういうつもりなんだろう。

しかし教会がその人を確保できたから、2回目の召喚が早まったんだな。誰が指導しているのか不思議だったんだよ。

「その人の指導があったから、次の使徒召喚が決まったのですね」

「そういうことだが……相変わらず其方は耳聡いな。どこで聞いたのだ……。極秘事項のはずなのだがな」

こっちが本題だからね。元宮廷魔道士の話はルナとリリィさんは気になるだろうが、俺にとってはどうでもいい。

「いえ、少し小耳に挟んだもので。なぜ使徒召喚を許可されたんですか?」

「……使徒の入れ替えだ。今回の使徒召喚は、失敗したと考えておる」

おや? 失敗したと認識されている? 俺たちしか知らないと思ったんだけど……。意外と周知の事実なのかな。

「なぜ失敗だとお考えですか?」

「これは言いにくいことなのだが、使徒の2人が弱すぎるのだ。他国の過去の使徒と比べ、明らかに弱い。使徒ではないコーの活躍は目覚ましいというのに、肝心の使徒は一般兵にも劣る始末だ。

余は長い目で見ても良いと考えておるのだが、他の者はそう考えておらん。期待が大きすぎたのだろう」

証拠があるわけじゃないのか。期待外れだから入れ替えるって、滅茶苦茶な話だな。

でも成長チートが無いから、こんなもんだろうなあ。一般的な17歳の身体能力なら、一般兵に劣るというのも無理は無い。

早々から俺と一緒に訓練していれば問題無かっただろうが、あの2人は新兵に混じってのんびりと訓練していた。あの2人の甘えもあったのかもしれないな。引き摺ってでもグラッド隊の訓練に参加させれば良かった。

さて、どう切り出そうかな。使徒召喚の真実は、王にだけは話しておいた方がいい。それを聞いてどう行動するかは、王次第だ。

もし真実を知っても使徒召喚を実行すると言うのなら、俺も本気を出さざるを得ない。

「単刀直入に言おう。明日予定されている神送りと、次回の使徒召喚。これを中止してもらいたい」

「な……何を言っておる? 其方の一存で決められるわけが無かろう。余の一存で決められることでも無い」

「ああ、王の命令は必要ないよ。俺が勝手に止めるから。王は、俺がやることを止めないだけでいいんだ」

あ……敬語を忘れていた。まあいいか。面倒だからこのまま行こう。どうせ敬っていないし。

「余は王として、其方の 我儘(わがまま) を許すことはできぬぞ。もし強行するのであれば、直ちに身分剥奪の上、処刑する」

王は毅然とした態度で言う。これって結構不用意な発言だと思うんだけど、一国の王としていいのかな。他人事ながら心配になるよ。2人きりだから、私人として話をしているのかもしれない。

「俺のワガママかどうかは、話が終わってから判断してくれ。

使徒召喚の術式の中身について、詳しく聞いたことはあるか?」

「中身……と言うと?」

「術式の解析結果だ。複数の宮廷魔道士が、その内容を解析している」

「む……そんな報告は受けておらぬぞ」

もしかしたら聞いているかもと思ったんだけど、意外と人望無いな。まあ、宮廷魔道士の間では教会側の人間だと思われているみたいだから、仕方ないか。

王に、使徒召喚について俺が知っている全てのことを話す。

術者と使徒が死ぬこと、使徒が神に吸収されること、これらが神の主導で行われるということ。

王は驚き、言葉を失い、神妙な面持ちながらも落胆の表情を浮かべながら、俺の言葉を噛みしめるように聞き入っていた。

「ルナたちが死んでいないのは、1人の宮廷魔道士の心意気のおかげだ。まあ、そのおかげで俺が巻き込まれたんだけどな」

「ふむ……其方の言い分は良く分かった。だがその話、どこをどう信じたら良いのだ?」

これだけ話しても信じられないのかよ。証言だけだから、決定的な証拠にならないんだな。面倒くさい。どうしよう。

「ミルジアの元術者、ミルジアの元使徒、アレンシアの元神から聞いた話を総合して判断した。これでも信じられないか?」

あ、よりによって胡散臭いトップスリーの名を挙げてしまった。

「馬鹿を申すな! 嘘をつくなら、もう少しマシな人間を挙げるのだな!」

王は怒気を含んだ声を上げた。

人選ミスったな。でも、あの3人を省くと、宮廷魔道士の意見しか無いんだよなあ。それはそれで説得力が無い。これは交渉決裂かな……。

残念だが、王をぶん殴っても止まりそうにないな。次の案、王城を焼くというのはまだ早い。先に使徒を移動してからだ。

「信じられないと言うのなら、それまでだ。決定を覆す気は無いということでいいか?」

「当然だ。其方の持つ身分は、只今を以て剥奪する。今後、騎士相当を名乗ることは許さぬ。調査員も解任する」

その身分は別に要らないんだけどね。いろいろ利用させてもらったけど、もう必要無い。転移魔法がチート過ぎて、たぶん困ることは無いぞ。

そして、剥奪されたのは騎士相当の身分のみ。冒険者としての身分があるから、素材の売り先に困ることは無い。あ、知り合いの商人が何人か居るから、冒険者の身分が無くなっても困らないわ。

万が一指名手配されてアレンシアに居場所が無くなったとしても、俺にはエルミンスールがある。最悪、あそこに引きこもって畑を耕す。

結論。王とこの国が敵になっても何一つとして困らない。

「ああ、構わない。そんな身分は熨斗をつけて返してやるよ」

「その言葉に二言は無いな? 直ちに立ち去れ! ……ノシ?」

あれ、熨斗が伝わってないわ。まあ、話はこれで終わりだ。さっさと退散しよう。

この国と敵対して危ないのは、グラッド隊だけだ。グラッド隊の動向には警戒しておく。

このまま城に留まるのは危険なので、使徒を回収してさっさと脱出しようかな。使徒の2人を探すため、兵士の訓練場に転移した。