軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神とエルフ

いつもの宿で朝食を済ませた後、すぐにチェックアウトをしてエルミンスールに転移した。

初めてここに来るアーヴィンは、初めて見る光景に戸惑っているようだ。

「ここ……どこ?」

ジャングルのど真ん中。崩れかけた建物とシダや木に囲まれた、宮殿の前だ。

アーヴィンは不安げに辺りを見回している。

「詳しくは言えないが、隠れ家にしている宮殿だ。人が住んでいる所とはだいぶ離れているから、外にはあまり出ない方がいいぞ」

アーヴィンにはエルミンスールの詳細を教えない。転移魔法で移動したので、方角すらわからないはずだ。

誰かを匿うなら、ここはちょうどいい。余程の偶然が無ければ絶対に誰も来ない場所だからな。問題は食料だけだ。

宮殿の中は、キレイな状態を保たれていた。俺たちの指導の賜物だ……違うな。「次来た時に汚かったら、夕食抜き」この宣言が効いているんだろう。

階段を上り、宮殿の2階で寝ているであろう カベル(ルミア) を呼ぶ。

「カベル、来たぞ! 起きろ!」

「お久しぶりです……」

カベルは眠そうな顔でひょっこりと顔を出した。

「キレイにしているじゃないか。感心したぞ」

「でしょ? 頑張りました!」

胸を張って答える。今日は カベル(ルミア) にも用事があるので、そのまま起きてもらう。

リビングにしている部屋に全員が集合した。テーブルの上に置かれたお茶をすすりながら、話を始める。

「さて、何から話そうか」

「その前に、知らない子が居ますよね。コーさんのお子様ですか?」

カベル(ルミア) はアーヴィンに手を差し出しながら言う。

「そんなわけないだろ。

預かっているんだよ。ちょっと追われているから、悪いけどしばらくここで預かってくれないか」

「え……?」

「なかなか面白い経歴の持ち主だぞ。割と気が合うと思うんだよ」

カベル(ルミア) にアーヴィンの素性を話す。

元ミルジアの使徒で、転生者であること。そして、ミルズを倒すことを目標にしていること。説明をする中、アーヴィンは心配そうな表情を浮かべていたが、無視した。

「……なるほどです。ですが、万が一私が狙われた場合、私は庇いきれませんよ?」

「それは問題無い。ここが狙われているなら、俺はフリーになっているはずだ。俺が手助けしに来るよ」

ここで万が一の事態が発生するとしたら、ほぼ確実に神関係だ。俺がここに転移すれば済む。

「え……でも、私の敵は2人居ますよ?」

カベル(ルミア) の敵は、ミルズとハインツだ。片方は排除済みなので、残るはミルズのみ。

「ハインツなら消滅したぞ。意外とあっけなかった。正直、拍子抜けだよ」

「はい? 消滅?」

カベル(ルミア) は間の抜けた顔で間の抜けた返事を返す。

「ああ、言っていなかったか。実は俺もハインツと縁があってだな。二回ほどやりあったんだ。一回目は逃げられたが、二回目で上手くトドメを刺せた」

「いやいやいや、何をおっしゃっているんですか。

精神体はそんなに簡単に消滅しませんよ。依代を破壊しただけでは倒せていませんからね?」

「それは知っているよ。最初はそれで逃げられたんだ。

エルフの古い結界を見つけたんだが、それを使ったら上手く閉じ込められたぞ」

「……本当ですか? 到底信じられません……」

「ゴメン! ちょっといい? その依代とか結界とか……もしかして、ケインさんの時の?」

アーヴィンが威勢よく手を挙げて言う。アーヴィンには詳しい話をしていないんだよな。

「そうだな。ケインに乗り移っていた奴だ。ここに居るカベルも、あいつに狙われていた。

ちなみに、ミルズにも狙われている。お前が狙っている敵だよ。一緒に居れば、いずれ会えるかもな」

今のアーヴィンではミルズには勝てない。でも、会えるなら会わせてやった方がいいと思う。因縁の敵だ。言ってやりたいこともあるだろう。

「だからここなんだ……。コーくん、ありがとう。

カベルさん、よろしく!」

アーヴィンは、そう言って右手を差し出す。 カベル(ルミア) もそれに応え、右手を差し出して握手をした。

ルナたちはイマイチ理解していないような顔をしている。ミルズと カベル(ルミア) の関係が、うまくリンクしていないらしい。

カベルがルミアだということは俺しか知らないから、話がしにくいんだよなあ。先に公表しておこう。

「この際だからハッキリと言っておくけど、ここに居るこのカベルな。アレンシアの神のルミアだから」

俺がそう宣言すると、全員から「えぇ!」という叫び声が上がった。

「ちょっ! どうして言っちゃうんですか! 皆様、忘れてください!」

ルミアのリアクションで、真実味が増している。みんなは信じられない様子だったが、ルミアの焦り様を見て、逆に納得したようだ。

「そう言われれば、確かに腑に落ちますが……。

でもアレンシアの神はどうなっているんですか? 教会は今も正常に機能していますよね?」

「ミルズが居るからな。今の神はミルズなんだよ。入れ替わっているんだ。俺が召喚された時には既に……ね」

「そうだったんですか……なるほど。近年の教会の混乱は、そういう理由があったんですね」

しばらく沈黙したまま、時間だけが流れた。空気が重くて気まずい。話題を絞り出そうと頭を回転させていると、ルミアが沈黙を破った。

「私からも、ご質問して良いでしょうか?」

「なんだ?」

「皆様の魔法です。特にコーさんですね。何故私たちと同じ魔法が使えるのでしょう……」

ハインツも言っていたが、俺は神の魔法を使っているらしい。俺も不思議だったんだよなあ。エルフの魔法だと思っていたから。

「それな。俺もよく分からない。そもそも、神の魔法って何なんだ?」

「『神の』と言うと語弊がありますね。私たちが使う魔法が本来の魔法です。でも習得が難しいんですよ。

誰にでも簡単に使えるようにと、私たちが詠唱魔法を作りました」

「作った……?」

「はい。当初の目的は、魔物と戦う力を即席で身につけることでした。少なくとも、私はそのつもりで協力しましたよ。

しかし、ハインツたちは違いました。私たちと同じ魔法を使うということは、私たちの存在を脅かすということ。そのため、詠唱魔法に制限を付けたのです。詠唱魔法を覚えたら、本来の魔法が使えなくなります」

ルナとリリィさんが全く上手くいかないのは、このせいだったのか。詠唱魔法を覚えたら、神に対抗する手段を失うということだな。じゃあ、エルフの魔法って……。

「エルフの魔法と神の魔法は別物なのか?」

ルミアは『神の魔法』という言い方が気に入らないようだが、ややこしいので神の魔法で貫き通す。

しかし、俺には2つの魔法が同じものとしか思えない。エルフの魔法は若干省エネかなって思うくらい。

「僅かに違いますが、ほとんど同じです。

……エルフが滅ぼされたのは、これが理由です。エルフは 精神体(神) を殺し得る存在ですからね……。

そのことに気付かれる前に、滅ぼしたのです。エルフの方々も対抗手段を編み出しましたが、遅過ぎました。後はご存知の通りです」

俺の質問に対し、ルミアは申し訳なさそうに答えた。

なぜエルフを殲滅する必要があったのか、それはずっと気になっていたのだが、こんなくだらない理由だったのか。

やっぱり害悪だな。見かけたら絶対に駆除しよう。

話を一度打ち切り、滞在の準備を進めた。食料をエルミンスールの氷室に移して不要な素材を倉庫の中に放り込むと、夕食までのんびり過ごした。

夕食を食べ終えて雑談を始めていると、マジックバッグの中で何かが暴れ始めた。この振動パターンは、スマホだ。エルフの長老か、使徒の2人か。

スマホに表示された名前は、一条美織。使徒の方だな。通話を開始する。

「もしもし、どうした?」

『コーくん、緊急。助けて!』

スマホの向こうから、深刻な声が聞こえてくる。聞き慣れた日本語だ。

「どうしたんだ?」

『あたしたちの神送りが決定したの。明後日の朝から始めるって……』

拙いな……。いくらなんでも急過ぎる。

ミルズに動きがあったのか、教会で何かが起きたのか。事情は分からないが、問題が起きていることは確かだ。

「どうしてそんな急に?」

『もう一度使徒召喚をやるみたい……。あたしたちの指輪も没収されちゃった』

二度目の使徒召喚か。これは王をぶん殴ってでも止めないとな。最悪、王城を焼く準備が要るかもしれない。

いや、しかし、指輪を没収ってどういうことだ? 神託があった時に人数分準備されるんだよな……。あとでアーヴィンに確認しておこう。

神送りが単なる転移の儀式なら問題無いのだが、実際は違う。神送りが実行されれば、使徒の2人は死ぬことになる。

使徒の2人に逃げ出すだけの甲斐性があればいいんだけど、それは期待できないよなあ。言葉も通じないだろうし。

「了解。朝イチで王と話をしてみるよ。それまでは部屋で待機だ。

俺が行ったことの無い場所には行くなよ。それから、いつでも脱出できる準備を整えておけ。もし風呂にでも入っていたら、裸のまま連れ出すからな」

『わかった。ありがとう。そろそろ神官さんが戻ってくるから、切るね』

スマホの通話がプツッと切れた。同時に、ルナが心配そうに問いかける。

「……どうされました?」

「いや、二度目の召喚と、使徒の神送りが決まったらしい。朝イチで王に直接話を聞きに行くから、よろしく」

「そんな……」

俺の言葉を聞いたみんなの顔が深く沈む。

「そんな深刻な問題じゃないから。俺が止めるし、止まらないなら教会と王城が無くなるだけだ」

「え……すっごい深刻じゃない! 無茶はやめてね?」

沈んだ顔が青くなった。本当に深刻な問題じゃないんだよ。転移魔法が使い放題な今、死んで欲しくない人だけを先に避難させるという荒業が使えるんだ。城の中まるごと威嚇の魔法で全員気絶という手段も使える。

実質、消滅するのは建物だけだ。ほら、とっても平和。城が無くなれば、使徒召喚どころじゃないはずだからね。

「やりすぎないように注意するよ。

ところで聞きたいんだが、アーヴィン。神託の指輪は、使徒が居なくなった後はどうなるんだ?」

「神送りの時に、一緒に神に吸収されるよ。普通は神送りまで外さないんじゃないかな」

「やっぱりそうだよなあ。使徒の2人は没収されたらしいからさ」

「……逃亡の防止、ですかね……」

そうとしか考えられない。言葉を奪うって、かなり悪どいやり方だよな。俺も一度やられかけたんだ。物凄くムカついた。思い出したらまた腹が立ってきたぞ。明日王に会った時、ネチネチと嫌味を言ってあげよう。

「しかし、何故今なのだ? 魔導院には宮廷魔道士は10人も残っていないぞ」

リリィさんが不思議そうに首を傾げながら言う。

確かに、ほとんどの王宮魔道士は骨董漁りのために出払っている。この時期にやらなければならない理由が見当たらないな。主任も、使徒召喚のことは何も言っていなかった。

王の話を聞く前に、主任の話を聞いた方がよさそうだ。

「詳しいことは聞いてみないと分からないな。悪いけど、明日は1人で行くよ。みんなはここで待っていてくれ」

「え……でも、危険じゃないですか? せめて私だけでも一緒に……」

「ありがたいけど、明日は無しだ。あちこち飛び回ることになりそうだからな。転移する人数は減らしたい」

消費魔力が減ったと言っても、ゼロになったわけではない。何度も転移魔法を使うことを考えると、1人増えるだけでも結構辛いんだ。

重い空気の中、夜は更けていった。明日は忙しくなりそうだな……。