軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

寝てない

「本当にバレないかしら……」

王都の宿から外に出た道の上で、クレアが心配そうに呟いた。

今日は密入国者のアーヴィンを連れて、王都の店でお買い物。バレたらかなり厄介なことになる。

「堂々としていれば問題無い。挙動不審になるからバレるんだよ」

大抵、服装と態度が怪しいと職務質問される。現地に合った服装で、当然のように歩いていれば怪しまれにくいものだ。あとは顔だな。人相が悪いだけでも怪しまれるからなあ。まあ、アーヴィンの顔なら大丈夫だろう。

「でも、ほら。アーヴィンを見てよ……」

そう言われてアーヴィンを見ると、壊れたおもちゃのように首を振り、興味深そうにあちこちを見ている。

アーヴィンの頭を手で掴んで止める。

「こら、キョロキョロするな。迷子になるぞ」

「子ども扱いやめてよ!」

アーヴィンはふくれっ面で俺を見る。

「かなり挙動不審だったぞ。逮捕されたくなければ、おとなしくしていろ」

アーヴィンが街を見たいと言うので、今日は珍しく道を歩く。まず行く場所は、ボナンザさんの知り合いの革職人の工房。ボナンザさんからアトラスの代金が預けられているはずだ。買い物の前に、金の補充をしておきたい。

ボナンザさんから渡された封筒を開け、中の地図を確認する。そこには、店までの道と共に『革職人ブライドルの店』と書かれていた。見覚えがある店だな……。

ルナにも地図を見せて確認する。

「これ、いつもの防具屋さんですね……」

「やっぱりそうだよな」

やはり間違いない。知り合いだったのか。仕立ての依頼もしているので、ちょうど良かった。

いつもの防具屋に直行する。

「店主は居るか?」

気配察知で居ることは分かっているのだが、礼儀として声を掛ける。

「あ……コーさんですね。お待ちしておりました」

店の奥から、疲れ切った顔の店主がのそりと現れた。

「……どうした? ずいぶん疲れているみたいだが……」

「ははは……わかりますか。急ぎの仕事が入りまして、しばらく寝ていないんですよ……」

寝てないアピールは鬱陶しいだけだが、本当に寝ていないなら話は別だ。この人はどう見ても睡眠不足だな。クソ不味いポーションを1本取り出し、店主に渡した。

「気休め程度だが、飲んでおけ。ちゃんと寝た方がいいぞ」

普通に不味い新型ポーションの量産体制が整ったので、クソ不味い旧型ポーションが大量に余った。後で売るつもりだったが、1本くらい人にあげても問題無い。

「ありがとうございます。いただきます。

寝られるものなら寝たいのですが、またしても初めての素材でして……。初めての素材がこんな立て続けに入ることなんて、初めてですよ」

ボナンザさんの依頼だな。ミルジアで会った時、服が壊れたとか言っていた。となれば、素材はアレしか無い。

「アトラスの素材だよな? そんなに珍しいのか?」

「あれ……? どうしてそれを?」

「ん? ボナンザさんに聞いていないのか? ボナンザさんに素材を渡したのは俺だよ」

「あぁ……ボナンザさんが言っていた冒険者って、コーさんだったんですね。お名前までは聞かなかったので。失礼しました。

念のため、紹介状を見せていただけますか?」

紹介状……? この封筒のことかな。

よくわからないので、封筒をまるごと渡した。

「ありがとうございます。確認できました。

しかし……なぜコーさんばかり、こうも珍しい魔物に遭遇するのですかね?」

店主は封筒の中身を広げながら、不思議そうに呟いた。

確かに、俺はかなり運がいい。金ボアとアトラスだけじゃない。エルク、巨大スライム、バブーンの群れ。思えば、数多くのレア魔物に遭遇してきた。スライムは金にならなかったが、レア魔物のおかげで、かなり稼がせてもらった。

神に感謝とか言っちゃいそうなくらい、ついている。神とは犬猿の仲だから、神の思し召しなんてことはあり得ないんだけどね。

「そうだな。俺は幸運に恵まれているよ」

「……普通の人なら、5回くらいは死んでるからね?」

クレアがボソッと言う。

まあ一般人には辛いかな。でも、訓練をした兵士や冒険者であれば、あれくらいの魔物は普段から倒しているんじゃないかな。

「それはそうと、ボナンザさんから金を預かっていると思うんだけど」

「あ! そうでした。先にお渡ししておきますね」

店主はそう言って、1枚の紙と布袋を持ってきた。

紙には、ボナンザさんの文字で感謝の言葉と金額が書かれていた。金貨300枚。これが多いのか少ないのか、俺には判断できない。

「ありがとう。後で確認するよ」

「あの……できればこの場で確認してください」

店主にそう言われたので、クレアに任せた。クレアが金貨を数えているうちに、金ボアコートの受け取りを済ませる。

店主の後ろには、これ見よがしにド派手な金色のコートが、5着掛けられている。あれが俺たちのコートだろう。

俺の注文通り全員のデザインを変えてある。俺のコートが異常なほどド派手で、他のみんなはほどほどに派手だ。これを着て 街中(まちなか) を歩くのは、少し勇気が要るな。

「ありがとう。ところで、代金なんだが……」

「あ、それでしたら、先日お預かりした分で、なんとか足りました。かなりギリギリだったので、次回はもう少し余分に欲しいですね」

店主は得意顔で答えた。

少しは返ってくるんじゃないかと期待したのだが、ダメだったな。1着あたり金貨60枚、次回はそれ以上になる。滅茶苦茶高い。壊さないように気を付けよう。

俺が受け取りの手続きをしている間、アーヴィンは店内を物色していた。いろいろ見た結果、どうやら気に入った服が見つかったらしい。

上着はショート丈の真っ赤な革ジャン、下は真っ黒なストレートパンツ。インナーは白のシャツだ。

ヤンキー小学生?

「……何か言いたいことでも?」

俺がじろじろと見ていると、アーヴィンが不機嫌そうに言った。でも俺は思ったことは口に出さない。トラブルの元だからな。

「なんでもない。気に入ったのなら買うか?」

俺がそう言うと、アーヴィンが目を輝かせた。

「いいの?」

あれ? 俺が買うとは言っていないぞ。

「いや、後からお前の親に請求するつもりだからな。それに、今着ている服じゃ寒いだろ。買っておいた方がいい」

まあ、あのおっさんなら払うだろう。貴族からすれば大した金額じゃないし。

「え……いいのかな……」

「気にするな。安いもんだ」

俺が払うわけじゃないけどね。アーヴィンが選んだ服は、全部で金貨48枚だった。高い。超高い。子ども服って、どうしてこんなに高いんだろう……。でもたぶん、貴族なら余裕で払える金額だ。

アーヴィンは、俺のお古の布の服を着ている。最初に着ていた貴族の服では目立ち過ぎるからだ。それに、デザインが複雑だから着たり脱いだりが面倒過ぎる。

風邪をひかれても困るので、今買っておいた方がいい。

俺の服もボロボロになってきたので、新調しようかと思う。どういうわけか、俺の服だけ異常に劣化しているんだよなあ。

全体に擦れたような傷があり、細かい破れが何箇所か。水濡れでシミになった部分もある。

「ルナの服よりも後に買ったはずなんだけど……おかしいな」

「それは仕方がありませんよ。コーさんは、誰よりも動いていますから」

確かに、戦闘回数で言うなら俺が圧倒的に多い。

でも、それを言うなら、ルナだってかなり動いているはずなんだよなあ。食事の準備やテントの設営など、雑用で一番働くのはルナだ。

俺たちが買い替えの相談をしていると、店主が大慌てでカウンターの中から出てきた。

「せっかく味が出てきたのに、今買い換えるなんてとんでもない! すぐに修理するので、待っていてください!」

店主はそう言って、俺のコートを引っ手繰る。さらにジャケットとズボンも脱がされ、持っていかれた。寒いので、外套を羽織って待つ。

革製品は使い込むと味が出るなんて言われるが……ボロくなっただけに思えるんだよなあ。

「確認終わったわよ。金貨300枚、間違い無いわ」

クレアに任せていた、金貨の確認が終わったようだ。

面倒な……と思ったんだが、後から足りないことが分かると、それはそれは面倒なことになる。店主が盗んだという疑惑が生まれ、誰が間違えていたとしても全員が傷つく。誰も得しないので、この場で数えるのが最善だ。

金貨の確認が終わると、店主も奥から戻ってきた。

「お待たせしました。補修終わりましたよ」

「ん? 早いな。こんなもんなのか?」

「専用の道具もありますし、こんなもんですよ。酷い損傷ではありませんしね」

戻ってきた服に袖を通す。着心地は変わっていないが、ボロくなった部分は補修され、味と言っても良いような状態になっている。この状態なら着続けてもいいかな。

と言うか、破れた革って直せるんだな。初めて知ったよ。

補修の手数料は、全部で金貨3枚だった。アーヴィンの服と合わせて金貨51枚を店主に渡す。

「アトラスの革ですが、こちらは半分ですね。残りの半分は、ボナンザさんが持っていかれました」

アトラスと言えば、身長10mくらいの巨体だ。その革ともなると、かなりの大きさになる。半分でも、両手で抱えきれないほどだ。マジックバッグの容量を圧迫する。

店主に仕立てを依頼して、革も渡してしまえば楽なのだが……。これ以上仕事を増やしたら、店主が死んでしまいそうだ。

エルミンスールに放り込んでおこう。普段使わない素材は、全部エルミンスールに置いておけばいいかな。

金ボアの素材は、最初から必要な分だけしか渡していない。端切れは店主が勝手に処理するはずだ。捨てるには惜しい素材なので、何かに活用するだろう。

「確かに受け取った。ありがとう」

そう言って店を出ようとした俺を、リリィさんが制止する。

「ちょっと待ってくれ。

店主殿、こんな物があるのだが……」

そう言って『過働の指輪』を取り出した。ここでも売り込みをするのか……。寝る間も惜しんで仕事をしているみたいだから、店主なら欲しがるだろう。

でも、そのヤバイ指輪を普及させるのは、あまりオススメしないぞ。王都がブラック戦士で溢れかえるじゃないか。

「これは……?」

「改良版『過働の指輪』だよ。寝ずに働けるという効果はそのままに、付けたままでも寝られる。さらに、ほんの少しの睡眠でも十分疲労回復できる、すぐれものだ」

あれ? ちょっと欲しいかも……。いやいや、騙されたらダメだ。うーん、睡眠時間を短くできるというのは魅力的なんだよなあ。

「な……素晴らしい! おいくらですか? すぐにお支払いしますよ!」

案の定、店主がバッチリ食いついた。ちょっと心配なので、確認しておく。

「なあ、リリィ。指輪を外すとどうなる?」

「ぐっすり眠れる。起きた時に少し体が痛むが、なかなか心地良い痛みだぞ」

副作用が酷くなっているじゃないか。危ない危ない。騙されるところだった。

「いいですねぇ。ぐっすり眠れるなら、多少の傷みは我慢しますよ!」

あ……いいんだ。副作用に納得できるなら、まあいいんじゃないかな。

指輪の代金を受け取り、店を出た。

指輪の値段は、金貨5枚に設定したらしい。魔道具にしては安い値段だが、材料費が安いので妥当な値段だ。ボナンザさんからも注文が入っているので、余分に量産したそうだ。

いずれボナンザさんの店にも顔を出す必要があるが、ボナンザさんの店は奴隷商と飲み屋。どちらも子どもが遊びに行くような店じゃない。今日じゃなくてもいいだろう。