軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人探し

テントで一夜を明かした。魔物の襲来もなく、人が来ることもなかった。平和な夜だ。

一夜のうちに服が乾いたので、普段の服に着替えた。アーヴィンの服だけは乾いていなかったので、布の服のまま。かなり寒いはずなので、俺の外套を貸しておいた。

正直、アーヴィンが女だと分かってから、対応に困っている。男だと思っていたから、荷物のように抱えていたんだ。女だと知ってしまったら、それなりに気を使う。

「気にしなくていいよ。男だと思って接してよ」

と言われてもなあ……。知らなきゃ良かったよ。今まで聞いた話の中で、ここまで知ったことを後悔したのは今回が初めてだ。

アーヴィンをお姫様抱っこしようとして、本気で抵抗された。仕方がないので昨日と同じように小脇に抱える。

「それで、エウラはどの辺りなんだ?」

「もう少し北だよ。昨日よりはマシだけど、泥だらけになるから。覚悟してね」

せっかく洗ったのに……。この服を買ってから、凡そ半年が経つ。かなりくたびれてきた気がする。毎日着ているし、頻繁に洗濯するからなあ。そろそろ買い替えの時期かもしれない。

1時間ほど走ると、遠くに街が見えてきた。アーヴィンの宣言通り、足元はぐちゃぐちゃだ。どうしてこんな足場が悪い所に街を作ったのか……。

服も靴も酷い汚れようなので、かなり早い時間だがさっさと街に入る。

街の防壁はアレンシアほどではないが、十分に高い。厚みがあって頑丈な作りだ。防御力はアレンシア以上だろう。安心できる壁だ。

例の如く門番は2人。木でできた門の前に立ち塞がっている。門番の前に立ち、アレンシアの身分証を見せた。

「ふむ……。ミルジア経由か。いいだろう。入れ」

俺とパーティメンバーはすんなり入れたのだが、アーヴィンが引っ掛かった。

門番の1人と揉めている。

「オマリィ子爵家六男のアーヴィン・オマリィだ。通してもらいたい」

「だから、身分証を見せろと言っている。そんな小汚い身なりで、信用できると思うな」

小汚くて悪かったな。それは俺の服なんだよ。アーヴィンの服はまだ乾いていない。

「お前、身分証も置いてきたのかよ」

「だからぁ、あんな短時間で準備できないって!」

身分証は肌身離さず持っておく物じゃないのかな……。盗まれたら大変だぞ。貴族の家だから、盗まれる心配が無い? いやいや、危機感が薄いだけだな。泥棒はどこにでも湧く。

ここで足止めをされると面倒だな。手助けしておこう。

逃げるように家を出た、ということは伏せた方がいい。確実にトラブルの元だと思われて、無駄に警戒される。

「服は洗濯中だ。その他の持ち出し品は、魔物の襲撃で紛失した。身分は俺が保証するが、足りないか?」

冒険者の保証では絶対足りない。しかし、俺にはもう1つの身分証、王からの任命証がある。ここには貴族相当の身分と明記されている。できれば使いたくなかったが、これならそれなりに効果があるだろう。

「……はっ! 失礼いたしました。お通りください」

門番が直立不動で答える。大丈夫だったようだ。

「このことは、口外しないように」

という注意だけはしておく。単純に俺の身分が面倒なだけなんだけど、たぶん都合良く解釈してくれると思う。

アレンシアの王直属の部隊が、ミルジアの貴族を保護している。これが俺の今の状況。多少知恵が働く兵士であれば、王からの密命を受けていると考えるだろう。余計な詮索をされる心配が無くなる。

「ふうぅ! ここがエウラなのね! 薬師ギルドに行ってもいい?」

クレアのテンションが高い。ずっと来たがっていたから、無理もない。

「まあ、ちょっと待て。先に着替えよう」

服が泥だらけなんだ。まずはしっかりと洗って乾かす。

エウラの街の中は、石畳で念入りに舗装してある。街のいたるところで水が湧き出しているようで、未舗装の部分は泥と水たまりと水路でできている。あちこちに背が高い草が生えているが、その下はきっと水たまりだ。

石畳は泥で汚れている。あちこちで打ち水をしている人を見かけるので、これでも毎日掃除しているのだろう。

建物は、どの家も高床式の木造だ。それもかなり簡素な造り。いくら温暖な土地だと言っても、冬は寒そうだ。

どうしてこんな面倒で問題ばかりの土地に街を作ったんだよ。

「この辺りが薬草の群生地だからよ。薬草を採取する人が住み始めて、その薬草を求める薬師が集ったの」

クレアが饒舌に説明してくれた。利便性を求めて、自然と集まったようだ。実際、この街は必要最低限の機能しか無いらしい。武器を作る鍛冶屋は居ないし、服を作る職人も居ない。行商人の持ち込む商品が生命線になっている。

街にある商店が扱う商品は、薬師関係と食料品だけ。その食料も、ほとんどが保存食だ。生鮮品やその他の商品は、行商人が持ってくる。手持ちの食料が心許ないんだが、この街では買わない方がいいのかな……。

なんにせよ、先に宿を探す。エウラの街の宿は、コテージのような木造建築だ。建物1つが1部屋になっているらしい。

造りは意外としっかりしているが、その割に安い。

その理由は、宿がボロいと冒険者が寄り付かないから、だそうだ。この辺りの魔物は凶暴で、定期的に間引く必要がある。兵士だけでは手が足りないらしく、冒険者にも依頼が出ている。しかも、討伐に報酬が出るそうだ。ここで狩りをすれば儲かりそうだな。

宿は1棟が大きいので、1部屋で済ませることにした。ベッドは8人分準備してある。テーブルの上を見ると、文字の書かれた板が置かれている。何だこれ? 手にとって見る。

「……ルームサービス?」

何かの商品名が羅列してある。その横には、金額も並んでいる。

「あ。それ、ポーションの値段表じゃない? 聞いたことがあるのよ。エウラの宿では、お部屋でポーションが買えるんだって」

クレアが俺の横から覗き込んだ。

とことん冒険者特化の宿だな。それも、狩り専門の冒険者に特化している。部屋が広いのもそのためだろう。1つのパーティが1つの部屋を使うように考えられている。

ポーションの相場は、アレンシアと変わらない。但し、質が全く違う。ここのポーションは、他所の街に持っていけば倍の値段で取引されるそうだ。何本か買って帰ろうかな。

「ところでアーヴィン、お前は誰に会わせればいいんだ?」

これがエウラに来た一番の目的。おっさんオマリィの友人とやらに引き渡せば、依頼は終了だ。

「この街で薬草採取をしている、ケインさんていう人だよ。僕も会ったことがあるから、見ればわかる」

見れば……ねえ。見るのが大変なんだけど。外壁の大きさから察するに、人口は少なくない。5000人は居ると思う。まずは聞き込みかなあ。

着替えを済ませたら、宿の店員に場所を聞き、薬師ギルドに向かう。クレアが鼻歌交じりで歩いている。相当楽しみにしているようだ。

薬師ギルドの建物は、やはり高床式の木造。大きな建物が何棟か並んでいる。全てが関連施設だそうだ。その中の1つ、受付カウンターがある建物に入る。

中は薬のような匂いが漂っている。嫌な匂いではない。ハーブを煮詰めたような匂いだ。

ホールの様子は冒険者ギルドに似ている。いくつかのテーブルと椅子が並び、多少の作業ができるようになっている。そこで作業している人も数人居る。

作業している人を無視して、カウンター係に声を掛ける。

「いらっしゃい。購入ですか?」

「いや、購入もしたいんだけど、まずは人探しだ。薬草採取をしているという、ケインという人を探している」

名前から察するに、たぶん男だ。でもアーヴィンの例があるから油断はしない。

「……ケインさんですか……失礼ですが、どういった御用でしょうか?」

カウンター係は不審そうな顔を向ける。突然聞くのは良くなかったかな。俺の身分証を見せる。王の任命証の方だ。大抵の問題はこれで解決する。

「ちょっとした依頼だよ。急用なんだ」

今(・) 回(・) は(・) 嘘を吐いていないぞ。カウンター係がどう勘違いするかは知らない。

「そうでしたか……。大変申し訳無いのですが、ケインさんの居場所は我々も聞きたいのです」

「どういうことだ?」

「実は 1月(ひとつき) ほど前、行方不明になりました。冒険者や兵士の方々にも捜索に協力していただいておりますが、生存は絶望的かと……」

カウンター係は苦々しい表情で言う。

困ったな。いや、かなり困った。この世界では人が死にやすい。それは分かっているけど、どうしてこのタイミングなんだよ。

「それはどこですか! 僕も探しに行きます。教えてください!」

アーヴィンがカウンター係に食って掛かる。探すって言ってもなあ……。アーヴィンが行くなら、俺たちも付き合うことになるじゃないか。まあ、乗りかかった船だ。最後まで付き合おう。

「その人は単独行動しているのか?」

「一度に質問しないでください……。南東の湿原に向かったことは確認されています。ニュンパエアの採取が目的でした。それが最後ですね。その時は単独でした」

ニュンパエアとは、クレアが採取していた水生の植物だ。湿地の奥に生えていて、採取中に足を取られると脱出できなくなる。コツがあるのかもしれないが、1人では危険だ。

単独行動中の事故か、魔物に襲われたか……。これは見つからないと思った方がいいな。

「わかった。ありがとう。ところで聞きたいんだが、ポーションの作り方を教えてもらえないか?」

「……作り方、ですか。それもその……任務で?」

沈黙で答える。どう解釈するかはカウンター係次第だ。まあ、教えてもらえたらラッキーくらいの感覚なんだけどね。

「わかりました。手配します。ただし、材料はそちらで入手してください。大抵はこの街で買えますので。

では少々お待ちください」

カウンター係はそう言って立ち上がると、ホールで作業していた年配の女性に声を掛けた。

あの人が教えてくれるのかな。

「ねぇ、ケインって人を探さなくてもいいの?」

クレアが心配そうに耳打ちをする。

「ああ。教わるのはクレア1人だ。その間に探してくるよ」

人探しのために、全員で歩き回る必要は無いだろう。ついでの薬草採取ができないのは残念だが、ポーションの作り方を教わることの方が重要だ。

「……ありがと」

クレアははにかんだような笑顔で答えた。

念のためにリリィさんも街に残そう。作業中はスキだらけになるから、護衛だ。

少し待つと、カウンター係が年配の女性を連れて戻ってきた。

「こちらが指導してくださる、ドリスさんです。腕は保証致します」

「どういうつもりか知らないけど、ワケアリのようだね。覚えたいんなら勝手にしな」

ドリスさんは不機嫌そうに言う。厳しそうな人だが、しっかりと教えてもらえそうだ。

「教わるのは俺じゃない。彼女だ」

ドリスさんにクレアとリリィさんを紹介した。

クレアとリリィさんはここで別行動になる。いつでも連絡が取れるよう、スマホは通話状態にした。夜には宿に戻るので、別行動は昼のうちだけだ。

材料集めも腕の内ということらしいので、クレアに金貨50枚を渡した。移動中に採取したニュンパエアはクレアに任せる。使うかもしれないそうだ。買うと高いので、採取しておいて正解だった。

しかし、王から貰ったこの任命証の効果はヤバイ。使いすぎると癖になりそうだ。軽々しく使ったら拙いな。またしばらく封印しよう。