軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

残念

今日の移動はここまでと決め、荒野の真ん中でテントを設営した。枯れ木のような痩せた木がまばらに生えた、丘陵地帯だ。赤茶けた色の土が剥き出しになった、大小の山が並んでいる。

周辺の湿気はかなり多く、上手く掘れば井戸も作れそうだ。なぜここに街を作らないのか。

「こんな所に来る人は居ないよ……。他の街から遠すぎるし、この周辺から生きて帰った人が居ないんだ……」

アーヴィンは、何かを悟ったような遠い目をして言う。

それなりに危険地帯のようだ。知っていたけどね。マップには『不明』の敵影が山ほど見えている。同時に『スライム』も、マップを埋め尽くさんばかりに徘徊している。

スライムは大型の魔物の餌になる。大量に居るということは、大型の魔物も大量に居るということだ。ちょっと危険な気もするが、今は教会の追手から逃げることを優先したい。

「まあ、近くには居ないから大丈夫だろ」

「……何が?」

あ、主語が抜けていた。まあいいか。半径1km以内には『不明』の反応は見当たらない。奴らが寄ってくる可能性は否定できないから、用心だけはしておこう。

「ねー、何が居るか見てきてもいいー?」

リーズは『不明』の正体が気になるようだ。安全のため、俺も確認しておきたい。

「俺も行くよ。食事の準備は任せる」

ルナたちが居るところを向いて言う。すぐに了承を得られたので、リーズとともに『不明』の魔物に近付く。奴らは基本的に単独行動をしているようで、ほとんどの反応が単独で表示されている。重なって見える反応は、おそらく子連れだろう。

単品の魔物に接近し、目視で確認する。大きさはボアよりも二回りほど小さい。軽自動車くらいだろうか。形は 犀(サイ) だ。ずんぐりとした灰色の体で、鼻先に大きな角のような物が生えている。

地球の犀だったらあの角は毛と同じ成分なんだけど、魔物だとどうなるのかな。

「どうだ?」

「そんなに強そうじゃないねー」

リーズはのんびりとした様子で言う。リーズの中では、強さの基準は大きさなのかもしれない。

「油断はするなよ。見た目と強さは比例しない」

「わかってるよー。じゃあ帰ろっか」

え? 帰るの? 本当に見に来ただけかよ。せっかく来たんだから、1匹くらい狩ってから帰ろうよ。

「じゃあ、俺が狩ってくるから。それから帰ろう」

リーズの返事を待たず、犀の前に飛び出した。犀はそれに気付き、すぐに突進してきた。速度は結構速く、武器を構える時間が無い。あっという間に俺の目の前に到着し、そのまま俺の右側をすり抜けていった。

ん? 何がしたかったんだ?

マチェットを構え、後ろに走り抜けた犀を見ると、立ち止まって首をかしげている。マジで何がしたいの?

犀はすぐに方向を変え、再度俺に突進を仕掛ける。鋭く尖った角が俺に向かってきて、そのまま左へ抜けていった。

目と頭が悪いのか……。かなり残念な魔物だな。特徴は理解した。マチェットを構え直し、次の突進を待つ。

……待つ。

来ない。

何なんだよ! と思ったら、そろりそろりと近付いてきた。突進しろよ! 何のための角だよ。

悪いのは『目』じゃない。『頭』だ。相当残念な魔物だな。さっさと終わらせよう。

一気に距離を詰めて頭にマチェットを突き立てる。『カキィン』と鳴って、弾かれた。犀は俺の攻撃を気にする様子もなく、さっき俺が居た場所に向かって前進を続ける。

「いや、止まれよ!」

どうして誰も居ない方向に向かっていくんだ……。

そんなことを言っても仕方がないか。皮膚は物凄く硬い。鉄みたいだ。いや、鉄より硬いかもしれない。馬鹿じゃなければかなりの強敵だ。本当に残念な魔物だな……。

マチェットでは少し辛いな。リーズとベースキャンプの安全を確認し、アンチマテリアルライフルの弾丸を準備する。1発あれば十分だろうが、念の為に3発。

犀の前に回り込み、1発撃ち込む。『パァン!』と乾いた音が鳴り、犀の口から頭に向けて、一筋の穴が空いた。犀は不思議そうにキョロキョロと辺りを見回すと、突然声を上げて苦しみ始めた。

「反応、鈍っ!」

痛覚神経が無いのかな。よく分からない魔物だ……。しかし頑丈だな。脳を貫通するコースだったはずなんだけど。もしかして、脳みそが無いんじゃないのか? 馬鹿だし。

さっさとトドメを刺そう。残りの2発を顔面に浴びせると、『ズゥン……』と音を立てて倒れ込んだ。マジックバッグの中に回収し、リーズのもとに走る。

「終わったぞ」

「なんだかよくわかんなかったよー。戦ってたの?」

リーズは不思議そうに言う。

そうなんだよなあ。あれが戦いかと言われたら、俺も疑問だ。ただ、もし角での突撃が当たっていれば、かなり痛かったと思う。でもあれに当たるのって、逆に難しくない? 自分から当たりに行かないと当たらないぞ。

刃物が通りにくいので、もしかしたらサイクロプスよりも厄介かもしれない。でも、絶望的に頭が悪い。100匹から囲まれても楽勝で逃げ切れる。

夜中に襲われた場合を想定しよう。

例えば異変に気付いてテントに突進してきたとする……その前に、犀は異変に気付かないな。目の前に突然テントが現れても、気にも留めない可能性があるぞ……。

いや、仮にテントに突進してきたとする。おそらく、テントの横を掠めて明後日の方向に向かっていくだろう。その間に応戦の準備ができる。負ける要素が見当たらない。

結論。あれは脅威にはならない。

「よく分からない相手だった。でも、そんなに危険じゃないと思うぞ」

用心だけはしておこう。何かの偶然で、あの攻撃が当たる可能性もある。

マップに犀の情報を追記すると、周辺の『不明』が全て『犀』に変わった。正式名が分かったら情報を上書きしよう。

リーズを連れて、ベースキャンプに戻る。そこでは食事の準備が着々と進んでいた。

「どうでしたか?」

「マップに表示されている大半は、こいつだ」

そう言って、マジックバッグの中の犀を取り出した。

「……初めて見ますね」

ルナは、横たわる犀をまじまじと見つめる。

「ひぇっ! ライノ……」

後ろから見ていたアーヴィンが、驚いて腰を抜かした。大げさ過ぎるだろう。

「こんなやつ、雑魚じゃないか。何を驚いているんだ?」

「雑魚……じゃないよ……。サイクロプスと同じくらい危険なんだ。使徒時代の僕なら倒せたけど……今はどう足掻いても無理かな」

アーヴィンは、引きつった笑みを浮かべながら言う。比較対象が良くないぞ。サイクロプスも雑魚の部類だから。あれはただのでっかいゴブリンだから。

でも、確かにあの犀は子どもの腕力では難しいかなあ。皮膚がかなり硬い。相性的に言うと、クレアとリリィさんなら楽勝、リーズとルナは苦戦ってところだ。

クレアも近くに寄ってきて、興味深く犀を覗き込んだ。

「へぇ。これがライノなんだぁ」

「ん? クレアは知っているのか?」

「革鎧の素材として結構人気よ。ミルジアから流れてくる高級な革鎧は、大抵これ。あとね、角が万能薬になるって言われてるわ」

ミルジア製の革鎧は、たまにアレンシアの店頭に並ぶらしい。武器類には輸出規制が掛かっていないのかな……。

「なるほど。薬の素材も手に入って良かったじゃないか」

「あ、それは間違った情報だから。そう言われてるってだけよ。実際は何の効果も無いわ」

クレアはやれやれと両手の手の平を上に向け、首を小さく横に振った。迷信の類らしい。よくあることだ。

ライノの周りで騒いでいると、リリィさんが大声を出した。

「食事の準備が終わったぞ。早く食べよう!」

1人で準備を進めていたらしい。テーブルの上には、人数分の料理が並べられていた。リリィさんは最初は包丁を握ることすら覚束ない様子だったが、今では普通に料理ができるようになっている。かなり真面目に練習したようだ。

ライノのお披露目を終わらせ、マジックバッグに仕舞った。そう言えば、エウラで売れるのかな……。まあいいや。エウラに到着してから考えよう。

今日のメニューは保存食ベースのスープとパン。代わり映えのないメニューだが、毎回少しずつ、材料と味付けを変えてある。今日は香辛料が強めだな。

食事を終え、万が一ライノに襲われた時の対処を話し合っておく。周辺に大量に居るからな。無いとは思うが、念のためだ。

「ライノなんだけど、足は結構速いぞ。皮膚は相当硬い。もし夜中のうちに襲われたら、その辺りを注意してくれ」

「魔法がよく効くんだ。魔法で戦うことをお勧めするよ」

アーヴィンが補足する。魔法が効くのなら、強化マチェットでも良かったな……。次からは強化マチェットを使おう。

そういえば、武器の強化は誰にも教えていなかったな。エルフの魔法属性の『付与』を使って強化している。身体強化の延長だ。詠唱魔法には類似する魔法が無いはずだ。それなら、ルナやリリィさんにも使えるんじゃないかな。

みんなに武器強化を説明した。アーヴィンだけはポカーンとしているが、仕方がない。身体強化が使えるようになったら教えてやろう。

それぞれが武器を取って強化の魔法を使う。

「あ……できますね」

ルナが足元に転がる石を拾い、スパスパと斬りながら言う。

問題無く使えるようだ。先にこっちを教えるべきだったな……。

リリィさんも石を拾い、メリケンサックを付けた右手で殴る。『ボッ』と音を立てて石が弾け飛んだ。

「うーん、私はダメみたいだ……」

素の力だったらしい。力、以前より強くなっていないか? まあ、いいんだけど。

リリィさんは難しい顔で首をひねる。見る限り、魔法は発動しているんだよなあ。リリィさんのメリケンサックは魔道具だ。もしかしたら、魔道具には効かないんじゃないかな。

「ナイフで試してくれないか?」

リリィさんは「わかった」と呟き、マジックバックから剣鉈を取り出した。再度石を拾って斬りつける。『ドバッ!』と音を立て、石が粉砕した。

「使えた! 凄いな!」

リリィさんは満面の笑みを浮かべた。

思っていた効果と違ったけど、上手くいったようだ。どうして斬れずに粉々になったんだろう……。

クレアもナイフを取り出して挑戦している。石はスパスパと斬れているのだが、表情は暗い。

「ファルカタの方が斬れるわね……。やっぱりアタシは魔法が下手だわ……」

切断専用の魔道具と比べる方が悪いと思うんだけど、クレアは納得できないらしい。

「それだけ使えれば十分だよ」

俺がそう言うと、「そうかなぁ?」と呟いてナイフを仕舞った。ファルカタが使えない時の緊急手段としては、十分に使えるはずだ。

最後にリーズの様子を見る。リーズはなぜか、ナイフではなく非殺傷武器の鉄の棒を持っている。武器強化を施し、近くにあった岩を殴りつけた。すると岩は、音も無くスパッと2つに分断される。

こっちはどうして斬れるんだよ! リリィさんとリーズの効果、逆じゃね?

「できたよー!」

リーズは俺の顔を覗き込み、嬉しそうに尻尾を振った。俺は頭を撫でて返す。

鉄の棒はよく斬れる。それでいいじゃないか。そういう物だと思っておこう。

「良かったな。全員使えるみたいだ。みんなも、臨機応変に使い分けてくれ」

と言っても、本当なら常に使っておいた方がいい。俺がたまにしか使っていないのは、忘れているからだ。毎回、斬りつけてから思い出す。今後は気を付けよう。

武器強化ができるようになったので、ライノに囲まれても1人で対処できるはずだ。アーヴィンを外した5人が交代で見張りをして、今日は休む。