作品タイトル不明
祭のテンション
無事に広場を脱出し、門の前で立ち止まる。
「ゆっくり見られなかったな」
「今回はしょうがないわ。貴族が居るなら、どの道ゆっくり買い物なんてできないから」
「むしろ、早めに離れられて良かったと思うぞ。ミルジアの貴族は、アレンシアの貴族に輪をかけて面倒なのだ」
経験者のクレアとリリィさんが語る。ミルジアの貴族は余程面倒な連中なのだろう。サントスは午後から抽選だと言っていた。広場には貴族が大量に集まるはずだ。もう骨董市は諦めた方がいいな。
それなりに買い物を楽しめたから、良しとしよう。
「それに、結構買えましたよ?」
「ごめん、お金なくなっちゃった……」
ルナとリーズは、いつの間にか結構買ったらしい。俺が買ったのは偽物のリボルバーだけだ。手作りらしく、歪な形をしている。自分でも何で買ったのか分からないのだが、モデルガンとしては面白いと思う。
「まあ、雰囲気は味わえた。アレシフェに戻ろう」
門を抜けようとすると、ボナンザさんが出発の手続きをしていた。
毒の実を食べて具合が悪くなったので、長めに休息を取っていたのだろう。顔色も良くなり、本来の調子に戻ったようだ。
「偶然だな。今帰りか?」
「あら、偶然ねぇ。今からアレンシアに帰るわ。あんたたちは?」
「俺たちも帰るんだよ。昇級試験の最中だからな」
「うんっ? 試験官が居ないみたいだけど?」
「先に帰ったよ。ギルドで依頼の終了を報告すれば終わりだ」
「へぇ、今はそんななんだ。あたしの時はもっと厳しかったけどねぇ」
ボナンザさんと話をしているうちに、出発の手続きを進めてもらう。アレンシアの場合、街から出る時はほぼ素通りだ。でもミルジアの場合はそうはいかない。名前を記録したうえで、持ち物検査もやる。
マジックバッグがあるので無駄だと思うが、確認しているというポーズが重要なのだろう。
「俺たちが特殊なだけだと思うぞ。試験そのものがいい加減だった」
筆記試験が終わった後に『依頼が達成できれば合格させる』なんて言い出すのは、どう考えてもおかしい。
最初から落とすつもりだったと考えると、辻褄が合うんだよなあ。Eランク冒険者がAランク試験を受ける、ということを不審に思われたんだろう。いや、身の程知らずと思われた、かな。俺だったらそう思う。
「そんなこともあるのねぇ。時代は変わったってことかしら」
「おい。通っていいぞ」
門番が話に割り込んできた。
話をしているうちに、全員分の手続きが完了したようだ。これを無視して勝手に帰った場合、再度ミルジアに訪れた時に問題になるそうだ。最悪、そのまま牢獄へ。本当にいろいろ面倒な国だ。
そのままボナンザさんと並走して帰る。
全力とまでは言わないが、それなりの速度で走っている。しかしボナンザさんも、激しく土煙を巻き上げながら、しっかりとついてきている。あれだけの巨体で、よく走れるものだ。やっぱり人間じゃないだろ。
「いつも思うけど、あんたたちって本当に全員が優秀よねぇ。1人でもいいから、ウチの店で働かない?」
走りながら会話をする余裕もあるようだ。走る音がドドドドドとやかましいが、なんとか聞き取れた。
ボナンザさんの店は……奴隷商だよな? 武闘派な従業員が必要とは思えないんだけど。まあ、敵が多いみたいだからなあ。店員も戦えないと危険なのだろう。だが。
「断る。全員大事なメンバーなんだよ。離れてもらっては困るんだ」
「まぁ、そうよねぇ。お金に困ったらいつでも言いなさい。高く雇ってあげるわ」
「考えておく」
ちょっと考えるだけだ。答えは決まっている。でもバイトくらいなら……良くないな。一度でも頼ったら、宿屋の店主のようにこき使われそうだ。
アレシフェを視界に捉えた時、ボナンザさんは「急ぐから」と言って先に王都に帰った。宿屋の店主のために、早く帰ってあげてほしい。
アトラスは既にボナンザさんに預けてある。「引き渡しは革職人の店で」と言われ、店の地図が入った封筒を受け取った。アトラスの相場がわからなかったので、その代金もその時一緒に渡される予定だ。加工が終わる頃に行ってみよう。
俺たちは、依頼の完了報告をするために冒険者ギルドに向かう。
「やあ。聞いていると思うけど、依頼は達成したよ」
カウンターの向こうには、以前と同じムッキムキの年配男性が座っている。
「遅かったね。ゆっくりしすぎだよ。間に合わないかと思ったぞ」
まあ、この苦言は仕方がないかな。4日ほどゆっくりしていたから。
「悪かったな。でも間に合ったからいいだろう」
「そうだな。お疲れ様。これで昇級試験は完了だよ。君たちなら合格で間違いないと思うが、追って通達が入る」
詳しく説明を聞くと、高ランクの昇級試験はギルド本部の承認が必要らしい。そのため、昇級が確定するまでに少し時間が掛かる。
試験が実施された街で待つというのが通例だそうだが、この街にはもう用が無い。結果は王都のギルドに伝えてもらうようにお願いした。ここに居ても暇なので、リンゴと桃が腐る前にエルミンスールに行こうと思う。
カウンター係は、帰ろうとする俺たちを呼び止めた。
「おいおい、報酬がまだだぜ」
そういえば、まだ受け取っていなかったな。グリーンブルの分もまだ受け取っていない。
カウンター係は、金貨が詰まった袋を手渡した。重さから察するに、だいたい200枚くらいだろうか。
「多くないか?」
「サントスさんの依頼は、金貨60枚の報酬だったんだよ。全部合わせて200枚だ」
嬉しい誤算だ。グリーンブルも全部良品として引き取ってもらえたようだ。1匹だけちょっとボロボロだったから、心配だったんだ。
最近散財した分は全額返ってきたかな。でもまだサイクロプスの代金も受け取っていない。金貨2000枚近い売上だったので、持ち合わせていなかった。そのため、王都の銀行で換金できる手形を受け取った。これはこれで面倒なんだけどな。
今日はもう遅いので、前回と同じ宿で一晩休むことにした。
ついミルジアと比べてしまうな。ここはアレンシアの一般的な宿だ。可もなく不可もない調度品が置かれ、適度な広さ。8畳くらいの部屋が2部屋だ。これで大銀貨2枚。ミルジアだと、このレベルの部屋が金貨1枚になる。酷い話だ。
夜になり、今日の戦利品について話し合う。俺はみんなが何を買ったのか見ていないからな。ちょっと気になる。
「俺が買ったのは、これだ」
まずは俺のリボルバーを見せる。ただのオブジェだ。これで金貨1枚。今見るとアホかな? って思う。どうしてこんな物に金貨1枚も出したのか……。その場のテンションは怖い。
「え……置物ですよね? 何を模した物なのでしょうか」
「こんな形の物は見たことが無いな。面白い」
ルナとリリィさんが食いついた。興味深く眺めている。予想していた反応と違う……。意外にも高評価だぞ。
「ああ、これは俺が居た世界の武器なんだよ。リボルバーっていうやつだ」
「何っ! 使徒由来か! さすがはコー君だ。面白い物を見つける」
使徒由来……何その言葉。ちょっと高級そうじゃないか。
「使徒由来ならアタシも買ったわよ。ほら、これ」
クレアはそう言って木の塊を取り出した。
よく見ると、木彫りの熊。大きな鮭を咥えている。大きな将棋の駒もある。下手な文字で大きく『香車』と書かれている。どうして『香車』なんだよ。もっとベタなやつあるじゃん。
「この模様には何の意味があるのでしょう……」
ルナが『香車』に興味を示した。
「説明が難しいな……。将棋と言うゲームに使う駒の1つだ。これは直進することしかできない。『前進あるのみ』とか、そういう意味なんだと思うぞ」
「いい言葉じゃない。いい物を買ったわ」
クレアは満足げに頷いた。
うーん……。みんなは使徒と教会を良く思っていないはずなんだけどなあ。やんわりと指摘すると、「それとこれは別」と言っていた。まあ、文化に罪は無いからな。気にしないでおこう。
しかし、こんな所で日本文化の片鱗を見かけるとは思わなかった。もっとゆっくり見ておけば良かったなあ。
「でもこれは、さして珍しい物ではないぞ。毎回必ず見かける」
リリィさんが言う。悪乗りした過去の使徒が、権力に物を言わせて大量生産したらしい。だからアホに権力を持たせるなと……。
「リーズは何を買ったんだ?」
「んーとねえ、これと、これと……えいっ!」
リーズはマジックバッグをひっくり返して、中身を全部出した。一つ一つ出していくのが面倒になったんだな。出し過ぎた私物を片付けているうちに、検品しよう。
謎の金属板、用途不明な金属棒、怪しい金属塊。ゴミにしか見えない……。
「え……?」
ルナとリリィさんの顔が引きつる。こんなよく分からない物に、金貨10枚を突っ込んだのか。
「ああ……リーズ。全部仕舞っていいぞ」
「ちょっと待ってください!」
「どうした?」
「これ……全部エルフの魔道具です……」
はい?
「あの短い時間で、どうやって見つけたのだ?」
「マップに似てるから、気になっただけだよー」
よく分からないリーズの勘が発動したらしい。
骨董市で出回るようなものは、確実に壊れている。魔力の痕跡も無ければ、すり減って魔法陣も読めない。一見すると、本当にただのゴミだ。
アレンシアから来る人がこの手のゴミを喜んで買うため、見つけたら必ず骨董市に出すらしい。買っているのは、一部の魔道具職人と宮廷魔道士の調査員だ。
「どういう道具なんだ?」
「この棒は、何度か発見されています。復元もされましたが……先端から水が出るだけでした」
細い水が直線状に放出されるだけだったそうだ。それも魔法の水なので、すぐに消えてしまう。リリィさんが作った携帯用ウォシュレットの基になった魔道具だ。
「これ、たぶん高圧洗浄機だな」
「え……? 何ですか?」
「水の勢いで、こびり付いた汚れを落とす道具だよ。石についた苔を落としたりできる。まさか、太古の昔にその発想があるとはね」
「なるほど……我々が復元した物は、勢いが足りなかったのだな」
「へー。じゃあこれは?」
リーズがB5くらいの大きさの金属板を持って言う。
「申し訳ありません。これはまだ未解明です……」
「こっちは判明しているぞ。強力な結界だ。発動させると、音と視界を遮る」
こぶし大の謎の金属塊だ。一番ゴミにしか見えない。
「便利じゃないか。何で普及しないんだ?」
「材料費がな……。この結界に、金貨300枚を出せるか?」
要らないな。視界を遮るだけなら布で十分だ。それに防音の魔道具を組み合わせるだけで解決する。何のために作ったんだろう……。当時は材料が安かったのかもしれない。
リーズは他にも数点のゴミを買っていたが、どれも用途不明だった。中には未発見の物もあり、魔導院に持っていけば高値が付く。売らないけどね。
魔道具の検品を終え、ルナとリリィさんが買った物も見せてもらった。
ルナが買っていたのは、髪を留めるバレッタと鏡。どちらも新品では買えないほど高いと言う。バレッタは銀製で、何かの植物をモチーフにしてある。ただ、硫化して黒くなっている。砥石の粉で磨いたら落ちるかな。
リリィさんは、ランタンや食器のような日用品を買っていた。どれも花柄だ。花柄が好きなのかな。
短い時間だったが、それぞれが満足行く買い物ができていたようだ。
リボルバーの回らないシリンダーをさすりながら考える。不満が残っているのは俺だけ。よりによって、ガラクタのリボルバー一挺だ。もっと面白い物を買うべきだったなあ。