軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ガラクタ市

勝負最終日は仮眠は取っているが、ほぼ徹夜だった。そのため、骨董市の初日は寝て過ごした。すっかり元気になったので、2日目は骨董市を見て回る。

前回泊まった宿は、すでに満室だった。散々探し回った結果、ボロいくせに高いという最悪な宿しか空いていなかった。こんな宿に居座りたくないので、骨董市を見たらすぐに街を出る。

宿の外に出て、サイクロプスの様子を見る。すると、壁際に並べておいたサイクロプスの数が、大幅に減っていた。今見えているのは5匹だけだ。順調に売れているらしい。

骨董市は、広場を占領して行われる。広さはおそらくサッカーコート4つ分くらい。早朝だというのに、これでもかと言うほど人が溢れている。

人を避けながら奥に進むと、布の上に商品を並べた露店が見えた。簡易的なタープを持ち込む人も居れば、シートを敷いただけの人も居る。

骨董というだけあって、ゴミなのか商品なのかわからないような物が多い。中には剣や防具なんかもあり、冒険者風の人たちが群がっている。質が悪そうなので、俺たちは買わない。

「俺には全部ゴミに見えるな」

「そうか? なかなか面白い物があるぞ。これとか……」

リリィさんはそう言って、古ぼけたランタンを手に取った。

「貴重な物なのか?」

「いや、全然。でも見た目が良いだろう」

リリィさんが手に持ったランタンは、金属部分に花の模様が刻まれている。実用には全く関係無い部分だが、確かに凝っている。

こういった遊び心重視の道具は、新品だと信じられないくらい高い。骨董市では、こういう物が人気なのだそうだ。値段は銀貨数枚程度。どれだけ高い物でも、金貨1枚で買える。

全員にそれぞれ金貨10枚を渡し、気に入った物を買うように指示を出した。

「こんなに使ってもいいのですか?」

「ああ。滅多にない機会だからな。自由に買えた方が楽しいだろ」

骨董市の雰囲気は、日本のフリーマーケットに近い。特に欲しくなくても、うっかり買ってしまう空気を感じる。上限は必要だが、金があった方が楽しめる。

せっかくなので、俺も何か買おう。と言っても、どれを見てもゴミにしか……気になる物を見つけた。リボルバー型の拳銃だ。銃身、引き金、シリンダー、撃鉄。素人目にはよく再現されていると思うが……。

「なあ、これは何だ?」

店番をしているおっさんに聞く。

「あぁ、それな。何年か前の使徒様が職人に無理言って作らせた、置物だよ」

置物かよ!

「武器じゃないのか?」

「はぁ? これのどこを見たら武器だと思えるんだ? 確かに、殴れば痛そうだが……」

手に取ってよく見ると、軸が歪んでいるのかシリンダーが上手く回らない。本物なんか見たこと無いが、これがまともに動くとは思えないな。魔道具という可能性も無い。本当にただのオブジェみたいだ。期待して損した。でも一応買う。

しばらく歩いていると、依頼者の商人を見つけた。名前は……確かサントスだったかな。日本で見たお菓子みたいな名前だったから、なんとなく覚えていた。

「よう。売れ行きはどうだ?」

「あ、コーさんと愉快な仲間たちだね。おかげさまで、大繁盛だよ」

ヤバイ。パーティー名が定着しようとしている。

「その呼び名はやめてくれ。仮名なんだ。

それで、売り切れそうか?」

「売り切れは間違いない。しかし、昨日は収拾がつかなくなってな。今日の午後、改めて購入希望者の抽選を行うよ」

「売れ残りのか?」

「いや、実はまだ1匹も売っていない。昨日から職人に頼んで解体してもらっているんだ」

複数の職人に依頼して、皮の剥ぎ取りをやってもらっていると言う。まあ、あんなデカイ物を持って帰るのは大変だからなあ。

巨人系やゴブリンのような人型の魔物は、肉が食用にならない。そのため、使える部位が少ない。サイクロプスなら、皮と爪だけだ。ただしどちらも高級素材なので、かなりの高値で売れる。本来ならね。

今回はとにかく安く売れと言った。サントスは、皮1匹分の値段を金貨50枚に設定したそうだ。加工前の皮の相場は金貨200枚、加工済みで金貨300枚くらいらしい。破格どころではない。投げ売り状態だ。

最終的な価格も相当落ちるはずだ。原価が知られているからな。そして、確実に供給過多だ。ミルジアの各地でサイクロプスの在庫を抱えることになるだろう。

抽選の対象は、ミルジアの貴族と商人に絞られたそうだ。話し合いの結果、一般人への小売はしないと決まった。

かなり揉めるかと思ったのだが、ほとんど揉めなかったそうだ。値段と量が幸いした。ミルジアで売り切るという条件も良かった。ミルジアの商人を味方につけ、貴族を納得させたと言う。

まあ、価格の下落は一時的なものだ。数年経てば元に戻る。俺の目的は嫌がらせなので、これで問題無い。

冒険者があんな大荷物を抱えていたら、まともに活動できない。売れないけど手放せない、それはただの負債だ。冒険者として活動したければ、買い手が付くまで値段を下げるしかない。ざまあみろ。

サントスと話をしていると、またしても例の冒険者が絡んできた。その後ろには、ごつい男が4人控えている。人数を揃えれば勝てると思ったのかなあ。愚か者め。

「テメェら、誰に断ってそれを売ってんだよ!」

またおかしなことを言い出したな。でも、このサイクロプスはもう俺の物ではない。サントスに対応を任せ、俺は傍観する。

「許可証は持っている。君こそ、何の権利があってそんなことを?」

「この革は、オレが売っていたんだよ! 商品を横取りすんじゃねぇ!」

え……どういう考え方なんだ? ちょっと理解できない。

ルナも混乱した様子で、俺に耳打ちをする。

「あの……意味がわからないのですが……」

「ごめん、俺にもわからない」

さて、サントスの出方を見学しよう。さあ、どう対処するんだ?

「君が何者なのか知らないが、私は自分で仕入れて売っている。君の商品を横取りしたという事実は無いぞ。

納得できないと言うなら、兵士を呼ぶが。どうする?」

直球のド正論で返すか。俺ならそうするだろうが、あまり良い対処じゃないと自分でも思うぞ。

「ハァ? んなことは知らねぇんだよ!

痛い目を見たくなければ、とっとと渡せ」

やっぱりね。冒険者は、逆上して商品を蹴り飛ばした。アレンシアから持ってきた骨董品だ。まあ、見た目はゴミだ。

控えていたごつい男の1人が、ズイッと前に出てくる。

「なァ、兄ちゃんよォ。

ミルジアにはミルジアの仁義ってもんがあるんだよ。素直に従えば、無事に祖国に帰れるんだぜぇ?」

そう言いながら、サントスの胸ぐらを掴んだ。安い挑発だなあ。

「テメェもだ! 元はと言えば、テメェがこんな物を持ち込むから悪ィんだよ!」

矛先は俺たちにも向けられた。

威嚇の魔法でサックリ気絶させれば簡単だが、それでは遺恨を残しそうだ。確実に心をへし折る必要がある。

「元はと言えば、あんたが法外な値段を吹っ掛けたのが悪いんだろ。拾った素材でさ」

「うるさいっ!」

そう言って剣を抜いた。折れた剣を買い直したらしい。

サントスの胸ぐらを掴んでいた男も手を離し、大きなな両手剣を構えた。他のごつい男たちも武器を構える。片手剣やメイスなど、武器はまちまちだ。まあ、剣を抜いたのなら遠慮は要らないよな。全力で殴り返そう。

冒険者に急接近して軽く殴る。牽制のつもりだったのだが、鼻が潰れて後ろに倒れた。鼻を押さえて地面をのたうち回っている。剣が危ないなあ。通行人が怪我をしてしまうぞ。

剣を掴んで鉄を溶かす。鉱石を精製する魔法だ。刀身が球体になって地面に落ちる。

「熱っ! ……何を じだ(した) ……?」

冒険者は鼻が潰れているので、上手く喋れないらしい。

しゃがみこんで冒険者を見下ろす。

「弱い者イジメは嫌いなんだよ。もう絡んでくるな」

「ふざけるな! アニキ! お願いします!」

連れてきた男たちのことかな。残念ながら、そうはいかない。あの連中はルナたちに襲いかかり、あっさりと返り討ちにあった。全員仲良く気絶中だ。

「あいつらは寝不足だったらしいぞ。今はお休み中だ。邪魔してやるなよ」

「な……何なんだよ! テメェらいったい何なんだよ!」

「アレンシアの普通の冒険者だよ。ミルジアの冒険者は行儀が悪いと聞いていたが、本当に行儀が悪いんだな」

ごつい男たちが持っていた剣をかき集め、熱で溶かす。形を棒状に整えて、冒険者の手首と足首に巻き付けた。

「アヂィ! アヂィよ!」

あ、普通の人は熱いんだったな。忘れていた。手錠のつもりだったんだよ。兵士が来るまで、意識を残したまま拘束したかっただけだ。

「なあ、本当にもう関わらないでくれるか。鬱陶しいんだよ」

「わかった! わかったから! もう外してくれ!」

一応言質は取ったが、信用はできないな。外した瞬間逃げ出しそうだ。威嚇の魔法で気絶させれば済む話なんだが、あれは早すぎるんだ。何が起きたか理解する前に気絶するから、心を折ることはできない。

もう既にバッキバキに折れているような気もするんだけど、兵士が来るまでは様子を見よう。

「兵士が来たらな」

と冒険者と話をしていると、人をかき分けて男が近付いてきた。背後からタキシードのような服を着た、中年男性だ。シルクハットのような帽子をかぶり、鼻の下にはニョキッと伸びた髭を生やしている。

「ン何の騒ぎかねェ?」

ずいぶんねちっこい喋り方をするな。

「ん? あんたは……」

俺が喋りだそうとすると、クレアが慌てて俺の口を両手で覆い、後ろに引いた。

「ようこそおいでくださいました、オマリィ卿。

この者共は、サイクロプスの革を狙う不届き者にございます」

サントスはそう言いながら、胸に手を当てて深々と頭を下げる。

「この人、貴族よ。アタシたちは何も喋らない方がいいわ。言葉を間違えただけで打ち首もあり得るから……」

クレアがそっと耳打ちをした。ミルジアの貴族は面倒らしい。関わらない方が無難だな。

「フンムゥ……この者は見覚えがあるなァ。私の所に売り込みに来た冒険者だァ。そうまでして私の邪魔をするかねェ……。

捕らえろォ!」

男の号令で、10人ほどの黒服の男が冒険者たちを抱えて去っていった。

「ご助力いただき、光栄にございます」

サントスは、またしても深々と頭を下げる。アレンシアの礼儀は少し勉強したが、ミルジアの作法はさっぱりわからない。下手なことをする前に、この場から立ち去ろう。

無言で歩き出そうとすると、貴族の男に呼び止められた。

「ン待てェ。

お主ィ、先程魔族の魔法を使ったなァ。話を聞かせてもらおうかァ?」

魔族の魔法……? あ、無詠唱魔法だ。さっき調子に乗って使った。すっかり忘れていたが、エルフは魔族だと伝えられているんだ。エルフの技術は、そのまま魔族の技術になる。

魔道具の自粛の時点で気付いておくべきだった。無詠唱魔法も自粛しないと拙い。

とりあえず、この場は逃げる。

「そんな物を使った覚えは無いな。俺は急ぐから行くよ」

「話が聞きたい。私と一緒に来いィ」

数人の男が俺を取り囲もうとした。でも普通に走れば逃げ切れる。みんなに目で合図をして、この場を離れた。

もう少しゆっくり見たかったが、時間もちょうどいい。このまま街を出よう。