軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フェアプレイ

今日は乾燥地帯に出向いてサイクロプスを狩る。それも大量に。そのためだけに、超大容量のマジックバッグを作っておいた。

いつものポーチではなく、バックパックだ。耐久性や使い勝手を一切無視して、ただただ容量を増やしただけの物だ。サイクロプス10匹分の容量があるが、たぶん1週間も使えば壊れる。

材料の都合で3つしか作れなかったが、1つはボナンザさんに渡そうと思う。勝負は対等の方が面白いからな。

準備を済ませたら宿を引き払い、乾燥地帯に向かった。勝負の期間中はテントで過ごす。できるだけ危険地帯の真ん中に居座る予定だ。

街を出てしばらく走ると、リーズが人の気配を感じて停止した。俺にもわかるほど強めの反応なので、ボナンザさんで間違いないだろう。近付いて様子を見よう。

背が低い枯れたような木があちこちに生えた荒野で、ボナンザさんが1人休憩していた。その傍らには、サイクロプスらしきでっかいおっさんが3匹積み上がっている。早いな……。

ボナンザさんは、静かに接近する俺たちに気付き、話し掛けてきた。

「遅かったじゃない。もしかして、あたしを舐めてんの?」

「昨日はあまり寝ていなかったからな。休息を優先したんだ」

いや、正直少し舐めていた。昨日からの僅かな時間で、既に3匹見つけて狩っていたのか。

サイクロプスは比較的見つけやすい相手ではあるが、それでも探すのは大変だ。マップや気配察知無しでは、相当走り回ることになるはずだ。この人の体にはソナーでも付いているのかな。

「そう。体調管理は大事よね。あたしはこれから少し寝るわ」

元気そうに見えるが、徹夜だったようだ。休息の邪魔をしたら悪いな。用だけ済ませて退散しよう。

背負っていたバックパックをボナンザさんに渡す。

「マジックバッグを作ってきた。使ってくれ」

「はぁ? そんな気を使わなくて良いのよぉ。でも、ありがたく使わせてもらうわ」

ボナンザさんは、一瞬だけ困ったように眉を 顰(ひそ) め、すぐに笑顔を見せた。魔道具は高価だから、タダで渡されても困るかもなあ。でも、これはそんなに良い物ではないんだ。売り物にはならない。

「手荒なことはするなよ。すぐに壊れるから」

そう言ってボナンザさんと別れ、狩場を目指す。特に危険だと言われている地帯だ。ボナンザさんが居た場所とは、少し違った雰囲気が漂っている。

地面は乾いているのだが、とんでもなく高くて太い灰色の木が、まばらに生えている。普通の木を逆さにしてぶっ刺したような、不思議な様相の木だ。どれも両手でも抱えられないような太さがある。

拠点となる場所を決めたら、さっそく狩りを開始する。

小さな嫌がらせだが、やると決めたら全力だ。質はどうでもいいから、とにかく量が欲しい。6人で狩れば十分な量が得られるだろう。

「全員でマップを確認しよう。訓練も兼ねているから、対峙したら1人で対処する。

単独行動は原則禁止。最低でも2人組で行動してくれ」

と指示を出す。俺は単独行動だが、他のみんなはバディを組む。ルナとクレアのペア、リーズとリリィさんのペアが基本になる。治癒魔法を使えるのがルナとリリィさんなので、2人を分けた。連絡はスマホで取り合う。

全員が縦横無尽に走り回るので、今日はアンチマテリアルライフルは自粛しようと思う。誤射が危険過ぎる。俺は新しい魔法の開発をしよう。 街中(まちなか) でも使えるような、小規模で高威力な魔法が欲しい。

サイクロプスの反応パターンは、マップに登録してある。地図上に『サイクロプス』という表示が現れるように設定されている。

散開して暫く走ると、さっそくサイクロプスらしき反応を発見した。他のみんなは、まだ気付いていない。

「南西で発見。俺が貰うぞ」

『了解です。お気を付けて』

ターゲットがかち合わないように、事前に連絡を入れる。マップでも確認できるが、声を掛けた方が確実だ。

マップでは、『サイクロプス』と『不明』を繰り返し表示している。この大事な時に、不具合が出ているらしい。でも致命的な問題ではない。放置でいいだろう。

単眼の魔物だと聞いていたのだが、目はしっかり2つある。体長は10mくらい? とにかく大きい。前回は濃い青緑色だったのだが、今回は黒に近い群青色をしている。と言うか、ほぼ黒だな。青っぽいつや消しブラックだ。

サイクロプスは俺に気付き、近くに生えていた太い木を引っこ抜いて構えた。ちょうど棍棒のようになっている。あれで殴られたら嫌だなあ……。

そう考えていたところで、見た目に反した俊敏な動きで、木を振り下ろされた。避ける時間が無い。

『ドゴォッ!』

叩きつけられた木によって、地面が揺らされた。その中心には俺がいる。ガードも回避も間に合わなかったので、衝撃で地面に倒れた。やっぱり痛いものは痛い。どれだけ体を強化しても、痛覚が無くなることは無いんだ。

『ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォッ!』

サイクロプスは、何度も何度も執拗に地面を叩きつけた。その度に、地面に寝転ぶ俺の体に痛みが走る。

やがてサイクロプスは、持っていた木がへし折れて腕を止めた。

「行動を止められるだけの攻撃って、こんなにも腹が立つもんなんだな……」

魔力が通っていないただの木で殴られても、ちょっと痛いだけなんだよ。サルマンのメイス一振りの方が重くて痛かった。

起き上がって服に付いた砂を払うと、サイクロプスは化け物を見るような目で俺を見てきた。化け物はお前だろう。

サイクロプスの攻撃は、ハリセンで永遠に叩かれ続けるようなものだ。数発程度なら笑って済ませるが、数十発も叩かれたら、たとえ痛くなかったとしてもイライラする。

さて、どうやって反撃しようか。とりあえずマチェットを構える。できれば首を落としたいのだが、この刃が届くわけ無い。

攻めあぐねている俺に、サイクロプスが折れた木を放り投げて殴りかかってきた。その拳は地面を這うように俺を襲う。すかさず腕を曲げてガードをするが、直撃は免れない。

強く 撥(は) ね飛ばされて大空を舞った。衝撃がすべて後ろに逃げたので、痛くはない。しかし、相当遠くまで飛ばされるだろう。戦線に復帰するのが面倒だな。転移魔法で帰ろう。

空中で転移魔法を使い、サイクロプスの目の前に出た。勢いはそのままなので、後転しながら受け身をとって着地する。また化け物を見るような目で見られているが……。こいつに化け物扱いされるのは腑に落ちないな。

そんなことよりも反撃だ。転移魔法、使えそうだな。俺自身が転移するんじゃなくて、マチェットの刃だけを転移させることはできないかな。

完全に転移しきるのではなく、半分転移した状態で止める。不完全な転移は元の場所に帰ってくるので、転移先に顔を出した刃は、用が済んだら手元に帰ってくるはずだ。

試してみよう。マチェットの刃先に転移魔法を展開したまま、横薙ぎに振る。転移の目標はサイクロプスの首元だ。

ふっと刀身が消え、どっしりとした手応えが感じられた。サイクロプスの首に深い切れ込みが入る。しかし、まだ切り落とすには至っていない。サイクロプスは、首元を押さえて不思議そうに辺りを見回している。

このスキに一気に畳み掛けよう。数回に渡ってマチェットを振り回すと、サイクロプスの頭がゴトリと落ちる。サイクロプスはゆっくりと膝をつき、倒れて動かなくなった。

「意外と時間が掛かっちゃったなあ。それに、かなり疲れた」

まだ転移魔法の効率が悪い。クソ不味いポーションを呷り、少し休む。

『お疲れ様でした。獲物の回収に向かいます』

ルナから連絡が来た。俺の独り言は、スマホを通じて全員に配信されている。疲れたという一言で気を利かせたのだろう。

移動中のルナから、続けて通信が来た。

『酷い音が聞こえていましたが、大丈夫でしたか?』

心配そうな声色で言う。たぶんハリセンラッシュを受けた音だな。通信をミュートにしておけば良かった。

「ああ、ちょっと派手に殴られただけだ。イラッとしたけど問題無い」

「心配しましたよ……。無茶は控えてくださ……え?

あの……これ……」

会話の最中に、ルナとクレアが到着した。

俺のすぐ横にある黒い巨体を視界に入れた2人は、口を開けて絶句する。驚くのは無理もない。確かに、前回よりもちょっと大きかったからな。

「アトラスじゃないの! 何やってるのよ!」

クレアが声を荒らげた。

何かがおかしい気がしていたが、サイクロプスじゃなかったのか……。

どうやら前回のサイクロプスの時と同じことをしたらしいぞ。巨人系の魔物は、どうしてこうも似ているんだよ。

「同じ生息域なら、サイクロプスだって思うじゃん」

「どう見ても違うでしょう。色も、大きさも、顔も」

「狩ったら拙かった?」

という俺の質問に、クレアは困った顔で答える。

「そうね……。ミルジアでは見せない方がいいわよ。

星を支える魔物って言われてて、一部で崇められているから」

拙かったようだ。なんでも、「星が落ちてくる」と言って騒ぐ輩がいるらしい。これはアレンシアに持ち帰って売ろう。

次に出会ったサイクロプスは、単眼の濃い青緑色だった。これが標準のサイクロプスだ。俺は休憩するので、その間はみんなの様子を見る。

まずはクレアだ。サイクロプスの拳を片手で受け止めながら、相手の膝を蹴って飛び上がる。ファルカタが首に届けば終了だ。「たぁっ!」という掛け声とともに、あっさりと首を落とした。

ファルカタが強力過ぎるな。武器に頼り過ぎるのは良くない。一度封印した方がいいだろう。

「しばらくマクハエラを使っておけ。ファルカタは斬れすぎる」

クレアに指示を出すと、不安そうな表情を浮かべて頷いた。ファルカタをマクハエラに持ち替え、腰に差し直す。見た目はほぼ同じなんだけど、性能が違いすぎるんだよなあ。

次はルナだ。ルナの武器はナイフが2本。手数は多いが、決定打に欠ける。小さな魔物にはそれで良いのだが、やはり巨体が相手だと辛いか。

「足を狙え! 素材の質は無視していい」

ルナは俺の声に従い、攻撃をひらりひらりと躱しながら下半身の関節を狙い始めた。腱や靭帯を集中的に。エグいな……。サイクロプスは徐々に立てなくなり、上半身の急所を突かれて停止した。時間は掛かったが、問題無く戦えている。

2人から離れ、次はリーズとリリィさん。到着すると、リーズが戦いを始めるところだった。

サイクロプスの体を蹴り、器用に駆け上がっていく。そのまま首に到達し、グレイヴで斬りつける。一撃で、とはいかなかったが、何度か斬りつけるうちに頭が落ちた。文句の付け所は見当たらないな。

「リーズはそのままでいいぞ」

「えー? 何か言ってよー」

リーズは口を尖らせた。アドバイスが欲しかったようだ。でも、長柄のアドバイスなんてできないしなあ。頭をなでて誤魔化そう。

尻尾を振ってニヤニヤしているので、これでいいだろう。

最後はリリィさん。問題は大アリだった。不慣れなクレイモアをブンブンと振り回すが、一度もまともに当たらない。皮膚に傷を付ける程度だ。逆にサイクロプスの攻撃はよく当たる。大きな拳で何度か飛ばされた。

「リーズ。悪いけど、リリィの補助をしてやってくれ」

とサポートを頼んだが、リーズがほぼ単独で討伐してしまった。リリィさんはもっと訓練が必要だな。

「すまない。やはり剣は向いていないぞ……」

リリィさんは、自分に治癒魔法を掛けながら言う。

狩り勝負は始まったばかりだ。終わるまでには上達しているといいなあ……。