軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

地雷原

王都での用事は終わった。俺はすぐに出発してもいいのだが、「出発」と言いかけたところで女性陣に睨まれたので、もう少し王都に滞在する。

最近は動きっぱなしだった。たまにはゆっくり休みたいのだろう。そこに異論は無い。

だからといって特にすることもないんだよな。強いて言うなら、鉄の鉱石を買っておきたい。ついでに銀と銅の鉱石も欲しい。

ちなみに、ビルバオは鉄器の街であって鉱山の街ではないので、鉱石が手に入りやすいわけではない。俺が欲しいのは、加工前の石ころなんだ。王都の職人地区に行けば普通に買える。

宿を出る時に「今から職人地区に行くけど、行きたい人居る?」と聞いたら、全員が行くことになった。休みたいけど、何もしたくないわけではないらしい。よくわからん……。

職人地区は王都の北側にある。かなり遠いので、屋根を走って向かった。

「この辺りだな」

鉄の精錬所付近で屋根から地面に下りる。

「なんだか懐かしい気がしますね」

ルナが感慨深く言う。ここは俺とルナが初めて冒険者として依頼を受けた場所だ。鉄の塊を鍛冶職人ギルドに運ぶ仕事だった。簡単で安い依頼だ。もう二度と受けないだろう。

この近くに、鉱石の卸業者があるはずだ。と言っても辺りは大きな建物が並ぶばかりで、どれが卸業者か分からない。しばらく建物を見て歩いた。

「コーさん、あれじゃないですか?」

ルナが指差す方向を確認すると、建物の横に赤茶けた石ころが積み上げられている。そういえば鉄鉱石なんて見たこと無いぞ。あれがそうなのかな……。

まあ不揃いな石が積まれているなら、何かの鉱石で間違いないだろう。

「そんなに良い物ではないが、鉄鉱石だな」

リリィさんが石の山を眺めながら言う。

「知っているのか?」

「ああ。これでも一応鍛冶職人ギルドの調査員だよ」

はい、忘れてた。今は名ばかりの調査員になっているが、リリィさんはすぐにでも鍛冶職人ギルドに所属できる資格を持っている。金属や鉱石に詳しいのは当然だな。

「質が悪いのか?」

「言うほど悪くもないが、良くもない。買うなら価格に注意したまえ」

素人だと高値で買わされるかもしれないな。交渉はリリィさんに任せた方が良さそうだ。

店員らしき人を見つけて声を掛けると、愛想の良い返事が返ってきた。

「いらっしゃい。なにかご入用ですかな?」

店員は人の良さそうな笑顔を浮かべた若い男だ。社長の息子というか、跡取り息子のような印象を受ける。

「鉄と銅と銀の鉱石が欲しいんだ。量は、それぞれ1000オンスほどだな」

グラム換算で30kgくらい。精錬は手作業なので、多すぎても処理できない。

「用途はどのように?」

「精錬の練習だ。質は悪くてもいい。安い物を頼む」

純度を高める練習がしたいので、できれば質が悪い方がいい。むしろゴミのような鉱石でいい。

「精錬の魔道具でしたら、高品質な物を使わないと拙いのでは?」

店員が眉をひそめて 訝(いぶか) しむが、魔道具を使うわけじゃないから問題無い。

俺は自前の魔法で精錬する。この方法で得られる純度はおそらく99%くらいだ。どんなクズからでもこの純度にできるはず。と言うかその練習がしたい。

「練習だと言っただろう。良い物を使うと練習にならない」

「そうですか……少々お待ちください」

店員は首を傾げながら建物の中へと消えていった。あの態度は絶対納得していないのだろうな。

「しかし、鉱山が近いわけでもないのに、なんで王都内で鉱石を売っているんだろう」

「あぁ、それには理由があるんだ」

リリィさんが理由を教えてくれた。

それは、魔道具職人が精錬設備のテストや研究をするため。それと同時に、精錬業者が最新の設備を使うためだ。

最新の設備は不具合やトラブルが頻発する。その度に王都に住む魔道具職人を現場に呼んでいては仕事にならないので、研究者が住む王都内で精錬している。

だったら最新の設備を使うなよ……とも思ったのだが、生産物の質や効率が段違いなので、どこの精錬所でも競うように最新設備を導入しているらしい。トラブルが減ったところで鉱山の近くに移設し、本格的に運用するという。

「なるほどね。効率が良いのか悪いのか分からない話だな」

「悪くはないと思うぞ。そのおかげで、この国では鉄が豊富なんだ」

リリィさんの説明を聞いているうちに、鉱石の準備ができたようだ。店員が数個の石を抱えて帰ってきた。

「お待たせしました。これが見本です」

俺にはただの石にしか見えないが、何かの鉱石らしい。後の交渉はリリィさんに任せる。

「悪いけど、リリィが代わりに交渉してくれ」

「わかったよ。じゃあ見せてもらおう」

リリィさんは、店員から手渡される石を眺めて険しい顔をしている。時折聞こえる舌打ちから、物凄く不機嫌であることが窺えた。

「どうかしたか?」

「いくらなんでも酷すぎる……どれもゴミ以下じゃないか」

「え……でもさっき質が悪くても良いと……」

「限度があるだろう!」

戸惑う店員と、とっても不機嫌なリリィさん。店員は俺の指示に従っただけなのに……ちょっと気の毒になってきた。

「そんなに酷いのか?」

「そうだね。とても売り物になるような物じゃないよ。不純物が混ざりすぎだ。こんな物、最新の設備でも処理できないぞ」

お、逆に好都合じゃないか。リリィさんは俺が精錬しているところを見ていないから、普通の設備で精錬すると思っているようだ。

「いくらで売るつもりだ?」

「ん? 買う気なのか?」

「そうだな。これであり得ないくらい安いなら買うぞ」

「それはもちろん! すべて合わせて金貨5枚でお譲りします」

店員は額から汗を垂らしながら腰を曲げて手を揉む。

鉱石の相場は知らないが、かなり安いらしい。でもリリィさんの顔は険しいままだ。

「タダでもいらないほどのゴミ鉱石だぞ?」

「金貨3枚でいいです!」

あ、下がった。

「買った!」

「コー君? こんなゴミを買ってどうするんだ……」

「言ったじゃないか、練習だよ。リリィも見ているといいよ」

宿に戻ったら実演しよう。それで納得してもらえるはずだ。鉄、銅、銀それぞれ30kgで金貨3枚。超激安で手に入ったぞ。歩留り40%と仮定しても、とんでもない安値だ。

店員に金貨3枚を渡し、予備のマジックバッグに鉱石を詰め込んだ。終始不機嫌なリリィさんに気を使いつつ、鉱石屋を後にした。

「リリィ、勝手に決めて悪かったな」

「別に」

「いや、本当にごめんって」

「別に。怒っていない」

リリィさんは胸の下で腕を組み、プイッとそっぽを向いた。

わかりやすく怒っているなあ……。店員に対して苛ついていたところに、任せると言いながら口を出してしまったからな。しかも反対を押し切って購入を決めた。もしこれで不機嫌にならないなら聖人だよ。

リリィさんの機嫌がどうにも直らないので、どこか適当な食堂に入って少し実演しよう。

「こんな所で何をしようと言うんだ?」

リリィさんは、椅子に座るなり腕を組んでブスッとしている。その圧力に気圧されて、みんなは黙って俯いた。雰囲気がヤバイ。

「まあ見ていてくれ」

そう言って一掴みのクズ鉱石に魔力を通す。……何鉱石か分からない。先に聞いておけばよかった。適当に銀、銅、鉄と試し、鉄であることが判明。鉄を集めて塊を2つに分ける。

手のひらの上でゆっくりと石が分離し、テーブルの上にこぶし大の塊とピンポン玉くらいの鉄っぽい塊が落ちた。

ふう……上手くいったようで良かった。

「……今、何をしたんだ?」

「精錬だよ。前に知らないおっさんに教えてもらったんだ」

露店を出した時、偶然隣になったおっさんだ。結局、何者だったのか分からなかった。

「どうやってやるんだ? そんなことができるなんて聞いていないぞ!

そんなことができるなら早く言いたまえ。それを魔道具に応用したら……製鉄に革命が起きるぞ! さっそく試そう! すぐ試そう!」

リリィさんの顔は怒りから驚き、そして上機嫌と目まぐるしく変化した。今は興奮かな。

「私も教えてもらったところを見ていますが、誰にでもできることではないですよ?」

ルナがリリィさんを冷静に諭す。鉄を溶かすところまでは誰でもできそうだが、鉄を集めるのは難しいかもしれないなあ。原子の説明が必要だ。

「くっ……それもそうだな。こんなことが誰にでもできるなら、もっと知られているはずだ……」

リリィさんが鉄の塊を摘んで興味深く観察している。固める時に一気に冷やしているので、もう熱くはないだろう。

この手法を魔道具にするのはかなり難しい。工程が複雑すぎるし、原子を集めるのは自分の感覚次第だ。簡単に自動化できる作業ではない。

「それで、この鉄はどうだ? 使えそうか?」

感覚では99%くらいの鉄だ。武器の素材には使えないが、魔道具なら使えると思う。

「十分だ。それどころか最上級だ。これだけの鉄は研究施設でも見たことがないぞ」

見ただけで判るのか……。俺は鉄と鋼とステンレスの見分けが付かない。全部同じに見える。

「銀と銅でも同じことができるよ。だからゴミ鉱石で良かったんだ」

「そういうことは先に言いたまえ……。他に隠している技術は無いよな?」

リリィさんは自分の顔の前で手を組み、俺に笑顔を向けた。しかし目が笑っていないので怖い。

「あ……と、ルビーが作れる」

これも言っておいた方が無難だな。土に含まれるアルミニウムから、ルビーとサファイア……と言うか各種コランダムが作れる。

ここで黙っていたら、後で何を言われるか分からない。

「はぁ? 聞き間違えたかな? ルビーと言ったかい?」

リリィさんが胡乱な顔をしている。これも実演した方が早いな。

確か、鉄鉱石の不純物にはアルミニウムが含まれていたはずだ。魔力で熱と圧力を掛け、ルビーを生成する。グズグズに崩れかけた鉄鉱石の残骸から、親指大の真っ赤なルビーがニョキッと顔を出した。

「いやいやいや、どうなっているんだ? なぜゴミからルビーが出てくるんだ?」

「この中にルビーの成分が入っていたんだよ。青いのも作れるし、透明なのも作れるぞ」

「まさか、 金剛石(ダイヤモンド) か?」

「残念だがそれは無理だ。何度も挑戦しているんだが、光沢のある黒い塊にしかならない」

熱を入れようが圧力を掛けようが、どう頑張っても黒い塊にしかならない。何が悪いのか見当も付かないので、実験は中止した。

「そうか……。いや、ルビーだけでも十分凄い。量産しよう。量産するための魔道具を作ろう」

リリィさんの目が¥になっている。拙いな、量産するつもりは無いんだよ。

「この国の経済が壊れます。遠慮してください」

と思ったら、ルナが冷静に注意する。リリィさんはハッと我に返ってうなだれた。

いつものリリィさんの反応に安心するよ。すっかり機嫌が良くなったようだ。

ひとまずリリィさんの機嫌問題は解決できた。めったに来ない職人地区なので、軽食を済ませたらもう少し歩こうと思う。