軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謎肉

ビルバオの街に無事到着した。ビルバオの街の防壁は、王都よりも高くて丈夫な造りになっているようだ。

おそらく、平原よりも危険な魔物が多く存在しているのだろう。決して ヤツ(G) を寄せ付けないためではない。この程度の壁、ヤツなら悠々と乗り越える。

あまり長居はしない方がいいかもしれないな。ルナとクレアが泣いてしまいそうだ。

さっき仕留めた魔物の買い取りを依頼したいところだが、もう疲れたので明日にしよう。

壁を眺めていても体は休まらない。まずは防壁の門に向かう。街道を無視して山を登ってきたため、門まで少し遠い。面倒だな……。

でも壁を乗り越えて不正に街に入ると、もっと面倒なことになる。真面目に門に向かおう。

防壁の門に着くと、門が堅く閉ざされていた。こんなことは初めてだ。門の前には神妙な顔つきをした門番が1人、俺たちに声を掛ける。

「おい、君たち。街道は封鎖されていたはずだが、どこに居たんだ?」

「閉鎖?」

「この近くで極めて危険な魔物が目撃された。安全のために街道を封鎖したのだよ」

門番は俺達の身分証と荷物を確認しながら言う。

近くで危険な……神獣エルクのことかな? 違ったら恥ずかしいぞ。確認してみよう。

「そいつはどんな魔物なんだ?」

「悪いな、僕も見たことが無いんだ。兵士になってから日が浅くてね。今回初めて見られそうだよ。

確認は終わりだ。早く街に入れ」

情報が得られなかったな。面倒だけど、先に冒険者ギルドに行くべきかなあ。

門の横に併設された、兵士用の小さな出入り口から中に通された。街の中に入って門の内側を確認すると、丈夫そうな 閂(かんぬき) が差し込まれていた。簡単には開けられそうにないな。

街の中は武装した兵士や冒険者が街の中を忙しなく徘徊している。そのうちの1人を捕まえて冒険者ギルドの場所を聞いた。

「悪いが、俺が1人でギルドに行くから、みんなは宿を探しておいてくれ」

全員で行っても仕方がないので、二手に分ける。ギルドの用事が終わったらスマホで確認して追いかければいい。

「あ、アタシもギルドに行くわ」

クレアが小さく手を挙げて言う。クレアもエルクと対峙した1人だから、居てくれると助かるな。

ルナに金貨を5枚渡し、宿探しを任せた。ルナもギルドに行くと言い出したら……と心配したが、宿探しを引き受けてくれた。

リーズとリリィさんに任せたら、どんな宿を選ぶか分からないからな。リーズはボロボロの超激安宿を選びそうだし、リリィさんはどんな宿であっても最初に見つけた宿で済ませそうだし。

その点、ルナなら安心だ。清潔で料理が美味い宿を探してくれるだろう。

ビルバオの冒険者ギルドは、石造りのかなり立派な建物だった。王都のギルドよりも立派かもしれない。儲かっているのだろう。

中に入ると、多くの武装した冒険者でごった返している。重そうな鎧を着て大剣を担ぎ、いつでも戦える姿だ。

フロアは混み合っているが、カウンターはガラ空き。忙しく書類を書いているカウンター係の青年に話し掛ける。

「やあ。話があるんだが、今いいか?」

「あ……いいですよ。見ない顔ですね。どうされましたか?」

青年は丸い眼鏡を掛け、長い髪を後ろで括っている。痩せ型で、背もあまり高くなさそうだ。戦うタイプの人ではないみたいだな。

「門番に危険な魔物が目撃されたと聞いたんだが、どんな魔物なんだ?」

「討伐隊の志願ですか……。

見た目は牛や馬のようで、平たい大きな角を持つボアみたいな魔物ですよ。危険度はボアの比ではありません。

見たところ、魔法使いさんですね。街の防衛に協力していただけると助かります」

青年は疲れた表情で言う。これはアタリだな。さっき仕留めた神獣エルクのことだ。

「いや、そいつを討伐してきたんだ。買い取りを頼みたい」

「はぃ?」

青年はキョトンとした目でこちらを見る。半開きの口からは声も出ないようだ。

エルクはいつものようにマジックバッグに詰め込んである。その隙間には、クレアとリーズが轢き殺したウルフも入っている。

「この中に入っている。開けて確認してくれ」

「え……あ、はい。確認してまいります。少々お待ちください」

青年は訝しげな表情を浮かべたままマジックバッグを受取り、フラフラとギルドの奥に消えていった。

しばらく待ち時間だ。その間に依頼票を確認しよう。

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緊急討伐依頼

エルク

危険度:A

討伐報酬:金貨100枚

推定買取金額:金貨300枚

備考:

Bランク以上限定。

街の西側で目撃。

討伐証明部位は2本の角。

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これか。

目撃情報ではなく、討伐依頼になっている。かなり珍しいぞ。買い取りとは別に、討伐したことに対する報酬も支払われるみたいだ。

でも、気になる部分がいくつもあるぞ。

まず、ランク限定。俺はEランクで、クレアがCランク、リリィさんがDランク。Bランク以上の仲間が居ない。

そして、討伐証明部位。角は頭ごとどこかへ飛んでいった。アンチマテリアルライフルの最大射程は約5kmだから、弾丸の軌道上のどこかには転がっているはずだ。探すのは無理。

これは拙いな。合計の報酬は金貨300枚なんだけど、半額以下になりそうな予感がするぞ。

無言で依頼票を見つめていると、鎧を着た冒険者に声を掛けられた。

「見ねぇ顔だが、こいつを狙って来たのか?」

「狙っているわけじゃないんだが……」

「おっと、女連れだったか。嫁さんを危険に晒したらいかんよなぁ」

「そそそそんなんじゃないし!」

クレアが顔を真赤にしながら慌てて否定する。そんなに力いっぱい否定しなくてもいいじゃないか。

「いや、仲間は他にも居るんだ。彼女が特別というわけではない」

「……そうよね……」

クレアが暗い顔でつぶやく。

そういえば、クレアには婚約者的な人が居ないらしい。美人だし、しっかりものできれい好きなので、モテないことは無いと思う。

「ふんっ。まぁいい、こいつは俺の獲物だ。お前らも狙うと言うなら、競争だな! がぁっはっっはぁ!」

冒険者が大声で豪快に笑う。申し訳ない、もう討伐したんだ……。今確認中だから、余計なことは言わない方がいいな。

「ところで、神話の魔物だと聞いたんだが、そんなに気軽に競争とか言える相手なのか?」

「ほう。よく知っているな。神話と言っても、神に討伐される魔物だ。村を作ると現れて、村を破壊する魔物だよ。実際のエルクもそんなヤツだぜ」

リリィさんはそこまで教えてくれなかった。知らなかったのかもしれないな。早い話、神公認の害獣ということだろう。

エルクは人間に対する敵意が凄かった。高い気配察知能力で人間を発見したら、すぐに追いかけて襲う。そういう習性なんだろうが、迷惑な魔物だ。一般人にとってはかなり危険な魔物だな。

冒険者と話をしているうちに、カウンター係が戻ってきた。確認と査定が終わったようだ。

「カウンターに用事があるんだ。俺たちは行くよ」

冒険者に別れを告げ、カウンターに戻る。

「お待たせしております。一つ聞きたいのですが、頭はどこに?」

あー、やっぱりそれ聞くかあ。もう見つからないと思うぞ。

「討伐の時に飛んでいった。探している時間が惜しかったから、回収を諦めたんだ」

「左様ですか……確認が難航しております。角が無いと、エルクであるという証明ができないのです。

似たような魔物はこの辺りには居ないのですが、万が一もありますので……」

青年が申し訳無さそうに言う。

やべえ、面倒臭い。早く宿に行って休みたいのに。

「ねぇ、今の問題は討伐報酬だけよね。査定を保留にできない?」

クレアがうんざりとした表情で言う。クレアも早く休みたいのだろう。

ここはクレアの案に乗っかった方がいいな。

「今日支払う必要は無いぞ。頭は討伐した現場付近を探せば見つかるだろう。この街から西か南西の方角に転がっているはずだ。

せっかく冒険者が集まっているんだ。依頼票に頭の捜索を追加すればいい」

「そういうことでしたら……了解しました。

討伐報酬は支払われますが、角の所有権は発見者のものになりますので、ご了承ください」

俺が探す気は無い。俺が見つけた方が高値になるのだが、そのために森に入るというのは面倒だ。角の売却は諦める。

「ねぇ、アタシたちで探した方がいいんじゃない?」

クレアが嫌そうな顔で言う。本当は森に入りたくないくせに、無理をするんじゃないよ。

たぶん俺が探すと言えばついてくるだろうが、俺は探す気が無い。森の中で物を失くした場合、探すよりも買い直した方が早いんだ。探す時間が惜しい。

「仕方がないさ。諦めよう」

「それでは、今日の買い取り分をお渡しします。討伐報酬は確認後にお支払いします」

青年から金貨を乗せたトレイを渡された。その枚数を確認すると、全部で58枚しか無い……。予想以上の激安じゃないか。

「こんなに少ないのか?」

「申し訳ありません。内訳を説明します。

ウルフは状態が良いので3匹で金貨15枚ですが、頭が無いエルクらしき魔物は正体不明という扱いになりまして……そのうえ、最も高値で取引される角がありませんので……」

エルクの肉は謎肉になってしまったらしい。毛皮も謎の毛皮という扱いなのか。さらに、角が一番高価だと。

ヤバイ、相当損したぞ。

「頭が見つかったら増額されたりするのか?」

「はい。毛皮の分は増額されます。でも肉は腐ってしまうので、増額できません」

頭が見つかることを願うしかないか。肉はどうしようもないな。討伐の時に気を付けるしかない。

「ああ。それでいいよ」

今日の受け取りは金貨58枚だが、冒険者が頭を見つけてくれれば金貨100枚以上が上乗せされる。

ここに集まっている冒険者たちには頑張ってもらおう。

カウンター係に挨拶をして、人が溢れる冒険者ギルドを出る。

「なあ、依頼票にBランク以上限定と書かれていたけど、良かったのか?」

藪蛇になると嫌だったのでギルドの中では聞かなかった。カウンター係も俺たちのランクを確認しているのだが、俺が余計なことを言って報酬が減額される恐れも否定できない。

「依頼が斡旋されないだけよ。冒険者が勝手にやっちゃう分は構わないわ」

ランクについては問題無いらしい。というか、自己責任で頑張れってやつだな。

「でも金ボアの時は、居場所を教えてくれたよな?」

「あの説明を教えるとは言わないわよ……。本当ならもっと詳しく教えてくれるわ」

確かにアルコイのカウンター係の言い方は、注意を促すような言い方だったような気がする。

おおまかな方角と、注意すべき場所だけを教えてもらった。でも、俺たちなら適当な方角さえ分かれば索敵できる。てっきり親切に教えてくれたのだと思っていたぞ。

近付きすぎてうっかり遭遇しないように、心配してくれていたらしい。意外といい人だな。

人通りが少ない場所まで移動したので、スマホでルナの位置を確認して合流する。ギルドからそう遠くない場所に居たので、すぐに追いついた。

ルナ達3人は、赤茶けた煉瓦に覆われた、ホテルのような大きな建物の中に居る。今日の宿が無事見つかったらしい。スマホで部屋番号を聞き、無事合流することができた。みんなも疲れているだろうから、さっさと休もう。