軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

釈明

緊張した面持ちのパンドラを椅子に座らせ、パンドラの釈明を聞く。今回は俺が話の主導権を握る番だ。

最近、パンドラの鬱陶しい話し方に翻弄されっぱなしだった。これからは俺のペースで話ができるはず。

「まず、お前は何者だ?」

「……ボクはミルジアの教会の元神官だよ」

パンドラが神妙な面持ちで答えた。

教会関係者かあ。良い思い出が全く無いんだよな。一生関わりたくないと思っている。まあアレンシアとミルジアでは宗教が違うみたいなんだけどね。

でも、ミルジアは教会の権力がかなり強いと聞いた。その特権をすべて捨てて逃げたのか。

「何でアレンシアに居るんだ?」

「それは……キミたちは知らない方がいいと思うよ。知っても良いことなんて何も無いさ」

「全部話すと言ったよな?」

渋るパンドラを睨む。

「……そうだったね。聞いた後に怒らないと約束してくれ」

俺たちが静かに頷くと、諦め顔のパンドラが話を続けた。

「ボクは使徒召喚の術者として働いていたんだ。神官としては最も重要な役職だよ」

ルナとリリィさんがピクッと反応した。この術式に殺されかけたんだ。この2人にとっては他人事ではない。

……そういえば、俺もガッツリ関係者だったな。俺は使徒のオマケでくっついてきたんだった。俺はこの世界を楽しんでいるので、あまり気にならない。ただ一つ、里帰りの心配をするだけだ。

「あなたも……殺されかけたのですね……」

ルナが悲しそうな声でつぶやくと、パンドラが乾いた笑いを返した。

「はは……キミたちはいったいどこまで知っているんだい?

残念ながら違うよ。ボクは殺す側の人間だ」

「どういうことだ?」

「キミ達は知っているかな?

主となる術者は死なないのだよ。ボクはその術者だった」

以前ルナから聞いていた説明通りだな。10人の生贄と、術をコントロールする術者の合計11人で発動させる。死ぬのは生贄だけだ。

「それで何人も殺した、ということか」

「そう言ってしまえば……そうだね。

ミルジアでは、10人の術者は道士と呼ばれているよ。神の国に送られて、使徒とともに神に仕える名誉ある役目だ、とね」

神の国に送ると言いながら、実際は天国に送っているわけか。そりゃ隠すわな。それを知っていたら誰も志願しないだろう。

「パンドラさんは何故真実に気が付いたのですか?

ミルジアの環境でそれに気が付くのは、かなり難しいと思いますが……」

ルナが真実を知ったのは、術式を解析したからだ。魔道具の解析はアレンシアのお家芸で、他の国が真似できる事ではない。

そして魔導院は好奇心の権化のような変態だらけなので、新しい魔法や魔道具を見かけたら絶対に解析する。

「キミたちも知りすぎじゃないのかな?

ボクは人よりも好奇心が強いタチでね、使徒の神送りの儀式を覗いたんだ。使徒召喚とは全く違う消え方をしたよ」

修行した使徒を神の国に送る儀式を『神送り』と呼ぶそうだ。

パンドラの話では、召喚の時は崩壊するように消えていくが、神送りの時は光の粒になって消えていくと言う。神送りは神々しさを感じるらしい。

「知りすぎて命でも狙われたのか?」

「ははは、逆だよ。教会の上層部は真実を知っていたんだろうね。監禁されて外部との接触を絶たれた。

当時、召喚を実行できる術者はボクしか居なかったんだ。ボクを処刑することはできないさ」

監禁されている時、スキを突いて逃げ出したと言う。その後、最も近い他国であるアレンシアに逃げ込んだ。

「でもキミたちは別だ。知っていることが危険なんだ。すでに知りすぎているみたいだけどね」

パンドラはそう言って話を締めくくった。

こいつが言いたかったのは、国に捕らえられても誰も得しないということだな。

俺は裁判官でも警察官でもないのだが、こいつには情状酌量の余地があると思う。むしろ不用意に国に引き渡さない方が良さそうだ。

ミルジアに強制送還しても使徒召喚の犠牲者が増えるだけだ。使徒召喚に関してはアレンシアでも信用できないぞ。

今できるベストは、何も聞かなかったことにして野放しにすることだ。バレないように上手く逃げ回ってもらおう。

「なあルナ、身分証は偽造できるものなのか?」

「いえ、普通は無理です。宮廷魔導士が数人で作ればなんとかなるかもしれませんが……」

だよなあ。実際こいつは正規の身分証だと言っていた。気になるな。

「おい、お前の身分証はどこで手に入れたんだ?」

「ははは。身分証の偽造は無理でも、仮身分証の偽造は簡単なんだよ。

ボクは偽装の魔法が得意なんだ。出身地と村長印を偽装するだけさ」

パンドラは得意顔で答えた。犯罪を自慢するんじゃないよ。

偽装の魔法が得意なんて、やっぱりこいつは犯罪者みたいだな。犯罪以外の用途が思い付かないぞ。

しかし、仮身分証というのは初めて聞くなあ。俺が持っている任命証みたいなものか?

でもアレは偽造できないだろう。

「悪い、仮身分証について説明してくれ」

「なんで知らないの?

まぁいいけど。農村とか、開拓村とか、国から直接身分証が発行できない所に住んでいる人のための身分証のことよ。

村に住んでいる限り身分証は要らないけど、防壁がある都市に入るためには身分証が必要でしょ?

そういう時に、村長が仮で発行するのよ」

クレアが説明してくれた。

ギルドでは仮身分証をもとに身分証を作る。ギルドがしっかりと確認しないと、デタラメな仮身分証でも正規の身分証が取得できてしまうらしい。

クレアの説明が終わると、リーズが何かを思い出したように声を出した。

「あっ! 仮身分証!」

「どうした?」

「あたしの仮身分証も偽造……」

リーズが口元を引き攣らせて目を逸らし、祈るように手を合わせながら言う。

確か、ジジイと結婚せられそうになって逃げてきたんだったよな。それなら正規の仮身分証を貰えるわけがない。偽造の仮身分証は予想以上に簡単に作れてしまうらしいな。かなりヤバイと思うけど、対策しているのかな。

まあこれは俺の仕事ではない。通貨のときみたいに既に対策済だったりすると恥ずかしいから、報告は控えよう。

「うーん、悪いことをしているわけではないし、バレなきゃいいんじゃないか?」

リーズの身分証問題は棚に上げておこう。今話をすることではない。というか、正直面倒だから問題にしたくない。

さらっと話を変えてごまかす。

「そもそも使徒召喚というのは何なんだ?

アレンシアの使徒を見ていても、特に重要な使命があるとは思えないんだ」

「待て……アレンシアでもやったのか?

あの野蛮で無意味な儀式を……アレンシアは使徒召喚をしない方針だっただろう?」

「俺はよく知らないが、教会のゴリ押しで方針が変わったらしいぞ。

使徒召喚も実行されているよ。庶民には知らさせれていないのか?」

驚きのあまり声も出ないパンドラに代わってクレアが答える。

「冒険者は外に居ることが多いのよ。政治や教会の噂話は耳に入らないことが多いわね」

使徒召喚の話は王都でもそれほど話題になっていなかった。知る人ぞ知る、くらいの話だ。秘密にされているわけではないが、積極的に広報しているわけでもないらしい。

「ははは……余計な犠牲者を出してしまったみたいだね」

パンドラが遠い目をして涙を浮かべる。こいつの責任ではないのだが、意外と責任感が強いな。

「誰も死んでいないから、いいんじゃないか?」

「え……どういうことだい?」

「アレンシアでは術士10人を含めて全員が生きているぞ」

「あり得ない……。術が発動しなかったのか?」

「いや、使徒は召喚されたよ。

でも失敗だろうな。問題が起きて術が中断されたんだ。

王城でそのことに気が付いている人は少ないだろうが、大失敗だ」

俺が呼ばれてないのにジャジャジャジャーンな事は王城の全員が知っているが、その他の失敗は宮廷魔導士の一部だけしか知らない。

もしかしたら兵士はチートが無いことに気付いているかもしれないな。でも術の強制終了については、ルナたち10人しか知らないはずだ。

「失敗……そんな失敗の仕方は聞いたことがないよ。

ずいぶん幸せな失敗だね」

パンドラは、苦虫を噛み潰したような顔で声を漏らした。

幸せ……なのかな? 俺は不満を感じていないが、拉致のようなものだ。決して良いことではない。

でも全員死亡という失敗ではないから、幸せと言ってもいいのかもしれない。

「使徒からしたら、召喚されることそのものが迷惑なんだがな」

「……そうだったね。呼び出される使徒たちは、少し変わっているが普通の人間だ。

過去には何度も問題を起こしたよ。今は上級貴族並の地位を与えることで解決されたけどね」

ミルジアの使徒はセレブな扱いを受けるらしい。ちょっと羨ましいけど、同時に気持ちが悪いな。勘違いして増長してしまいそうだ。

「で、その使徒の役目は何なんだ?

俺には適当に訓練しているだけにしか見えないんだ」

「良い所に気が付いたね。そうだよ。役目なんて何も無いんだ。ただただ魔法の修行をして、使えるようになったら神送りの儀式だ。

本当に何もしていないと外聞が悪いから、たまに奉仕活動をして取り繕っているよ。

何のためかと聞かれたら、神のためとしか言えないな」

なぜか褒められたぞ。よくわからないが、本当に何の使命も無いらしい。

「それなら使徒召喚なんてやる意味が無いじゃないか」

「神のためだからね。

ミルジアはアレンシアほど豊かではないんだ。神の加護がなければすぐに滅んでしまうよ」

それは実際に行ってみて感じた。ミルジアの東側は荒野だった。食べられる物がほとんど見当たらない、過酷な土地だ。

だからといって、神のおかげで生活できるというのは無理がある気がする。人間の知恵と経験を積み重ねれば、どんな環境でも住めるはずだ。

「それは本当に神の加護のおかげなのか?

先人の知恵を神の加護に置き換えていないか?」

「キミはずいぶんとひねくれた考え方をするね。

それはあり得ないよ。あの土地ではいくつもの国が滅んでいるんだ。

全盛期のハン帝国ですら放棄したんだよ。ミルズ神が加護を与えるまでは、本当に誰も住めなかった」

さらっと神の名前が出たな。興味がなかったから初めて聞いたぞ。どうでもいいけど。

ハン帝国は当時最大の国だったかな。それだけ大きな国なら交易で何とかなると思うが、放棄したということは本当にどうにもならない土地なのか。

「それで神は何をしてくれるんだ?

食料でも降らせるのか?」

「適度に雨を降らせることと、魔物を遠ざけることだよ。

ハン帝国は水不足と魔物が原因で放棄した。その後の国は、魔物に襲われて滅んだよ。

感謝したくはないが、ミルズ神の加護は疑いようのない事実だ」

「なるほどなあ。ミルジアでは必要悪ということか」

「そうだね……。ボクには耐えられなかったけどね」

パンドラは苦笑いを浮かべた。まともな感性なら逃げるよな。

こいつが嘘を吐いている可能性はゼロではない。しかし、限りなくゼロに近い。使徒召喚に詳しすぎる。

「話してくれてありがとう。兵士に突き出すことは止めておくよ。

俺たちは何も聞かなかった、そういうことにしよう。頑張って逃げ切ってくれ」

俺の言葉に、パンドラの顔がぱあっと明るくなった。ウザいパンドラの復活だ。話が長引くと鬱陶しいからアルコイに帰ろう。

「ありがとう!

恩に着るよ。これからも何か分からないことがあったら気軽に聞いてくれたまえ。ボクはいつでも力になるよ」

パンドラが満面の笑顔で言う。

余計なことを言うと話が長くなる。軽く挨拶をしてテーブルを仕舞い、この場を離れた。