軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

これからエルフの村に行くのだが、食料が少し足りない。一度草原に出て、うさぎを狩る必要がある。

濡れた服が気持ち悪いが、そんなに時間が掛かる事でも無い。少しの間だけ我慢だな。

アレンシアの草原地帯は、少し歩けばうさぎに出くわすレベルでうさぎだらけだ。たまにボアが居たりするらしいが、俺はまだ草原では出会っていない。それなりにレアキャラらしい。

「リーズ。悪いけど、草原に出てうさぎを探してくれ。

うさぎじゃなくても、食料になれば何でもいい」

リーズに指示を出し、進路を草原に向ける。

アレンシアの領土と言っても、この辺りは緩衝地帯だ。兵士を動かすことができないので、多くの魔物が生息しているはずだ。

王都付近は定期的に駆除しているから、うさぎ以外の魔物に出会うことが少ない。安全といえば安全なのだが、冒険者からしたら獲物が減るだけなのであまり歓迎できない。

狩りを専門にしている冒険者は、王都付近では活動しないそうだ。王都に居るのはルーキーや調査隊、護衛、雑用係といった人たちで、狩りがしたい冒険者は修行のために地方に行くという。

狩りが主体の戦闘特化の冒険者は王都では少ない。新人の指導をしている人たちが何人か居るくらいだ。

俺たちもそろそろ地方に行く時期かもしれない。調査や雑用じゃ儲からないんだよ。魔物素材を売らないと、大金は稼げない。

「こんさん、あっちに何かの群れが居るよ。うさぎじゃないみたい」

リーズが何かを発見した。リーズがまだ知らない魔物という事は、ボアかもしれない。ボアの皮なら結構な額で売れる。成長したボアは見たことが無いが、今なら普通に勝てるだろう。

リーズが指す方向に走る。

前方を注視していたので、足元がおろそかになっていた。目視できる位置で泥の塊のような物を踏み、転びそうになって足を止めた。

遠くには、硬そうな灰色の毛に覆われた牛のような生き物が30頭ほど群れているのが見える。

「あれはグリーンブルですね」

ルナは額に手を当て、目を細めて群れる牛を見ながら言った。

「グリーン? どう見ても灰色だけど」

「えっと……あの、緑色の草ばかり食べるので、糞が……」

「うんこが緑なんだね」

リーズがあっけらかんとして言う。

あの魔物は消化器官が弱いらしく、草がそのまま排泄されるみたいだ。

「はい……そして言いにくいのですが……。

コーさん、踏んでいます」

わお! 慌てて飛び退く。

俺が足を取られたのはウンコだったらしい。最悪だ。戦闘の前に、とりあえず靴を洗おう。

「……で、買い取りは?」

ウォッシュの魔道具で念入りに靴を洗いながら聞く。

「結構高いわよ。皮と肉、角も買取対象ね。1匹分で、金貨40枚くらいかしら」

掛ける30頭で、1200枚か。残さず狩ろう。

「全員で群れを包囲しよう。危険度は?」

「動くものが近付いたら、襲いかかってくるわ。攻撃は体当たりだけだけど、衝撃が強いから直撃しないように注意して」

「了解。じゃあ行こう」

武器を構えて駆け寄る。

牛と言いながらも小さい象くらいの大きさで、頭には立派な角が2本生えている。あれが当たったら痛いな。気を付けよう。

グリーンブルは、俺たちが視界に入った途端、突進してきた。速度は早くないが、巨体がぐんぐん迫ってくるのはなかなか迫力がある。

迫るグリーンブルをサイドステップで避け、マチェットで首元を斬る。硬い手応えと共に鈍い音が響いて倒れ込んだ。

グリーンブルは、俺を視界に捉えながらも為す術無く斬られた。どうやら急な方向転換に弱いらしい。サイみたいな奴だな。

「十分に引きつけて、すばやく横に避ければ簡単だぞ―!」

「はいっ!」

「りょーかーい!」

遠くからルナとリーズの返事が返ってきた。上手く捌いているようだ。

「それができるならやってるわよ!」

クレアは、グリーンブルを真正面から剣で受け止めながら叫ぶ。それはそれでスゴイと思うぞ。

その後、グリーンブルの頭を左手で強引に押さえ込み、右手に持ったマクハエラでとどめを刺した。

それはたぶん避けるよりも難しいと思うよ。

「コー君! とどめを頼めないか?」

今度はリリィさんだ。迫るグリーンブルを拳で殴り飛ばしながら言う。

決定打にならないようで、何度殴ってもすぐに起き上がって突進して来る。その度に殴り飛ばすのだが、やはりすぐに起き上がる。

グリーンブルは少しずつ動きが鈍くなっている。打撃が効いていないわけでは無いようだ。しかし、これでは時間が掛かってしょうがない。

俺のクレイモアを貸そう。初めて使う剣で戸惑うと思うが、無いよりはマシだ。

グリーンブルを蹴り飛ばしながらリリィさんに駆け寄った。

「リリィ、これを使ってくれ」

「ん? 私は剣など使ったことが無いぞ」

「振り回すだけでもそこそこ斬れる。いきなり剣鉈で戦うよりはマシだと思うぞ」

リリィさんも剣鉈を持っているのだが、戦闘で使うには慣れが必要だ。どうせ慣れていないなら、リーチが長い方が有利だろう。

俺は一度も使っていないが、クレイモアは両手剣にしては軽く短くて取り回しが簡単なので、闇雲に振り回すだけでもそれなりに使える。

ルナの時は初戦闘でナイフだったが、 いい練習台(ゴブリン) が居たので問題無かった。グリーンブルの皮膚は硬く、ナイフでは突くにも斬るにも技術が要る。

今ではルナとリーズは難なくグリーンブルの皮膚を切り裂いている。2人は俺の指示通り、ひらりと身を躱して確実に仕留めていた。この2人は心配無いな。

蹴り飛ばしたグリーンブルにとどめを刺しながら、リリィさんの戦況を見守る。

リリィさんは俺のクレイモアを器用に振り回しているが、剣術ではない。メイスでも振っているかのようだ。

クレイモアは大剣に分類される。刃が付いていると言っても、斬るための剣ではない。硬い鉄の鎧を分断してダメージを与える、叩き切るための剣だ。

メイスのように振り回す事が間違いという訳では無いのだが、釈然としないなあ。

全員、危なげなく戦闘が終了した。数えてみると、全部で32頭を狩ることができた。

1匹だけその場に残して解体するが、残りのグリーンブルはすべてマジックバッグに仕舞う。

「お疲れ様。これを解体したらエルフの村に行こう」

「ねー、あたしにやらせてー」

リーズが解体に興味を持ったようだ。これまでも小さな獲物は何度か解体しているので、リーズに任せよう。

解体作業はクレアが指導してくれるようなので、俺の仕事が無くなった。雑談して待つ。

「なあリリィ、初めての剣はどうだった?」

「ああ、貸してくれてありがとう。

使い心地は悪くなかったのだが、どうもしっくり来ないな」

「初めてだから、そんなもんだろう。でもメイスの方が良かったんじゃないか?」

「いや、メイスと言えば教会の連中が使っている棍棒みたいな武器だろう?

ゴブリンみたいで好きになれないんだ」

メリケンサックでぶん殴るのもゴブリンみたいだよな……。言いたい事はわかるけどね。

メイスは聖職者の武器のように思われているけど、かなり野蛮な鈍器だと思う。殺さないために刃が無い武器を使うと聞いたが、あれで殴られたら死ぬよ。

「それなら、その剣はリリィが持っていてくれ。俺は今後も使わない気がするんだ」

使う理由が無い。魔物が相手ならマチェットの方が使い勝手がいい。俺がこの剣を活かせるのは対人戦の時だが、対人戦なら別の方法で戦う。

「使いこなせる気がしないのだが、いいのか?」

「俺が持っているよりは使うだろう」

俺とリリィさんは体格が似ている。リリィさんは女性にしては背が高く、がっしりとしている。俺に合わせた大剣なら、リリィさんでも扱えるはずだ。

リリィさんと話をしていると、リーズが深刻な表情で駆け寄ってきて、深く頭を下げた。

「こんさん、ごめん!」

「どうした?」

「失敗しちゃった。皮がボロボロになっちゃったよ……」

今解体したグリーンブルは、リリィさんがボッコボコにした状態が良くない個体だ。多少ダメージを受けたところで痛くはない。

そう思って皮を見ると、大小様々なサイズに細切れになっていた。予想以上のボロボロ具合だ。

「おお……これは酷いな」

責めるつもりは無い。初めての作業だし、失敗は織り込み済みだ。

「ごめんね。アタシも手伝ったんだけど、予想以上に難しかったのよ」

「すみません……思っていたよりも皮が硬くて、脂も多くて、無理矢理剥がしていくうちにこうなりました」

3人がかりでこの惨状だったようだ。3人が申し訳無さそうな表情を浮かべて俯いている。

グリーンブルは半分皮が剥がされた状態で作業が止まっていたので、続きは俺が引き受けよう。

「まあ気にするな。そういう事もあるさ」

そう言って解体途中のグリーンブルに向かう。

見上げる程の大きさをした牛に、ナイフを立てる。皮と肉の間にナイフを当て、少しずつ切り進めた。何度か刃を入れていると、グリーンブルの脂でナイフが 鈍(なま) っていく。

切れないナイフに苛立ち、力が入る。

『ベリベリッ!』

左手で引っ張っていた皮が千切れた。手のひらサイズにカットされた皮を眺めながらつぶやく。

「こういう事か……」

「そうなんです……」

脂で切れ味が落ちたナイフで強引に皮を裂くので、力が加減できずに失敗する。これはもう仕方がない。

素人集団に捌ける素材では無かったな。残りのグリーンブルは解体せずに、このまま納品しよう。

「誰がやってもこうなるよ。ギルドに頼んでプロに任せよう」

1匹分は仕方がない。元々食料のつもりだったのだ。みんなで協力して皮を取り除こう。

落ち込む3人を慰めながら作業を進める。

「だぁっ!

ダメだ。どうやっても千切れてしまうぞ」

リリィさんが皮を引き千切りながら言う。

俺とリリィさんは、どうやっても細切れになってしまう。クレアもなかなか酷い。

「もう少し優しく切ってください……」

ルナが器用に切りながら、困った顔でリリィさんに注意している。ルナとリーズが比較的上手だな。

俺はチームの解体係として、ちゃんと修行をした方がいいかもしれない。これの正しい捌き方はギルドで教えてもらおう。

戦闘中にも何度もグリーンブルを斬りつけているのだが、大きく切れ味が落ちたとは感じなかった。たぶん、脂肪分が多い部分があるのだろう。そこを上手く処理しないとダメなんだと思う。

しかし、こんなに脆い皮を何に使うんだろう。服にしても、鞄にしても、こんなに簡単に引き千切れる素材が使えるとは思えない。

「盾や鎧に使うことが多いわね。魔法を弾くから、結構高級品なのよ。

木を土台にしてるんだけど、こういう事だったのね……」

クレアが答えてくれた。どうやら木に貼り付けて使うらしい。単体の革といしては使えそうにないもんな。

「魔道具の素材としても有名ですよ。飾りに使うことが多いので、私はあまり使いません」

ルナや他の宮廷魔導士たちは、魔道具を飾るような事をしない。元々売り物ではないので、飾る意味があまり無いのだ。無骨で実用的。俺はそっちの方が好きだな。

思ったよりも時間がかかってしまった。俺とリーズのずぶ濡れになった服は、ほとんど乾いている。

なんとか1匹分を捌き、小さくカットしてマジックバッグに収めた。すぐに食べ切れる量ではないので、一部はエルフの村に寄付しよう。