軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97 無邪気な虚ろ2

住人が寝静まり。

「オォーン!」

遠吠えをあげた獣が眠りにつき、やがて夜が空を支配する。

音のない世界では、シンシンという幻音がする。

漆黒に包まれたエクス家。

その夜、奇妙な事が起きた。

住人が寝静まり生き物が活動停止している時間、蠢く者がいた。

「イエー!」

部屋の明かりが、ぽっぽっぽっと次々と点いて行く。ブゥーンとソファーが揺れた。ジャバジャバと水音が聴こえる。

多数の家精霊がてくてく歩き始めた。

家の中には適温の風が吹く。

ゴウンゴウンと、箱の中で水流が回る。

温かいお湯。

冷たい箱に、加熱する箱。

お野菜を切るためだけに回転する刃物。

ギルマスのドリームハウスは、ちょっと褒められて調子に乗ったエクスの虚ろにより、勝手に劇的ビフォーアフターされていく。

おっと、今度は壁を見つめる無邪気な匠。

そこには、ギルマスが大切にコレクションしていた悪趣味な絵画が、ずらりと並んでいますが。

「うんしょ、うんしょ」

なんと、悪趣味な絵画を次々と壁から引き剥がし始めました。

確かにいらないですからね。

本来の綺麗さを取り戻した壁。

そして、床に乱雑に積まれたギルマスのコレクションを1枚拾いあげました。

「うへへ」

匠は、これを一体何に使うつもりなのでしょう?

おやおや・・

なにか魔法を掛けているようです。

「プロテクション」

絵画が固くなりました。

「レビテト」

それに浮遊魔法を掛けたかと思うと、今度は捨ててしまいました。

いえ、ふわふわと地面すれすれに硬くなった絵画が、まるで床のように浮かびあがっています。

「えいっ!」

絵画を蹴り込むと、廊下の端まで進んでいき壁に反射されて跳ね返ってきました。

どうやら、匠が作っていたのは部屋の中を一定の動きで移動する床のようです。

さて、生まれ変わったエクス家に、住人達はどんな反応を見せるのでしょうか?

「ライ姉、おきて。すごい」

「んん。なぁに?ニトラ」

私はライ姉。

昨日から本当のメイドになりました。

朝から興奮したニトラに起こされて部屋の扉を開けると、そこにはふよふよと浮かびながら動く不思議な絵画があり、ニトラがジャンプしてその上に乗っちゃった!?

「にゃっ!」

「ええ?ニトラ何してるの!?」

呆気に取られて見ていると、僅かに浮かんだ絵画に飛び乗ったニトラは浮かんだまま、すすすっと遠くに移動して、端まで行ったら、今度はすすすっと帰ってきた。

はい?何をやってるの?

「ライ姉こっち」

「あわわ。ちょっとニトラ」

にゅーんと伸びてきた手に掴まれて、私も浮いてる動く足場に引き上げられちゃった。

うわっこの絵は動いてる。

絵の中身じゃなくて、乗ってる絵が動くなんて、ちょっと御主人様の考えにはついていけない。

どうやらこれは室内限定の進む床のよう。

はぁ、それにしても朝からドキドキさせられた。

御主人様の魔法の宿屋で受けたあの衝撃をさっそく味わうなんて。

でも要領が分かったので、次の絵画へは、手を繋いだままぴょんとジャンプして移動。

これ楽しいっ!

ゴールの台所ステージで、やりきった顔の虚ろを発見。ニトラが華麗なる無音着地を決めて私も続く。

「とうちゃく!」

「もしかして、これは君がやったの?」

「!」

虚ろがこくこくと頷く。

「すごいよー」

「いい子いい子」

「えへへ」

御主人様の虚ろを褒めてたら、ニトラが膨らんでたポッケから何かごそごそと取り出してきた。

「ニトラも朝ごはん採ってきた!」

「偉い!ありがとう」

「いいよ」

艶々とした林檎を受け取り、褒めてあげたら余所見して尻尾が揺れる。可愛いんだから。

そうだ!この林檎を御主人様に持っていってあげよう。

私も褒めて欲しいし。

それに御主人様は私を子供としか見てない。

でも私はお姉さんだから出来るメイドになるんだから。

さて、初仕事を頑張ろう。

お皿に林檎を乗せて銀の蓋をする。なんかこれはメイドっぽいです。

私は才能があるかも。

ぴょんぴょん飛びながら目指すのは、御主人様の部屋。

とうっ、着地。

ついでに見つけたハンドベルで、チリンチリンと鳴らしてから御主人様の部屋優雅に入室。

なぜか音に反応した御主人様が駆け寄ってきました。

「おはよう御座います!」

「おはよーお兄さん」

「あぁ、おはよう」

御主人様が銀の蓋を見ています。

「朝食をお持ちしました」

「たべて」

「凄い!ええっと、何が入ってるのかな?」

勿体ぶって、銀の蓋をオープン!

びっくりした顔をした。

でしょ!こんな新鮮な果実を丸ごと1個そのまま朝から食べれるなんてすごく贅沢なんだから。

「ニトラが採ってきてくれたんです」

「ふふん」

「んん!?あ、ありがとう」

「いいよ。こんなの余裕だから」

照れるニトラを見て2人でほっこり。

「それと、御主人様。この子も色々と頑張ってました」

「家がね、すごかった」

虚ろの頑張りも教えてあげよう。

「そうなんだ。よくやったね!」

「えへへへ」

なんだかとっても嬉しそうです。

「ライ姉もメイドっぽいよ。ありがとう」

「はいっ。えへへ。頑張ります!」

不意打ちはずるいですよ御主人様。