軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78 テント生活5

冷たい牢屋へと犯人をブチ込んだリョグは、走りながらメイド少女とのなんでもない会話を思い出した。

「嬢ちゃん。エクスは、いつ帰ってくる?」

「ご主人様は3日後です。あのっ。今日もお疲れ様です」

「これが仕事だからな。気にするな。エクス、早く帰ってくるといいな」

「はいっ!」

恋ではない。

そう。お父さんのような見守る気持ち。

その甘い日々は、ゾンビーズとおしっこマンに奪われたッ。

怒りのあまり冷静ではなかったのか気付けば、シープタウン入りしていたらしく周りはお祭りムード一色。どいつもこいつも浮かれた奴らばかりでイライラする。

エクスは何処だ?

リョグの絶望に満ちた顔が何かを見つけて、凄みを帯びた笑みに変わる。

一般人に偽装していたターゲットに近付くと秒速で組み伏せた。土埃が舞い上がりターゲットが睨んで抵抗してくるが、もう遅い。逃がさんよ。

「見つけたぜ。観念しな」

彼はあまり頭は良くない。

良くはないがこれでも門番だから、要注意人物の似顔絵ぐらいは覚えてる。

「くそっ、誰だてめえは!?」

「フォレストエンドのリョグだ。確かお前は・・・エク、エク、エクセルン?」

リョグが首を捻った。

どうやら、名前までは覚えていなかったらしい。エクスでは無いが、門を通してはいけない要注意リストの誰かなのは間違いないのだが、はて誰だ?

ようやく事情を把握した犯罪者の好戦的だった顔が、屈辱と絶望に歪んだ。

「全然違うわ、ぼけっ!お前え、領軍の隊長のくせに何で街から出てんだよ??」

「エクスを捕まえにきた。貴様はそのついでだ。賞金首めッ」

賞金首を縄で縛って一丁あがり。別の町にまで来て治安維持活動とは職業病らしい。

「はああ?エクスぅ?誰だよそれ。痛ってえ!分かったから強く締めすぎないでくれ」

悲しみを背負った男は、祭りに来ていた犯罪者達をこうして次々と捕まえて、人々の心にエクスの名を刻み込んでいく。

・・・完全に八つ当たりである。

「まただ。こいつも違う。エクスはどこだーー」

そのエクスというと。

縦笛の音色を聴きながら、2枚の甘美なる板に挟まれて目を閉じていた。

(・・・・・)

無心。

(僕は無心だ。無心。無心・・・)

柔らかくて良い匂いがする。

左にルカ、右にアミン様。

こんなの無理だよ!

じりじりと寄ってきたルカから逃げてるとアミン様をソファーから押し出してしまったのがご立腹らしく、アミン様までぐいぐい押してくるように。

つまり僕はソファーの真ん中で2人に密着されている。

縦笛を吹いていた演者さんが、そんな様子を見てげんなりしたのか、ぷぴぃーーという気の抜けた音色を響かせて音楽は終了した。

「ルカ、離れて。アミン様も」

「・・・」

「むふん。照れんで良いぞ、当ててるんじゃよ」

つるペタのアミン様が本人的には色っぽく言ってきたけど、何を?って感じだ。

そんな僕の態度が気に入らなかったのか両隣のプレッシャーが増して、2人が仲良く肩でゴリゴリ押してきた。

「痛っ」

ナイスショルダー。

「エクス酷い」

「板じゃと!妾の豊満な胸に失礼じゃろ」

堪らず立って脱出。

「違うよ、2人の肩が痛いの!」

「ご、ごめんなさい」

「妾にドキドキせんのがいかんのじゃ」

ぴぴーー

「ほら、演者さんも困ってる」

「・・・」

「ご苦労じゃったな。下がって良いぞ」

ルカがわたわたして、アミン様が羞恥に耐えきれなくなったのか演者を下げた。ちょっとそれは人としてどうなんだろう。

ルカが手招きをしたので耳を近付ける。

「エクス。ごめんって言っておいて」

「分かったから。演者さんに伝えておくよ。で、アミン様は?」

暴君アミンと呼べば良いのかな?

「そもそも、お主がルカ大先生から逃げるからいかんのじゃろう?」

「いいえ、ソファーは広いから最初のようにソーシャルディスタンスをとって座るべきです」

キッと睨んでくるアミン様と言い争っていたら、もふもふと肩を叩かれた。何だよ、くま吉?

「へっ。相棒、何やってんでい。そういうのはよ、クールに多数決で決めやがれ」

「良いじゃろう。逃げるでないぞ」

「う、うん?」

信じて良いんだね、くま吉?

「妾の意見に賛成の人!」

ルカが手を上げて2票。

次は僕のターンだ。

「僕の意見に賛成の人!・・く、くま吉?」

くま吉は腕組みをしている。

動かない。

どういう事だ?なにか賄賂を要求されているのだろうか。

ボタンの瞳の色を伺う。

何が欲しいんだ?言ってみろ。

「おいおい、相棒。俺っちは立会人だぜ?手を出すのは御法度だ。これにて、勝負有りッ!!」

はああああ?

くま吉を引っ張ってやろうかと思ったらひょいと逃げられてルカの庇護下に入られた。

嬉しそうにルカが席の隣りをポンポンと叩いてる。

「ほら、早く座るのじゃ」

アミン様にトドメを刺されて真ん中へ。

無心。

(僕は無心だ。無心。無心・・・)

2人が自分に身体を預けてくる。

男の僕と違って柔らかい身体。高い体温。脳が蕩けるような甘い匂い。

庇護欲が満たされて、まるで世界に認められたかのような全能感が身体の奥から湧き上がってくる。

アミン様はニヤニヤ笑って、ルカは顔を真っ赤にしていた。

ちっくしょう。ドキドキする。