軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

187 シロンの初恋2

シロンの目は冴えていた。

実際には初恋という感情で曇っているが、それに本人が気付くのはずっと後だろう。

夢から醒めない、それが恋なのだから。

幸せそうに黒板を眺めるが、主役のエクスは映らず少し不満そう。

黒い夜空が青になり空気が冷え始めた頃、夜勤のメイドが困り顔でやってきた。

「失礼します。シロン様、ジャスティス卿が暴れておりまして」

「すぐに行きます。案内を」

「はいっ!」

怒鳴り声の方へと足取り軽く近づくと、予想通り近衛兵に詰め寄る老人の後ろ姿。

「言っておるだろ。それは魔王の幻術だ!そうに違いない。違うと言うなら答えよ、勇者協会を出し抜いたのはどこの馬の骨だ?」

「わ、分かりません」

スタンピードを退けて喜ばない者に頼ろうとしていたのかと昨夜の自分を恥じる。

「おはようございます。ジャスティス卿」

「こ、これはお見苦しいところを。シロン様!?」

振り向き目が合うと、なぜか酷く驚かれた。

「延期は私が指示しました」

「·····シロン様。幸せそうなお顔ですが慎重なご判断を。専門家の意見を述べますと今回の件は魔王の幻術の可能性が」

思わず笑みが零れる。

さきほど老人が驚いた顔の意味が分かったから。

そういえば昨日の私は死んだ顔をしていたのですねと、今はそんな事を考える余裕すらある。

「魔導師クークルに問いました。確定情報です」

激しい怒りが見え、取り繕うように笑うのに少し時間が掛かかるよう。

「ほっほっ、それは目出度い。しかし、我々を差し置いていったい誰が?まさか東の国の剣聖ですか?」

隠せていませんね、殺してやる。そんな目をしていますよ。

「大魔導師エクスさんです」

「あの少年?何も出来ず逃げたのをこの目で。まさか、わざと油断を誘って騙し討ちを??いや、何か引っかかる」

しかし、それはさせません。

「分かりません。お会いしたことはあります。第一印象はメイドに負けそうな弱い男。しかし、彼の内に秘めた覚悟は本物でした。そして見せてくれた。彼は私の勇者です。手を出すことはなりません」

釘を刺す。

深く刺さったのか、なかなか返事が返ってこない。

「これはこれは、あの少年が、そのような傑物だったとは。さすがはルーラ姫の見出した大魔導師」

「ええ、ですので、私が身を捧げるのはサンダルフォン様ではなくエクス様になりそうです」

それは、実質的な勝利宣言。

「おめでとうございます」

「どうぞ、ゆっくりなさっていってください」

シロンは幸せそうに笑った。

ジャスティスは与えられた部屋で唸る。

「エクスめ」

完璧なタイミングで完全に出し抜かれた。

遺失魔道具で、ピポパポとメッセージを打ち込み外部へ秘密の指示を飛ばし終えた所で名案が閃いた。

「そうだ!勇者に任命すれば良い」

さらに閃く。

盗聴を逆手に取って秘密を知ってるぞとアピールするため、独り言を言いだした。

「どうやら、魔術師の庵のあの噂は本当だったようだな。大魔導師の命題は、延長ではなく 事実改変(マイワールド) 。なぜ王国が隠すのかは知らないが、この秘密は胸に秘めておこう」

人は色眼鏡で物を見る。

どれだけ有能であってもそれは避けられない。

弱みを握ったとひとりニヤリと笑ったが、これは大ハズレ。

色眼鏡を掛けたのはこのお方。

「ルーラ!ありがとう。エクスさんが救ってくれました」

「ふっふふー。お姉さまが元気になられて良かったですわ」

抱き合う2人。

「でも良かったの?私が貴方の人を奪ってしまって」

「お姉さま??」